ニュースレター No.276 2022年8月15発行 (発行部数:1560部)

このレターは、「持続可能な森林経営のための勉強部屋」というHPの改訂にそっておおむね月に一回作成しています。

情報提供して いただいた方、配信の希望を寄せられた方、読んでいただきたいとこちら考えて いる方に配信しています。御意見をいただければ幸いです。 

                      一般社団法人 持続可能森林なフォーラム 藤原敬

目次
1. フロントページ:Jクレジット制度森林分野の大幅改定ー普及が進むか?(2022/8/15)
2. 木質バイオマスの問題の所在ー勉強部屋Zoomセミナー22年度第1回報告(2022/8/15
3. 懐疑論の元になった報告書?EUにおけるエネルギ―生産のための木質バイオマス利用(2022/7/15)
4. 持続可能な森林経営のための勉強部屋22年度Zoomセミナー第2回御案内(2022/8/15)
5. 「地球は訴える」(ある外務官僚OBの回想録ーの中のITTO本部誘致過程など(2022/8/15)
6.  Jクレジット制度における木材利用の二酸化炭素クレジット化についてー意見提出しました(2022/8/1)
7. カーボンニュートラルの一か月でした・・・ー勉強部屋ニュース276編集ばなし(2022/8/15)

フロントページ:Jクレジット制度森林分野の大幅改定ー普及が進むか?(2022/8/15)

CO2などの温室効果ガスの排出削減量や吸収量を「クレジット」として国が認証するJクレジット制度の森林分野のプロジェクトの創出拡大!!制度改正に関するプレスリリースが、8月10日ありました。

J-クレジット制度における森林管理プロジェクトに係る制度の見直しについて

左の図プレスリリース添付資料から

運営委員会のもとに森林小委員会が設置され、検討を進めてきた結果が、まとまって方法論や関連文書が加筆新設されるなど実施の運びになったんだそうです。

当サイトとしても気にして、パブコメなどを提出したり、気になってきた案件。

森林由来クレジットの創出拡大についてー木材利用のクレジットは?(2022/1/8)
山と山主をツナグ 山村資源価値化プラットフォーム「木繋」ー日経ソーシャルビジネスコンテスト受賞 (2022/3/15)
Jクレジット方法論拡大の検討方向ーJ-クレジット制度における森林管理プロジェクトの制度見直しの概要についての意見の募集について(2022/6/15)
Jクレジット制度における木材利用の二酸化炭素クレジット化についてー意見提出しました(2022/8/1)

プレスリリース資料、委員会の資料(第27回J-クレジット制度運営委員会資料)などに基づいて、内容を見てみしょう。

(改訂の概要)

(1)森林管理プロジェクト全般に係る改定
  (ア)認証対象期間の延長
(2)方法論FO-001(森林経営活動)の見直し
  (ア)追加性要件
  (イ)主伐・再造林に係る排出量・吸収量の算定方法の見直し
  (ウ)伐採木材の炭素固定量のクレジット化
  (エ)プロジェクト対象区域内の天然生林の吸収量算定対象への追加
  (オ)1990年以降の施業履歴の確認
(3)方法論FO-003(再造林活動)の新設

プレスリリースに記載している文章から拾った改正項目リストです。
中心となる方法論FO001の大幅改定、新しい方法論の新設・・順番に見ていきます。

(1)森林管理プロジェクト全般に係る改定  (ア)認証対象期間の延長

 J-クレジット制度におけるプロジェクトの認証対象期間は原則8年間とされていますが、今回の見直しにより、最大16年間に延長することが可能となりました。(例えば8年目に主伐があって収入があっても、その後再造林費がかさんで赤字になれば、プロジェクト成立(赤字でなければクレジット不成立、次項追加性参照))

(2)方法論FO-001(森林経営活動)の見直し
  (ア)追加性要件

あるプロジェクトがクレジットになる要件の一つに、本制度がなくてもやっていた事業を排除する、「追加性」という考えがあります。

例えば、間伐をやったから森林吸収量が増えたんだけど、その間伐が儲かるから実施したのなら、その「間伐実施プロジェクト」にクレジットはは成立しない。(赤字が条件)

右の図は27回運営員会資料にあった、ものですが、今までの規定では、プロジェクト期間内に経費が収入を上回り「赤字」であることを証明しなければならなかったけれど、①プロジェクト期間内に主伐がない場合、②主伐があっても再造林がされる場合、はその証明をする必要がなるなったようです。(ピンク色の部分)

