森林投資とカーボンオフセットーある投資セミナー関心事項(2021/7/15)

先般、投資信託など機関投資家向けのセミナーで、「カーボンニュートラル2050と森林・木材の吸収・固定量―カーボンオフセットの可能性」という演題で話をする機会がありました。

貴重な経験、ご紹介します。

(セミナー開催経緯)

6月中旬勉強部屋読者からのフォードバックページに以下のような問い合わせがありました。

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「私は投資信託などの機関投資家向けに、セミナーや勉強会の企画・運営を行っております。その主な対象者は株式投資を行っている運用・調査担当者です。

昨今株式市場でもESG投資が活発になってきております。特に昨年10月の2050年カーボンニュートラル宣言から、環境関係への注目が非常に高まっております。その中で日本にはあまりなじみの無い森林投資に関する問い合わせが増加しております。国土の大半を森林が占める日本において、カーボンニュートラル達成に向けて森林は重要な役割を果たす可能性がある一方で、海外のように森林投資が盛んではないという現状はなぜなのか?それが解決し、海外のように活発になることはありうるのか?等を知りたいと考えています。

そこで藤原様に
(1)海外での森林投資の現状をカーボンオフセットの制度も含めてお話頂き、
(2)日本での現状と今後の展望に関してお話頂く
という勉強会をオンラインで実施頂きたいのですが、ご対応頂けますでしょうか?
今回はESG投資に注力しているとある機関投資家から、森林投資に関して専門的な知識を有する方との勉強会の設定を依頼されております。」 

森林投資に関する問い合わせの増加!国土の大半を森林が占める日本において、海外のように森林投資が盛んではないという現状はなぜなのか?それが解決し、海外のように活発になることはありうるのか?と問い合わせをうけ、お断りをする選択肢はありません。

なんのために、「持続可能な森林経営のための勉強部屋」の情報発信をしてきたのか?

((【オンラインセミナー】森林投資を考える ~海外の実情と日本での可能性、カーボンオフセット~))

そこで、「諸外国の森林投資と林業経営―世界の育林経営が問うもの」という著書がある林業経済研究所の餅田治之さんと相談し、林業経済研究所のプロジェクトとしてセミナーをすることとなりました。

テーマセミナー:【ビデオ会議】森林投資を考える ~海外の実情と日本での可能性、カーボンオフセット~
日 時:2021年07月08日(木) 11:30-12:30 (東京時間)
形 式:ビデオ会議
スピーカー:一般財団法人林業経済研究所フェロー研究員・筑波大学名誉教授 餅田 治之 様
       (森林投資を考える-海外の実情と日本での可能性-)
      一般財団法人林業経済研究所フェロー研究員・ 持続可能な森林フォーラム 代表 藤原 敬 様
       (カーボンニュートラル2050と森林・木材の吸収固定量―カーボンオフセットの可能性)
司会・進行:SMBC日興証券 株式調査部 シニアアナリスト/プロダクトマネージャー 小山内 譜巳男

報告内容を紹介します

(森林投資を考える-海外の実情と日本での可能性-)

こちらにファイルがおいてあります→(森林投資を考える-海外の実情と日本での可能性-)

・主に1980年代以降、アメリカにおいて林業に関する新たな動きが展開。

機関投資家向けに森林投資のサービスをする、TIMO(Timber Investment Management Organization)、消費者向けに森林投資のサービスをするT-REIT(Timberland-Real Estate Investment Trust)といった仕組みがあるが、左の図にあるように、売買の実績が積み上がっている。

米国に比較して日本は?

米国と比べて日本の育林費はおよそ10倍。削減努力もあるが森林投資環境は厳しい

日本素材生産事業者、製材工場が山林を購入するケースが増えているので調査をした。

その結果
(1) 素材生産業者の林地取得状況(2015年調査)
○素材生産業者へのアンケート調査の回答者の約50%が、過去10年間に林地を取得したことありと回答。
○林地取得の理由:
「土地ごと購入しなければ立木が手に入らなかった」(33.3%)
「立木在庫を潤沢にし安定的な事業につなげるため」(34.9%)1

(2) 製材工場の林地取得状況(2016年調査)
○製材工場へのアンケート調査の回答者の約4割が、過去10年間に林地を取得したことありと回答。
○林地取得の理由:
「立木所有者に土地ごと買って欲しいと言われた」「原木獲得競争に対処するための産業備林」「価格が安いので買えるときに買っておく」

森づくりの森林投資のために隣地取得した人は殆どいなかった。
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(カーボンニュートラル2050と森林・木材の吸収固定量―カーボンオフセットの可能性)

こちらにファイルがおいてあります→(カーボンニュートラル2050と森林・木材の吸収固定量―カーボンオフセットの可能性)

