ニュースレター No.098 2007年10月14日発行 (発行部数:1350部)

このレターは、「持続可能な森林経営のための勉強部屋」というHPの改訂にそっておおむね月に一回作成しています。

情報提供して いただいた方、配信の希望を寄せられた方、読んでいただきたいとこちら考えて いる方に配信しています。御意見をいただければ幸いです。 
                                                    藤原

目次
1 フロントページ:ポスト京都議定書と森林問題、バリ会合を前にした国政政治の動き(2007/10/14)
環境経済政策学会2007年大会コレクション(2007/10/14)
2 合法木材ナビから最近の話題(2007/10/14)
3. 森林と生活に関する世論調査2007(2007/10/14)

フロントページ:ポスト京都議定書と森林問題、バリ会合を前にした国際政治の動き(2007/9/16)

12月にインドネシアで気候変動枠組み条約第13回締約国会合が開催されるのを前に、9月に国連と米国政府が主催する2つの温暖化対策に関する国際会議が開催されました。

国連主催:気候変動に関するハイレベル会合「未来は私たちの手の中に」(9月24日)The Future in our Hands: Addressing the Leadership Challenge of Climate Change
(日本政府による概要と評価
気候変動枠組み条約サイト上の関連ページ
米国政府主催:エネルギー安全保障と気候変動に関する主要経済国会合(9月27日、28日)Major Economies Meeting on Energy Security and Climate Change
日本政府代表団の概要と評価米国政府のページ

それぞれの中で、森林問題が重要な問題として指摘されています。

米国政府の会議に出席したブッシュ大統領は演説の中で、熱帯林保全、違法伐採問題、国内森林保全への取組と三つのパラグラフをさいて森林問題に言及しました。
ブッシュ大統領の演説全文

また、国連の会合にあわせて、インドネシア、ブラジル、コンゴなど11カ国の熱帯林保有国の首脳が集まり、熱帯雨林諸国特別首脳会議が開催されたことが注目されます。

京都議定書の法的拘束力のある約束からはずれているこれらの国々が、「我々は森林の減少を緩和、阻止、反転させ、荒廃した森林を回復させ、持続可能な森林を達せいするためるために協力することを約束する」こと、「保全された森林について国際社会が特別の関心を持つことを要請する」こと、「京都議定書に続く議定書についての条約バリ締約国会合で森林について議論することを約束する」などについて合意しました。(こちらにプレスリリース


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環境経済政策学会2007年大会コレクション(2007/10/14)

10月7/8日彦根市の滋賀大学で表記大会が開催されました。今年の大会には残念ながら報告することができませんでしたが、このサイトの立ち上げの動機にかかる重要な学会であり、温暖化政策や、環境と貿易などでの最新の情報収集や、森林管理について森林学会関係者以外の研究動向など、興味があり、参加してきました。

プログラムとすべての報告要旨がこちらのサイトからダウンロードできます

この学会での報告の目玉は温暖化問題です。京都メカニズム、データ分析、排出権取引、ポスト2012、国内政策など、セッションが6つもあり、30以上の報告が並んでいます。国際的には森林問題がポスト2012の中で大きな議論になっていますが、森林を特別にターゲットにしたものはなし。排出量取引がホットな話題です。

環境経済政策分野の研究者が大勢森林を対象とした研究に取り組むことが行政と研究の発展にとっても重要だと思いますが、環境と貿易にセッションでおもしろい報告がありました