  (イ)主伐・再造林に係る排出量・吸収量の算定方法の見直し

 これまでは、吸収量の算定に当たって主伐は「排出」として計上することとされていましたが、今回の改定により、主伐後の伐採跡地に再造林を実施した場合は、植栽樹種が標準伐期齢等に達した時点の炭素蓄積を主伐による排出計上量から控除することが可能となりました。

左の図参照

 (ウ)伐採木材の炭素固定量のクレジット化

ままで、伐採に由来する木材の炭素固定量は森林の吸収量の評価対象外となっていました。

今回の改定で、プロジェクト実施地で生産した原木の出荷量をもとに、伐採木材が永続的とみなされる期間(90年以上)利用される分の炭素固定量を推計(90年たったら腐朽したり廃棄される分を除き)し、プロジェクト全体の森林吸収量の一部として算定対象に追加することができるようになりました。(右の図)

 (エ)プロジェクト対象区域内の天然生林の吸収量算定対象への追加

いままで、育成林のみが吸収量の算定対象だったけれど、プロジェクト区域(森林経営計画作成区域)内の保安林等に指定された天然生林で、森林の保護に係る活動(森林病害虫の駆除・予防、鳥獣害の防止、火災予防等)が実施された区域を算定対象に追加することができるようになりました。

 (オ)1990年以降の施業履歴の確認

1990年以降に間伐等の森林施業を実施した森林が吸収量の算定対象。

その証明として施業履歴を書類等で確認していましたが、伐根等の痕跡や施業時期が判読可能な空中写真(上左の図)等でも確認が可能となりました。

(3)方法論FO-003(再造林活動)の新設

 造林未済地を対象として森林の土地の所有者以外の者又は再造林のために無立木地を取得した者が再造林を行う場合に、当該森林が最大16年生に達するまでの吸収量を認証申請できる新たな方法論を作成されました。

(木の活用話、この先どうなるのかな?)

以上が概要ですが、(原動力を風力発電にしたといった)排出量系のプロジェクトにくらべて森林管理吸収量系プロジェクトは本当に吸収量がどうなっているのといったモニタリングが面倒で足かせになっている。その辺の負担を減らすいろいろな知恵が詰まった改定案ですが、どの程度原動力になるか?期待しましょう。

もう一点気になっていた木の利用の話はどうなったでしょう。上記の(2)(ウ)伐採木材の炭素固定量のクレジット化のように、伐採木材の話は方法論FO-001のクレジット量拡大という形で活用されました。

ただし、今後の木材利用の推進力を考えると、「本社の高層ビルを木造にしてカーボンニュートラルだ!」といった、川下の需要者にクレジットが付与される仕組み、新たな方法論の確立が、極めて重要だと思います。

その辺を含めて、第三回森林小委員会資料4「木材利用の炭素固定量をクレジット化するための制度要件に係る検討」、という資料に、検討過程の詳しい内容が記載されています。

18ページの本件結論部分だけを引用しますね。

(クレジットの付与先)
1. 木材利用の炭素固定について、川下(木材利用)へクレジットを付与する独立した方法論を策定するためには、制度設計を行う上での詳細ルールについて整理すべき課題が多く残されている。政策⽬的との適合性に関しても、川下へクレジットを付与する場合は、その対象とする活動が追加性を満たし(非住宅⼜は中高層住宅)、かつ、永続性を有する(100年間の建築寿命が確保されるもの)建築物に限られるため、クレジット制度は必ずしも木材需要を喚起するための有効な政策ツールとならない一方、川上へクレジットを付与する場合は、製材・合板用向けの原木出荷量の増大に対してインセンティブを与えるツールとなるため、原木の安定供給という政策誘導目標との整合性・親和性が高い。海外のクレジット制度においても、木材の炭素固定を森林経営における吸収量の算定の⼀部として含めている例は存在するが、木材の炭素固定の増加量を独立した方法論として制度化している例は存在しない。
2. 以上の検討結果を踏まえ、現行の森林経営活動方法論(FO-001)を改正する形で、川上(林業経営)へクレジットを付与する仕組みを導入する。
3. ただし、川下へクレジットを付与する手法を検討すべきという意見が引き続きあることも踏まえ、今後、本日の森林小委員会で提示した課題や論点に対して適切に整理された形で新規方法論が提案された場合は、J-クレジット制度運営委員会において検討を行い、それが適当と認められる場合は、新たな方法論として承認を行う。その際にダブルカウント等の可能性等の問題が避けられない場合は、改めて森林経営活動方法論も含めて制度の見直しを行う
4. 森林小委員会で検討したテーマは木材製品の炭素固定量(の増加量)をクレジットとして認証する上での制度化のあり方であるが、中高層建築物を対象とするプロジェクトの方法論を考えるのであれば、その算定対象は木材の炭素固定効果に限定するのではなく、資材代替や省エネ等も含め、あらゆる排出削減ポテンシャルを総合的に評価していく方が妥当と指摘されている点も重要なポイントであり、より俯瞰的な検討も今後の課題。 

