Jクレジット制度森林分野の大幅改定ー普及が進むか?(2022/8/15)

CO2などの温室効果ガスの排出削減量や吸収量を「クレジット」として国が認証するJクレジット制度の森林分野のプロジェクトの創出拡大!!制度改正に関するプレスリリースが、8月10日ありました。

J-クレジット制度における森林管理プロジェクトに係る制度の見直しについて

左の図プレスリリース添付資料から

運営委員会のもとに森林小委員会が設置され、検討を進めてきた結果が、まとまって方法論や関連文書が加筆新設されるなど実施の運びになったんだそうです。

当サイトとしても気にして、パブコメなどを提出したり、気になってきた案件。

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プレスリリース資料、委員会の資料(第27回J-クレジット制度運営委員会資料)などに基づいて、内容を見てみしょう。

(改訂の概要)

(1)森林管理プロジェクト全般に係る改定
  (ア)認証対象期間の延長
(2)方法論FO-001(森林経営活動)の見直し
  (ア)追加性要件
  (イ)主伐・再造林に係る排出量・吸収量の算定方法の見直し
  (ウ)伐採木材の炭素固定量のクレジット化
  (エ)プロジェクト対象区域内の天然生林の吸収量算定対象への追加
  (オ)1990年以降の施業履歴の確認
(3)方法論FO-003(再造林活動)の新設

プレスリリースに記載している文章から拾った改正項目リストです。
中心となる方法論FO001の大幅改定、新しい方法論の新設・・順番に見ていきます。

(1)森林管理プロジェクト全般に係る改定  (ア)認証対象期間の延長

 J-クレジット制度におけるプロジェクトの認証対象期間は原則8年間とされていますが、今回の見直しにより、最大16年間に延長することが可能となりました。(例えば8年目に主伐があって収入があっても、その後再造林費がかさんで赤字になれば、プロジェクト成立(赤字でなければクレジット不成立、次項追加性参照))

(2)方法論FO-001(森林経営活動)の見直し
  (ア)追加性要件

あるプロジェクトがクレジットになる要件の一つに、本制度がなくてもやっていた事業を排除する、「追加性」という考えがあります。

例えば、間伐をやったから森林吸収量が増えたんだけど、その間伐が儲かるから実施したのなら、その「間伐実施プロジェクト」にクレジットはは成立しない。(赤字が条件)

右の図は27回運営員会資料にあった、ものですが、今までの規定では、プロジェクト期間内に経費が収入を上回り「赤字」であることを証明しなければならなかったけれど、①プロジェクト期間内に主伐がない場合、②主伐があっても再造林がされる場合、はその証明をする必要がなるなったようです。(ピンク色の部分)

  (イ)主伐・再造林に係る排出量・吸収量の算定方法の見直し

 これまでは、吸収量の算定に当たって主伐は「排出」として計上することとされていましたが、今回の改定により、主伐後の伐採跡地に再造林を実施した場合は、植栽樹種が標準伐期齢等に達した時点の炭素蓄積を主伐による排出計上量から控除することが可能となりました。

左の図参照

 (ウ)伐採木材の炭素固定量のクレジット化

いままで、伐採に由来する木材の炭素固定量は森林の吸収量の評価対象外となっていました。

今回の改定で、プロジェクト実施地で生産した原木の出荷量をもとに、伐採木材が永続的とみなされる期間(90年以上)利用される分の炭素固定量を推計(90年たったら腐朽したり廃棄される分を除き)し、プロジェクト全体の森林吸収量の一部として算定対象に追加することができるようになりました。(右の図)

 (エ)プロジェクト対象区域内の天然生林の吸収量算定対象への追加

いままで、育成林のみが吸収量の算定対象だったけれど、プロジェクト区域(森林経営計画作成区域)内の保安林等に指定された天然生林で、森林の保護に係る活動(森林病害虫の駆除・予防、鳥獣害の防止、火災予防等)が実施された区域を算定対象に追加することができるようになりました。

 (オ)1990年以降の施業履歴の確認

1990年以降に間伐等の森林施業を実施した森林が吸収量の算定対象。

その証明として施業履歴を書類等で確認していましたが、伐根等の痕跡や施業時期が判読可能な空中写真(上左の図)等でも確認が可能となりました。

(3)方法論FO-003(再造林活動)の新設

 造林未済地を対象として森林の土地の所有者以外の者又は再造林のために無立木地を取得した者が再造林を行う場合に、当該森林が最大16年生に達するまでの吸収量を認証申請できる新たな方法論を作成されました。

(木の活用話、この先どうなるのかな?)

