岐阜県立森林文化アカデミーコロキウムT質問と回答(2003/6/13)

日時:平成15年6月5日 13:15〜16:;30
場所:岐阜県立森林文化アカデミー テクニカルセンターA 多目的研修室

≪輸送≫

質問 ウッドマイルズを算出するうえで、輸送手段のことが考慮されていないが消費エネルギーを出す時に関係がないものなのですか。単純に距離だけの問題ではなく輸送方法の問題が大きいと思うが、それらを含めた詳しい計算方法はあるのですか。
答え 説明が足りませんでした。研究会でウッドマイルズに関してどんな指標を作るか検討中ですが、ご指摘のように輸送手段によって距離あたりの消費エネルギーが違ってきますので、それを配慮した二酸化炭素の排出量に着目した住宅ウッドマイレージCO2という指標を作ることも検討しています。その他輸送距離に着目した住宅ウッドマイレージ、木材が収穫された地点から建築現場までの直線距離に着目した住宅ウッドマイレージLというのも検討対象にしています。
質問 輸送システムの発達により輸送エネルギーの大幅な軽減の可能性はないですか。
答え 輸送手段によって単位あたりの消費エネルギーが違いますから省エネ型の輸送手段に転換する(モーダルシフトといいます)こと、輸送手段によっては技術改良によりエネルギーが少しずつ少なくなっていますから、それらの組み合わせにより全体的な輸送エネルギーが少なくなる可能性はあると思います。
自動車 鉄道 海運 航空
2001年 840 59 213 5252
1991年 924 60 153 5249
単位 kcal/ton・km 出所 エネルギー経済統計要覧(日本エネルギー経済研究所)
ただ、現在の燃料価格を前提とすると、消費エネルギーを節約するよりエネルギーはかかっても時間を節約するという方向に行く可能性もあります。
質問 木材輸入船は専用船なのですか。
答え 木材輸送は、丸太やチップの場合専用船が使われることが多く、製材の場合はコンテナーに入れて一般の輸送船が使われることが、多いようです

≪輸入≫

質問 「戦後輸入された熱帯木材は持続可能な形では開発されなかった」とありますが、具体的にどのような形ではなかったのか教えて下さい。
答え 我が国は戦後東南アジアから合板原料製材原料としてラワン材といわれる熱帯木材を開発輸入してきましたが、多くの場合収穫跡地が農地に転換されたり草地になったりで、次の世代のラワン材の生産が行われるようには管理されてきませんでした。
質問 スウェーデンの木材生産性は高いのでむしろここから買った方が良いのではなでしょうか。
答え 木材に限らずどこの国で作ったものを買ったらよいかを考えるとき、ご指摘のように各国の技術や自然環境などに規定される生産が高い国のものを各国がお互いに購入しあうということが各国の幸せになる、という国際分業の考え方は重要なポイントです。ただし、そのことだけ考えると、輸送過程でのエネルギーの浪費問題などが見過ごされることになります。また、林業のように環境保全を考えない大規模な伐採の方が生産性が上がるという問題が有る場合、現地の環境配慮などの問題を無視して生産性のみを基準にするのは問題があります(あくまで一般論でスウェーデンについて言っているのではありません)。こういう問題を解決するには、各国の森林管理の水準を適正に維持する国際的な仕組みや、化石燃料の価格水準の訂正という形で制度的な取組が必要なのですが、ウッドマイルズのように消費者が問題点を認識するという活動も必要だと思います。

≪コスト≫

質問 やはり木材は安い方を買うと思います。地域材を用いて輸送コスト・エネルギーを押えられるというのは大変意義があると思うが、消費者側からすると総コストも気になると思います。輸送コストは抑えられてその上総コストはどうなるのでしょう。
答え そうですね。木材に限らず市場経済の下では同一の利便を与える商品は安い方が買われることになります。ただ、木材を買うのは消費者でなく住宅メーカーですので注意が必要です。住宅メーカーはトータルとしてのコストを計算し住宅価格に反映し消費者は住宅を購入するという形になります。総額の中で何を節約し何を考慮するかということですから、木材を出来るだけ安くするか、少しだけなら木材を高くしても地球環境に優しくするか、という選択は、消費者側にはあると思います。
質問 「木材利用の消費エネルギー」の貢、各建材1?あたり生産する際に必要なエネルギーのコストを知りたいので原油価格を教えて下さい。
答え 原油の価格は日本に輸入されるときの通関統計が公表されています。今年の4月期は1バレル(159リットル)あたり30.83ドル、1KLあたり23200円となっています(http://www.kakimi.co.jp/4kaku/4genyu.htm参照)。具体的に建材の生産に使用される燃料は原油を加工した重油や灯油という形で消費されているので品質によりいろいろな価格になります。インターネットで検索して調べてみてください。いずれにせよ、絶対再生産されることが出来ない原油が1リットル20円台という値段で輸入されるような取引がされていることが問題です。
質問 建築に要するエネルギーと同じくらいの輸送エネルギー(コスト)が必要なのに、国内で使われる木材が圧倒的に輸入材であるという事が不思議でした。輸入材のコストがそれでも安いぐらい国産材との差があるのでしょうか。国産材は経営面でコスト高だというがどうやって低コスト化していくのでしょうか。
答え 国産材の育林コストや収穫のコストを引き下げてゆくには、経営の規模拡大が必要です。現在小規模の森林の所有者は所有には関心があっても経営には関心がなくなっています。経営委託という形で経営の規模が拡大してゆく条件はあると思います。

