IPCC第四次報告書第三作業部会報告書(2007/8/12)(2008/3/16改訂)

5月に公表されたIPCCの標記報告書は我が国の森林政策にも大きな影響を持つと考えらるので、森林関係の暫定訳を掲載します。

温暖化問題についての国際的な専門家が科学的な研究の収集、整理を行っている、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が、この春第4次評価報告書をとして公表しました。(環境省IPCC第四次報告書について

最近の日本の森林政策が気候変動条約の国際的枠組みの中で議論されることが多いので、森林林業関係者としても、この面での最新情報をしっかりとらえておく必要があるでしょう。

IPCCの報告書は三つの分科会によって作成され、第1作業部会は「自然科学的根拠」、第二作業部会は「影響、適応、脆弱性」、第三作業部会が「気候変動の緩和策」であり、森林政策にとって重要なのは第三部会報告書です。

第3作業部会報告書は政策担当者向け要約Climate Change 2007: Mitigation of Climate Change
Summary for Policymakersの原文がIPCCホームページの関連ページからダウンロード出来ます(こちらから
また、政策担当者向け要約の仮訳が財団法人地球産業文化研究所から提供されています(こちらから)

本文はフルテキストWORKING GROUP III FOURTH ASSESSMENT REPORT Pre-copy edit versionはIPCCホームページの関連ページからダウンロード出来ます。(こちらから
現在全体の日本語訳は提供されていませんが、第9章林業の要約部分の暫定訳を提供して頂きました。(林野庁研究保全課松本康裕専門官が、自身の訳を、報告書の共同執筆者の一人である森林総研の松本光朗室長にチェックして頂いたものです。両松本さんに深く御礼をいたします)

IPCC第4次評価報告書 第3作業部会報告書
「第九章 林業」Executive Summary(仮訳)

 20世紀の最後の10年間に、熱帯での森林減少と温帯及び亜寒帯の一部での森林の再成長は、それぞれ排出と吸収の主要な要素であった。しかしながら、熱帯での森林減少による炭素の損失が亜寒帯及び温帯での森林の拡大と木質バイオマスの蓄積によってどの程度相殺されるかは、現地での観測とトップダウンモデル(訳者注:地球レベルのモデルによる方法。対語として、個別の地域モデルの積み上げによる方法を「ボトムアップモデル」と言う。)による推計とで意見の一致を見ていない。1990年代の森林減少による排出は、年間5.8ギガ二酸化炭素トンと推計されている。(意見の一致度は中程度、中程度の証拠)

 ボトムアップ式の地域的な研究によると、林業セクターの緩和策は、1二酸化炭素換算トン当たり100米ドルまでのコストにおいて、2030年に年間1.3〜4.2ギガ二酸化炭素換算トン(平均年間2.7ギガ二酸化炭素換算トン)の削減に貢献する経済ポテンシャルを持つ。地域間で大きな違いがあるが、その約50%(年間約1.6ギガ二酸化炭素トン)は1二酸化炭素換算トン当たり20米ドル以下のコストで達成され得る。地球規模のトップダウンモデルは、1二酸化炭素換算トン当たり100米ドルまたはそれ以下の炭素価格で、2030年に年間13.8ギガ二酸化炭素換算トンというはるかに高い緩和ポテンシャルを予測している。地域的な研究は、より詳細なデータを用いる傾向があり、より広い範囲の緩和策がレビューされている。このため、これらの研究は、より単純で統計による地球規模のモデルよりも、地域的な状況と制約をより正確に反映していると思われる。しかしながら、地域的な研究は、モデルの構造、範囲、分析アプローチ、及び仮定(ベースラインの仮定を含む。)により変動する。第11.3節のセクター間の比較においては、地域的な研究によるより控えめな推定が用いられている。地球規模の評価と地域的な評価とによるポテンシャル推定の相違を狭めるためには、さらなる研究が必要である。(意見の一致度は中程度、中程度の証拠)