以上が概要ですが、(原動力を風力発電にしたといった)排出量系のプロジェクトにくらべて森林管理吸収量系プロジェクトは本当に吸収量がどうなっているのといったモニタリングが面倒で足かせになっている。その辺の負担を減らすいろいろな知恵が詰まった改定案ですが、どの程度原動力になるか?期待しましょう。

もう一点気になっていた木の利用の話はどうなったでしょう。上記の(2)(ウ)伐採木材の炭素固定量のクレジット化のように、伐採木材の話は方法論FO-001のクレジット量拡大という形で活用されました。

ただし、今後の木材利用の推進力を考えると、「本社の高層ビルを木造にしてカーボンニュートラルだ!」といった、川下の需要者にクレジットが付与される仕組み、新たな方法論の確立が、極めて重要だと思います。

その辺を含めて、第三回森林小委員会資料4「木材利用の炭素固定量をクレジット化するための制度要件に係る検討」、という資料に、検討過程の詳しい内容が記載されています。

18ページの本件結論部分だけを引用しますね。

(クレジットの付与先)
1. 木材利用の炭素固定について、川下(木材利用)へクレジットを付与する独立した方法論を策定するためには、制度設計を行う上での詳細ルールについて整理すべき課題が多く残されている。政策⽬的との適合性に関しても、川下へクレジットを付与する場合は、その対象とする活動が追加性を満たし(非住宅⼜は中高層住宅)、かつ、永続性を有する(100年間の建築寿命が確保されるもの)建築物に限られるため、クレジット制度は必ずしも木材需要を喚起するための有効な政策ツールとならない一方、川上へクレジットを付与する場合は、製材・合板用向けの原木出荷量の増大に対してインセンティブを与えるツールとなるため、原木の安定供給という政策誘導目標との整合性・親和性が高い。海外のクレジット制度においても、木材の炭素固定を森林経営における吸収量の算定の⼀部として含めている例は存在するが、木材の炭素固定の増加量を独立した方法論として制度化している例は存在しない。
2. 以上の検討結果を踏まえ、現行の森林経営活動方法論(FO-001)を改正する形で、川上(林業経営)へクレジットを付与する仕組みを導入する。
3. ただし、川下へクレジットを付与する手法を検討すべきという意見が引き続きあることも踏まえ、今後、本日の森林小委員会で提示した課題や論点に対して適切に整理された形で新規方法論が提案された場合は、J-クレジット制度運営委員会において検討を行い、それが適当と認められる場合は、新たな方法論として承認を行う。その際にダブルカウント等の可能性等の問題が避けられない場合は、改めて森林経営活動方法論も含めて制度の見直しを行う
4. 森林小委員会で検討したテーマは木材製品の炭素固定量(の増加量)をクレジットとして認証する上での制度化のあり方であるが、中高層建築物を対象とするプロジェクトの方法論を考えるのであれば、その算定対象は木材の炭素固定効果に限定するのではなく、資材代替や省エネ等も含め、あらゆる排出削減ポテンシャルを総合的に評価していく方が妥当と指摘されている点も重要なポイントであり、より俯瞰的な検討も今後の課題。 

今後の宿題ですね。(アンダーラインは藤原の作成)

上記も含めて、第三回森林小委員会資料4「木材利用の炭素固定量をクレジット化するための制度要件に係る検討」の内容をもう少し勉強してまいります。

kokunai4-61<Jcrekaitei>

 

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