森林を畑にしてバイオマスを地中化するBECCSの功罪ーNature Communication掲載論文(2018/8/18)

Nature誌の電子版、Natuer ComunicationsLand-use emissions play a critical role in land-based mitigation for Paris climate targets(土地利用変化による排出は、パリの気候目標に向けた陸域での緩和に立ちはだかる要素である)と題する論文が掲載されました。(読者の方から教えていただきました、ありがとうございます!)

気候変動の長期的緩和策については、IPCC第5次報告書(AR5)で土地利用を含めたさまざまなシナリオが検討され、炭素を地中に埋めて除去するCCSと、バイオマスエネルギーの利用をあわせたBECCSが重要な役割を果たすと指摘していますが、「土地からのGHGの排出、食料安全保障、水資源、生物多様性の保全及び生計などについての懸念」と指摘されています。(環境省 IPCC第5次評価評価報告書の概要ー第3作業部会(気候変動緩和)、BECCSはバイオエネルギー調達リスクも存在より

第五次IPCC報告書温暖化緩和策としての森林管理の効率性(2014/11/22)
IPCC第5次評価第三部会報告書と森林
(2014/4/29)

 
 環境省同上より

AR5ではBECCSについて「特定のバイオエネルギー経路が引き起こす土地利用の競合に関係した気候への総体的影響についての科学的議論は未解決のままである」とされており、森林を含む土地利用の議論の今後に期待が込められていました。

パリ協定では、「温度上昇を2度より充分低く保ち、1.5度に抑える努力をする」という目標が掲げられましたが、今回のNature Comunications論文では、1.5度という野心的な目標を達成するには植林/再植林と森林伐採回避にくらべて二酸化炭素が素早く除去される方法であるBECCSに脚光があたるので、AR5が指摘している、「科学的議論が未解決の課題」を取り扱ったもの(のよう)です。

気候変動緩和問題の議論が次のステップに進んだときに、森林とバイオエネルギー畑作物との競合問題などの議論が深化していく可能性があり、その議論のために大切な論文のような気がします。

とりあえず、要旨部分を訳しておきました。

(Title)
Land-use emissions play a critical role in land-based mitigation for Paris climate targets
(Abstract)
Scenarios that limit global warming to below 2℃ by 2100 assume significant land-use change to support large-scale carbon dioxide (CO2) removal from the atmosphere by afforestation/reforestation, avoided deforestation, and Biomass Energy with Carbon Capture and Storage (BECCS). The more ambitious mitigation scenarios require even greater land area for mitigation and/or earlier adoption of CO2 removal strategies. Here we show that additional land-use change to meet a 1.5℃ climate change target could result in net losses of carbon from the land. The effectiveness of BECCS strongly depends on several assumptions related to the choice of biomass, the fate of initial above ground biomass, and the fossil-fuel emissions offset in the energy system. Depending on these factors, carbon removed from the atmosphere through BECCS could easily be offset by losses due to land-use change. If BECCS involves replacing high-carbon content ecosystems with crops, then forest-based mitigation could be more efficient for atmospheric CO2 removal than BECCS 
(タイトル)
土地利用変化による排出は、パリの気候目標に向けた陸域での緩和に立ちはだかる要素である
(要旨)
地球温暖化を2100年までに2℃以下に制限するシナリオでは、植林/再植林による大規模な二酸化炭素(CO2)の除去、森林伐採の回避、および炭素捕獲と貯蔵によるバイオマスエネルギー(BECCS )が想定されている。より野心的な緩和シナリオでは、緩和および/またはCO2除去戦略の早期採択のために、より大きな土地面積が必要とされる。

この論文では、1.5℃の気候変動目標を達成するための追加的な土地利用の変化が、土地からの炭素の純損失をもたらす可能性があることを示している。 BECCSの有効性は、エネルギー作物の選択、土地利用変化前の植生の行方、および新しいエネルギーシステムによる化石燃料の代替に関連するいくつかの仮定に強く依存する。これらの要因によって、BECCSを通じて大気から除去された炭素は、土地利用の変化による損失によって簡単に相殺される可能性がある。 BECCSが高炭素含有生態系を作物に置き換えることを伴う場合、森林ベースの緩和はBECCSよりも大気中のCO2除去にとってより効率的である可能性がある 

以下に筆頭執筆者による解説記事が掲載されています
 Why BECCS might not produce ‘negative’ emissions after all
なぜ、BECCS(エネルギー作物による緩和措置)は排出量を増やしてしまう可能性があるのか?

以上です

本ページの作成にあたり、論文の紹介に始まり、背景説明や訳文内容にわたり、日本大学生物資源科学部水谷広教授にアドバイスを頂きました。心からお礼申し上げます。

kokusai2-60i(BECCS)

■いいねボタン