ニュースレター No.056 2004年4月20日発行 (発行部数:1010部)

 

このレターは、「持続可能な森林経営のための勉強部屋」というHPの改訂にそっておおむね月に一回作成しています。

情報提供して いただいた方、配信の希望を寄せられた方、読んでいただきたいとこちら考えて いる方に配信しています。御意見をいただければ幸いです。 
                                                    藤原

目次
1.
フロントページ:エコマークと木材(2004/4/20)
2 日本林学会大会森林認証シンポジウム(2004/4/20)
3.

霞ヶ関を走るウッドマイルズ(2004/4/20)

4. 日本林学会の中にウッドマイルズ(2004/4/20)

フロントページ:エコマークと木材(2004/4/20)


我が国の緑の消費運動を担ってきたエコマーク
日本環境協会)の木製品についての基準の改訂作業にが行われていて、パブリックコメントが求められています。(こちらから→環境協会HP2004/3認定基準の動き

「元々エコマテリアルである木製品について、その一部を環境に優しいといって認定すること自体がおかしいことである」という議論もありますが、森林林業関係者が環境にこだわりを持つ消費者とコミュニケーションする機会ですので、積極的にパブリックコメントに応じて意見を言うべきだ、というのが私の考えです。

5年前の1999年に作成された現在運用中の「廃木材・間伐材・小径材などを使用した木製品」(エコマーク商品類型No.115pdfファイル)と今回の基準案「間伐材、再・未利用木材などを使用した製品」(pdfファイル)の関係を図にまとめてみました。

廃木材・建築解体材・リサイクル材と林地残材、小径木(末口径14cm未満)の間伐材に限られていた基準を
ア)間伐材は中大径木まで広げたことE、
イ)間伐材以外は認証材の小径材という二つの縛りをかけて広げたことB、
など、認証基準を緩和したということのようです。

今回公開された文書は、認定基準そのものも重要ですが、審議の過程、関連する技術的な記述内容など大変興味深いものです。ご一読を勧めます。

また、エコマーク事務局色々問い合わせましたが、懇切丁寧な説明をしてくれました。事務局提供の資料を掲載します(pdfファイル→主要な見直し箇所の概要比較表

(エコマテリアルとしての木材)

基本的な視点として、木材関係者としては、「エコマテリアルの木材がなぜ@ACなど全てエコマークにならないか」という、点に立ち返ってエコマークの仕組みをみてみるという作業が必要があると思います。

この点についてエコマーク事務局色々問い合わ議論をしてみました。

結局は、グリーン購入法の時の議論と同じなのですが、原則として、エコマークの認定基準については、「同様の機能特性を持つ製品の中で、商品のライフサイクルを通じての負荷が相対的に少ないレベル」を目標として策定することとなっていて、基本的に「木とプラスチック」「木と金属」など材料間での比較を行うようにはなっていない、というのが現状のようです。

事務局の立場に立つと、「際限のない産業間の争いに巻き込まれたくない」ということなのでしょうが、その辺に木材業界が立ち向かって行くには「材料間での比較を行った確固たるLCAデータ」の整備がもっと必要なのかもしれません。

とはいえ、この点を基調としたしっかりとしたパブリックコメントがなされて、どんなことが今後の論点になるのか「類型基準制定委員会」の公式な見解を明らかにしてもらうことが将来のためにも重要かと思います。

(認証材の定義)

