新しい日本の気候変動枠組み条約NDCの中の森林吸収量ー少し心配?(2025/3/13)

日本は、2月18日に、国連気候変動枠組み条約のパリ協定4条で規定されている、新たな「日本のNDC(国が決定する貢献)」(以下NDCJ2025といいます)を、条約事務局提出しました。日本の2035/2040NDC(令和7年2月18日提出)

政府のサイトでは「世界全体での1.5℃目標と整合的で、2050年ネット・ゼロの実現に向けた直線的な経路にある野心的な目標として、2035年度、2040年度において、温室効果ガスを2013年度からそれぞれ60%、73%削減することを目指す」とされています。

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(NDCJ2021との比較)

21年に提出した前回のNDCと比較する、前回の目標値は2030年(2013年比)46%なんで、今回の数値は2035年、2040年は直線状(上の図)なので、変わりなし(かな?)。

ただ、5.人為起源の温室効果ガス排出量、及び、該当する場合は吸収量の算定及び計上のためのものを含む、前提条件及び方法論的アプローチ、という欄の(a)締約国の国が決定する貢献に対応する人為起源の温室効 果ガス排出量及び吸収量の計上に用いる前提条件及び方法論的 アプローチという欄に記載してあることが、以下の通り少し変わっています

<対象範囲>以下が加筆
・LULUCF 分野からの貢献量に関する対象: 新規植林・再植林(AR)、森林減少(D)、森林経営(FM)、農地管理(CM)、牧草地管理 (GM)、都市緑化(UG)、沿岸湿地(BC)を含む LULUCF 分野のカテゴリー又は活動 ・炭素プール(LULUCF 分野からの貢献量の算定対象): 地上バイオマス、地下バイオマス、枯死木、リター、土壌、伐採木材製品

注LULUCFは「Land Use, Land-Use Change, and Forestry」の略で、日本語では「土地利用、土地利用変化および林業」

ということで、森林の吸収量に関する内容がこの5年間で大きく変わったようなのですが、この話は、NDCJ2025の根拠となった、地球温暖化対策計画の中に説明があるようなので、それを見てみます。

(2025年2月地球温暖化対策計画)

今回のNDCの提出の根拠となっている、地球温暖化対策計画は2月18日に閣議決定されています。(条約事務局にNDCを提出する当日にその根拠となる計画を閣議決定?!)

地球温暖化対策計画(令和7年2月18日閣議決定)(環境省公式サイト)

林野庁が「地球温暖化対策計画の改定について」という情報をネット上に公開している(前の月の林政審議会審議会配布資料2)ので、それにそって紹介します。

左の図が、NDCの根拠となっている数字。一番上の温室効果ガス排出量・吸収量という行の数値

2030年が760(百万tCO2)(2013年比▲46%)(前回)であったのが→2040年380(同)(2013年比▲73%)となっています。一番上の図の通り。

それに加えて、今回の表は、それぞれの算出根拠の数字が下に書いてあって、一番下に吸収量が。

前回の2030年目標760百万tCO2の算出過程で、吸収量が47.7百万tCO2だった(その分を引かれて目標数値となっている)ものが、今回の2040年目標380百万tにするのに引き算された吸収量は約84百万tCO2です(そのうち森林吸収量は72百万トン)。

10年間で吸収量は倍増??(多分ちがいます・・以下に)

(新たな地球温暖化計画における森林吸収源対策)

資料2の次のページに標記タイトルの右の図があります。

その一番右の欄に具体的手段が書いてあり、

①化石資源の代替効果による排出削減+②森林由来J-クレジットの創出拡大+③森林減少・劣化対策に係る国際協力

そして、最後の右下に・・・森林吸収量の算定方法の改善 =諸外国でも⼀般的な、NFIデータを活用 した直接算定方法へ

どうも、いままでの森林吸収量カウントの仕方を少し変えたことが、数値の変化に関係ありそうですね。

資料2の次のページに解説が

(森林吸収量の算定方法の改善)

左上にいままでの算定方法が説明してあり、「吸収量の算定方法︓森林簿データ成長モデルを利用して、森林 蓄積の増加量を推定して炭素量に換算」ーーーいままで都道府県ごとに作成していた成長量のデータ(樹種が何年生で、どんな土地に生育したのは幹の材積は何立方というデフォルトデータ)は少し問題が多いので、別途NFIデータ方式(??)に変更という説明

(NFIデータにある、あらなた吸収量測定方法)

NFIデータの蓄積という左下の図。

「吸収量の算定は、標本調査による全国レベルの森林調査(NFI) を利用することが国際標準。 」として以下の三つの記述が

レ我が国も国内1.5万点の観測地 点を設けて実測データを蓄積。 レ第三者機関による数値のチェックなどを通じ、 統計的信頼性を向上。レ このデータの直接⽐較による吸収 量算定が可能・・・

となってきたので、それを使うようにします、ということですね

(日本の具体的なデータにもとづいて、森林吸収量の話)

勉強部屋でもこの問題を追いかけてきました。

東京大学の熊谷先生をお招きして、2023年8月に開催した、勉強部屋Zoomセミナー本年度第2回、「地球と森林(と水)と二酸化炭素の物語」

その中で、先生が力説された「日本の具体的なデータにもとづいて、森林吸収量の話」

勉強部屋でもフォローしてきた作業が今回の温暖対策計画で、正式に導入されたということですね。(勉強部屋も御手伝い?)

(2050年までの次のプラン)

前回の地球温暖化計画で2030年の削減・吸収量目標を760百万トンとしていたのを、今回2040年には380百万トンにする(50年に向けて直線にする)過程で、その中の吸収量のシステム変更で、40百万トンほど差し引く吸収量が多くカウントされているとすると・・・

今回の削減計画(吸収を除外した本体の削減計画)は野心でも直線でもない?

次の計画やNDCで50年のゼロにする具体的手続きを検討するのでしょうが、その過程で吸収量の増加が40百万トン増える(日本の吸収量が84百万トンから120百万トンに増える?)は使えないから(多分)、本体排出削減量の急降下が必要となり・・・、大変ですね

その他に、東北地方大船渡市の大規模山林火災(調査中で2900ha3月11日現在)なども、今後の吸収量評価の論点になるでしょう

kokusai2-92<NDCJ2025>

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