国有林の木材利用に関する新たな法律を巡る議論(2019/6/15) | |
6月5日の参議院本会議で、改正国有林管理経営法が可決成立しました(自民公明、国民民主等など賛成、立憲民主党、共産党など反対) 昨年の森林管理法につづく森林行政の基本にかかる大きな法案でしたが、このような法案審議過程をみると、いまの森林政策のなにが課題になっているかがよくわかるので、フォローしてみます。 ((法案の中身)) 上の図が、林野庁が法案概要説明の一番最初に掲載される図です。(国有林の管理経営に関する法律等の一部を改正する法律案の概要)(本文、改正理由などは、こちらのページで) 図の上側が民有林の管理経営法で、意欲と能力のある林業経営者に経営管理権を設定するとなっている部分ですが、その事業者に大きな赤い矢印がのびていて、「長期・安定的に国有林材を供給」と説明されています。 今まで国有林で毎年入札により決められてきた立木販売の相手先を、今回の法律で、立木を一定期間(10年程度最高50年)安定的に伐採できる区域を設定し、意欲と能力のある事業者と長期契約を結べるようにする、というのが今回の改正のポイントです。 ((法案審議過程)) 2010年以降の国会の本会議、委員会でのすべての審議過程が録画されインターネットで公開されています(衆議院、参議院)。5月14日衆議院の農林水産委員会の参考人質疑を検索した結果が以下の通りです。(ちなみに参議院参考人質疑はこちら)
参考人として知人がたくさん出ているので、しっかり聞きました(議事録はちら) (国有林の木材シフト) 前述のように、国有林の木材生産過程を民間企業の力を使って効率的にする、というのがこの法律の趣旨だとすると、国有林の木材生産機能に着目した法律です。 「国有林はメリハリをつけ保護林、生産保安林、生産林の三つに分け他の先進国より遅れている木材利用機能を進めることが大切。日本より森林面積がすくないドイツと比べる日本の生産量は少ない。ドイツなど先進国の林業が共同化・窓口一本化など大ロット化して大型化した製材過程と連携を深めることで成果をあげており」法案はその流れにそったもの。(立花参考人) 国際的には一人一日あたり30立方メートルほどの丸太の生産性なのに、日本では少しよくなったといってもよいところでその半分。国有林は技術を普及させるためのプラットフォームの役割を果たすほか、木材生産林のしっかりした区画が必要。(立花参考人) 日本の林業の非効率性は大きな問題ですので、これでうまくいくのか、注目しましょう。 木材にシフトという方向性をもつこの法案が持っているリスクは?「過去に木材にシフトして数々の失敗をした独自の歴史をもつ国有林」(野口参考人)の公益的機能はどうなるのか? (出発点は未来投資戦略2018で大丈夫か?) 林野庁は本法案検討過程で昨年の林政審議会の場で、資料4 未来投資戦略2018 等を踏まえた国有林の民間活力導入について(PDF : 401KB)を配付しています。 今回の改正案が提案された出発点が、公共施設の管理運営する権利を長期にわたって一括して民間企業に長期渡って付与するコンセッション方式などを提唱する未来投資会議の成長戦略だったことも心配のたね(土屋参考人)。その辺は林政審議会の場でしっかり検討しており、公益的機能を担保する林野庁の権限がぎりぎり担保(土屋参考人)。 公益性がどのように確保されていくかは今後の課題だが、この点で日本の国有林で今立ち後れている、リクリエーション、生物多様性という側面について、意思決定のガバナンスルールをはっきりさせた上で、資金、人的資源の投入(他の先進国に比べて見劣りする)をすべき(土屋参考人) 公益性・環境ガバナンスという点で、今回の法案が持つネガティブな点は何でしょうか?皆伐面積が拡大するか?NO、5ヘクタールの上限は替わらない。再造林の担保かがない?No.相手先に造林過程の契約もするように要請するが、何らかの理由で受け入れない場合は、国の責任で他の事業者を通じた実施をする。のだそうです。 それでは、リスクは?あるまとまった国有林の現場の伐採・再造林といった作業が数年にわたってある民間業者に契約されることのリスク。国有林の現場作業を外部委託する問題点は、契約が終了した時点で隅から隅まで仕様書通りに執行されているのか確認することが極めて難しい点にあります。数年たって再造林がうまくいかないことがわかった場合、その地域を皆伐すると判断した発注者側の問題なのか?手抜きをした受注者側の問題なのか?常にそのようなリスクをもった事業です。ですから、受注者を誰にするかが問題。そして仕様書通りしっかり実施がされているのか管理する手続きや評価能力・・・。これは常に国有林野管理当局が迫られる課題です。 毎日新聞5月25日号に「山肌さらす国有林」と大きな見出しの記事が載りました。pdfファイル 「現行ルールによるわずか9ヘクタールの伐採地ですら、再造林がはかどらず、山肌をさらしていた。政府は伐採後に森林を再生させると説明するが、本当に可能なのか?」 記事を書いたT記者が知人で、コメントを求めれました。9ヘクタールほどの分収育林の跡地の造林がうまくいかない。何で5ヘクタールでなくて9ヘクタール?分収育林で収益権を民間人と共有して特殊なケースなのかもしれない。などなど。自問自答。 T記者には「皆伐跡地の不成績造林のリスクは常にあるし、その場所を皆伐しようとした森林計画にも関わること。しっかり、失敗も含めて実績が評価され蓄積されているかがているかどうかがポイント。かつてのよう収入を念頭においたリスクが拡大する仕組みが温存されているかが、一番のポイントですね。行政のパフォーマンスの評価の中で、国有林野事業をほど難しい事業はないので、しっかりフォローしてください」と、伝えておきました。 皆伐した跡地の再造林がどんなになっていくのか?特に国有林の場合は注目です。平成から令和にかけて実施された「あのときの森づくり」。昭和の中頃の大規模造林地の後の二代目の造林が、どこが皆伐で、どこが非皆伐?どんな人たちがどんなシステムだったのでうまくいったのか?(失敗したのか?) 責任は国有林を管理する林野庁にあるのでしょうが、住民や国民、地球市民、マスコミなどとのコミュニケーションが鍵を握っていると思います。T記者にもよろしくといっておきました。 kokunai12-2<NFLkaisei2019>
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