今後の宿題ですね。(アンダーラインは藤原の作成)

上記も含めて、第三回森林小委員会資料4「木材利用の炭素固定量をクレジット化するための制度要件に係る検討」の内容をもう少し勉強してまいります。

kokunai4-61<Jcrekaitei>

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木質バイオマスの問題の所在ー勉強部屋Zoomセミナー22年度第1回報告(2022/8/15)

7月30日勉強部屋Zoomセミナー第1回を、ゲストに、元林野庁長官、(一社)日本木質バイオマスエネルギー協会JWBA顧問加藤鐵夫氏をむかえて開催。「木質バイオマスのカーボンニュートラルに関する問題」につい意見交換をしました。

(開催のいきさつ)

再生可能エネルギーを原料にした電力の拡大を図るため、再生可能電力を消費者に高く買ってもらうという固定価格買取制度FITシステム

その中に木質バイオマス原料を組み込んだのはよいんですが、海外からの輸入原料に頼る発電所がたくさん認定され、バイオマス燃料を燃焼させた場合に発生する二酸化炭素の評価方法など、議論が錯綜し、石炭より悪い輸入木質バイオマス??

加藤さんは、議論の整理が必要だ!としてバイオマスエネルギー協会のサイトに「木質バイオマスエネルギー利用に関する懐疑論について」といった論説を公表してきました。

今回は、その内容を説明いただいて、議論をしたいとう趣旨でゲスト出演をお願いし、実現しました。

加藤さんから、「欧州のある報告書に記載している数字(24種類の木質バイオマス供給例のうちうまくいっているのは5種類)が一人歩きしているがその内容がどんなものなのか紹介してほしい」、というリクエストがあり、すこし勉強してプレゼンしました。

ということで、今回のセミナーでは、加藤さんの「木質バイオマスの懐疑論について」、藤原の「EUにおける木質バイオマスを利用したエネルギー生産(Joint Research Center (JRC)、EU共同研究センターの報告)について」という二つのプレゼンがあったのですが、後者は別途説明する(「懐疑論の元になった報告書?EUにおけるエネルギ―生産のための木質バイオマス利用」)として、ゲストのプレゼンとそれに関する議論を中心に、ご紹介します。

(木質バイオマス懐疑論について)

加藤さんのプレゼンデータはこちらにおいておきますが、藤原の責任でつまみ食いします。

「懐疑論」が広まっている中で、JWBAで意見を言うべきということになり、情報発信は始まる

論点は二つある。
木質バイオマスを燃やすことが気候変動対策に本当になっているの?(基本的な問題点に関する本質論
燃料の生産過程、エネルギー効率、輸入バイオマスの問題点などおかしいのでないか?(具体的な作業過程での問題点=実体論
ここでは、主として本質論をとりあつかいたい。
①CO2が増えたのは化石資源をつかったから、②産業革命前は地上部で循環し、木材を燃やしてきたが問題は起こらなかった
懐疑論のサンプルとして、グローバルネット誌3月号にのった、「石炭より悪い輸入木質バイオマス~森林保全による炭素固定の重要性」(プリンストン大学 上級研究員ティモシー・D・サーチンジャーさん)(以下「サーチンジャー記事」といいます)を取り上げます。
タイトルからわかるように、「石炭より悪い」というのだから、本質論を議論している趣旨だが、
その次に「輸入木質バイオマス」という言葉があり、輸入に目をむけた実体論になっている
整理が必要!
サーチンジャー記事は「2050年」という特定な時点を念頭において、議論していることが大切なポイント

「木質バイオマスの燃焼により生じるCO2は、伐採された森林が復元し、それを吸収する、が、そのためには、長期間、例えば50年以上の時間が必要。」

間に合わない!!
上記に関する加藤コメント以下の通り

「日本・各国ともに、森林の発揮すべき多様な機能を持続させるために、一定地域を単位として森林計画が樹立」している
「このような「面的に森林を捉える」考え方」が大切」

