2050カーボンニュートラルにむけたグリーン成長戦略と森林・木材政策(2021/1/18)

10月に総理が「2050年までに温室効果ガス排出実質ゼロにする」と表明してから、この目標をどうやって達成するのか、気になっていましたが、12月25日開催された、政府の第6回成長戦略会議で、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」という文書が提出公表されました。

森林の吸収源や、木材の二酸化炭素固定といった機能が、グリーンな成長戦略のなかで、どんな取扱になっているのかな?

左の図は、冒頭に示された2050年カーボンニュートラル(以下CNと言います)の実現の模式図。

電力は再エネ・原子力・水素アンモニアで全量CN、非電力の方は電力化・その他でCNを追求し、どうしてもだめな0.5億トン程度(という数字は書いてありませんが)を「植林、DACCSなど」の炭素除去技術で相殺、するんだそうです。

具体的中身は?

((CNにむけたグリーン成長戦略の中の森林と木材産業))

成長戦略の具体的記述は、「すぐ市場が立ち上がるものから研究開発から始まるモノなど、時間軸に応じて」など区分した14の分野ごと(右の図)に記述されています。

森林や木材に関係するのは、⑨食糧・農林水産業、⑫住宅建築産業/次世代型太陽光産業です

それぞれのセッションの森林と木材産業に関する記述を拾い出してみました。

(CNにむけた食糧・農林水産業の中の森林と木材)

(農林水産省がドラフトを書いたと思われる)この分野に掲載されている工程表です


具体的な記述は以下の通り。

区分  現状と課題  今後の取組
 イントロ  我が国の農林水産業は、木材を適材適所で活用する「木の文化」の浸透や、森林及び木材・農地・海洋が巨大なCO₂吸収源として期待されるなど、それ自身が吸収源となる重要な産業であることに加え、スマート技術に係る研究開発・社会実装により、作業最適化等によるCO₂削減、適正施肥によるN2O削減等の温室効果ガス(GHG)排出削減についても取組が進むなど、カーボンニュートラルの実現に向けて多くの潜在的な強みを有している
 共通の課題  、持続的な取組による効果の「見える化」を進めて消費者に示すことや、農林漁業者や地域に対し、新技術の導入等による労働安全性・労働生産性の向上や所得向上等の具体的なメリットをもたらすことを分かりやすく伝えることが重要  2030 年までに施策の支援対象を持続可能な食料・農林水産業を行う者に集中していくことを目指す。農林水産省の補助事業については、技術開発の状況を踏まえつつ、2040 年までにカーボンニュートラルに対応することを目指
 温室効果ガス排出削減 ―エネルギー調達及び生産から流通・消費段階― ・・・ 高層建築物等の木造化等により、他の資材と比べて製造時のエネルギー消費が少ない木材の利用拡大を図る必要がある。併せて、木質バイオマス由来の新素材の開発・普及等により、プラスチック等の化石燃料由来製品の代替を進めていく必要がある。また、木質バイオマスのエネルギー利用については、森林資源の持続可能性確保の観点から、カスケード利用(回収・再利用による多段階利用)や、熱効率を踏まえた効率的な利用を図っていく必要がある。 ・・・ 高層建築物等の木造化、プラスチック等を代替する改質リグニン・CNF 等の新素材開発、高効率な木質バイオマスエネルギー利用(熱利用等)を推進し、森林資源を多段階利用するカスケード型システムを構築するとともに、標準仕様に準拠した森林クラウドの導入、自動化機械やクラウドと整合したICT 生産管理システム等を開発・普及する。
 CO₂吸収・固定  森林・木材による吸収や排出削減の効果を最大限発揮するため、利用期を迎え、高齢級化に伴い吸収量が減少傾向にある人工林について、「伐って、使って、植える」という循環利用を確立し、木材利用を拡大するとともに、エリートツリー等の新たな技術も活用し、森林の若返りを進めていく必要がある。併せて、高層建築物等の木造化や木質バイオマス由来の新素材開発など、大量の炭素を長期間貯蔵する木材利用技術を開発・実装する必要がある。・・・  2050 年カーボンニュートラルの実現には、ゼロエミッションが困難な排出源をカバーするネガティブエミッションが不可欠であり、森林及び木材・農地・海洋における炭素の長期・大量貯蔵を実現する必要がある。
具体的には、林木育種の高速化等によるエリートツリーの効率的な開発や、センシング技術等の活用により主伐後の再造林等を推進し、森林吸収量の向上を図る。また、高層建築物等の木造化に資する木質建築部材の開発、工法の標準化や改質リグニン・CNF 等の新素材開発等により、木材による炭素の長期・大量貯蔵を実現する。

