クローズアップされたー森林大国・日本 飛躍のカギは(2021/9/20)
9月15日NHKクローズアップ現代+で「宝の山をどう生かすー森林大国・日本 飛躍のカギは」という番組が放映されました。

NHKの取材力を結集した硬派の看板番組(そのあり方が国会審議もされた)に、森林問題が登場!

何人かの方から、意見をもとめられたので、NHK+で見てみました。(生番組はちょっと都合がつかずに、何回でも見られる有料放送で)

上記の通り、番組を紹介する詳しいサイト「宝の山をどう生かすー森林大国・日本 飛躍のカギは」がありますので、それにそって、素晴らしい内容を紹介したうえで、すこし気になった点を・・・

(何が問題か?木材利用拡大にともなう皆伐跡地の山はどうなっているか?)

さて、硬派な報道番組が厳しく指摘する、森林大国の問題点は何でしょうか?上記サイトのイントロ部分は以下のとおり。

「日本の木材自給率を20年間で、かつての約2倍、40%近くまで上昇させた。(右の図の左下)

しかしその裏で問題が起きている。大規模伐採ではげ山が広がったり、山の所有者に無断で伐採する「盗伐」が発生したり。(同左上)

大規模伐採の一部が、土砂災害などの要因の一つになっているという指摘もされている。(同右下)」

そして、何故皆伐がひろがるの?というタイトルで、バイオマス燃料などですべての木が売れるようになり、皆伐が広がり、そのあとに植林が進んでいないと紹介されます(左の図)。

ゲスト東京大学蔵治教授:「やはり大規模、低コストな林業というのは短期的には効率がよくて合理的に思えるんですが、やはり長期的に見ると国土保全のリスクというものがありますので、しかもそれは林業地だけではなくて下流のほうまで影響することですので、持続性という意味では考えないといけないことです。」

(宝の山をどう生かす 持続可能な小さな林業「自伐林業」で付加価値を)

「こうした大規模な林業の課題が明らかになる中、山にできるだけ負担をかけない「小さな林業」が注目されています。・・・」として、詳しく紹介されるのが、鳥取県と智頭町、高知県佐川町を例にとった自伐型林業。

取材班が作成した、自伐型林業の解説ページ→目指せ!持続可能な林業 注目の「自伐型林業」とは?によると、自伐型林業の特徴は、@皆伐でなく間伐、A壊れにくい最小限の大きさの作業道。全国54か所の自治体が自伐型林業を支援しているんだそうです(NPO「自伐型林業推進協会」

高知県佐川町の例が、右の図で、町が所有者との間にたち、20年間無料で管理をすることとして、全国から募集して、毎年5名ほど地域おこし協力隊として雇用した、自伐型林業の関係者に委託し、間伐の売上代金は所有者1,自伐型林業事業者9割でシェア、しているんだそうです。

そして、上の図は、大雨による山地崩壊の7割が伐採作業関係で発生、という自伐型林業をリードしているNPOの情報発信です。すごい技術力を背景にした事業展開ですね。

九州大学佐藤宣子教授:「契約条件についてはいろいろあると思うんですが、2つの自治体ともに、自伐型林業を地域の総合計画に位置づけて支援していることが重要なポイントだと思います。今後そういった自治体の取り組みを広げるとともに、国の林業行政の中でも山村政策として自伐型林業をきちんと位置づける必要があると考えています。」

大切な問題提起ですね、「宝の山をどう生かすー森林大国・日本 飛躍のカギは」まだの方は、ぜひどうぞ。NHKプラスでもどうぞ。

(次世代の森林はどうなるかー「宝の山」はどうやってできたか)

番組がタイトルで指摘している「宝の山」とは、国土の7割の森林の中の1千万ヘクタールに及ぶ伐期に達した人工林ですね。

「おじいさんは山に柴刈りに」と言われて農村地域の燃料用材を供給していた裏山が、化石資源によるエネルギー革命で見直されて方向転換。皆で、燃料材供給基地の広葉樹を皆伐して、子や孫のために一生懸命植えて手入れをしたスギやヒノキの造林地。

一部にガケ崩れを起こしながら、生産林として成長した人工林の「宝の山」を、循環資源としての木材利用を社会に広げながら、その跡地の次世代の森林をどのように構築していったらよいのか、という問題提起ですよね。

((そこで、気になることが二つあります。))

(皆伐跡地に造林してできた宝の山をもう一度皆伐して一斉に植え付ける作業のリスクは)

番組の問題点の指摘の最後に「何故皆伐がひろがるの?というタイトル」で、バイオマス燃料などですべての木が売れるようになり、皆伐が広がり、そのあとに植林が進んでいないと紹介されます。

自伐型林業が否定する皆伐ですが、今の宝の山は、皆伐をしたあと、植栽しててできた山なんで、その山を再び皆伐するなんです。ずーと間伐を繰り返えして、複層林にして管理していく方法もありますが、若返らせて二酸化炭素の吸収量をたかめることも大切な課題。それでは、50年前に皆伐して人工林にしたところを、もう一度皆伐して造林をすることが合理的な森林がどれだけあるのか?時代が変わったからもうないのでしょうか?