「面的に捉えられる成長量の範囲内で伐採されるとすれば、面的な範囲にある他の森林により吸収されている」

その意味では、吸収に大きな時間的なずれはない!
また、サーチンジャー記事は、同じく「2050年においてCO2排出量を実質ゼロにしようとしていること」から、

『森林を伐採しなければ森林は成長しCO2を吸収するので2050年には、CO2をより吸収する。

つまり、森林は伐採せずそのまま放置して、吸収源として取り扱うことが2050年のCO2排出量の削減にはベスト。

という主張になる
上記に関する加藤コメント以下の通り
一定の成長期間を過ぎ成熟期を迎えると加齢とともに吸収量が減少→最終的に、成長しない、成長量が見込めない状態になる
そのため、森林管理としての間伐や、森林の若返りとしての主伐を実施が必要!
そのうえ、伐採された林木が、木材として建築材になり、木造建築になれば、それ自体で CO2の貯蔵が継続されるとともに、それが鉄やコンクリートの使用を減少させるとすれば、それらによるCO2の排出を抑制する効果を発揮する

伐採すると良いことがたくさん!!
ここまでをまとめてみると

【基本論では】
木質バイオマス利用に関する議論は、①長期的な時間軸と ②面的広がりを意識して論じるべき
その視点で見れば、エネルギー利用も含む木材利用は、大気中のCO2の増加につながらず、更には、化石資源の利用から発生するCO2の発生を抑制する代替効果を有するものでポジティブ(良いこと)であるはず

【実体論では】
森林の取り扱いで、三つの点が大切(左の図)
基本論をはなれて・・・

木質バイオマス燃料を供給する過程の加工・流通等には、軽油やガソリン等のエネルギーが使用され、各段階でCO2を排出

これら化石資源の利用は極力抑制することが必要

LCAにおけるGHG排出量の問題: 化石資源の利用や再生可能エネルギー等の全てに関わる問題であり、できるだけデータを公開し、国民が判断できるようにしていくべき!!
加藤コメント全体のまとめ

地球温暖化防止は、大量生産、大量消費を前提とし、効率が優先されるこれまでの大都市集中型、エネルギー多消費型の社会自体を変える必要
その対極となる分散型社会に変革していくためにはそれぞれの地域で木質バイオマスエネルギー利用が推進されるべき

木質バイオマスエネルギー利用は、各地域にある資源である木材を使うとともに、エネルギーの自立化、地域経済化を図ることを促し、燃料の生産供給、利用システムの運営、森林の整備等として雇用の場にもなる
 
適切な木質バイオマスエネルギー利用の推進を図るべき

(議論をするときの分かりやすい注意点)

基本論議と実体論は分けて議論をしましょうね!
基本論議をするときは、長期的な時間軸と面的な広がりを意識することが大切!!

何億年かけて堆積してきた化石資源を取り出して排出するCO2の話と、今後吸収される木質バイオマス燃焼ののCO2が、2050年カーボンニュートラルという短期決戦・非常事態認識で、混乱が生じているので、時間軸をしっかりして議論しましょうね。

分かりやすい話でした。

が、気になる点も。時間軸に対して、面的な広がりの話は、少しわかりにくかったです。

「面的に捉えられる成長量の範囲内で伐採されるとすれば、面的な範囲にある他の森林により吸収されている」ので、吸収に大きな時間的なずれはない?

どこまでの広さの面的な吸収を考えるのが合理的なのか?森林計画の策定区域、流域、国、地球?

加藤さんからは、「森林管理をどの範囲で考えるかは森林計画学の需要なテーマ。我が国では流域がベースとなっている。それぞれの国や地域で(森林関係者が)考えていること」と説明がありました。

加藤さんのような森林関係者の思いと、地球上の危機管理をどうしていったら、という、その他の多くの人たちの思いが、すれちがっている、面があるかもしれませんね。(回収期間のはなしは、先ほどふれた欧州の報告書に関係するので、別途報告→「懐疑論の元になった報告書?EUにおけるエネルギ―生産のための木質バイオマス利用」)

いずれにしても、加藤さんが言われるように、基本論議と実体論議を二つにわけて、しっかり議論していきたいと思います

(原料供給過程のGHGと輸入バイオマス)

トークディスカッションタイムで、加藤さんのプレゼンの最後の方にある、二つの大切なテーマについて聞きました。

一つはLCAにおけるGHGの排出量問題。バイオマス燃料の供給過程でGHGがでるのは特に輸入バイオマスの問題点で、ウッドマイルズフォーラムなどをベースで活動してきた私にとって、近くのバイオマスは大切な分野で、いままでの追いかけてきました。「バイオマス・バイオ燃料の持続可能性」(2008/2/10)

いよいよ日本のFIT制度も、「それぞれの行為でGHGの発生がどのようになっているのかを 明らかにし、それらによるGHG発生を規制していくこと」になってきましたという説明。大切な取組なんで頑張ってください!

