固体木質バイオマスエネルギーの 需給動向と 環境基準の展開の可能性ー環境経済政策学会報告(2016/9/24)
 
 各国で製造されたペレットを日本で発電用に利用
した場合の温室効果ガス排出量
単位 g-CO2/Mj

9月10日―11日に青山学院大学(東京)で開催された、環境経済・政策学会2016年大会で、標記の報告をしました(ポスターセッション)。

「グローバル化するバイオマス燃料市場に応じた、環境基準のグローバル化」という問題意識です。

概要を紹介します。

((はじめに))

2012年に開始された再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT制度)などの政策的誘導を背景に、わが国の木質バイオマスエネルギーの導入は拡大の見通し(長期エネルギー需給見通し(2015年7月)、森林・林業基本計画(2016年5月) など)です。

しかし、これに応じた燃料としての木質バイオマスの供給見通しは不確定な部分があり、わが国の木質バイオマスエネルギー市場は輸入木質バイオマスに依存する可能性が大きくなっています。

他方、国際的な木質バイオマス市場では欧州を中心とした環境基準の導入が始まっており、市場がグローバル化する中で環境基準のグローバル化が課題です。

そこで本報告では、わが国の木質バイオマスエネルギーの需要動向を念頭に環境基準の展開可能性を明らかにすることを目的とします。

((木質バイオマスエネルギーの需給計画))

(長期エネルギー需給見通し)

政府が2015年7月に決定した長期エネルギー需給見通しでは、再生可能エネルギーは「自然条件によらず安定的な運用が可能な地熱、水力、バイオマスを積極的に拡大」するとし、輸入木質バイオマスの大幅拡大を前提とした需給見通しとしています。

表2 長期エネルギー需給見通しの中の木質バイオマスの動向

注1 総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会 長期エネルギー需給見通し小委員会第4回 平成27年3月10日(火))「再生可能エネルギー各電源の導入の動向について

注2 資源エネルギー庁:長期エネルギー需給見通し関連資料

(森林・林業基本計画)

政府が本年5月に作成した森林・林業基本計画では、用途別の木材利用の中に、燃料材の区分を新たに設け図1のように、利用量(国産材)、需要量(輸入材の含めた総量)が拡大する見通しをしめしていますが、認定発電所の申請書による需給量との間にはギャップがあります。

図1 森林林業基本計画による燃料材の利用量とFIT認定発電所の需要量

注 三菱UFJリサーチ&コンサルティング「持続可能なバイオマス発電のあり方にかかる
調査報告書
」(2016/2)より作成

  固定価格買取制度による前述の木質バイオマスエネルギーの需要は急激に拡大する見通しである一方、供給見通しは制約されており、輸入木質バイオマスに依存する見通しが高いと見込まれます。

((発電用バイオマス供給の環境的管理の現状))

(日本の発電用バイオマス供給ガイドラインを通じた環境的管理の運用

FITによるバイオマス発電の買い取り価格は燃料の由来により想定される環境性能により以下の分類されて発電電力の購入価格に差がつけられ、これらの森林由来の環境情報は、業界団体によって認定された事業者のサプライチェーンを通じた証明書の連鎖で需要者に伝達されます。

図2 日本の発電用バイオマス供給ガイドラインを通じた環境的管理の運用
林野庁:「発電利用に供する木質バイオマスの証明のためのガイドライン」より作成

 ((欧州の固体バイオマスの環境基準と日本の基準))

欧州では英国・オランダを中心にバイオマスエネルギーの環境基準の構築が進んでおり、原料となるバイオマスが生育した土地の基準、製造輸送過程を中心としたライフサイクル分析によるGHG排出量による基準が導入されいます。 

図3 欧州の固体バイオマス環境基準

Department of Energy & climate change,UK (2014), “Woodfuel Advice Note”(2014)

Netherlands Enterprise Agency  ”SDE+ sustainability requirements for co-firing and large scale heat production

 欧州のバイオマス環境基準の体系の中に、日本の発電用バイオマスのガイドラインに基づく環境管理の運用を説明したのが、以下の図です

図4 日本の固体バイオマス環境基準

林野庁(2012)「発電利用に供する木質バイオマスの証明のためのガイドライン

 これと比べてみると、日本のガイドラインに基づく取組は、土地基準についての議論は進んでいますがSGS排出基準がありません。

((日本のGHG基準の検討))

日本に対する輸入木質バイオマスエネルギー供給源を、北米産の木質ペレット、東南アジア産の木質ペレットを例にとって評価し、日本の間伐材由来の木質バイオマスペレットと比較しました(図5)。

国産の製品は基準の枠内にはいっていますが、輸入される製品の輸送過程の環境負荷が大きくさらなる評価が必要でです。 

g/mj


図 発電用木質バイオマスの製造輸送過程のGHG発生量

森林総合研究所「木質ペレット成型機構の解明」(2010)
環境省「温室効果ガス総排出量算定方法ガイドライン」2015)
環境省「電気事業者別排出係数(特定排出者の温室効果ガス排出量算定用)−平成26年度実績−}(2015)
ウッドマイルズフォーラム「ウッドマイルズ関連指標算出マニュアル」(2008)

 ((結論))

木質バイオマスエネルギー原料の流通の拡大、市場のグローバル化が進む中、環境基準のグローバル化が課題となっています。

カーボンニュートラルで地球にやさしい木質バイオマスのエネルギー利用という評価に加え、木質バイオマスエネルギー原料採取過程、製造過程、輸送過程の環境負荷を体系的に明らかし、情報提供をしていく必要がです。

また、ガイドラインに基づく生産地点の環境情報を消費者につたえるサプライチェーンの管理の意義は大きいことが考えられ、有効に機能するためも、実態の把握と詳細な分析がさらに必要といえいえます。

(以上です)

少し詳細な報告書をこちらに置きます
同じ職場の落合麻里、前川洋平のお二人と共同作業でした

enaergy1-20(seeps2016present)

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