GX(脱炭素社会にむけた社会変革)の中の森林吸収源のポテンシャルーもっと大きいかな?(2023/4/15)

3月17日東京大学の弥生キャンパスで「CXを巡る科学と政策ダイヤログ」と題するイベントがあり、副題に、「林野庁長官ご来校講演」とあるので、行ってみました。

林野庁長官が国会や霞が関で当面の課題について何を語るかは、大体わかるけど、次世代を担う若い学生や、研究者の人たちに長期的展望をふまえて、何を語るかな?

ということがなんとなく、主たる関心事項だったのですが、研究者のプレゼンで「7つの演習林の森林が東京大学全体が排出するGHGの7割を吸収している!(右の図(東京大学環境報告書2022p8)」「吸収量はどんどん増えている」、といった内容があり、私も手を挙げて「質問」などしているうちに、研究者のグループの日本の森林の吸収量の可能性に関する議論をすることになり、若干ご報告をします。

林野庁長官の話は、重要なので別途フォローしますね。(ごめんなさい)

(森林の吸収量に関する議論のきっかけ)

「フロアの学生さんなにか質問ありませんか?」というすべての講演が終わってからの司会者の問いかけに、出席した学生から手が上がらなかったので、私が手を挙げてみました。(学生でなくてごめんなさい)

問:、演習林のプレゼンの中にあった、左の図。千葉演習林の100年以上複数個所で胸高直径を測り続けた結果、100年経っても成長し続けている!は、それが、どのような普遍性を持つかによっては、日本の森林政策の将来に関する重要な意味を持つデータと思うが、どのような認識か?

答え:それぞれの林分ごとの、管理の経緯など相違に基づいて、増え方がちがってくるのかなど分析が必要

休憩時間にその方と話をしていたら、隣にいた学科長のK教授が、話に加わり、関連して重要なデータがあるので渡す、としていただいたのが、以下の文献でした

A日本の森林の炭素貯留能力は本当はムチャクチャすごかった!(江草智弘(東京大学大学院農学生命科学研究科森林科学専攻 特任研究員)、他(このなかにK教授、そしてネット上の連絡先はK教授)
B「ホントはスゴイ日本の森林、炭素貯留能力実は倍だった!(K教授(東京大学大学院農学生命科学研究科森林科学専攻)(グリーンパワー2020.11)

Aの学術報告(A論文といいます)の名前はしっていたので、気にしていたんですが(昔のニュースレターの「次号以降の予告」にも)、主たる発信者であるご本人とお会いすることができました!森林行政が発信する重要な情報(日本の森林の二酸化炭素吸収量)に関する、アカデミアからの批判

(本当の炭素貯蔵能力(森林吸収量)と、これまでの評価方法)

主たる主張は、「現在公的に日本の森林吸収量(炭素蓄積量速度といわれていますがほぼ同じコンセプトなので森林吸収量といいます)といわれている数値は、不正確で、近年の入手可能なデータを基に計測した正しい数値の半分以下」というものです。

A論文の解説ページには以下の要約

 森林の炭素貯留量と炭素吸収速度を正確に知ることは、地球温暖化の抑制にも関係して、森林生産計画の策定に重大な意味を持ちます。
近年整備が進んできた日本全国に渡る15000点に近い毎木調査点の結果(生態系生物多様性基礎調査)を、これまで日本の森林蓄積量を評価してきた収穫表(森林資源現況調査の基礎)による結果と比較しました。
新しく算出された森林炭素蓄積量・炭素吸収速度は、炭素換算で30.16憶トン・4850万トン毎年となり、これまで発表され正しいと信じられていた値の、それぞれ1.72倍・2.44倍となりました。これら新しい値は、我が国のこれからの森林管理政策に多大の影響を及ぼすでしょう。

(開示されている日本の森林吸収量)

日本の温室効果ガスの排出吸収量を正式に開示し、国際的に報告するシステムが、国立環境研究所地球環境研究センターのサイトに掲載されている、日本国温室効果ガスインベントリ報告書(現時点では2022版が最新)です。(この論文の森林吸収量に関するデータが批判の対象です)

ここに掲載されているデータで、森林吸収量に関係あるのは、ー全森林の森林吸収量5500万t-CO2/年(報告書2章2-19ページ表2-14右上2019年)(1500万炭素トン/年)、(もう一つ京都議定書が規定する「1990年以降森林経営・植林などが行われた森林」という限定付きの森林吸収量4050万t-CO2/年(報告書2章2-22ページ表2-26(A1新規植林・再植林+A2森林減少+)という数値も公表されている、国際的にはこちらの方が大切ですが)

冒頭の図の1900万炭素トンでなくて1500万炭素トンともっと少ない数値、あいませんが(計算根拠のデータだけでなく計算過程(材積から炭素トンに変換する過程など)も少しちがう)。いずれにしてもターゲットは数値でなく、基礎としたデータセットです。

国際的に発信している温室効果ガスインベントリ報告書の数値1500万炭素トンのペースになっているのは、林野庁が5年に一回公表している森林資源現況調査公表されている最新版は平成29年3月31日現在版。(論文の対象となったので、その前のH24年公表もの)

調査方法について、「国有林は林野庁などが、民有林は都道府県が、現在編成中の地域森林計画の作成資料などをベースにして作成したもので、作成過程で地域ごとに集積してきた樹種別樹齢別の蓄積表(収穫表)などが、ベースになっています。」とされています

さて、以上が比較の対象とした森林資源現況調査の概要です

(新たに提示された森林吸収量)

さて、今回の報告書によってK教授たちが提示した、「正しい吸収量」の内容は?