この話は輸入バイオマス問題の重要な視点で、輸入だから駄目だとは言えない(本質論)、輸入問題にどんな問題があるという議論(実体論)をしていかなければならない、という説明が。

関連して、JWBAが昨年発表した、大切な報告書「木質バイオマス燃料利用環境評価・効率化調査報告書 2021年度」紹介がありました。

(熱利用の方向は)

それから、最後のスライドの、熱利用の方向性について、ご質問すると・・・
「温水利用について言えば、いまよく使われている石油ボイラーを木質バイオマスボイラーに置き換えるだけでは、うまくいかない。技術基準を明らかにする事が必要で、JWBAで今回マニュアルを作成した。」という説明。

近日中に公開されるんだそうです。お楽しみに。

そこで、これもふくめてJWBAでは熱に関する議論するプラットフォームなど、を作っていくんだそうです。

二つとも、JWBAの活動の紹介になりました。

(会場からの質問)

皆さんの質問に答えて、①小型バイオマスは燃料の質の問題がクリアしなければ、②国産材バイオマス燃料の供給能力の見通し、をどう公表していくのか、③林業のGHG排出の把握など、全部加藤さんに答えていただきました。

いただいた、質問リストは「勉強部屋22年度Zoomセミナー第1回Q&A」に掲載しました

(森未来と連携)

今回から素晴らしい内容を多くの方の共有できるように、持続可能な森づくり向けたビジネスネットワーク構築を進めている株式会社森未来さんと、共催企画としました。

zoomの設定とか、皆さんへの案内、アンケートの回収など、大変お世話になりました。

持続可能な森林づくりをメインのコンセプトにした、ビジネルの可能性はどんな方向?興味深いですね。

今後ともよろしくお願いします

(関連ページご案内)

質疑によせられた項目を掲載します。「勉強部屋22年度Zoomセミナー第1回Q&A」
それから、私のプレゼンの紹介ページ「懐疑論の元になった報告書?EUにおけるエネルギ―生産のための木質バイオマス利用」こちらも見てくださいね

 konosaito3-1<zoommt22-1strepo>

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 懐疑論の元になった報告書?EUにおけるエネルギ―生産のための木質バイオマス利用(2022/8/15)  

7月30日勉強部屋Zoomセミナー第1回を、ゲストに、元林野庁長官、(一社)日本木質バイオマスエネルギー協会JWBA顧問加藤鐡夫氏をむかえて開催。「木質バイオマスのカーボンニュートラルに関する問題」につい意見交換をしました。

その過程で私の方でも、欧州の報告書の内容を紹介してほしい、というリクエストがあり、すこし勉強してプレゼンしました。

タイトルは「EUにおける木質バイオマスを利用したエネルギー生産(Joint Research Center (JRC)、EU共同研究センターの報告)について」

バイオマスエネルギー問題は「やっかいな問題」と言われていますが、この言葉を初めて使った文献。

ご紹介しますね

この報告書は懐疑論の発信源なのかな?

日経新聞2021年12月28日「バイオ燃料、原料調達に懸念 排出減巡り異論も」欧州連合(EU)の欧州委員会の委託を受けた合同調査センター(JRC)が今年に入って公表したリポートはエネルギー業界に衝撃を与えた・・・
白井裕子:環境への悪影響を孕むバイオマスの「大型発電」(2022年5月)欧州委員会のJRC報告書では、バイオマスエネルギーをカーボンニュートラルとみなすのは正しくないと示唆している
・・・the governance of bioenergy sustainability can thus safely be dubbed ‘a wicked problem’.
(・・・このように)バイオマスエネルギーの持続可能性の確保は、「やっかいな問題」といって差支えないだろう。

我々(科学者)は、政策選択枝の誠実な仲介者として、問題や可能な解決策を示す証拠を収集し統合することはできるが、「正しい」政策手段や従うべき「正しい」政策原則を特定することはできない。なぜなら、これらの問題は政治分野の領域。(皆さん、この報告書を読んでしっかり判断してくださいね・・・)
縦軸は、Carbon Emissions Mitigation(炭素の排出と緩和(回収))(上が短期に回収される良い例、下が回収が長期間にわたる悪い例)
横軸は、Biodiversity & Ecosystems' Condisitons Assessment(生物多様性と生態系条件の評価)(左が生態系管理に貢献する良い例、右が生態系を悪化させる悪い例)
そこにバイオマスエネルギーを供給(を強化)する24通り施策を配置してみました。
縦軸の回収期間て何?

