地球と森林と二酸化炭素の物語ー勉強部屋Zoomセミナー第2回報告(2023/8/15)

8月5日勉強部屋Zoomセミナー本年度第2回を開催し、ゲストに熊谷朝臣さん、東京大学農学生命科学研究科教授をむかえ、「地球と森林(と水)と二酸化炭素の物語」という演題で、お話を伺い意見交換をさせていただきました。

このイベントは昨年から株式会社森未来さんと、共同で開催していますが、今回からは一社ウッドマイルズフォーラムとも共催です。

熊谷教授来ていただくきっかけになったのは、このサイトでもご紹介しましたが、3月に東大キャンパスでおめにかかって、「ホントはスゴイ日本の森林、炭素貯留能力実は倍だった!」といったお話をうかがったのが出発点でした。

今回は、もちろんそのお話も中には入っているのですが、そのバックグランウンドとして、地球の環境形成の中での森林の果たした(大きな)役割なども含めた、充実したお話でした。

概要を紹介します。(摘まみ食い)

(植物の繁栄・進化は地球の気候変化とともにー脱炭素社化実現のために何が必要か、ここにヒントが)

熊谷先生の話は、上記のタイトルのセッションからはじまりました。植物の歴史と地球の歴史

(100万年スケールの巨大な炭素循環)

もともと地球は大きな炭素循環をくりかえしてきました。

高いCO2濃度になると温暖化が進み、高温になると、風化促進(岩石中に固定されていたケイ酸塩が分解して炭酸塩にかな?)されてCO2の消費が拡大。→そうすると寒冷化がおこる。低温になると風化減速でCO2消費低下→高CO2濃度になり再び温暖化、そして、また低温化、温暖化の繰り返し。

つまり、地球には「安定化のフィードバックシステム」があり、ここ10億年間地球温暖化の暴走を止めてきたが、作動するのに10万年から100万年かかるので、人間が引き起こした温暖化を止めるには時間がかかりすぎるので、だめです。

(大気中のCO2濃度の変化と森林の出現)

左の図は縦軸が大気中のCO2濃度。

いまから4億2500万年前植物が陸に上陸し維管束(水やミネラルなどを全体に運ぶ組織)がある植物(クックソニア)(維管束はあるが葉がない)が登場したころ、大気中CO2濃度はいまの15倍ほどだったそうです。(3億5千万年前には1.5倍まで減少)

二酸化炭素を取り込むため穴(気孔)があるが、そこからは水蒸気が発散するのでそのバランスが問題。

CO2濃度が高い状態だと気孔が少なく、蒸発がないので熱くなるので葉をあまりつけない(つけられない)けれど、CO2濃度が減ると気孔が多くなり、蒸発散して熱くならないので葉がつけられます。

3億9000万年前、葉のある植物(エオフィロフィトン)があらわれました。

そして、さらにCO2が減ると、もっとたくさん葉をつけられ根茎が発達し、樹木に。

3億7000万年前に樹木(アルカエオプリテス)があらわれ地上に森ができました。

こうしてCO2が減って低温化する過程で植物が進化して吸収量の新たなステージをつくってきたのだそうです。

けれど、植物・森林があると吸収量が増えるもう一つのシステムが、水循環の話。

(森林の出現と水循環の促進)

右の図にあるように、陸上いたるところに植物・森林が分布すると、水循環が促進されます。つまり、土壌中の水分を森林が吸い上げ蒸発散させて大気中の水分が増えると、降水量が増える。そして土壌いたまり、そして吸い上げられ・・・・水循環

そうすると、土壌下に普通あるケイ酸塩岩の化学的風化(CO2と反応して炭酸塩に)が進み、大気からのCO2取り込みを加速させるんだそうです。

(地球史の植物・森林と二酸化炭素の関係を今にいかすとすると)

森林は海と同じ機能を果たすすごいですねー!!This is like sea!!
いえ違います!!No!!