林野庁は、森林・林業基本計画の中で、1千万ヘクタールのうち、660万ヘクタールが、一斉造林して運営すると合理的(指向する森林の状態が「育成単層林」、左の図)、といっています。

急傾斜地はさける、住居や施設の裏山はやめる、皆伐後はどんな条件の場所は植栽をする、などきっちりした基準作りをして、線引きをしながら、市場にまかせる。いわば、企業的な栽培林業(大きな林業)の可能な場所。

50年前にできたところが、時代変化によって半分ぐらいになるのかもしれませんが、皆伐跡地の3割が再造林されているのだそうですから、どんなところが再造林されているか、だめなのか確認しながら、「新しい林業」を

その他のところは、自伐型林業の応援をえながら、高齢級の育成複層林にしていく、ということなんでしょうか。

自伐型林業(小さな林業)と、農業的林業(大きな林業)その二つを共存してやっていこうということなのだと思います

たくさんのハードルがあります。そのハードルがうまく超えれれていないのが、今回の、番組が指摘している、たくさんの問題点です。

(自伐型林業のリスクは)

自伐型林業の担い手は、場合によっては委託された他人の森林のどの木を間伐して、どの木を残すということを、相手がいないところで決定する、きわめて難しい作業ができる素晴らしい人だと思っています。

逆に言えば、今日市場にもっていけば、自分のふところに、1万円はいるけど、それは10年後の委託者の収入が5万円損するから、その木は残しておいて、となりの千円の木を選木間伐して、市場にもっていこう、という選択を、だれもいない山中の現場でできる人なんで、あまりいないんではないでしょうか。

自伐型林業では間伐の結果を評価する手続きが難しく、変な伐採が横行してしまうリスクがあるんではないかな?

市町村が関与するなど、いろいろ、工夫をして普通の人ならできるようなシステム開発はされているのかもしれませんが・・・少し気になります。

(出演した佐藤教授からのご意見)

これらの点について、コメンテータとして出演された、九州大学佐藤宣子教授は存じ上げたかたなので、ざっくばらんに伺いました。

すると、丁寧な返事をいただきました。

ご紹介します。

 テーマ  佐藤教授のご意見
 @皆伐一斉再造林のリスクについて   現在伐採されているところは前回も同じ面積伐採して造林したところだから大丈夫とはいえないと思います。伐採方法の変化と気候変動の影響(加えて鹿害)を考える必要があります。50ー60年前はほとんどが架線集材で数年かけて伐採、造林されています。今回の問題提起の一つは、急傾斜地や民家のすぐ裏を、大面積に搬出路網を入れて高性能林業機械を使って搬出して土壌撹乱をする方法の危険性です。路網からの災害発生は多いですし、再造林しても、根系が発達する20年間は危ないのではないでしょうか(この点砂防や造林の先生の知見がもっと必要)。また、高性能林業機械が普及しているヨーロッパの人に、日本では1時間に100mm以上降る時もあると言ったら、1日の間違いだろうと言われたことがあります。このところの気候変動で、災害が激甚化していますし、人口密度が高いので、日本の場合、伐採活動はヨーロッパ基準よりも厳しくするぐらいが求められると考えています。これを変えるには保安林制度が立ちはだかっています。
皆伐再造林をせず、多間伐や択伐施業だと管理が難しくなるというのは、その通りだと思います。小規模分散の皆伐・再造林(または天然更新)まで許容すべきと考えます。ただ、ドイツなどでは、合自然的林業や将来木施業など現場判断での森林管理ができているようですので、それをどう見える化(データ管理しているのか)知りたいところです。
あと現在の造林地が、全て前世樹種を皆伐したところに植林したところかどうかは、よく吟味する必要があります。人工林で2代目、3代目のところ、天然林を伐採して人工造林したところ、茅場など原野に造林したところがあり、再造林せずに天然更新可能かどうかに関連しています。
 A自伐型林業者・間伐のリスク   自伐型林業者がどのような森林を作っていくのか、またそれをどう評価するのかという点に関わる重要な点だと思います。
森林所有者の意識が高いと、将来の山林をどのようにしたいかという共通認識をもち、変な施業はできません(事例ででた智頭町はこのタイプ)。また、自伐協の主張も、森林の将来価値を上げると言っています。
ただ、森林所有者がどのような森林にしたいといったものがなく、確認にも来ないとなったら、今の所得を優先するかもしれません。また、一生懸命に自制して良い山にしようと間伐したけれども、それを理解して評価してくれる人やシステムがないとやりがいにつながりません。佐川町は20年後にどのような森林にしようとしているのか、行政がチェックできるのかが重要だと思います。
実際、自伐型林業者がやったという山林で、残存木が傷だらけだった山を見たことがあります(これは伐倒の技術的な問題もあります)。また、森林組合に間伐を頼んだら、「良い木ばかり売って、曲がった木しか残っていなかった」という事例もありましたし(自伐型林業だけの問題ではない)、2011年の森林法改正で間伐材積に伴って補助金が高まることになって、荒い間伐が多くなったという話は多く聞きます。
そのような荒い間伐にならないようにするには、選木を誰がするのかということが重要なポイントになると思います。自伐型林業者の方は将来の山づくりまで興味がある方(所有者のように、将来価値をあげる山づくりを標榜して、それが楽しいという方も多い)も多いので、選木を任せてもらったとして、それを評価する仕組みが求められます。実は、その仕組みづくりについても議論が始まっていて、自伐型林業者を山守として育成したい大規模森林所有者(奈良の吉野地方など)と自伐型林業者を仲介する組織を作る動きがあり、注目しています。
資源を食い潰すような施業ではなく、将来価値をあげるような森林施業をやった場合に、それを評価して、継続して山林を任せてもらい、経済的な見返りもあるような仕組みができるともっと自伐型林業も信頼されるようになるのではと期待しています。

ありがとうございました。

kokunai6-55<NHKclogen>

 

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