ニュースレター No.188 2015年4月25日発行 (発行部数:1240部)

このレターは、「持続可能な森林経営のための勉強部屋」というHPの改訂にそっておおむね月に一回作成しています。

情報提供して いただいた方、配信の希望を寄せられた方、読んでいただきたいとこちら考えて いる方に配信しています。御意見をいただければ幸いです。 

                         一般社団法人 持続可能森林なフォーラム 藤原

目次
1 フロントページ:違法伐採問題に対する取り組みの意義と課題ー日本を含むすべての森林の森林管理のガバナンスにも関連して(2015/4/25)
2. 木材の環境情報の伝達と木材輸送距離(2015/4/25)
3 一般社団法人 持続可能な森林フォーラム 入会案内(2015/4/25)

フロントページ:違法伐採問題に対する取組の意義と課題―日本を含むすべての森林の森林管理のガバナンスにも関連して―(2015/4/25)

月刊森林技術3月号に標記小論が掲載されました。

全木連で2006年から9年間にわたってつきあってきた(?)、違法伐採問題にかかる木材製品の合法性証明のガイドラインに関する思いを、日本の森林技術者の共有するメディアである森林技術誌に掲載させて頂いたものです。

ガイドライン等に基づく日本の取り組みは、輸入材の管理を通じて熱帯林の減少の原因の一つとなっている途上国の違法伐採問題の対処に貢献する枠組みとして提案・構築され、欧州・米国等でもその延長線上での新たな施策がはじまっていますが、日本の枠組みは途上国問題にとどまらない、(欧州や北米を含む)先進国でも共通する「持続可能な森林管理のための森林ガバナンスの強化」というより大きな課題に対して、行政当局が市民・消費者・市場ともに挑戦するツールとして、グローバルなスタンダードの可能性をもっている、というメッセージ(思い込み)です。

編集部のご了解を得て全文を掲載します。(→こちらからpdfファイル

概要は以下の通りです。

(はじめに)
 日本政府が国際的な違法伐採問題に対処するため,2006(平成18)年に,調達する木材製品や建築部材に合法性が証明されたものを優先調達することを決め,その証明のために,林野庁が「木材・木材製品の合法性,持続可能性の証明のためのガイドライン」を発表してから来年の2月で10 年となる。違法伐採に対する対応は米国やEU などでも進展しており,日本の取組との比較をされる機会が多くなっている。このシステムの運営に当初からかかわっていた筆者としては,本稿で,グローバルな視野で現時点での日本のシステムの意義と課題について議論し,10 周年という時点でこの大切なシステムに,あらたな地平が開かれることを期待する。

(4つのサプライチェーン管理システムの比較)
 森林管理の義務と支援を直接対象とした国際約束をめざした国際森林条約の不調を背景に,市場を通じたアプローチが1 つの方向性を示すものとった。
森林認証制度、林野庁のガイドライン、欧州木材規則、米国レイシー法の4つのシステムを緑のサプライチェーン管理の効率性と信頼性という点から比較検討。
日本のガイドラインはその中で,中小企業が中心となったネットワークの信頼性を,「業界団体の社会的責任」においてカバーしようという意味合いをもったものだが、4つのシステムのそれぞれの特質を考えて、組み合わせて展開することが必要。

(我が国の森林管理と林野庁ガイドライン)
過去三回の森林・林業基本計画で違法伐採についての記載を比較すると,現行計画では,「適切な森林施業の確保」という国内森林のガバナンスに関連する文脈で「伐採に係る手続が適正になされた木材の証明等の普及を図り,適切な森林施業の推進に資する」と記載されていることが特徴。
途上国,先進国を含めた「すべての森林」のガバナンス強化は,すべての国の抱える課題だが,林野庁ガイドラインが,行政と業界,市民(消費者)が一体となって森林施業のガバナンス向上に取り組むツールとしての大切な役割をもっていることを提示しているもの。ガイドライン形成期では認識されていなかったこのシステムの普遍性や重要性が執行過程で認識されてきた。

(おわりに)
 ガイドラインが,このような役割を果たしていくためには,実施過程の自主的なモニタリング体制,制度の説明責任を果たすコントロールタワーの形成などのステップアップが必要。また,そのためには,住宅政策などと協同した市場からの応援体制の確立が不可欠。10 周年という時期がこれらの課題に取り組む絶好の機会であり,日本が生み出したこの大切なツールがもう一段階成長し,グローバルな社会に広がっていくことを期待。

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木材の環境情報の伝達と木材輸送距離(2015/4/25)

3月下旬札幌市北海道大学において2015年日本森林学会の大会がありました。年度末に開催されるこの学会大会は、年度末にどっと宿題が発生する団体のマネジメントなどをやっていると出席しにくいのですが、5年ぶりで出席し、一本報告をしてきました。

報告のタイトルは、標記、木材の環境情報の伝達と木材輸送距離

ウッドマイルズ研究会からウッドマイルズフォーラムへと、木材の輸送距離に関する環境指標を提起しててきたウッドマイルズ運動に関連し、学術的な蓄積を整理し次の一歩がどのような方向になるのか明らかにしようという意図をもって取り組んだ課題でした。これからの宿題ばかり明らかになり、しっかり整理されたものとするには、少し時間がかかりそうですが、とりあえず報告内容を紹介します。

(ウッドマイルズに関する先行研究)
先行研究の概要は、フォーラムの研究ノートというコーナーにフォローされています。個人的な情報収集から始まったこの分野の「研究活動」ですが、この間、科研費(立花敏他、ウッド・マイレージに基づく木材貿易に関する環境負荷の定量化(平成17年度ー平成19年度)はじめ、森林総研の大きなプロジェクト(「森林及び林業分野における温暖化緩和技術の開発」など)の一部を担当するなど、研究分野でウッドマイルズというキーワードは一定の広がりと蓄積を加えてきました。既存のデータを利用したウッドマイルズの分析の不十分さなど厳しい指摘もされながら、環境指標のみならず、産業構造の変化を知るツールとして利用例が蓄積されました。