海以上です。More than Sea!!(という会話が学術研究者の間でかわされた、というのは、有名は話だそうです)

降水量と森林との関係についていろんな学術的な蓄積がされているんだそうです。

右は熊谷先生の報告。ボルネオ島の森林の破壊状況の推移左側と、右のグラフは年次的な降水量。ボルネオでは降水量がへっている。

以上の地球史の物語を踏まえて、日本の森林吸収量の物語になります。

(陸上生態系の炭素循環の扱い次第で未来の気候は大きく変わる)

左の図は学術誌に公表された(Booth et al. (2012: ERL 7, 024002))過去の平均気温を炭素循環で説明(緑)、大気の状態で説明(青)の比較。それを用いて将来を予測しています。

将来の幅が広がっているのは不確定性で、緑の幅が広がっていくのは森林の取り扱いによって、平均気温がこんなに変わってくる可能性がるのです、という説明がありました。

そして、右の図も学術誌からJean-Francois Bastin et al. Science 2019;365:76-79。

タイトルは森林回復のポテンシャル。

3枚の地球の写真がありますが、上が(A)森林が生育できる自然条件の土地、「地球上には現在気候条件で44億ヘクタールの森林が存在できる」。のだそうです。

その下の(B)(C)は、(A)から現存する森林と2種類の農地・市街地分類エリアを引いた結果(二つの方法推定した?)。(どちらも)「現在気候条件下で9億ヘクタール(ほぼアメリカ合衆国の面積)に森林を作ることができることが分った」のだそうです。

9億ヘクタールの森林には209GtCの(二酸化)炭素が貯留できる!! (のだそうです)

大気中の炭素は706Pgt(IPCC第四次報告書)だそうですから、その3割をいまでも頑張れば森林に貯留できる(Pgペタ(10の15乗)グラムはGtギガ(10の9乗)トンと同じですよね)、これは藤原の計算たぶん)

(日本の具体的なデータにもとづいて、森林吸収量の話)

日本の全国森林資源調査(National Forest Inventory=NFI)は二つの系列があります。

左の図左側が林野庁が5年に一回公表している森林資源現況調査(p-NFIとよびます)

調査方法について、「国有林は林野庁などが、民有林は都道府県が、現在編成中の地域森林計画の作成資料などをベースにして作成したもので、作成過程で地域ごとに集積してきた樹種別樹齢別の蓄積表(収穫表)などが、ベースになっています。」と説明があります(林野庁のサイト森林資源の現況など)。

もう一つ、右側は林野庁が5年に1度やっている森林生態系多様性基礎調査(m-NFIとよびます)

右図のように、全国4キロごとに線(メッシュ)を引いて交点が森林だった場合のその地点の現地調査の対象地点とするサンプル調査植生を調査しています。

林野庁が公式に日本の森林の吸収量とし対外的に公表しているのが、p-NFIに基づいた計算値なのですが、その結果を、m-NFIから計算した結果を比較してみました(熊谷先生たちのグループが)。

その結果が左の図

赤い→の上にならんでいるのがp-NFIの数値。

日本の森林に固定されている炭素の量が縦軸で、一番右の最近のデータが1750TgC(テラグラム、10億キログラム)。

青の線がm-NFIで、一番右側のデータは3016TgCです。

森林の蓄積に応じた炭素の固定量は本当の数字(後者)の6割の数値が公式数値となっています、という話です。

それでは、毎年の吸収量は?公式の数値が22.0TgC/年、後者が47.4TgC/年で、正しい数字の半分以下ですね。

これらを踏まえたまとめが右の図です

いったいなんでこんなに数値がちがう状況がつづいているのか、という点について、この勉強部屋でも前に情報収集をした経緯があり、その結果を紹介しています。GX(脱炭素社会にむけた社会変革)の中の森林吸収源のポテンシャルーもっと大きいかな?(2023/4/15)

要は、「行政側の関係者も長期資源調査で使われている収穫表などが不正確であり、改善が必要だ、という認識は共有しており、着々と作業を進めており(林野庁の関係者も認識)、現在もその作業が行われている最中、なんだそうです。」

ご関心のある方はどうぞ、上記のページを参照してください

上記は収穫表のデータがおかしいという問題ですが、このほかに、右のまとめでは、面積もちがっている、農地から転換された土地が計測されていない、という問題も指摘されています。

(最後のまとめ)

まとめ②のあと、先生のプレゼンは、もう少し「とても大事な続きの話」としてスギ林の優良林のデータをm-NFIに入れ込んだらどうなるか、などインパクトのがたくさんなのですが、これらの話は少しとっておくこととして(ごめんなさい)、右を図を一点だけご紹介。

縦軸は、森林に蓄積された炭素と、伐採された木材に蓄積されていた炭素の合計量(この図はスギの場合)。

右の図にあるようにいろんな色のグラフは施業の仕方をしめしていますが、ピンク色の元気がいいのは、現在の2倍伐採し、すべて再植林をした場合です。

木をきって、植えるのがいいんじゃないか、という研究に取り組んでいることろですー、という紹介でした。

そして、最後のまとめが左図です

いっぱい伐っていっぱい植えるべし、適正伐期があるが、結構長伐期、伐った木の使い道を本気で考える、という話でした。

木の話が最後にでてくるのは、ウッドマイルズフォーラムとしては大変よい終わり方。

図にあるように、「まだ考えるべきことは一杯あるけれど」と科学者としての意欲が表明されている終わり方でした。

期待しますー!!