根拠となるデータは、林野庁のサイトに掲載されている生態系多様性基礎調査です。

左の図のように全国4キロごとに線(メッシュ)を引いて交点が森林だった場合のその地点の現地調査の対象地点とするサンプル調査植生を調査する。

調査内容はこちらにありますが、位置、地況(傾斜土壌など)、林分構成(優先樹種、林齢など)、立木調査(樹種、樹齢、直径、樹高・・・)樹

1999(H11)年から五年ごとに、現在5期目の実施中。

2017(H29)年に実施が終了した第4回の実施結果が今年の1月に公開されています

前述の資源調査が、現地調査でなく蓄積された収穫表などのベースデータをもとに、作成されているけれど、生物多様性基礎調査は、非常にわかりやすい現地のサンプル調査。

この蓄積にもとづいて、成長量を計測し、炭素蓄積量・速度(吸収量)を計測した結果が、日本の森林の炭素貯留能力は本当はムチャクチャすごかった!です。

(二つの調査結果の数字の差異の原因と今後のあるべき方向)

論文Aの解説部分で数値の相違を、概要以下のように説明しています。

1 前者の面積が少ない
2 前者の前提となった収穫表のデータが不正確
(1)近年の研究成果により、成長がほとんど止まると、これまで考えられていた老齢木の成長速度は、意外と大きいということが判明。1970年代に作られた収穫表では、老齢木・巨木の成長速度が正しく反映されていない。
(2)近年進む地球温暖化は、特に日本のような温帯の森林の成長速度を高め、近年進む大気中二酸化炭素濃度の高まりは、大陸からの窒素降下物がある日本では、直接の施肥効果が働くと考えられるが、このように近年高められた成長速度を、1970年代に作られた収穫表では表現できていない。
(3)適切な森林管理、特に適切な間伐が行われているという前提で収穫表は作られている。近年問題となっている間伐遅れの条件下では、収穫表は正しく森林材積を推定できない。

ということで、A論文の主張の締めくくは以下の通りです。

「我が国の林野庁は今でも、我が国の総森林材積から森林炭素蓄積量の値まで、森林資源現況調査のデータを基とにした推定値を公式の真正値としています。しかし、これは明らかに過小評価で、真値の58〜64%に過ぎないという大きな間違いを犯しています。実際、我が国の森林の炭素吸収速度は驚異的なほど高いので、森林生産管理や二酸化炭素排出削減策に関する適切な政策決定のためにも、この間違いは速やかに是正されなければなりません。
 今、まさに2014〜2018年の第四次生態系多様性基礎調査が完了し、現在、その結果の解析が進んでいます。この最新の調査結果では、より精度・確度の高い森林情報が得られると期待されています(上記の通り1月に公表された)。より良い推定のためには、多様性基礎調査を基に行うのか、最新の生態系多様性基礎調査を利用して収穫表を更新すべきです。そのような最新の収穫表を用いた森林資源現況調査ならば信頼性の高い森林炭素蓄積量が得られるでしょう

(論文の評価と今後の方向性)

以上がK教授が説明された論文の概要と、林野庁への提言の内容ですが、(林野庁長官が出席している席で)K教授がわたしにこの論文を示された意図はなにかな?

いずれにしても、内容を理解したうえで、行政の担当者も含めて情報収集をして、勉強部屋としても解説をすべき!ということなのだろうと、情報収集をしてみました。

それで、わかったことは、論文が公表された時期から、林野庁関係者(長官も含めて)からK教授にはコンタクトがあり、いろいろ意見交換をして、「林野庁には積極的な対応をしてもらっている」、「今回多様性基礎調査の調査結果が第3次の時よりも、ベースデータも含めて学会関係者が使いやすいような開示形式になったのは、その時の議論の成果である」なんだそうです。(以上K教授談)

また、行政側の関係者も長期資源調査で使われている収穫表などが不正確であり、改善が必要だ、という認識は共有しており、着々と作業を進めており(林野庁の関係者も認識)、現在もその作業が行われている最中、なんだそうです。

左の図は、環境省の「森林吸収減について」という解説データに掲載されている、温室効果ガスガイドラインの中の森林吸収量の推移(青い折れ線の最新版が5500万CO2t/年で1500万Ct/年)や、地球温暖化対策計画の中に記載している目標数値を記載したグラフですが、右の赤丸をご覧ください。

2021(R3)年計画の目標は3000万トンCO2/年となっていいますが前計画では2780万トンCO2/年だった。修正の理由は、「直近の森林資源データと対処方法を見直して修正されている」と解説されています。

これが、A論文などが指摘してきた収穫表の訂正を踏まえた数値修正の結果だと思いますし、「その後もかなり大幅な修正作業をしている」みたいなので、今後目標数値だけでなく、全森林の数値もかなり変わってくる可能性があるのかな?。

どの程度変わるか(森林吸収量の結果数値だけでなく、都道府県ごと樹種ごと樹齢ごとの膨大な計算過程の吸収量曲線が変更される)によって、国の温暖化計画や、各企業、自治体の2050年にむけた、カーボンゼロ計画などにも影響が及んでくる可能性がありますね。

それに、高齢級の森林の吸収量がおおくなると、右の図にあるように「50年生の人工林が半分以上になり、成長量の多い森林が徐々に少なくなってくるため」というロジックに支えられた、伐採の促進といった議論が少し変わってる可能性もありますね。

今後フォローしてまいります

kokunai4-64<Cnforekyu>

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