≪国内体制≫

質問 地域材で、本当に質のいいものが、短時間で用意できるのでしょうか。地域材がふんだんに使われるようになったとして、放棄された山林が多い中でその需要にどの程度供給が間に合うのでしょうか。外材が入ってこない状況になったら、国産材だけで需要をまかなえる環境は整っているのでしょうか。
答え 同様な趣旨の質問を沢山いただきました。簡単には解決できない問題です。なお、我が国の森林の成長量は91百万m3とされています(森林整備目標95年現況)。現在消費されている木材は丸太換算でおよそ同量(2001年)であり丸太への歩留まり率を考慮すると、成長量は消費量の7割程度を賄うことが出来ると考えられます。
質問 外材輸入量も多いのですが、国産材の消費を増やす際どう増やすのでしょうか。
答え 国産材の供給を担っている方が生産性を上げまた様々なニーズに応えて競争条件を改善してゆくことが重要ですが、お話ししたように消費者が環境に優しい国産材を選択するように情報提供し説得してゆくという仕事を地方自治体などが一緒になってやってゆくことが必要だと思います。ウッドマイルズ研究会もお手伝いが出来ればうれしいです。
質問 消費者への普及活動だけでは道が遠いのでは。輸入材への関税などの施策は考えられないのでしょうか。
答え 国内の産業を守るために各国が関税を上げると国際経済のブロック化などの問題が起こる問うことは第二次大戦前の教訓でありそれを受けてガットやWTOの多角的貿易体制というものができあがっています。ただ、環境保護と自由貿易の問題にはいろいろ問題があり議論されているところです。環境保護も含めた森林保全と利用のための国際協定が出来、合意の上で関税がかけられるということは理論的には可能だと思いますが、そういう合意が出来る政治的は条件は整っていません。なお、輸入急増に対して緊急避難的、時限的に関税をかけるセーフガードという手段はWTOでも認められた各国の権利です。日本としてはなるべくそういうものは発動しないという意向が働いてきましたが、最近事情が変わってきたといえます。
質問 林野庁はバイオマス利用促進のためにどんな政策を持っているのでしょうか。
答え 林野庁は、関連する技術開発や利用施設の整備の助成などをしています。http://www.rinya.maff.go.jp/seisaku/sesakusyoukai/biomass/con3-2.htmlをご覧下さい。

≪ウッドマイルズ≫

質問 ウッドマイルズは環境負荷を考える上で重要な指標だと分かりました。それを一般消費者に伝える手段として、研究会としてどのような活動をしていかれるのですか。一般の人たちにウッドマイルズという言葉をどのように伝え、理解してもらうかが研究会の重要なテーマだと思う。また、このことが国産材を利用する大きな節目となるよう期待したい。
答え ありがとうございます。家を新築する消費者が住宅メーカーや設計者と相談するときに、どんな木材を利用したら輸送距離がどの程度となりそこで発生する二酸化炭素はどのくらいかということが分かる指標を研究会では作成します。そして、だれでも研究会のホームページを見ると自分で計算できるような仕組みを作りたいと思います。地域材を利用することをセールスポイントにしている住宅メーカーは現在でもけっこう多いのでとりあえずその様なメーカーを研究会が支援するという形で普及をはかってゆこうと思っています。
質問 ウッドマイルズで、消費者と生産者は本当に近くなるのでしょうか。
答え 両者の間を取り持つ道具には十分なりうると思います。
質問 ウッドマイルズを循環社会とのつながりを具体的に教えてください。
答え 循環社会にするには、20世紀の大量消費社会から決別し、再生資源を再生可能な量だけ使い、再生しないエネルギーや資源を出来るだけ早く少なくする必要があります。木材は再生可能な資源でありエネルギー源にもなり、作るのにもエネルギーが少ない等スーパー資源ですが、唯一遠距離を運ぶのにエネルギーがかかるという弱点があります。ウッドマイルズはその弱点を補うもので循環社会の大切な入り口になると思います。

