輸入される発電用木質バイオマスのサプライチェーン管理ー森林認証とFITのガイドラインの関係(2020/6/15)(6/16加筆訂正)

森林認証制度を運営しているFSCジャパンが、最近「FSC森林認証制度をバイオマスの固定価格買取制度(FIT)に活用する際のご注意」と、「固定価格買取制度(FIT)のバイオマス発電燃料調達におけるFSC 認証制度の利用に当たっての関係事業者様へのご注意」という情報発信をしました(以下今回のFSC情報といいますね)。

循環資源である木材・木質資源を化石燃料に替えて利用することが地球環境によいとしても、地球を一周する木材製品の由来となる森林管理は大丈夫なのか?だれでも知りたいその重要な情報を、第三者に管理されたのサプライチェーンに託して消費者に届けるためのシステムを構築してきた森林認証制度(欧州のNGOが開発)。もう一つその重要な情報を業界団体によって認定された事業者によるサプライチェーンで届けようとする林野庁のガイドライン(日本発)。

前者の主人公の一人であるFSCの今回の情報発信は、その二つの大切なシステムの連携に関する、疑惑に端を発した重要な情報です。私自身、そのどちらにも関与した経験から、本件には思い入れがあり、今回のFSC情報の作成過程に若干関与したので、この際、作業過程で勉強したことも含めて、若干情報提供のお手伝いをしようと、このページを作成しました。

環境とビジネスに関する、環境NGOと木材や木質バイオマスのビジネス関係者との間の情報のやりとりですが、市民の電気料金が普通より少し上乗せされている根拠に関する情報ですので、関心のある方はどうぞ。

(指摘された疑惑)

今回私が初めてこの情報に接したのは私も会員となっているFSCの5月下旬の年次総会(テレビ参加)でした。そこで紹介されていたのは、環境金融研究機構RIEFというサイトに固定価格買取制度(FIT)のバイオマス発電燃料の輸入木質ペレットにFSC認証の大量偽装の疑念。ベトナムでは生産可能量の5.5倍も「認証」付与。バイオマス発電の持続可能性に疑問(RIEF) (以下RIEF指摘疑惑といいます) という情報です。

「ベトナムで現在FSC認証されたアカシア等の栽培面積・・・から推定される生産量よる多い大量の認証付きペレットが日本と韓国に輸入されている」などが指摘されています。

今回のFSC情報の中には、疑惑に関する情報源は全く触れられていません。多分、その他にもあり、FITの関係者は大体知っているだろうとの想定ですが、関係者以外の方、向けに情報源の一つを紹介しておきました。

これに巻き込まれたFSCジャパンが、FIT関係者に対してFSC利用上の注意などの情報発信をしたものです。

(木質バイオマスのFITとはーおさらい)

再生可能エネルギー固定価格買い取り制度(以下FITといいます)」によると、輸入された木質チップやペレットなどのバイオマス燃料が、一定の手続きによってサプライチェーンが管理され透明性があることがわかると、FIT上の「一般木質バイオマス原料」ということになり、これを燃焼して発電された電力は24円/Kw時(大型発電所は入札)と、そうでない電力(13円/Kw時)より高い値段で消費者が購入してくれる可能性があります(2020年6月現在)(固定価格買い取り制度)。

このサプライチェーンの手続きを定めたのが、発電利用に供する木質バイオマスの証明のためのガイドライン(以下FITガイドラインという、同運用マニュアル参照)であり、先行していた林野庁の「木材・木材製品の合法性、持続可能性の証明のためのガイドライン」などを使って、伐採地点から、発電所までのサプライチェーンを管理することを求めています。

(FITガイドラインの要求事項)

林野庁のFITガイドラインが要求するのは、ガイドラインが求める一定の手続きをした業界団体が会員事業者の管理システムをチェックして認定し、業界団体が認定し事業者が、分別管理、加工した製品を販売・購入してサプライチェーンをつなぐことです(その他にも2種類のやり方が例示されています)。

ただし、日本国内ではガイドラインの理解が進み、140ほどの業界団体に認定された事業者が5500社となっていて(日本木質バイオマス協会のサイト)、その人だけでサプライチェーンをつなぐことはできるのですが、ベトナム、タイ、マレーシアなどから輸入される木質ペレットなどを、その原料が伐採された地点からのサプライチェーンを管理するのは極めて、困難なので、FSCが認証したのサプライチェーン(COCの取得者:Chain of custody)を利用する(ガイドラインの例示の一つ)ことが多いようです。

FSCのCOCを取得した事業者と、そうでない、FITの業界団体認定事業者の取引がされるので、(仮に本人悪意がなくても)おかしなことが起こる可能性があります。

下の図は輸入材の木質バイオマスの二つのサプライチェーン管理の比較模式図です(藤原作成)。

下側の産地国の森林で生産された木材が産地国でペレットになり、上側の日本の発電事業者の発電原料となるため日本の輸入業者によって輸入されます。左側がFITガイドラインが一般木質バイオマスに要求する項目、右側がFSCの側が正規のFSC製品であるために要求する項目です。(あくまで模式図です)

(業界団体認定をうけた輸入業者の責任)

産地国のサンプライチェーン管理が本当に確りしたもので、信頼できるのかは、輸出する相手がFSCのCOC認証を受けた者かどうかがポイントです。(上の図の赤い矢印の先に注目)

自社がFSCの正規の手続きの製品であることを販売する資格がある(手続きを理解していて全ての取扱製品を管理するシステムを持っている)と、第三者が認証することをCoC認証といいますが、取引相手の産地国輸出事業者がCOCを所有していることを確認する必要があります(「COC所有者からかったものだ」といわれて買うのではだめ)。