今回の基準案で重要なのは、「認証材」という概念が基準の中に取り入れられてことです。

今回の基準の中の認証材についての以下の記述は、よく検討された内容で、今後のこの種の「認証を評価する基準」として重要なテキストになると思います。

※別表1用語の定義に規定する森林認証について

認証の基準について

・経済的、生態学的かつ社会的利益のバランスを保ち、リオ宣言の森林原則、アジェンダ21、森林原則声明および関連する国際協定や条約を遵守したものであること。

・確実な要求事項を含み、持続可能な森林にむけて促進し方向付けられているものであること。

・全国的あるいは国際的に認知されたものであり、また生態学的、経済的かつ社会的な利害関係者が参加可能な開かれたプロセスの一部として推奨されていること。

認証システムについて

・認証システムは、透明性が高く、幅広く全国的あるいは国際的な信頼性を保ち、要求事項を検証することが可能であること。

認証組織・団体について

・公平で信頼性が高いものであること。要求事項が満たされていることを検証することが可能で、その結果について伝え、要求事項の実行を支援するものであること。


いくつかの認証制度のうちどこまでをこの基準のカバーする範囲とするかは一つのポイントになります。「全国的・国際的に認知」というキーワードになっていますが、地域基準や我が国以外の一国基準など様々な認証制度ができてくる可能性があり、どこかで、上記の定性的な記述にてらして判断するプロセスが必要になると思います。

そういう仕組みさえあれば全国的に認知されたものである必要はないかもしれません。

(ウッドマイルズ)

今回の基準案を、最初に知ったのは、エコマーク事務局から、公開されている認定基準案の策定作業の中でウッドマイルズについて議論があり、その経緯が公開文書の中に記載されているということを、教えていただいたということがきっかけです。

基準案の解説という懇切丁寧な資料が公開されており、審議の過程が詳しく記述されています。その中に以下の記載があります。

 ◇C−2 2(地球温暖化影響物質の排出)
本項目では以下の点が検討された。

(1)資材配送に伴うエネルギ消費によるCO2発生量

(1)について、流通経路を短くすること、廃木材などの再利用資源あるいは林地における未利用資源が発生する地域に密着した地域完結型の再利用を図ることが望ましいことなどが議論された。

さらには、わが国における木材消費量の約8割は輸入木材に依存しており、木材の輸送距離と木材の量を乗じたウッドマイルズ(木材の輸送距離×木材の量:km・m3)は木材輸入量トップのアメリカの4倍であることなどがあげられた。

このような現状から、流通経路を短くすることが、流通段階におけるエネルギー消費を削減できる方法であり、輸送経路の距離を基準とすることが議論された。

しかしながら、貿易阻害をきたすような基準を策定することは困難なため、基準項目としては選定されなかった。

なお、日本繊維板工業会においては、国内に限るが、長距離輸送を少なくする努力が行われている。

基準の中にウッドマイルズが入らなかったのは残念なことですが、環境にこだわる消費基準の議論の中に、ウッドマイルズという観点が一つのトピックとして普通に入ってくるようになったということは、心強いことです。

また、認定基準作成時の議論の公開の程度など、大変丁寧なエコマーク事務局の対応は参考になりました。


日本林学会大会森林認証シンポジウム(2004/4/20)

3月31日から4月4日にかけて東京大学本郷キャンパスで行われた第115回日本林学会大会で、森林認証制度と我が国の森林・林業の将来」と題する公開シンポジウムが開催されました。

FSCの森林認証が急ピッチで拡大し、SGECという日本版の認証も立ち上がり森林認証が始まるという環境の中で、林学会という幅広い森林科学の関係者の共通の関心事項としてタイミングのよいテーマ設定であったこともあり、200人ほどの観客を集める活発なシンポジウムとなりました。

氏名 所属 演題 資料
白石則彦 東京大学助教授 コメンテーター
速水亨 速水林業代表 認証が林業経営に与える影響」FSC pdf
藤原敬 森林総合研究所理事 地域材利用の推進と森林認証制度 pdf
小澤普照 財団法人林政総合調査研究所
理事長
向社会性及び国際的視点に立った
森林経営の方向
pdf

講演要旨はこちらpdf

小生も話をさせていただく機会がありました。
骨子は次の通りです

1.「循環社会の主役としての木材」に対する環境消費者の見方(森林認証の意義)
2.世界の森林認証の動向と我が国の影響(時間の関係で省略)
3.我が国の消費者の環境意識の高まり
4.地方行政の役割ー地域材認証と森林認証の狭間