質問

エネルギー消費の中の木質バイオマス依存度をスウェーデンと日本とで比較していますが、スウェーデンの人口は日本の1/20程度なので、木材起源のエネルギー量をパーセントで比較すると不公平ではないでしょうか。
答え その通りですので、日本がスウェーデンと同じようにやればいいとは思いません。スウェーデンにしても税制などのサポートで木質バイオマスエネルギーを地域暖房などに使うようになって総消費エネルギーの2割近いものになっているのです。各国がいろいろ知恵を出しながらやっていることに我が国も学ぶ必要があると思います。

≪LCA≫

質問 地産材とその他の材を使用したとき、住宅のライフサイクルはどう違うのでしょうか。耐久性・消費者心理も含めて。
答え ライフサイクル分析は、生産、使用、廃棄という製品の生涯(ライフサイクル)を通じた、エネルギー消費などの分析です。地域材住宅は滝口さんの事例研究にあったように木材自体の使用量が多く、エネルギーがかかる他の建材の利用量が少なくなっていると考えられます。また、輸送エネルギーが少ないのも当然です。耐久性については一概にいえないと思います。
質問 他のマテリアルより木材は、格段に消費エネルギーが少ない事は分かります。ただ、製品となってからの耐久性あるいはメンテナンス等に必要なエネルギーの追加調査するとより木材が有利な値が出てくるのではないでしょうか。
答え そうですね。特にメンテナンスを自分の持ち山の木を材料に、自分の技術で行うといったことが可能になれば、全く別の世界が開かれると思います。森林文化アカデミーでその辺の所を是非研究していただきたいと思います。

≪その他≫

質問 フードマイルズとはどのような活動か、具体的にどのような事をしたのか教えてください。
答え 世界中の食材が食卓に並びその過程で安全、環境に悪影響をあたえているという、調査や啓蒙活動をしているようです。
質問 月給資源とは何でしょうか。
答え ある人が、化石資源は遺産資源、再生資源は月給資源といったのがおもしろくて使って見ました。
質問 「太陽起源の水素」「間欠的再生産可能エネルギー」とは何でしょう。
答え IPCCの報告書による将来の再生可能資源についてのカテゴリーで、前者は太陽エネルギーで水を加水分解して水素を取り出し、それを運んで使うという方法、後者は風力や波力といった自然力を利用する方法のこと、のようです。
質問 木材に消費者が見合った支払いをするにはどうするのでしょう。教育か。
答え 消費者が木材のすばらしさに対し再生産コストに見合った支払いをするには、そのすばらしさが分かる情報提供をするか、安すぎる代替化石資源の製品に課税をして高くするかがあると思います。
質問 バイオリージョンとは何でしょう。
答え 市町村や県といった人間の都合による境界線でなく、一つの河川の流域など自然の特徴により一つのまとまりを持つ地域と認められるものを、バイオリージョン(生命地域)といいます。これを中心にした自立性のある地域社会を目指す運動がバイオリージョナリズム(生命地域主義)と銘打って北米などで始まっています。
質問 持続可能な社会にする為に私達はどうしたらいいのか。
答え 消費者として有権者として納税者としていろいろな私たちがいます。本日話したように消費者としてのエコマテリアル選択という行動は重要なポイントだと思います。そして消費者が的確な判断が出来るような情報提供がされる社会が必要で、ウッドマイルズもその一環です。また、炭素税や吸収源対策など政府や自治体など公的な機関がやらなければならないことも多いです。
質問 バイオマスで約600×10^12MJまかなおうとしたらどのくらいの面積が必要でしょうか。
答え IPCCの推測で21世紀末に世界のエネルギー需要の内バイオマスで約600×10^12MJを供給するとしています。その半分を木材で賄うとして、木材はトンあたり20GJ=20x10^3MJの発熱量、ヘクタールあたり10トンというきわめて成長量が高い技術開発が可能になったと仮定すると、エネルギー供給森林面積は15億ヘクタールとなります。現在の世界の森林面積が39億ヘクタールですから、その約4割となります。
質問 木材の液体燃料化ができれば、間伐材や廃材の大量のはけ口も見つかるのではないでしょうか。または、燃料専用に成長の早い木材を生産できれば、燃料の安全保障にも繋がるのではないでしょうか。
答え 燃料が固体から液体気体への転換してきたのは生活様式の変化に応じて利便性を追い求めたためです。液化が効率的な工業原料として必要であることは間違えないことですが、問題は生産や集荷のコストで液化技術は重要ですが、根本問題を変えるものではないと思います。
質問 木造のビルディングを建てることができれば技術的にどこまで可能なのか分からないが、大量の木材の薄利多売が可能ではないでしょうか。
答え 大規模な木造建築の制限は徐々に緩くなっていますが、見直しの余地はあると思います。そういうことも含めた再生資源である木材が他の資源に取って代わる道をいろいろ模索する必要があると思います。


■いいねボタン