その上で、その輸出業者が販売してくるものがすべてFSCの認証製品ではなく、その輸出業者がこの製品はFSCの認証製品であると証明している請求書、納品書などの文書が必要です。その文書を確り管理して一般木質バイオマスとして販売した量との間に矛盾がないように、管理しておく必要があるでしょう。

RIEF指摘疑惑が指摘している多量のFSC由来の木質バイオマスが輸入される可能性は、COCをもった輸出事業者が出荷する製品をすべてFSCの認証製品であるとして取扱い、輸入業者が「一般木質バイオマス」として日本に持ち込まれるリスクです。FIT管理上の初歩的な問題点です。

(FSCミックスとは)

もう一つRIEF指摘疑惑のように、FSCの森林認証された森林と、FSC認証製品の量との間に幅ができる可能性があるのは、FSCミックスという仕組みです。上記の図の輸出業者のFSCミックスとしての販売という部分を参照下さい。FSCミックスは、森林認証林から生産された木材ほのかに、木材製品が作成される過程で排出される端材や建築物の廃棄物などリサイクルされた木材であることがはっきりしている「FSC回収木材」と、FSC認証林由来ではないが合法性など一定の社会的なハードルをクリアした「FSC管理木材」などから製造された木材製品です。

FSCのミックス材は、一定の管理がされたものであることから、それを購入した輸入事業者が一般木質バイオマスの根拠として取り扱う可能性があり、RIEF指摘疑惑が示すFSCの認定森林の量と、FSCの認証木材の量の差の原因になります。

林野庁ガイドラインQ&AでもFSCミックスはFSCの管理木材が混じってる場合の「一般木質バイオマス」の根拠としてOKといっています(かどうかいろいろ意見をいただきましたが、そうでないという明確なメッセージが示されていない(大切な点なので別ページを作ります(工事中)))。Q.91 質問内容 森林認証木材が証明書にミックスとか○○パーセントなど、分別管理していないと思われる記載がある場合でも合法性、持続可能性を証明したことになるのか

上図のとした部分

建築資材廃棄物と一般木質バイオマスの関係
発電利用に供する木質バイオマスの証明のためのガイドライン運営マニュアル (7ページ)

ただし、FSCシステムが発電用バイオマスを前提に作成されていないので、FSCミックスを使う場合、FITの側にとって、注意しなければならないことがあります。

それはFSCミックスの中に回収木材というものが混入される可能性があることです。回収木材には加工工場で排出された廃材とか、建築物が解体された廃材がなど、それ以前の履歴がわかなない製品が入ってきます。(上の図の右下 分別管理が不必要など)

FITの側からいうと、建築物からの廃材は、一般木質バイオマスでなく、建築資材廃棄物として分別管理すべき全く別の発電用燃料のカテゴリ です。(右の図の赤丸

実際のビジネス上、建築廃材がペレットやチップの中に入ってくることはあまりないかもしれませんが、FSCのミックスを取り扱う場合、それを一般木質バイオマスとしてよいかどうか、輸入事業者が確り調査して、確認をしなければならないことになります。

FSCミックスをFITの一般木質バイオマスの根拠にしていいか、結構めんどくさい確認が必要です。なので「FSCミックスは一般木質バイオマスの根拠としては使わない、という企業もあるようです」。安全側へのリスク管理(フェイルセーフ)で立派な方針だと思います。この辺をもう少し勉強して整理し、情報発信をしていきます(FITの一般木質バイオマスとFSCミックスの関係(工事中))

(FSC認証材の確認の仕方)

以上のことは、今回のFSC情報の中にも指摘されていて、今回のFSC情報の最後のページに分かり易い左表が掲載されています。

FITの側から、FSCを利用する場合のリスクが整理されていますが、一番下のFSC管理木材というのを注目して下さい。

管理木材というのは前述の通り、COCを持った人がFSCの認証製品を売る場合、すべての原材料をFSCの認証製品として売ることができない場合の便宜のために作られた制度で、その代わり、残りの部分も違法伐採や児童労働などの社会問題をおこさないように管理をするこという手続き規程があり、これに基づいて管理木材が取引されていますが。これは、COCを持った人にしか管理木材だといって販売してはだめですよ、という別の規程があるのだそうです。

買う側がFSCのCOCを持っていない場合、売る側がFSCミックスですとして売られるなら、それでよいが、FSC管理木材ですよ、と売られた場合FSCの規程違反なんだそうです。

繰り返しにまりますが(FITの一般木質バイオマスとFSCミックスの関係(工事中))でその辺も含めて確り報告します。

(おわりに)

FITを管理する立場に立つと、FITのガイドらラインで輸入材を一般木質バイオマスだと証明するのに産地国のFSCサプライチェーンを利用するのは便利なことですが、難しい問題もあり、担当者が替るなど認定事業者が間違う?リスクは常にあるので、リスクを回避するために、系統的な情報収集と、日常的な注意喚起などの不断の努力でが必要なのでしょう。

FSCの側でも同じなのだと思います。

ちょうどよい注意喚起のチャンス!

また、今回FSC側が指摘したように、FSCミックスのようにFSCの仕組みをそのまま使うことに問題が発生する可能性があるようなものについては、FITを管理する側からも系統的な情報発信がされていく必要があるでしょう。

それまで、このページでお手伝いをしていきます。

今後、FITガイドラインの透明性を高めていく上で、関係者のさらなる努力が必要で、私も関係者の一人かもしれないので、この問題には可能な限り、関与していきたいと思います。

energy1-35<fitwithFSC>


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