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関連して先生がNHKの番組に登壇して番組をリードされた録画がみられるので、紹介します
ヒューマニエンス 40億年のたくらみ 「“CO2” 見えざる生命の創造者」5月23日放送

((質疑の時間))

私からは2つの質問をしました

Q1 最初の部分の森林の気候変動緩和への貢献は、みなが普通に考えているよりずっと多い、ということを地球の歴史からご説明になりました。単に今ある森林が光合成で二酸化炭素を吸収するだけだなく、森林があることによって水循環も拡大し、雨量が増え森林が森林の二酸化炭素吸収量が増えるんで、地上で森林が造成できそうなところは森林を増やすべき、というお話だったと思います。質問ですが、IPCCなどの学術的な蓄積の中にこれらのことは反映していますか?

A1 あまり反映さえていないと思います。本日のような話は森林関係の学術関係者はあまり興味をしめしません(というか・・・)。私自身の経歴は森林分野が出発点ですが、この研究は地球物理というフィールドで蓄積したものです。森林分野ではないのです。あまり、反映されていないのですが、是非応援していただきたいと思います。グローバルだと科学者の集まりの中で、この話に興味があるのは(森林分野でなく)地球環境などの分野の人なんで、IPPCでも議論が発展している可能性はあります。

Q2 日本の森林吸収量が現在公表されている数値よりずっと大きいという指摘「まとめ①」に関して、森林関係者ならだれでも喜ぶはなしですね。質問ですが、現在公表されている数値は国際的にも報告されている数値で、それが間違っているというご指摘ですが、これを公表している行政当局との意見交換はさえてるというお話でしたが、今後あるプロセスで修正がされるだろうというお考えで間違えないですか?

A2 林野庁が今まで公表してきた、p-NFIもm-NFIデータも不十分だったと思います。そのデータを利用してどんどん学術関係者が進めますので、細かいデータをどんどん出してください。ということをいっています。そのような方向になっています。良い方向になっています。

(参加者からの質問)

