次世代の森林の行方・カーボンニュートラルは?ー新森林林業基本計画を読む<続き>(2021/7/15)
新なた森林・林業基本計画を読む
 課題1 令和の国産材時代の次の世代の山づくりは大丈夫?
ー森林のガバナンスはユーザーと連携で
 課題2 カーボンニュートラルにむけて森林と木材の政策が具体化しいますか?
ー特に木材利用とCNの関係は大切
 課題3 前計画の「林業成長産業化」と、グリーン成長・新しい林業の関係は?

新たな森林・林業基本計画(以下「新計画」といいます)は6月15日に閣議決定しました。

林野庁の関係サイト森林・林業基本計画(令和3年6月15日 閣議決定)及び農林水産大臣談話その他関係資料が掲載されています。

勉強部屋でもパブコメ版に意見を提出するなど、関心をもってフォローしてきましたが、何人の方からコメントを求められたの、パブコメに沿って、上記3つの課題にそって、標記の説明資料を作成してみました。

次世代の森林の行方・ カーボンニュートラルは? 新たな「森林・林業基本計画」を読む

パブコメ全体についての考え方については、6月4日付林政審の提出資料として林野庁のページに掲載されています。資料1 「森林・林業基本計画(案)」及び「全国森林計画(変更案)」に対する意見の概要

概要を説明します

((新計画の概要))

林野庁のリーフレットにもとづいて全体像を確認します。

図の左側

森林・林業 基本計画 とは?
どうやって 計画を変更 したのか?

それはそうとして、今回にポイントは、右側の「誰のための計画?」ですね。

森林の恵みを受ける全ての国民の皆様に関係します。例えば…「生活者」、「林業木材産業関係者」、「地方の行政機関」。(右の図)

新計画の「第1 森林及び林業に関する施策についての基本的な方針」という中に、「4 森林・林業・木材産業関係者に特に必要とされる視点」という新なたセッションができました。

短いので全文引用しますね。

「施策の推進に当たっては、全ての国民が適切な役割分担の下、相互の連携を図りつつ、一体となって努力することが求められる。このため、国や地方公共団体においては、現場での具体的な取組が進むよう、施策の充実と効果的な展開に努めていく。
森林・林業・木材産業関係者においては、自らの短期的な利益のみを追求するのではなく、国土と自然環境の根幹である森林の適正な管理、森林資源の持続的な利用を確保すべく、効率的なサプライチェーンを構築して相互利益を拡大しつつ、再造林につなげるとの視点を共有し努力していくことを期待する。」

後述の「森林ガバナンス」とも関係する重要な記述ですね。

それから、もう一つ上の図に関連してパブコメで指摘したのは、生活者に山の情報をつたいえる重要な人が、建築関係者です。地域の山の木で地域の住宅を建てる人たち!

後述します

(これからの施策の方向と5つのポイント)

左の図はリーフレットの下半分、これからの施策の方向と5つのポイント。①森林資源の適正な管理・利用、②「新しい林業」に向けた取組の展開、③木材産業の競争⼒の強化、④都市等における「第2の森林」 づくり、⑤新たな山村価値の創造

(新計画、第1 森林及び林業に関する施策についての基本的な方針2 森林及び林業をめぐる情勢変化等を踏まえた対応方向、の記述内容)

パブコメの課題がどこの記述と関係あるか、加筆してみました。

それでは、課題順に説明します。

((課題1令和の国産材時代の次の世代の山づくりは大丈夫?ー森林のガバナンスはユーザーと連携で))

