日本の森林のガバナンスとクリーンウッド法(国民と森林誌への寄稿)(2018/10/21)

森林政策に提言をしてきた国民森林会議「国民と森林」という季刊誌を出版していますが、その巻頭言に、「日本の 森林のガバナンスと クリーンウッド法ー森林行政の課題を 開かれた議論 にしていく 機会」と題する小論を掲載していただきました。了承をいただき、掲載します。

  筆者は、2006年度から、国が違法伐採問題に対応するためグリーン購入法で合法伐採木材を優先調達こととなり、合法伐採を証明するためのサプライチェーンの管理を業界団体の社会的責任に依拠して行うという、世界的にもユニークな林野庁のガイドラインの運用に深く関わってきた。熱帯林の破壊という途上国で発生する地球環境の課題を先進国の購買力に頼って解決に道筋をつけようというアプローチである。その後の、欧州のEU木材規則、米国のレーシー法など、木材の輸入事業者にその調達過程のサプライチェーンの管理を要求しているのは、問題の発生源は途上国(海外であり)、国境の通関手続きという、サプライチェーンを管理するうえで格好なツールを使って効率的に進めようというアイディアである。
  が、本稿では、違法伐採問題へのアプローチの熱帯林問題と別の側面を議論したい。昨年5月に施行された「合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律」(以下クリーンウッド法という)第1条は「我が国又は外国における違法な森林の伐採」が森林機能に悪影響をあたえるので、それに対処することが目的である、と規定している。先進国の違法伐採問題への取組で自国の森林のリスクを提起している数少ない例が、日本のクリーンウッド法である。EU木材規則管理をする政府機関の人たちと議論することがよくあるが、EU木材規則はEU域内の森林ガバナンスのためにはうまく機能していない。(日本のガイドラインのようなサプライチェーンの管理を薄くても実施するシステムを持っていないためだが、その議論は別項に譲る)
  林野庁は3月に「無断伐採に係る都道府県調査結果」を公表し、昨年度62件の無断伐採事案があったと報告した。間伐から皆伐に移行する過程で大きな問題になっていく可能性があると指摘されている。森林の管理責任は一義的には、森林管理当局にあるが、今回の林野庁の発表は、みずから問題点みとめて、「森林林業関係者などと連携をして対処する」としている。ただし、林野庁の発表には、クリーンウッド法との関係は述べられていない。
  途上国のみならずどこの国でも、法令に基づいて森林をしっかり管理した状況におくことの難しさは、森林が行政支配の根拠である都会から離れた場所に広範に所在していることによるものである。これを、森林林業関係者と連携するだけでなく、都市住民も含めた多くの人たちの協力なくしては達成できない業務であることを認識すべきである。その意味で、各国が違法伐採問題で培ってきた、環境的・社会的調達の購買力を力として、世界中の森林のガバナンスの程度を引き上げていく課題に挑戦すべきだろう。
  「国民と森林」誌は、森林政策を政府の森林当局と別の視点から取り上げ、真剣な議論を提起してきた功績は評価するが、残念ながら、森林経営経済のアカデミ−関係者、国・都道府県・森林地域の市町村担当者、一部の市民など狭い、「森林林業関係者」の範囲をでていないのではないだろうか。
  森林政策の議論の広がりに関しては、都市における高層建築の木材利用、都市住民への森林環境税の課税など、全く違った局面が生じている。クリーンウッド法のもっている力にも期待をしたい。

2018年5月

持続可能な森林フォーラム代表
ウッドマイルズフォーラム理事長
林業経済研究所フェロー研究員
藤原敬 


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