(我が国のウッドマイルズ指標の変化)
近年のデータに基づいて、日本の木材消費のウッドマイルズ関連指数を示したのが以下の表です。一般の消費者が利用する木材の輸送距離は国産材、輸入材個別に評価すると遠隔化しているが、国産材の比率が増えるに応じて平均の輸送距離は短くなっています。

2002年

2012年

距離

排出量

距離

排出量

日本の

消費者が使う木材の輸送過程

7173

km

152

kg/m3

7114

km

149

kg/m3

うち国産材

366

km

79

kg/m3

384

km

79

kg/m3

うち輸入材

10371

km

186

kg/m3

12286

km

203

kg/m3

(ウッドマイルズの国際比較)
国連食糧農業機関FAOが毎年公表している林産物貿易の交流表DERECTION OF TRADEの、公表している最新版2012年版林産物年報(The forest products year book2012)に基づいて、各国の消費する木材の輸送距離を明らかにしてみました。とりあえずの結果は下表のとおり。

2012年

日本の

消費者が使う木材の輸送距離

7114

km

米国の

消費者が使う木材の輸送距離

969

km

中国の

消費者が使う木材の輸送距離

3426

km

ドイツの

消費者が使う木材の輸送距離

536

km

(定量型ラベリングの展開とウッドマイルズ)

ウッドマイルズが木材の輸送過程の環境負荷をテーマとしましたが、その後カーボンフットプリントなど、ライフサイクル全体での環境負荷を定量化して表示する動きが広まってきました。

木材製品でもいくつかの企業が自社の製品の評価をして、公開しましたが、現在現在その内容が公式サイトに公表されているのは、北海道のM産業です。

これらのデータとウッドマイルズの評価を比較して、ウッドマイルズが全体の負荷の中でどの程度の大きさのものか、評価してみました。

カーボンフットプリント全体の4割程度が原料と、製品の輸送過程での排出量だという結果です。

カーボンフットプリントの積算内容などを精査した結果ではありませんが、木材製品という製品の特性から輸送過程の温暖化ガス排出量が多くなるのは、予想された結果です。

(今後の課題)
今回の報告は、裏付けのデータなどが不十分で学術論文として世に出すには少し時間をかかりそうですが、環境物品を消費者に届ける様々な取組みの中で、ウッドマイルズの役割の重要性を再確認した過程でした。

報告の発表資料をここ資料室に置きます

A30 木材の環境情報の伝達と木材輸送距離
藤原敬1,2
1一般社団法人ウッドマイルズフォーラム・2林業経済研究所

来るべき循環社会の中で再生産可能な木材は重要な役割を果たす可能性をもっており、それに至る過程で、木材の環境負荷と貢献に関する情報を市民社会・最終消費者とサプライチェーン等を通じて共有することが課題である。
木材の環境情報は、1)生産地における森林持続可能性に関するもの、2)供給過程における生産・輸送にかかる外部への環境負荷の程度に関するものがある。
前者については、森林認証制度のサプライチェーン管理、合法性証明のガイドラインなどが提唱され、後者はカーボンフットプリントなどが提唱さてきた。木材の輸送距離を環境負荷の説明変数として利用するウッドマイルズ運動は上記2)のライフサイクル全体の情報のごく一部を対象としたものとしての制約はあるが、他方で1)の情報の信頼性トレーサビリティの効率性にかかわる情報でもあり、重要な役割をもつものと考えられる。木材の需給を巡っては、市場のグローバル化に対して、自給率向上・地域材住宅ブランド化など政策面でのローカル化を推進する動きなどがある。
これらのふまえた日本の消費木材の輸送距離の推移を推計し、環境評価と政策評価の手法としてのウッドマイルズの可能性を検討する。

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一般社団法人 持続可能な森林フォーラム入会案内(2015/4/25)

「持続可能な森林経営のための勉強部屋」は1999年以来藤原の個人的な作業で運営管理してきましたが、このたび(2014年11月)「一般社団法人持続可能な森林フォーラム」という団体ができて、このサイトをサポートすることとしました。

『地球環境の視点から、日本の森林と木材を考える』産官学民の情報交流の広場をめざします。」がトップページ冒頭のキャッチフレーズです。

また、少しお休みしていますが英語のページのトップページは"Global Aspects of Japan's Forests and Views from Japan on Global Forests"(地球から見た日本の森林、日本から見た地球の森林)というキャッチフレーズになっています。

   キャッチフレーズ  趣旨  このサイトしかない
貴重な情報(一例です)
日本語版 『地球環境の視点から、日本の森林と木材を考える』産官学民の情報交流の広場をめざします  地球環境の視点で議論が進んでいる森林の取り扱いについてのコンセンサスを、日本の関係者に紹介する   国連気候サミットの「森林に関するニューヨーク宣言」フルテキスト日本語訳(2014/9)
英語版  Global Aspects of Japan's Forests and Views from Japan on Global Forests  日本の林業政策が達成した成果などを海外の方に紹介する 公共建築物等木材利用促進法フルテキスト英語訳(2012/5)

この二つのことをコツコツとやっていこうと思っています。

今までのニュースレターの配布は引き続き続けますが、海外への情報発信力・情報収集力などを強化するため、さらに会費制の一般会員と賛助会員の制度を設けました。

入会のご検討はこちらから

今後ともよろしくお願いします

konosaito2-2(aboutforum)


最後までお読みいただきありがとうございました。

藤原敬 fujiwara@t.nifty.jp

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