パブコメ↓

 2 次世代に向けた山づくりのリスクへの対応、再造林に関するガバナンス

今計画案では、国産材利用が進んだ後の山づくりのリスクについて、認識を示しています。その対応が大切です。最も重要なテーマだと思います。

☆意見2-1 線引きの重要性

現行の育成単層林を条件に応じて、次期も育成単層林にするのか、複層林にしていくのか、線引きをすべきとの考えですが、その通りだと思います。
そこで、線引きの基準や見通しについてしっかり対応すべきだと考えますが、具体的なガイドラインが示されるべきと思います。
今の計画の数値だと660万ヘクタールは育成単層林にすると読めますが、現場の実態を確り反映していますか?私の知る限りもう少し少ないのでないかと思います。
立木価格で再造林費をまかなえる地域を線引きすると読めますが(3ページなど)、それで660万ヘクタールをカバーするということでしょうか?
この辺があいまいだと、実施過程で、問題が出てくると思います
木材関係者などの参画によって具体的な取組をすすめるとありますが(15ページ1(1)ア)
エンドユーザに近い建築関係者視野に入れて下さい。建築関係者は森林のガバナンスに心配している方が多いです。

☆意見2-2 消費者と連携したガバナンスの確立

15ページ「イ適切な伐採と更新の確保」についても、川下の情報提供のシステムの関しても、是非建築関係者を入れて下さい。リスクだけでなく管理された大切な素材だと言うことを含めて、川下に訴求していくシステムを作っていただきたいと思います。

(山づくりのリスクへの現状の認識)

左の図が、新計画の山づくりへのリスク認識部分。

主伐面積(間伐でなく皆伐)に対して、再造林が3割。造林未済地が1.1万ha。

造林地(育成単層林)のどれほどが再造林適地と考えているかというと、将来の「指向する状態」の育成単層林が660万haなんで、現状の人工林の6割が次に人工林(育成単層林)にする方向。

適地の半分が放置されている?!

この状態をなんとかしなければ、という、現状認識と問題意識が新計画でも明確にされています。

「令和の国産材時代に次の世代の森林造成はうまくいくのか?」50年後の人たちが、この時代をどのようにみるのか、大きな問題が提起されています。

(次世代の人工林はどこに?線引きの大切さ)

50年前に植栽され造成された1010万ヘクタールの人工林。次の世代はどうするのか?

山のてっぺんのこんな所まで植林することはやめておいた方がよい、とか、こんな遠い不便なところまで植林することはできない(自立した林業はできない)といった、次世代に人工林にすべきでないところがあることは間違えありません。

全部に植林するのでないとしたら、山づくりが確りできるかどうかは、その線引きをしっかりして、みんながその方向に持って行くように努力しないと、はげ山が増えて言ってしまうリスクがありますね。

それが線引きの話です。右の図にあるように、新計画では「地域ごとに目標とする主伐量や造林量、発揮が期待される機能に応じたゾーニング等を定める」!と記載されています。

それをどんな形でやっていうのか、市町村の森林整備計画過程などの作業になるので、重要なポイントだと思います。パブコメでその点を指摘したら、答は「第3-1-(3)イの記述のとおり、再造林の実効性を高めていくため、造林適地を抽出する技術の高度化に取り組むとともに、市町村森林整備計画において、「木材等生産機能維持増進森林」として適切にゾーニングできるよう、これらの技術の普及を図ることとしています。」でした。

具体的に成果があがることを期待します。

(消費者と連携したガバナンス)

関連してして意見をいったのが、上記☆意見2-2、伐採後の再造林を管理するには、「木材関係者などの参画によって具体的な取組をすすめるとありますが(15ページ1(1)ア)エンドユーザに近い建築関係者視野に入れて下さい。建築関係者は森林のガバナンスに心配している方が多いです」という部分です。

それに対する答は「第3-1-(1)アに記述の森林・林業・木材産業関係者の参画を得ながら取組を進めることについては、地域の実情等に応じ、建築関係者の参画も想定されます。」でした。

本文のなかに、建築関係者ということばははいりませんでしたが、「木材産業関係者」には建築関係もはいる、という考えですね。

消費者・国民とともに山づくりをしていくときに、消費者と山側をつなぐ建築関係者が大切。是非具体的な事例を積み重ねていきましょう。

(( (課題2)カーボンニュートラルにむけて森林と木材の政策が具体化していますか?ー特に木材利用とCNの関係は大切))