 森林減少の削減、森林経営、新規植林及びアグロフォレストリーによる炭素緩和ポテンシャルは、方策を比較する活動、地域、システム境界、時間により大きく異なる。短期的には、森林減少の削減による炭素緩和の便益は、新規植林による便益よりも大きい。これは、2000〜2005年の森林面積の正味の損失が年間7.3百万haであるように、森林減少が最も重要な単独の排出源であることによる。
 林業セクターによる緩和策として、伐採木材製品中の炭素保持の拡大、製品の代替、バイオエネルギーのためのバイオマス生産などが挙げられる。これらの炭素は大気から除去されるとともに、木材、木質繊維、エネルギーといった社会的ニーズに応えるため利用できる。林業セクターからのバイオマスは、年間12〜17EJのエネルギー消費に貢献し得るが、その緩和ポテンシャルは、発電所の石炭や天然ガスがバイオマスに置き換えられたとすれば、年間およそ0.4〜4.4二酸化炭素ギガトンに相当する。(意見の一致度は中程度、中程度の証拠)

 長期的には、森林の炭素ストックを維持または増加させることを目的とした持続可能な森林経営の戦略は、森林から木材や木質繊維やエネルギーを持続的に生産しながら、持続的な緩和の最大の便益を生じさせるであろう。多くの緩和活動は前払いの投資を必要とし、その便益及び副次的便益は一般的に数年から数十年間生じる。森林減少と劣化の削減、新規植林、森林経営、アグロフォレストリー及びバイオエネルギーの複合的な効果は、現時点から2030年以降にかけて増加するポテンシャルを持つ。(意見の一致度は中程度、中程度の証拠)

 森林セクターにおいて地球規模の変動は炭素の緩和に影響を持つが、この影響の大きさと方向は今のところまだ確信を持って予測することはできない。地球規模の変動は、成長と分解の速度、自然撹乱の面積、タイプ及び強度、土地利用パターン、その他生態学的プロセスに影響を及ぼすかもしれない。(意見の一致度は中程度、中程度の証拠)

 林業は、適応と持続的開発との相乗効果をもたらすような低価格で地球規模の緩和のポートフォリオ(訳者注:複数の緩和策の有効な組み合わせ)に対し、非常に重要な貢献をし得る。しかしながら、現在の制度的な状況と、実施のための政治的な意志の欠如の中で、この機会は失われつつあり、このポテンシャルのうち小さな部分しか現時点では実現されない結果となっている。(意見の一致度は高、多くの証拠)

 地球全体で、数億の家族が森林から得られる財やサービスに依存している。このことは、気候変動の緩和を目的とした森林セクターの活動を、持続的開発や地域コミュニティへの影響といったより広い文脈から評価することの重要性を強調している。林業セクターの緩和活動は、気候変動への適応、生物多様性の維持及び持続的開発の促進と共存するように設計することができる。環境的及び社会的な副次的便益とコストを、炭素に関する便益と比較することは、相殺効果と相乗効果を強調し、持続的開発の促進を助けるであろう。(意見の一致度は低、中程度の証拠)

 緩和ポテンシャルの実現は、制度面の能力、投資資本、技術の研究開発と移転とともに、適切な政策とインセンティブ、国際協力を必要とする。多くの地域では、これらの欠如が林業セクターでの緩和活動の実施の障壁となってきた。しかしながら、森林減少率の低減や大規模な新規植林プログラムの実施における地域的な成功といった注目すべき例外は存在する。炭素に関する便益の実施・モニタリング・報告のための技術開発において重要な進歩がなされてきたが、技術移転の障壁は残存している。(意見の一致度は高、多くの証拠)

 京都議定書の下で実施された林業セクターの緩和活動は、CDMを含め、今までのところ限られている。これらの活動を増やす機会として、手続きの簡素化、将来的な義務を超える確実性の開発、取引コストの削減、並びに潜在的な買い手、投資家及びプロジェクト参加者間の信頼と能力の構築などが挙げられる。(意見の一致度は高、中程度の証拠)

 この章での評価は緩和の便益とコストの大きさについて残存する不確実性を明らかにしているが、緩和活動を実施するために必要な技術と知見は、今日、既に存在している。

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