左の図は森林を伐採した場合、右の図は伐採跡地の残渣を回収する場合

右の図で説明しますね
伐採跡地の残渣を回収して燃焼させてエネルギー利用(化石資源の燃焼を節約)した場合の大気中のCO2の量(a)、
伐採残渣を森林内に置き(長時間で腐朽させる)化石資源を利用してエネルギー利用した時(b)と比較すると?
残渣が放置された場合の腐朽のスピードによって評価が違う
これが回収期間です
24の施策ってどんなもの?

●が伐採地に残る残渣を回収する方法(9通り)
が植林(11通り)
が人工林への転換(4通り)
合計24通り
  さて、●の9通りってどんな場合を想定しているの?

広い集めるのが、①林地に置かれている大きな木片なのか、②小さな木片なのか、③切り株なのかの3通り
そして、それぞれを、①景観を超える規模で大規模(above landscape threshold)に収集除去するのか、②それほど大規模にしないのか(below landscape threshold)
植林の11通りってどんな場合を想定しているの?

植林の対象地が、①自然の草地、②人為的ヒースランド(大昔森林だったが、人為的に農耕牧畜によって森林にならずにヒースがはえる土地になった)、③先行農用地、の3通り
植林の方法が、①一樹種、②複数の樹種、③他の人工林と連携した樹種、③天然林の誘導、4通り
人工林への転換(4通り)はどんな場合を想定しているの?

対象が①原生林か、②天然再生林なのかの二通り
樹種による3通り
バイオマス燃料をつかってエネルギーを生産をすると、燃料の集め方によって、生物多様性に悪影響をもたらす。(自然の草地を植林した場合など)

バイオマス燃料をつかってエネルギーを生産しても、同じエネルギーを化石資源で生産した時に比べて、大気中の二酸化炭素が、長い間へらない。(森林内にあって長い間腐朽しない「大きな伐採残材」を集めて燃やした場合など)
まとめ(報告書の内容と示唆されること)
(欧州で)考えうる選択肢を示して効果がどうかを検討しているもので、「カーボンニュートラルになるのは5/24しかない」という議論にならないように注意が必要
バイオマスエネルギーを利用を推進して、化石資源の燃料を代替することは大切な事業だが、以下の二つのリスクを慎重に検討して、バイオマスの供給方法を探る必要がある。
①供給過程で生物多様性など環境への配慮ができているか(持続可能な供給体制)?②バイオマスを化石資源に代替して燃焼させたときに、その瞬間には化石資源燃焼よりたくさんのCO2が放出されるが、最終的には増加分は回収される。バイオマス供給形態で回収速度が違うので・・・、CO2が回収されるタイミングが早くならないか?
可能な選択肢を機械的に取り出し選択肢を示して検討しているので、具体的な可能性を欧州でない日本の現場の条件も踏まえて柔軟に検討していこう

(参考情報源)

元の文献は、ネット上のこちらにありますJRC Science for Policy Report- The use of woody biomass for energy production in the EU

相川 高信 自然エネルギー財団 上級研究員 「やっかいな問題」として森林バイオエネルギー問題を捉える-JRCレポートを読み解く

 konosaito3-9<zoommt22-1stEU>

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「持続可能な森林経営のための勉強部屋22年度Zoomセミナー第2回御案内(2022/6/15)

第2回持続可能な森林経営のための勉強部屋Zoomセミナー

タイトル:木質バイオマスエネルギー利用の抱える課題と展望~輸入ペレットの問題と日本のバイオマス事業の展望を中心に~

ゲスト:(NPO法人)バイオマス産業社会ネットワーク泊みゆき理事長

日時:9月3日(土曜日)14時から

持続可能な森林フォーラムでは、皆さんとのコミュニケーションを双方向で深めていくため、ゲストをむかえて、Zoomセミナーを開催しています。

9月3日に開催の、今年度第2回目は、ゲストに、(NPO法人)バイオマス産業社会ネットワーク泊みゆき理事長をむかえ、前回にひきつづき、「木質バイオマスの利用に関する意見交換をさせていただくことになりました!!