★3 カーボンニュートラルの実現への貢献

20ページの「製造時のエネルギー消費の比較的少ない木材利用、化石燃料の代替となる木質バイオマスのエネルギー利用、化石資源由来の製品の代替となる木質系新素材の開発・普及、加工流通などにおける低炭素化等を通じて、二酸化炭素の排出削減に貢献していく」は重要な指摘

☆意見3-1 カーボンニュートラルと木材利用の関係

自社のカーボンニュートラルに取り組む企業のビルを木質化する場合、どのように排出量の削減に資するのか、示す必要があるとおもいます。カーボンオフセットを念頭においた木材利用拡大のクレジットの方法論など、検討方向としても是非記載していただきたい、と思います。
この点は、「(3)都市等における木材利用の促進」、「(7)消費者等の理解の醸成」の記述にも関係します。「消費者」というだけでなくビジネスの中での需要拡大を念頭においた表現を検討下さい。

☆意見3-2カーボンニュートラルと木質バイオマスのエネルギー利用

33ページの(5)木質バイオマスの利用に関連して、木質バイオマスのエネルギー利用は、カーボンニュートラルでないという議論が進んでいます(Letter Regarding Use of Forests for BioenergyーHundreds of scientists affirm that trees are more valuable alive than dead--both for climate and for biodiversity.)など。
その関係で、森林資源を保続を担保する観点での取組は大切になっています。
発電用FIT利用について由来を担保するシステム(林野庁:発電利用に供する木質バイオマスの証明のためのガイドライン)ができていますが、そのガイドラインの拡張や、熱利用についても由来を担保するシステムの導入が要なので、その点の指摘をお願いします。また、大量の木質バイオマス原料の輸入がされていますが、輸送中や製造過程の温室効果ガス排出などをガイドラインの基準にくわえることも念頭においた指摘をお願いしたいです。

 

(カーボンニュートラルと木材利用)

左の図は、今後計画が目標とする木材の総需要量と(国産材の)利用量の数値です。

小子高齢化の中で建築用材も含めて需要拡大を見通しています。それだけでも大きなハードルです。

パブコメでは、この点について、カーボンニュートラルの観点から、「カーボンニュートラルに取り組む企業のビルを木質化する場合、どのように排出量の削減に資するのか、カーボンオフセットを念頭においた木材利用拡大のクレジットの方法論など、検討方向としても是非記載していただきたい」としました。

それに対する回答は「第3-3-(7)に記述されている「消費者等」には民間企業等も含まれ、木材を持続的な形で利用する企業等へのESG投資にもつながるよう、木材利用の意義や効果等のエビデンスの発信や設計事業者や建設事業者、施主などのネットワーク化等に取り組むこととしています。」とされました。

確かに木材利用の意義や効果のエビデンスは、炭素の固定、化石資源の代替など、発進されていますが、今後必要になってくる、排出量削減努力をオフセットするための、たとえばJクレジットの方法論などができていないので、是非深めていっていただきたいと思います。

(カーボンニュートラルの木質バイオマスの利用)

燃料材の利用が増える方向はいいとして、パブコメではそのリスクが指摘されているので輸送中や製造過程の温室効果ガス排出などをガイドラインの基準にくわえることも念頭においたFITガイドラインの拡張、②熱利用についても由来を担保する必要を指摘しました。

回答は、「第3-3-(5)の記述のとおり、・・・、「林業・木質バイオマス発電の成長産業化に向けた研究会」の報告書に基づき、適正な伐採がなされた木材の燃料材利用等の取組を推進していく考えです。また、FIT認定に際し、ライフサイクルGHG排出量を考慮することが検討されていると承知しています。 なお、「発電利用に供する木質バイオマスの証明のためのガイドライン」については、木質バイオマスの由来の証明を通じ、FITの調達価格を適正に適用するためのものです。」

つまり、①については研究会で方向性はでているけど、林野庁のFITガイドラインとは別に対処?②については熱利用はFITと関係ないかだめですよ、ということなんでしょうか?ごめんなさい、もう少し確認が必要ですね。

(((課題3)前計画の「林業成長産業化」と、グリーン成長・新しい林業の関係は?))

