本の紹介:「脱・国産材産地」時代の木材産業(2020/10/10)

森林技術誌に標記に本の紹介を掲載させていただきました。

ウッドマイルズフォーラムの新しい運動について、建築関係者と議論をする時にベースとなっていた、重要な本です

ご了解をえて、全文を掲載します。

森林技術2020年9月号No.941、P34~35掲載

 吉野スギ、北山スギ、尾鷲ヒノキ・・・国産材産地。周辺の地域の人々により丁寧に造成されてきた森林の木材生産機能を消費者に伝達してきた、森林と消費者を結ぶ「産地」ということば。これをキーワードに、最近の木材産業の大きな動きを分かり易く紹介したのが本書である。

結論を要約すると、国産材は、均質・大量・安定して建築材を供給する輸入材と対抗するために、サプライチェーンが大規模・短絡化し人工乾燥材、集成材と工業製品としての機能を追求する中で、「産地」という地域性に規定されるのでなく、企業のブランドによって規定されることになった。「『新』産地化でなく『脱』産地化」

2000年代から始まった、民間企業への補助金を投入も含む、「新流通・加工システム」、「新生産システム」という、思い切った林野庁産業政策が実を結んだ、ともいえる(政策担当者も執筆)。

さて、脱産地化した木材産業は、グローバル化した国際市場に立ち向かう我が国産材業界の成功物語でもあるのだが、ローカルのたががはずれて、森林はいったいどうなのだろうか?本書冒頭第一章で、「脱・国産材産地時代」が「新たな木材産業構造形成の序曲」である、といっているように、本書はこの先をにらんだ構成となっている。山林所有者への書面調査の結果なども含め、示唆しているように、脱・国産材産地時代を主導する大規模な加工事業者が、山林を所有して次世代の森林造成の旗手となる可能性があるのか、重要なポイントである。

このテーマについては、輸入材のグローバルリズムに国産材大規模事業者がグローバリズムで対抗する「大きな林業」とは別に、森林関係者・地域の木材関係者と、地域の建築関係者・消費者が連携する「新たなローカリズム『小さな林業』」といった、いろいろな絵が描けるだろう。

本書の問題提起をうけて、次のすばらしい完結編にむけた議論が深まることを期待する。

junkan8-4<datusantijidaibook>


■いいねボタン