輸入材をめぐる視点(2003/08/26) |
小林富士雄(社団法人 大日本山林会会長) 木材が典型的な環境材であることに異論を唱える人は次第に少なくなってきた。つまり木材は、生産の過程で炭素を吸収固定し且つ生活環境を快適にし、利用の過程でも他材料にくらべ加工エネルギーが圧倒的にすくなく、最後の廃棄の過程に入っても最終的には生態系のなかに戻る。 そのような理想的な素材である木材の現状はといえば、その8割が外国から輸入され、その一方で国内の造林地の多くが放置され、辛うじて人手が入った多くの林でも切り捨て間伐が日常化している。これはどう考えても循環型システムとはほど遠い。 我が国の森林蓄積は現在約39億?(うち人工林22億?)であり、そのうち人工林の過去20年の年平均生長量と年平均伐採量から試算すると、少なく見積もっても年間生長量は6,000万?(丸太換算)あり、自給率6割は達成できる計算になる。尤もこれはあくまでも材が市場に持続的に供給されるという仮定の上であり、その実現には生産・加工・流通の仕組みやコストなど、越えがたい多くの障碍があることは言うまでもないが。 さて典型的な環境素材である木材が国内にありながらその大半を輸入していることは、見方を変えると環境を輸入しているともいえる。環境の世紀にあって経済則だけで割り切っていいのだろうか。ここに言う環境は生産国の生活環境と言い換えてもよいが、そのなかで見逃されがちな水に注目したい。 昨年の朝日新聞で「日本は水を大量輸入」という記事(2002.10.11)を記憶しておられるだろうか。この記事は食糧生産に必要な水の量を種別に計算し比較したもので、生産物1kgをつくるのに要する水は、たとえば穀物で米(5,100 g)、小麦(3,200)、大豆(3,400)となり、肉類では鶏(4,900)、豚(11,000)、牛(100,000) となる。このようなデータをもとに計算すると、日本は食糧だけで約1,000億?となり、この量は日本の直接的な水使用量とほぼ同量であるという。この水は仮想水(バーチャル・ウオーター)というべきものでこれだけの水を輸入しているわけではないが、地球上の水利用という視点から考えると、地域の水循環に少なからぬ攪乱を起こしているともいえる。 しからば木材はどうなるか。樹木が根から吸収する水のうち光合成や呼吸などに使われるのは5%以下で、95%は葉から蒸散する。森川靖氏のヒノキ林での調査によると、夏の晴れた日にはヘクタール当たり1日30トンの水を蒸散するという。この蒸散はすべての森林が生きるための営みでこれなくして生存も生産もできない。輸入木材の仮想水量の推定は森林先端協の研究課題に残しておくとして、膨大な輸入量になろう。日本は幸いモンスーン気候の豊かな降水を享受しているが、降雨少ない地域からの木材輸入は仮想水を収奪していることに留意し、このような点からも国産材の利用が望ましい。 21世紀は石油に続いて水をめぐる争いになると言われる。最近報じられる取水や潅漑による黄河の断流や、南アジア・中近東の国際間水紛争に現れている水問題は、輸入木材についてもこのような視点が必要であることを示唆している。 APAST Vol.13 No.3 (2003.5)より転載させていただきました。
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