産業政策として、前計画では、林業成長産業化が、基本的な対応方向を示す一つのキーワードでした。

それに対して、今計画案は成長産業化という言葉は前計画の評価の文脈でしかありません。今計画では、「グリーン成長」ということばが出てきます。また、情勢変化を踏まえた対応方向(3)6ページに「新しい林業」という言葉が登場します。それらの関係がよく分かりません。

そこで、

☆意見1-1 成長産業化と新たな林業に関する説明を

成長産業化ということばが今計画からなくなっていますが、成長産業化がある程度達成されたからですか?成長産業化という言葉が不適切な面を包摂しているという理解なのですか?計画の中で説明が必要だと思います。また新たな林業との関係は説明して下さい。

☆意見1-2 グリーン成長は林業の役割の一部である(一部でしかない)ことを明確に

政府全体の中カーボンニュートラルにむけたグリーン成長戦略が重要な課題になっているで、その関係をしめすことは重要だと思います。が、政府が経産省が中心になって提起しているグリーン成長戦略は、主として温室効果ガスを出し続けてきた産業の方向転換をしめす政策であり、多面的な環境性能と向き合ってきた林業との関係では多面的な機能の中の1つの分野(地球環境保全機能)に関するものです。その辺も含めた整理を是非お願いします。

 

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回答は以下の通りです

「引き続き、林業・木材産業の成長・発展を図ることが重要と考えており、今後の対応方向の中でも、第1-2-(1)の記述のとおり、林業・木材産業の持続性を高めながら成長発展させることで、社会経済生活の向上とカーボンニュートラルに寄与する「グリーン成長」を実現していくこととしています。 また、そうした成長発展を図るためには、生産性や安全性の抜本的な向上が不可欠であり、新技術を取り入れて、伐採から再造林・保育に至る収支のプラス転換を可能とする「新たな林業」に向けた取組を展開する考えです。」

「林業成長産業化」ということばはないが、林業の「成長発展は重要と考えている。」でした。

「農林水産業の成長産業化を我が国の成長に結びつける」農林水産業・地域の活力創造本部(総理大臣が本部長)による「農林水産業・地域の活力創造プラン」(平成25年12月10日)といった動きに中で、自立化を念頭においた、「成長産業化早期実現」と言ったコンセプトが少し変わったみたいです。

経済を念頭においた成長産業化より、さらに、「カーボンニュートラルへの寄与」と幅をひろげた「グリーン成長」という言葉を使う。さらに、そのプロセスで新技術導入を全面に出した、「新しい林業」(スマート林業?)という関係みたいです。

ただ、林業の自立化という大きな目標はかかげ、その中にカーボンニュートラルの話などがどのように絡んでくるか、今後の課題でしょう。

((今後のフォローアップのためにZoomセミナーよろしく)

長くなりましたが、林野庁が今後の方向性の根拠としようとしている、新しい計画、持続可能な森林経営といった社会的環境的リスク(なんではないか)に基づいて指摘した論点について、基本的に同意はするし、その点は計画に織り込んでいますよ、といった返事をもらいました。

当方の不勉強な点もあるかも知れませんが、忘れないように確りフォローしていきたいと思い思います。

その辺の含めて以下のイベント計画通り実施しますので、ご参加下さい。

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第1回持続可能な森林経営のための勉強部屋Zoomセミナー

タイトル:新なた森林・林業基本計画と国内森林政策の課題ー基本計画の作成過程からみえてきたもの

ゲスト:林政審議会土屋俊幸会長

日時:7月24日(土曜日)14時から

5年に一度の大切なイベントなので、少し勉強した結果を皆さんと共有しようと、これを題材としたZOONセミナーを開催することとしました。

ゲストに林政審土屋俊幸会長を迎えて「タイトル:新なた森林・林業基本計画と国内森林政策の課題ー基本計画の作成過程からみえてきたも」!!

以下に案内をしていますのでご関心のある方はぜひぞうぞ。

持続可能な森林経営のための勉強部屋Zoomセミナー第1回御案内(2021/6/15)

kokunai1-23<kihonkeikaku2021_5>

 

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