削減と固定という二つの具体的な記述の中の両方に関係の記載があります。森林や木材は前者は脇役、後者は主役といったことでしょうが。

主伐後の森林に成長量の大きなエリートツリーに転換、高層建築物の木造化が二つの柱であり、当面は技術開発段階、で実用化は40年度以降、となっていますね。

(CNにむけた住宅建築産業/十世代型太陽光産業の中の木材)

(国交省がドラフトを書いたと思われる)こちらの方にも、炭素固定に貢献する木造建築物というセッションがあります


  現状と課題   今後の取組
イントロ   今後、2050年カーボンニュートラルを目指すに当たっては、ライフサイクル全体(建築から解体・再利用等まで)を通じた二酸化炭素排出量をマイナスにするLCCM住宅・建築物の普及に加え、ZEH・ZEBの普及、省エネ改修の推進、高性能断熱材や高効率機器、再生可能エネルギーの導入、建築物における木材利用の促進を可能な限り進めていく
 炭素の固定に貢献する木造建築物  再生産可能であり、炭素を貯蔵する木材の積極的な利用を図ることは、化石燃料の使用量を抑制し二酸化炭素の排出抑制に資するため、建築物における木材利用の促進を図る必要がある。
低層の住宅においては約8割が木造である一方、非住宅・中高層建築物においては木造の割合が未だ1割未満である。非住宅・中高層建築物において木造を普及させるため、CLT 等の新たな部材を活用した工法等や中高層住宅等の新たな分野における木造技術の普及とこれらを担う設計者の育成が課題である。
 先導的な設計・施工技術が導入される実用的で多様な用途の木造建築物等の整備に対する支援を引き続き行う。また、非住宅・中高層建築物の標準図面やテキスト等、設計に関する情報ポータルサイトを整備する取組及び非住宅・中高層建築物を担う設計者を育成する取組に対する支援を引き続き行う。また、木材利用の普及・拡大に向け、国での公共調達を推進する

(グリーン成長戦略の中の森林・木材産業)

記述されたそれぞれの項目にあまり新味はないかもしれませんが、今後ゼロエミッションは政府と政策の柱になってくるので、どんなキーワードで森林は林業、木材産業の政策が関わってくるのか、ということが解ります。

温室効果ガスの排出削減と、排出削減の炭素固定の二つのわけてみると、他の分野が殆ど前者の削減を議論しているのに、森林木材産業が吸収固定の話をしているのが、ユニークなところです。

その他に固定化の話をしているのは、⑪カーボンリサイクル産業の中の「排気中のCO2の分離回収施設」と、⑬資源循環関連産業の「焼却施設の排ガスの固定化」の、2カ所2ページ

((今後の展開は))

(CNにむけて「成長戦略」だけでよいの?)

「成長戦略」だから産業界向けのメッセージになっているので、仕方がないことなのかも知れませんが、CNという社会の大転換をしようというのに、主役である市民向けのメッセージがないことが、モノ足らないところです。

「皆さん、そんなにエネルギーを使う生活をしていてはだめですよ!消費生活をこう変えて下さい!」「手近にある資源を循環させる可能性のある地方の生活と、(効率性をもとめた)大都市の生活はどちらがCN?」

全体をつぶさに読んだわけではないのですが、農林水産業のセッションに、消費者向けのアプローチが入っているのが、少し新鮮です。

たぶん、産業界向けのメッセーじだけでは、だめなんで、次の段階ということになるんだと思います。

(市民と共に木材利用の推進)

ということで、木材利用については、「高層建築物等の木造化や木質バイオマス由来の新素材開発など」といった開発課題が中心の記述になっていますが、今後市民や需用者に木材利用の拡大の話をどのようにしていくのか?

この木材利用を使った場合の環境貢献の「見える化」や、Jクレジットなどで、具体的な提案ができるようなシステムを開発していくことが大切なような気がします。開発段階でなく普及段階のすぐやるべきことがたくさんありそう。

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