森林バイオマスはカーボンニュートラルか?500名以上の科学者が日本政府に(も)書簡(2021/3/15)

「500名以上の科学者が日本政府に書簡を提出:森林バイオマスを使った発電はカーボンニュートラルではない」というタイトルでFOEjapanのブログが発信されました。

本文は→Letter Regarding Use of Forests for BioenergyーHundreds of scientists affirm that trees are more valuable alive than dead — both for climate and for biodiversity.

米国バイデン大統領、日本菅首相とEU、韓国の首脳宛の書簡が、2月上旬に公表されました。

大切なものなので、読んでみました。こちらに英文と日本文の対訳を置いておきます

まとめてみると、(A)「バイオマスエネルギーのために樹木を伐採すると、当初は炭素排出量が大幅に増加する。森林は再生し化石燃料を代替することで、最終的にはこの炭素負債が解消されるかもしれないが、森林再生には時間がかかり、世界が気候変動を解決するためにはその時間的猶予がない。」、そこで(B)「各国政府は、自国産であれ他国産であれ、木材を燃焼させることに対する既存の補助金やその他のインセンティブを廃止しなければなりません」という主張です。

(木質バイオマスはカーボンニュートラルか)

まずAについて、議論しましょう。

「森林を構成する個々の樹木等は、光合成によって大気中の二酸化炭素の吸収・固定を行っています。森林から生産される木材をエネルギーとして燃やすと二酸化炭素を発生しますが、この二酸化炭素は、樹木の伐採後に森林が更新されれば、その成長の過程で再び樹木に吸収されることになります。このように、木材のエネルギー利用は、大気中の二酸化炭素濃度に影響を与えないというカーボンニュートラルな特性を有しています。」(林野庁木質バイオマスを利用するメリット)

これが林野庁(というか関係者、私も含めた)の見解。

これに対して、今回の提言Aを繰り返すと、「今のような一刻もあらそう非常事態には、エネルギーのために伐採して燃焼すると、数十年間トータルの大気中の二酸化炭素は増えるので、注意」ということです。

このページでも、そのことについては触れました。欧州の過ちから学ぶ森林バイオマスエネルギー-海外における木質バイオマスエネルギー推進についての最近の論調より(2019/2/24)

左の図が、そのとき議論した、マイケルノ―トン氏が提示した図です。

横軸が時間、縦軸が伐採して燃焼させた場合の、固定量と化石資源を代替した効果を足した貢献度。

伐採して木材を燃焼させ化石資源代替の貢献度は、伐採しないで山で成長した場合(青い破線)と比較すると、最終的には山が成長してプラスになる(カーボンニュートラルだから)が、山が成長するまでの数十年は化石燃料を燃やした方が空気中の二酸化炭素濃度は低い状態がつづく。

というものです。今回の提言のロジックはこの通りです(マイケルノートン氏も署名者に入っている)。

しっかり管理された森林の生産物を燃焼させてエネルギーを得ることは、将来の循環社会を視野にいれたらカーボンニュートラルだが、現在のような一刻をあらそう、非常事態では注意が必要。

(木質バイオマスエネルギー利用を冷静に考える)

その時(一昨年)、私もそのとおりだな、と思いました。

そしてそのことが私たちに何を問いかけているのかということですが(Bについて)。大切な視点は、「木材のエネルギー利用をするために森林を伐採することには注意が必要です」ということです。

ただし、他の目的のために森林を伐採し木材を利用する過程で発生する廃棄物由来の木質燃料や森林の育成のために間伐をしたものを集めた木質燃料(未利用木材)を、化石資源に代わって燃焼させてエネルギーを得る(発電する)のは問題ないし、積極的に推進すべき、ということですね。

エネルギー利用のためにあらた現在の森林を伐採することがないように監視が必要です。輸入燃料には特に注意が必要。

もう一の注意点は木質バイオマスを成長輸送する過程で、化石資源を使うということです。その排出量を評価してコントロールしようと欧州では取組が進んでいますが、日本ではまだ。(参照国際セミナ-森林バイオマスの持続可能性を問う

ということで・・・

(提言の結論部分の改定提言)

この提言の結論部分は以下のとおり変更が必要でしょう。

(B)「各国政府は、自国産であれ他国産であれ、木材を燃焼させることに対する既存の補助金やその他のインセンティブを廃止しなければなりません」

ではなく。

(B)「各国政府は、自国産であれ他国産であれ、木材を燃焼させることに対する既存の補助金やその他のインセンティブを注意深く実施し特に他国産の木材には注意を払わねえればなりません」

せっかくの重要な内容を含む提言なので、シッカリした議論が必要だと思います。

energy1-39<scientistsF&B>

 

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