情報公開が試す地球環境を管理するグローバル企業の可能性ーCDPフォレスト2019公開(2020/6/15)

「情報開示を通じて、投資家、企業、自治体が自身の環境影響を認識し、真に持続可能な経済を実現すべく行動を起こすよう促しています。」とする英国母国のNGOであるCDPが、森林をテーマにした報告書CDPフォレストレポート2019を公表しました。

もともと炭素Carbonの開示DisclosureではじまったCDPが、活動分野を広げて森林分野に取り組みはじめたのが2013年度。その時に、このサイトでも内容を紹介しました。情報公開が試す地球環境を管理するグローバル企業の可能性ー炭素から森林へCDPの実験

森林破壊を食い止めるための、グローバル企業の活動を市場を通じた管理するという取組がどのようになっているのか?日本語版に基づいて概要を報告します。

(企業の情報開示と森林との関係)

生産過程で森林にリスクを与える可能性のある商品(木材、パームオイル、畜牛品、大豆、天然ゴム)を取り扱うグローバル企業(今年から金属炭鉱なども含む)1983社(内日本企業152社)に対して、自社の製品の取扱状況から、リスクの認識・対応方針・管理の仕方・・・検証の仕方などに関する、体系的な質問リストが送付され、回答状況・回答内容などが開示されるととともに、回答状況と内容に応じた評価が開示されるというものです。

スポンサーとなっている投資会社に回答内容が開示され、「開示を通じて示される毎年の進歩でが森林減少を食い止めるため根拠。開示の加速化を」(CDPフォレスト責任者モーガンクレスビー)というわけです。

(リストされた企業)

質問が送られた企業の名前と回答状況が公示されています。日本語版には日本の企業の名前がすべて開示さ得れていますが、パーム油など食品をあつかう、味の素だとかサントリー等並んでいますが、木材の関係で選ばれているのは、インフラセクターとして大手建築会社・住宅メーカー、小売りセクター?で伊藤忠、住友商事、双日などの輸入商社、などなどです。

国産材に関連する大規模製材企業などが選ばれていないのですが、事務局に聞いてみたら、「グローバルな基準で選んでいるので」という回答。また、「今後は追加はあります」とのことでした。具体的な基準が示されていないのは少し残念。

(質問の内容)

全ての質問とその回答のガイダンスが示されている(CDP Forests 2020 Questionnaireを参照)ので、内容を見てみました。
ほんの一部ですが、雰囲気を見ていただくために紹介します。

(F3.1) 貴社の事業の財務または戦略面で重大な影響を及ぼす可能性のある潜在的な森林関連リスクを特定したことがありますか?

はい→(F3.1b) 回答する森林リスク・コモディティに関して、事業における財務または戦略面で重大な影響を及ぼす可能性があると特定されたリスクと、そのリスクへの対応の詳細を記入します。
色んな選択肢が提示されーーーブランドイメージ/収入割合や収入源の変化/成長に対する制約/事業撤退/株主価値の減少/売上の混乱/罰金、違約金、または施行令/訴訟/事業許可の喪失/企業資産に対する影響/従業員管理および計画立案の混乱/などなど
それから補足説明
いいえ→(F3.1c) 財務または戦略面で重大な影響を及ぼす可能性のある森林関連リスクにさらされていると考えない理由を回答してください。
主な理由の選択肢が示されーーーリスクはあるが、重大な影響はもたらされないと考えられる。/評価中/まだ評価していない/その他、具体的にお答えください

(F3.2a) 選択した森林リスク・コモディティに関して、事業における財務または戦略面で重大な影響を及ぼす可能性があると特定された機会(チャンス)の詳細を回答してください。

はい→(F3.2a) 選択した森林リスク・コモディティに関して、事業における財務または戦略面で重大な影響を及ぼす可能性があると特定された機会の詳細を回答してください。
機会の種類(選択肢:効率/弾力性/市場/製品および サービス/金銭的インセンティブ/その他)
バリューチェーンのどこで機会が生じますか?(直接操業/サプライチェーン/バリューチェーンのその他の部分)
潜在的影響の程度(選択肢:やや高い/中程度/中程度〜低い/低い/不明)
可能性(選択肢:ほぼ確実/可能性が非常に高い/可能性が高い/5割を超える確率で/可能性がおよそ5割/可能性が低い/可能性が非常に低い/可能性が並外れて低い/不明)
などなど
いいえ→(F3.2b)貴社が森林関連機会はないと考える理由を記載してください。
主な理由(選択肢:機会は存在しますが、それを実現することができません/機会は存在するが、事業に重大な財務的または戦略的な影響を及ぼす可能性があるものはない/評価中/重要でないと判断した/機会追求について経営陣から指示がない/まだ評価していない/その他、具体的にお答えください)

などなど

(回答結果とその評価)

突然送られてきた詳細な質問票と、丁寧な注意事項の説明書。勿論、回答するもしないも企業の勝手ですが、回答結果が内容の含めて、公開され、その評価結果も公表されます。どのように評価されるかがスコアリングの紹介Scoring Introduction 2020という文書で説明されています。

回答しなかったり評価できないほど回答が不足している会社はF( Failure to provide sufficient information)、評価ができる十分な量の回答をされた会社はAからD-までの8段階に評価されます。
評価の段階は@情報開示、A評価、Bマネジメント、Cリーダーシップという4つのカテゴリーに応じて行われ、それぞれの質問項目が4つのカテゴリーに割り振られているようです。

ます@情報開示に分類された質問が俎上に登り、配点が一定点(80点)以上にならないと、次の評価の段階の採点をしてもらえないで、点数によりD(45点以上)かDー(それ未満)に評価されます。そしてA評価の段階の採点に進んだ企業はその段階で結果が80点以上になると、次の段階Bマネジメント段階の採点とすすみ(すすまなかった企業はCかC-)、その結果が80点以上だと、最後のCリーダーシップの採点段階まで進んでその質問の点数が80点以上だとA評価になるようです。

(森林リスク商品指定の機会とリスク)

このような調査が、どの程度の力になるのか、回答数は増えつつあるが、まだ回収率は3割以下(気候変動や水管理分野では半数以上)で、正直言ってまだ先がよく見えないです。

しかし、今回改めて質問の内容などを見てみましたが、それぞれの回答に対する精緻な選択肢が提供されていて、様々な角度からの検討がなされたものであることがよく分かりました。

また、回答結果も、回答するけど、ウェブ上では一般に人には公開しないでほしい(報告書では未公開となっている)、という選択もできて(スコアリングと署名投資家には公開されるのだそうです)、選択肢が広がっています。

回答する立場に立つと面倒くさい作業には間違えありませんが、作業過程で会社の本部と現場の間でコミュニケーションが進む。特に木材分野でなく食品や農産物などを取り扱う企業が、森林分野のリスクや取り扱うメリットについて認識を深める大切な機会となることは間違えないと思います。

(CDP説明サイトの日本語力)

CDPフォレスト2013が公開されたときは日本語版がなく、承諾を得て勉強部屋でkeysumaryというページを仮訳してネット上に公開しました(こちらから)。

それに比べると、現在ではCDPジャパンという日本語のページがあり日本語で十分です(エンゲージメントってなに?大手輸入商社が小売業なの?といった気になる点はありますが)。日本企業や投資家に向けた情報発信の大切さが認識されてきたということですね.

持続可能な木材の利用推進などで、この、機会という部分がどのように活かされていくのか?今後注目して参ります。

junkan5-5<CDPF2019>

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