熱海の大規模土石流と森林のガバナンス(2020/8/15)
7月3日熱海市伊豆山の土石流。

市街地に流れる渓流に、上流から土石が押し寄せてくる映像を誰もが共有。

日本中どこにでもおこりそうな、斜面地における、大雨のリスク。日本の多くの斜面地は森林。森林のガバナンスと土石流の関係は?

気候変動で大雨の頻度が増えた中で、森林の管理に関して大きな課題が提起されているのだと思います。

すこし、勉強をしてみました。

(熱海土石流の原因の「盛り土」と森林法)

原因はなにで、防ぐ方法はなかったのか?

自身が土木技術者である静岡県の難波喬司副知事は7日午前、記者会見し、土石流の起点部分で行われていた盛り土などの土地改変について「(森林法に基づく)林地開発許可違反など、複数の不適切な行為があった」との見解を示しました(盛り土に複数の不適切行為 熱海土石流で副知事が見解。

ネット上に掲載されている情報(熱海市伊豆山地内の土石流発生箇所付近の土地改変行為@)(7月28日現在)では以下の経緯。、

@2007年にA社が県土採取等規制条例に基づき、土採取届けを市に提出(0.9446ha)受理。Aその後市から県事務所に対して、1haを超える事案であると連絡し、県事務所は現地確認の上森林法の「林地開発許可」違反(1haを超える民有林の土地の形質を変更する(開発行為)については知事の許可が必要)と判断し、土地改変地1.2329haの森林復旧を指示(07年5月)。B植栽などが行われ、(その後林地開発許可手続きが行われ)林地開発許可違反が是正(09年8月)。Cその後県土採取等規制条例等にもとづく防災措置の指導、廃棄物混入、工事中止命令など

土石流の一因と思われる盛り土に関して、森林法の林地開発許可手続きに照らしてみると、当初林地開発許可手続き違反行為があったので、是正されその後、林地開発許可手続き違反が是正されたうえで、盛り土作業が行われた。つまり林地開発許可手続き上許可された盛り土、が原因となった土石流みたいです。

一体どんな基準で、林地開発許可手続きが是正され許可されたのでしょうか?林野庁のページで許可基準を視てみました。

開発行為の許可制に関する事務の取扱いについて

許可基準
(1) 「都道府県知事は、(林地開発)許可の申請があった場合において、(以下に)該当すると認められる場合に限り許可しない

ア 「当該開発行為をする森林の現に有する土地に関する災害の防止の機能からみて、当該開発行為により当該森林の周辺の地域において土砂の流出又は崩壊その他の災害を発生させるおそれがあること」(法第10条の2第2項第1号)
これは、開発行為をする森林の植生、地形、地質、土壌、湧水の状態等から土地に関する災害の防止の機能を把握し、土地の形質を変更する行為の態様、防災施設の設置計画の内容等から周辺の地域において土砂の流出又は崩壊その他の災害を発生させるおそれの有無を判断する趣旨である 

谷の両岸の森林の立木を伐採し、どこかから運ばれてきた土を堆積する場所として使うために林地開発許可申請が出てきた時には、防災施設も含めた全体計画を提出させ、土砂流出災害の発生の恐れがないことを判断してから許可をすることになっているんですね。

今回の場合は、静岡県の土採取等条例と森林法ダブルチェックなんですけど、県条例は県によって違うし、全国をカバーしているのは森林法だけ。

森林法の林地開発許可の判断の手続き、特に谷を土砂で埋めるような施設の場合は、今後、厳密な確認がされるんでしょう。

多雨災害が各地で発生しているようなので、林地開発規制の基準のしっかりした確認作業が必要でしょうね。業者Aは明らかに森林法のチェックをさけるために面積を0.9446haとして、届けたことはあきらかなんで、業界関係者は森林法のチェックをかいぐる工夫をしているのでしょうか?

(太陽光発電施設と林地開発許可)

土石流の発生現場の近くに太陽光発電施設があったことが報道され、因果関係が議論されていますが、熱海市の土石流、太陽光発電施設は「直接的な原因ではない」 (静岡県・林野庁)ようです(左の図)。

それはそれとして、近年上記の林地開発許可の件数が増加し、その理由が太陽光発電施設のようです(右の図)。(近年の半数以上が太陽光施設)

カーボンニュートラルに向けた再生可能エネルギーの主役としての太陽光発電施設。地元との調整課題などが浮上し、その中で森林側の対応が注目されることになります。

林野庁の太陽光発電に係る林地開発許可基準の在り方に関する検討会報告書(2019年9月)がネット上に公開されています

左の図は上記報告書に引用されていた、マスコミに登場した太陽光発電施設にまつわるトラブルの分野別事例数です(原典は環境省:太陽光発電施設等に係る環境影響評価の基本的考え方に関する検討会報告書

土砂災害と景観がダントツ。

谷止め盛り土の話は、前述として、太陽光パネルは、簡易な基礎工事のみで据付けが可能であることから、造成費等を抑えるために自然斜面にそのまま設置する事例が多いようです

上記報告書で、自然斜面の太陽光発電の許可基準はどういう方向になっているかというところを視てみましょう。

左の図は報告書の掲載図面。許可された施設工事の施工中に土石流などの発生事案が結構あり(左)、傾斜毎に土砂流出の発生具合をみてみると、30度以上で急に多くなる(右)のだそうです。

それで、自然斜面に設置される太陽光施設の許可基準も、そんな方向で検討が進むようです。報告書13ページ

近くの森林に太陽光発電施設が計画されているならチェックして下さいね。

(皆伐跡地は大丈夫かな?)

自然斜面に太陽光施設を創る場合の許可基準について視てきましたが、話は少し変わりますが、森林を裸地にして大きな構造物をつくらないで自然斜面に施設を創る場合のリスクと、木材生産のために大面積の皆伐をした場合のリスクはどう違うのでしょうか?

跡地に植林をした場合は少し置いておいて、しない場合は?

伐採された前生樹の根っこが腐朽して土壌を補足する力が弱くなる。そして30度以上の急角度の皆伐跡地に土石流が発生する可能性が想定されます。たとえ植林をした場合にも。

土砂崩れの9割は林業が原因 政府が誘発する皆伐を推奨
毎日新聞スクープ記事「民有林1万ヘクタール超 伐採後の植え直し進まず」

いまの人工林は皆伐跡地に造成されたことは間違えないので、「今の人工林の皆伐後のリスクは実験済み!」という説得力のある議論がありますが、雨の降り方、森林の周りの人の住まい方など50年前といまとではなのが違っているのかな?

ということで、今後人工林の皆伐が進んでいくのは、予想されることで、いまの人工林の次の世代をどのようにつくっていくのか、特に急傾斜地の人工林の取扱に確りしたガイドラインが必要なんだと思いました。

kokunai4-52<AtamiSS>

 

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