バイオマス産業ネットワークBINは、1999年に、「間伐材や農業廃棄物などのバイオマス資源の社会的・生態的に適切な利用を促進することで、循環型社会の実現に資すること」を目的に設立された団体で、泊さんは設立発起人のひとりでリーダー。

輸入木質バイオマスなどに関する問題提起をされていて、私もウッドマイルズフォーラムなどの活動を通じて、かかわってきました。「バイオマス・バイオ燃料の持続可能性」(2008/2/10)木質バイオマス燃料の輸送距離の環境負荷の推定(バイオマス白書2008)

丁度木質バイオマス利用の懐疑論などが活発化している時点で、何のための木質バイオマス利用?という視点で、第一回に引き続き、議論を深めて行きたいです。

どうぞ皆さん、ご参加下さい。

参加はこちらからどうぞ→参加ご希望の方はこちらから御連絡ください

素晴らしい内容を多くの方の共有できるように、持続可能な森づくり向けたビジネスネットワーク構築を進めている株式会社森未来さんと、共催企画としています。

 konosaito3-7<zoommt22-2st>

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 「地球は訴える」(ある外務官僚OBの回想録ーの中のITTO本部誘致過程など(2022/8/15)

日本の森林政策を森林外交史といった視点で検討する機会があり、いままでご報告をしてきました。

日本の「森林外交」と国際ガバナンスーガバナンスのグローバル化の次の展開の中での森林の役割(2018/2/18)_日本の森林外交史ーアジアのSDGsの発展のためになるか(2018/12/22

最近そのプロジェクトの中で、赤尾信敏氏(1993)「地球を訴える」体験的環境外交論という本を読む機会がありました。

 目次ー外交課題としてのエコロジー
1 高加速する地球環境の悪化
2 地球サミットは訴える
3 地球温暖化防止戦略
4 「生物の多様性」の保全と利用
5 オゾン層破壊阻止への挑戦
6 熱帯林消失の悪影響・悪循環
7 国際的枠組みの改善・構築
8 世界の環境問題とわが国の役割

ご本人は、地球サミットン準備過程で外務省の地球環境担当大使として首席代表などをつとめた方です。

右が目次ですが、第6章は森林の話、地球サミット準備の先進国と途上国の対立構造のなかで、森林条約でなく原則声明にした過程での日本のイニシアティブでどのように橋渡しをしたかなど、具体的な話がとても面白いです。

とりわけ、ITTOの本部誘致の過程で、アムステルダムと横浜が最後まで対立しアムステルダムに決まりそうになったのに逆転の決定。そこには、ある重要な国への根回し・・・

ご本人の了解をえて、一部のコピーをダウンロードできるようにしています→。

関連して丁度、林野庁の担当部局で作成中だった「ITTO コンセプト発足の経緯について」という作成作業に丁度ぴったりの話題だったようです。

ITTOという途上国と先進国の調整、地球環境問題課題という重要な使命を帯びた国際機関の最近の動向はどうなっているか、フォローしていきます

boueki1-18<akaobon>

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 Jクレジット制度における木材利用の二酸化炭素クレジット化についてー意見提出しました(2022/8/15)

温室効果ガスの排出削減量や吸収量をクレジットとして国が認定する、Jクレジット制度について、森林分野のクレジットが伸び悩み、その拡大をはかるため、政府内部でJ-クレジット森林小委員会が設置され、検討が進められてきました。

その中で、ずーと気になっていた木材利用の二酸化炭素クレジット化についての、意見募集があったので(7月19日締切)(そのページに行きつかないので(8月9日現在)募集の呼びかけ文書を置いておきます)、そく、意見提出をしました。