 
「カーボンニュートラルCN2050に向けての施策と森林・木材」という部分で政策の動向をみてから、

「森林や木材利用の炭素を通じたビジネスの拡がりの可能性」という部分でカーボンオフセットの可能性を議論します。
 
 
10月に総理が「2050年にカーボンニュートラルだ」と言ったときに、どのように進めていくかの議論はされていなかった(はず)。

暮れの2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」という文書が大切。
年があけて、作業が進み、6月の新たな森林・林業基本計画の中にも位置づけられています。

順番に説明
 
左の図はグリーン成長戦略に出てくる全体像。電力はすべて2050年までに脱炭素。

非電力も頑張るが、どうしても足りない部分は植林などのカーボンオフセット(右端の黒い破線)。
 
6月にできた新たな森林・林業基本計画の、リーフレットです。左上は全体のコンセプト、後は5つのポイント。

左上、全体のタイトルが、「森林・林業・木材産業によるグリーン成長」、その締めの言葉が「2050カーボンニュートラルも見すえた豊かな社会経済を実現!」です。
上の中、「森林資源の適正な管理・利用」の締めは、「森林吸収量確保に向けた取組を加速。」
下の中「都市等における「第2の森林」づくり」。「都市に炭素を貯蔵し温暖化防止に寄与」。

というように、新計画のメインコンセプトは-「カーボンニュートラル」の実現です
 
といった中で、7月はじめに1億1千万人の人が住む416の自治体で、2050年にカーボンニュールを宣言。

企業も同じような宣言をしています

これらの方が、カーボンオフセットをするクレジットの潜在的な購入者です。
 
森林のポテンシャル。

日本の人工林は伐採されるようになるまでに、日本全体が排出する二酸化炭素の3年分ほどを吸収。

世界全体では途上国の森林が減っているので、毎年日本の排出量と同じ程度の排出をしている。途上国が中心なので、途上国の森づくりのクレジットも取り引き材料になるでしょう
 
企業が、カーボンオフセットを実施するようになるのは、二つの前提があります。

第一に
①行政による罰則も含む義務・規制、/②自主的努力(ESG投資な)どによる企業の削減努力の対外表明

第二に
買われるクレジットの、第三者による保証・認定(Jクレジットなど)
 
政府が関与している、クレジットの認証はJクレジット。

手続きが公表されていて、5つのカテゴリーの方法論があります。森林は5番目のカテゴリーで、方法論は二つ。木材利用の方法論はありません。
 
林業経済研究所が5年前に取り組んだ「森林づくり・木材利用の二酸化炭素  吸収・固定量の「見える化」事業」。その時作成したガイドラインのダウンロード数が左の図です。

5年間でダウンロードされたものの半分が1年以内にダウンロードされています。関心が高まっています。
 
 Jクレジットが政府がバックになった認証システムなので、その方法論そってチャレンジしてください。

ただ、木材利用の方法論がまだないんですね。

企業イメージのPR・自主目標達成への購入なんだったら、Jクレジットの方法論でなくても大丈夫かも

色々相談して下さい
 
Manulife Investment Manegmentが提供する日本語の情報がありました
グローバルインテリジェンス2020年下期投資環境見通し
というpdfファイルの17ページ以下に「森林投資とカーボンオフセット市場の有望性」という記事が

カリフォルニア州のカーボン削減義務、それを達成するためにオフセットするために超過達成したところから超過分を購入(キャップアンドトレード)
オゾン層破壊物質など6つのカテゴリーのうち、過去にオフセットで取引された8割は、「米国の森林」なんだそうです

おもしろいです
 
森林の吸収量・木材の固定量をベースとするカーボンオフセットが拡大する可能性は高まっていますが、吸収量・固定量を増やす活動を認定・確認する仕組みの整理等が必要です。

森林は二酸化炭素吸収だけでなく、山村や都市の市民・企業にさまざまな環境的社会的サービスを提供する可能性を持っています。

今後ともよろしくお願いします。

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以上の報告に対して、以下のような質疑がありました。

 A
 森林を造成すると、何でそのコストが日本は米国の10倍もするのですか?なんとからないのでしょうか?  日本の気候条件、生物多様の条件、地形地質など、森林を効率的な人工林にしていく自然的な条件が違うことが一つの理由。また、どの国にも条件の悪いところ、いいところがあるのでどこまで木材生産をするために手をつけるのかという判断があるでしょう。日本も線引きを確りして、条件のよいところだけ人工林にしていくという必要があるでしょう。また、森林投資を前提として、ぎりぎりにコスト削減をしなければならないいと一生懸命検討している人が少ないかも知れません。
 カーボンオフセットが重要だと認識したが、Jクレジットなど認証を進めていくのはどのようにしていったらよいのでしょうか?  日本で森林造成のクレジット取引が米国のようにすすまないのは、草地に森林を造成するなど、わかりやすい適地があまりないという理由があるでしょう。すでに森林造成に関しては、FO001森林経営活動FO002植林活動の二つの方法論ができています。それをつかってクレジット化の取組をしてもらえばよいでしょう。木材利用に関するJクレジットの方法論がないの課題だと思います。

以上、例によってネット上のやりとりでしたが、楽しかったです。

junkan10-2<Investsemi>


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