全部は答えられなかったのですが参加者から質問をいただきました。

Q+コメント Aby藤原(先生こんなところでよろしいでしょうか?)
1 世界でまだ植林可能な箇所とは具体的にどのような箇所か。 昔森林だった伐採跡地で放置されているところなどが対象
2 森林調査簿をm-nfi方式で修正するとCO2吸収源としての我が国の森林の国際的評価が変わる恐れがあり、そのことは国際的な理解が得られるのか。 その通り、国として今まで表明していた数値が変更することになるので、大きな問題があるでしょう。どんなプロセスを踏むのか、それともやめるのか?議論があるでしょう
3 CO2の増減により植生に変化が生じるというが、今後温暖化が進めば現在の植生はどう変化するのか。 速度にもよりますが、次第に寒冷地が温まれば、温帯地の植生が移行していくことになるでしょう。
最新の研究成果を使って、森林簿・データを更新する必要性が非常に高いことが分かりました。ありがとうございました。
2点、質問になります。
4-1.BEF1とBEF2について、コナラ属で差が非常に大きく、スギ・ヒノキでは小さい理由は、なぜでしょうか。根や枝葉の広がり方の違いによるものでしょうか。 樹材部の材積と炭素蓄積の関係、拡大係数は、スギやヒノキの方がデータも多く、すんなりした形をしているので、割と正確なデータが算出しやすいけれど、コナラ属は種類も多く樹形も変化に富んでいるので、何を平均値とするかというプロセスが難しいのだと思います。
4-2.炭素蓄積の将来予測や、p-NFIやm-NFIの差などの成果・傾向は、日本以外の国(アジアの温帯林など)にも同様に当てはまりそうでしょうか。 pNFIとmNFIの話は日本の過去のデータ蓄積の態様よっているので、海外のどの国でも同じような傾向があるということにはならないと思ます。ただ、各国森林の吸収量を推定するという難しい課題に取り組んでいる最中であるることは同じなのでないでしょうか?アマゾンなどは学術データがたくさん集まっているので、変な問題にはなりません。
学術的なデータもいろんなやり方はあるけど、直接タワーで計測するなどぜひ頑張ってほしい
5 航空レーザー測量のデータを見ると、森林簿よりかなり多くなっているように感じています。各地でかなり行われているので、それを集計すると森林簿データとの乖離がはっきりしてくると思っているのですがいかがでしょうか。また、成長量がおちないということであれば、できるだけ高齢級まで間伐で収穫を続けるようにした方がいいように思いますが、如何でしょうか。 航空レーザー測量の話ですが、森林簿のデータがpNFI系のデータであるので、そのほかの実測値、推測値(航空レーザー測量)と乖離がでてくるのはおっしゃる通りだと思います。かなり精密データになる必要。ただ、レーザーなどは間接推測なので、実測が必要です(地球の真実が大切)。
高齢級をどこまで間伐し、どこで、主伐するかの話ですが、報告にも記載したように、吸収量が下がり始める適正伐期はに、主伐となるんだとおもいますが、まだ、うまく評価できていない状況です。
6 一定面積の森林を伐採し、そこに植林した場合、その木が大きくなるまでは、その森林の二酸化炭素の「吸収量」は減ってしまいますが、伐採された木材が、建物や家具などに使われていれば、二酸化炭素の「固定量」は、増大しているとして、伐採にもっと積極的でいいと受け取っていいのか。仮に伐採された木材を全量、バイオマス発電などで燃やしてしまえば、その見込みは変わるのか。 伐採後の固定量を正確に評価して、全体の評価の中に反映させるといのは、報告の後段で話した通りで、重要なことだと思います。おっしゃる通りそれをすぐ燃やしてしまえば、固定量になりません。カーボンニュートラルにはなりません
7 植林が地球温暖化対策に有効だということがよくわかりました。砂漠化した地域では、育たないとききます。植林しても、数年で枯れたりと、地域によっては非常に非効率的かと。植林に関してのアドバイスはありますか? 仰る通り、報告にもありましたが、自然条件で森林になるところ、ならないところはある程度、推測されます。線引きが必要。主として降水量に関連しているので、日本では森林にならないところは、少ないでしょう
8 今回のお話とは方向性が異なるかもしれませんが、今後伐採適齢期人工林の皆伐が増えるのではないかと心配です。土壌炭素の保持等から考えると、どうなのでしょうか。また、生物多様性保全や防災のためにはスギ・ヒノキの単一林よりは広葉樹との混合林の方が望ましいと思いますが、日本の森林行政はどういう方向を目指しておられるでしょうか。 人工林のポテンシャルがすごいんだという話をしました。そのとおりですが、その他の機能が色々あると思います。数十年前に皆伐して植栽したところが今の人工林なので、それを再度皆伐することの冷静に評価することができると思います。現在の森林林業基本計画では、現在の人工林の6割を再び人工林(育成単層林)にするとしています。あとは、育成複層林ですね。ただ、そのようになっているかは不安です。しっかりした線引きが必要だと思います。おっしゃるようにリスクを排除するシス点が必要だと思います
9 森林の温暖化対策として注目されているようですが、森林の手入れ(伐採、植林等)に関しては日本の林業の衰退を考慮すると課題となると思います。林野庁以外の行政機関との連携が必要なりますね。 仰る通り、森林所有者が自分の森林の管理意欲をなくしています。様々な、行政支援が求められていますね。
ご説明、ありがとうございました。
海外の状況や日本の課題についても、大変参考になりました。
引き続き勉強させていただきたいと思います。
クレジットの仕組み、値段などが変わってしまうんでしょうか? 仰る通りですね。3倍の値段になると思います。頑張ってください

といの回答は、先生が答えた概要と、私が書いたものとがあります。

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(森未来と連携)

昨年から素晴らしい内容を多くの方の共有できるように、持続可能な森づくり向けたビジネスネットワーク構築を進めている株式会社森未来さんと、共催企画としました。

zoomの設定とか、皆さんへの案内、アンケートの回収など、大変お世話になりました。今後ともよろしくお願いします

また、近くの山の木の環境パフォーマンス見える化に取組んでいる一般社団法人ウッドマイルズフォーラムさんと連携して開催しました。

国産材の時代を迎えた関係者の方々にWMFの蓄積を紹介する場ともしてまいります。

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