IPCC低排出シナリオと森林資源(2008/4/12)

9電力会社によって設立されている電力中央研究所社会経済研究所は「温暖化政策の分析と提言」を重点プロジェクト課題とし、温暖化防止政策ホームページでその成果を公表していますが、このたび、杉山他、「IPCCの低排出シナリオは可能か」という興味深い論文が公表されました。(要約および全文はこちら

日本政府のクールアース50やCOP13バリ行動計画に大きな影響を与えた、IPCC 第四次評価報告書の低排出シナリオ(カテゴリーI)について、その由来や、具体的な意味を解説したものです。

国際的なコンセンサスに大きな影響を与えている、「低排出シナリオ」が森林政策にどれだけのインパクトを与える可能性があるかという点で注目すべき論点を含んでいると思います。

その一節を以下に引用します

●バイオマス供給量が年間200EJ とはどのようなイメージか?

バイオマス供給量が年間200EJ という量は、技術的なポテンシャルとしては可能性はある。ただ現実的には、その達成には、食料などとの土地利用の競合や、森林の保全などの環境問題など、さまざまな困難が付きまとう。バイオマスの供給ポテンシャルに関する代表的な17 研究をサーベイしたBerndes.et.al(2003)によれば、供給量は2050 年までに100EJ 以下から400EJ まで大きな幅があり、その差は土地利用とパーム油などエネルギー作物の生産性の想定に依拠する。ここでは、とくに、必要な土地面積を勘定することで、問題の規模を提示したい。

2005 年の世界全体の一次エネルギー供給量は479EJ で、これに比して、200EJ とは、その4 割に相当する。以下、もっともバイオマス生産性の高いパーム油の収量が大幅に向上した場合を想定する。200EJ の一次エネルギーに必要な土地面積を求めると、パーム油の生産性が現在の3.7t/ha から2050 年に10t/ha (365GJ/ha)へ収量向上すると想定して*)、200EJ 生産に必要な土地面積は200EJ / 365GJ=550Mha となる。この550Mha とは、地球の熱帯雨林面積の1/3 に相当する規模である(全地表面積13.2Gha のうち、森林は4Gha、このうち熱帯雨林面積は1.7Gha である。その内訳は、中央アメリカに約0.9Gha、アフリカ大陸の中央部に約0.5Gha、アジアのインドシナ半島などに約0.3Gha)。これだけの土地を、エネルギー生産に利用することに伴ってクリアせねばならない問題は多々あるだろう。

「IPCCの低排出シナリオは可能か」


この点で忘れることができないのは、IPCC第二次報告書を元に作成された下図のシナリオです。

世界中の一次エネルギー消費の中でバイオマスの依存度のイメージを強力に印象づけるものですが、このバイオマスエネルギーをだれがどのように供給するのか、だれも責任をもった回答を用意していないようなので心配なところでした。

現在バイオマスブームといわれるような風潮です。廃棄される食糧の利用、林地に残された木質資材の収集と利用など、それは大変大切な取組ですが、他方で、バイオマス利用に期待されているのは、そのような初期の助走期間を早く終了しマクロなエネルギー需給の中での森林像を構築すことの重要性が突きつけられているといえます。

消費低排出シナリオあるいはそれに近いシナリオを達成することが人類にとっての重要な課題だとすると、森林のバイオマス生産力を、どれだけ、どのような手段で高めていくのか、ということが問われています。

その際「生物多様性」という価値との折り合いをどのようにつけていくのか、どのような主体が担うのか、各国の森林関係者が取り組まなければならない持続可能な森林の重要な課題だと思います。

ちなみに、上記の図は先般日本エネルギー学会で集会の時に、世界の森林の生産力を現在の1fあたり0.67立方メートル(これすら違法伐採を含む不透明な生産量を含むものですが)、これをフィンランド並みの2.86立方メートルとし、増加分を全てエネルギーに回した時の森林からのエネルギー供給量のイメージです。

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