対象となる文書「Jークレジット制度における木材利用の炭素固定量のクレジット化」藤原敬提出意見220717

概要を説明します

区分 対象文書の記載内容 左の行政の課題認識  コメントの方向性 
 (1) F0-001 (森林経営活動)方法論の見直し
   対象となる文書  F0-001 (森林経営活動)方法論 森林吸収量のインベントリ報告では、伐採木材製品(HWP)を森林の炭素プールの一つとして扱っているが、Jークレジット制度においては、生体バイオマスのみを算定対象としており、プロジェクト実施地から生産された木材製品中の炭素固定量については、吸収量として評価する仕組みとはなっていない。 現行の方法論F0-001が、主伐即排出を前提にした不自然な形態なので、伐採後の木材の利用形態を念頭において固定量を推定し、方法論の吸収量の算定を拡大することは、大切な改正。 ただ、想定されるクレジット付与先が川上(林業)と川下(需要者)の二つが想定される中で、前者のみが対象となっているが、後者を対象とした方法論を是非検討いただきたい。
  改訂の内容  プロジェクト実施地から製材用及び合板用として出荷される伐採木材(主伐材・間伐材)の炭素固定量のうち、永続的とみなされる期間にわたって固定され続ける炭素固定量を算定対象に追加    伐採された木材が市場に出荷された段階で、どのように利用されるかは不明なため、保守的に慎重に長期にわたる固定量を推定するという考え方は納得できる。
ただ、それを前提にしても、製材と合板用に出荷される丸太だけが対象とするのは不適切でないだろうか。統計上把握可能な出荷先の中で、「その他」、とか「チップ用」に出荷されるものの中で、パーティクルボードとかチップボードなど、建築材料に加工される可能性のある木材量の推定が必要だと思う。 
     建築用、非建築用にわけて、90年度の残存率を数値の基礎とする  
他の方法論の見直し
  政策目的との整合性 川下の方法論を作成しない (様々な制約から)建築物に限られるため、クレジット制度は必ずしも木材需要を喚起するための有効な政策ツールとならない(のではないか) しかし、木材需要を喚起するには、消費者・需要者、特に大手の企業の木材需要の認識を転換することが重要である。環境パフォーマンスデータの開示などで対外的に自社の社会的・環境的貢献をアピールする道を探っている企業が、自社のシンボルとなる本社ビルなどの木材利用についてJクレジットの認定をうけることがあれば、その量にかかわらす、極めて重要な木材利用推進の契機となる可能性がある。
  永続性の担保 建築材料等として利用された木材製品の永続性の確保までは政策的に担保することは困難 永続性を100年間という期間で考えた場合、それを担保することは工夫がいるが、建築関係者の中でも建築物の永続性を強調する動きもあり(金田正夫「省エネでなく省資源」など)、100年を担保する方法、仮に当該建築物が80年後に建替えられた場合、木質部材の再利用の確認など様々な方法を担保することができるのでないか?建築関係者とともに検討進めていただきたい。
  NDCとの関係 国産材と輸入材との扱いを差別化することが困難となり、NDCに貢献しないもの(輸入材由来の木材製品)をクレジットの算定対象に含めることとなることにも留意が必要 輸入材を100年間固定するというプロジェクトがあったとすると、もちろん日本のNDCには貢献しないが、グローバルな目的に貢献する、世界へのアピールになるだろう。

kokunai4-61<Jcremokuzai>

今月もカーボンニュートラル・・・ー勉強部屋ニュース276編集ばなし(2022/8/15)

フロントページは、Jクレジットの制度改訂。どの程度の創出拡大へのインパクトがある改訂なのか分かりませんが、委員会で議論された中身が詳しく掲載された情報がネット上に掲載され、これが財産ですね。

Jクレジットというマーケットを循環社会形成に引き込む重要なツールが、木材社会の形成に役立つように、駆動力となるユーザーにどの程度アピールできるのか、今後の課題がたくさん詰まっていると思います。

7月30日の今年度第一回ZOOMセミナー、50名ほどの参加者で無事?終了。

テーマは、FITという市民負担により地球環境問題にチャレンジしているシステム の中での「木質バイオマスエネルギーの利用発電」の課題でした。

「おじいさんは山に柴刈りに」というエネルギーの主体を木質バイオマスに依存した長く続いたカーボンニュートラルCNな循環社会が、化石資源エネルギーに依存する便利だけど大昔に固定されたCO2が大量に大気中に発散する非循環社会になったので・・・

再びCNな木材が主流となるCNな社会にならないか?という長期的な視点に立った素朴なビジョンが、2050年までという短期的な目標が設定されて混乱しています。

「長期的な視点をわすれずに、冷静に」というJWBA加藤さんのメッセージをうけて、9月3日第2回ももう一度バイオマスエネルギーをテーマにゲストに、バイオマス産業ネットワーク泊理事長をお招きしてやりますので、よろしく。

次号以降の予告、岸田政権の新資本主義と森林のガバナンス、木質バイオマス発電ーローカルな林業の可能性、、欧州の炭素国境調整措置の内容、2020年日本の森林吸収量について、土地は誰のもの・森林は誰のもの?ー所有権の相対化議論の行く末と森林

konosaito<hensyukouki>

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藤原敬 fujiwara.takashi1@gmail.com