1では、FSCとSGECのどちらがどうか、という議論にはまりこまないように、エコマテリアルとしての木材を環境消費者に売り込むための仕掛けとして、消費者に信頼される認証制度が普通の森林にどんどん普及することがどうても必要である、という持論を力説しました。(場外で、勝った負けたの話が広がっているのは残念の極みです)

環境消費者が、緑の建築基準やエコマークという形でどんどん認証木材の議論に参画し始めているので、特に学会関係者はそれを受け手たたなければならない、といった話をさせてもらいました。


霞ヶ関を走るウッドマイルズ(2004/4/20)

ウッドマイルズ研究会の総会が、4月の下旬と迫っていますが、研究会ができてもうすぐ1年となります。

おかげさまでいろんな分野でウッドマイルズのことが話題になるようになりました。

中央官庁での話題を二つ紹介します。

(森林林業白書)

森林林業基本法に基づき年に一回閣議決定される公式文書である森林林業白書平成15年版がちょうど4月20日公開されました。

その中にウッドマイレージということばが初めて載りました。

【コラム】 ウッド・マイレージ
 英国の消費者運動家であるティム・ラングは、食料の生産地から食卓までの距離に着目し、食卓がどのくらいの食料輸送にたよっているのかを表した「フード・マイルズ」という考え方を打ち出した。これによって、できる限り地域内で生産した農作物を消費し、環境への負荷を小さくするべきであるという運動が欧州で広がりつつある。この考え方を基に、食料輸入量に我が国までの輸送距離を乗じた「フード・マイレージ」という指標が試算されている。
 「フード・マイレージ」と同様の考え方で、木材の輸入量に輸送距離を乗じて求めた「ウッド・マイレージ」が試算されている。それによると、我が国は米国の4倍、ドイツの20倍のウッド・マイレージがかかっている(藤原敬「木材情報 2002.8」)。


この白書が公式文書にウッドマイルズが登場する最初かと思っていましたが、もう一つの話題です。

環境省中央環境審議会地球環境部会)

4月7日に開催された環境審議会地球環境部会のヒアリング(第17回会合)の席上で、浅岡 美恵気候ネットワーク代表(弁護士)委員から、「国産材振興のために創意的な取り組みが必要である。京都ではウッドマイレージという取り組みをしているが、そういう動きを林野庁はフォローしているか?」という趣旨の発言があった旨、出席していた林野庁の方から聞きました。議事録が公表され次第、掲載します。

地球環境部会名簿
議事要旨・議事録(17回会合については4月20日時点議事録がのっていません)

こういった中央政府部内の動きがどの程度影響力があるのか、一昔前との違いはあるかもしれませんが、ウッドマイルズの普及がそういう段階まで進んできたという、メルクマールにはなると思います。


日本林学会の中にウッドマイルズ(2004/4/20)

4月上旬に東京大学本郷キャンパスで行われた日本林学会の大会発表で、「統計書を用いた『ウッドマイレージ』の試算とその動向」と題する報告が行われました。フードマイルズについては学会レベルでの報告が、昨年の環境経済政策学会の大会などで行われていますが、ウッドマイルズについては初めての報告です。

報告者は森林総研の嶋瀬拓也、同立花敏、同野田英志の三名です。

ご本人の承諾をえて、概要を掲載します。(→pdfファイルこちら

ウッドマイルズ研究会が、主として個別の建築物の環境負荷の評価手法の開発というミクロな形での展開となっているのに対し、今回の報告は日本全国の木材流通を踏まえたウッドマイレージの状況がどうなっているか、マクロな分析の可能性を検討しています。

そして、環境負荷のみならず、木材流通の分析ツールとしてのウッドマイルズの可能性についても着目しています。

最後までお読みいただきありがとうございました。

藤原敬 fujiwara@t.nifty.jp