気のついた報告を一覧表にしてみました。
森林と森林政策の評価
持続可能な森林管理に必要な将来費用と、財源調達について 植村哲士 M11 水源基金から排出権取引までの多様な財源調達手段を検討
貿易と環境
欧米の経験からみるFTAの環境影響評価の役割と限界 林希一郎(名古屋大学) K21 米国カナダ、EUの対チリ協定のにおける環境アセスのできばえは
WTO貿易と環境に関する委員会の交渉 原嶋洋平(拓殖大学) K22 持続可能な森林から産出された木材の環境物品としての認定し、優先的に自由化措置などが議論
森林の持続可能性のための貿易政策 島本美保子(法政大学) K23 林産物貿易関税が持続可能な森林管理にとって、継続的に必要な政策手段であることを論証
森林保全インセンティヴを考慮した世界林産物貿易モデルの構築ー空間均衡モデルによる接近 持田亮(九州大学) K24 ある一定量の森林を各国で保全しなければならないときに必要は資金量を算出できるモデル
再生可能エネルギー
更新性資源ベースでの地域経済指標としてのエネルギー永続地帯 馬上丈司(千葉大学) H12 再生エネルギーで自給可能な地域を表示
バイオエタノール生産における環境負荷削減効果と地域経済効果の推計 林岳(農林水産政策研究所) H13 北海道十勝地域におけるプロジェクトの効果
バイオマスエネルギーを基軸とした地産地消のエネルギーーネットワーク構想に関する地域研究 横山孝雄(兵庫県立大学) H14 バイオマス変換のシステムの効率性比較
「グリーン熱証書」の木質バイオマスへの政策的な使用と評価 井筒耕平(環境エネルギー政策研究所) H23 再生可能エネルギー普及のツールとしての「グリーン熱証書」でのペレットストーブ普及事例
温暖化問題の基礎:排出権取引を中心として
日本政府によるカーボンクレジット活用策の評価:京都メカニズムクレジット取得事業と国内排出量取引制度を中心に 明日香壽川(東北大学) A12 現行の排出量取引制度の説明と比較
排出権CDM事業:供給独占への対応 為近英恵(大阪大学) A13 京都議定書の削減量の足りない分を旧ソ連から購入するというシナリオの問題点と回避策
なぜ日本で温暖化対策としてCap&Tradeが採用されないのか? 山口光恒(慶応大学) D11 EUや米国で導入されつつある、排出量の上限を決めた排出量取引が日本の風土に合わないといおう話
脱炭素社会に向けた国内排出量取引制度提案 諸富徹(一橋大学) D12 EUと米国の先例調査に基づく制度提案
自主参加型国内排出量取引制度の特徴、政策的意義とその評価 二宮康司 D13 環境省の補助金によるプロジェクトはミニでも貴重な経験
排出権取引は何をもたらすかーEUETSの本質 岡敏広(福井県立大学) D14 初期配分の難しさによって、制度の問題点が生まれている
東京都の温暖化対策施策の展開と国の施策への影響 山下紀明(環境エネルギー政策研究所) A34 各国で自治体の取組が、国の取組に影響を与える事例があるが、東京の場合は
炭素税による温暖化対策の不確実性に関する一考察 清水徹(麗澤大学) A35 炭素税によるCO2削減は可能であり、エネルギー価格の変動によって効果は変わる


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合法木材ナビから最近の話題(2007/10/14)

小生が関わっている違法伐採総合対策事業で作成している、合法木材ナビというウェブサイトから話題を2つ。

(合法木材製品事例紹介ページ)
合法性が証明された木材製品を消費者に届けるために、昨年2月林野庁のガイドラインが発表されましたが、そのオリジナルな仕組みが業界団体認定事業体による証明の連鎖です。業界団体が合法性を証明された原料から製造した木材製品を分別管理して証明出来る企業を認定し、認定された企業の連鎖により、エンドユーザーまで山の情報をつないでいこう、というものです。(事業全体の説明は合法木材ナビでどうぞ)。認定事業体は6000社をこえ、器作りはできたというこです。

政府調達以外に、民間のユーザーサイドも関心を示し合法性などが証明された木材・木材製品の優先調達の取組が始まっています。(こちら)
合法木材製品がほしいという川下の関係者からは、どこでそれが売っているかわからないという声がでてきています。
そこで、合法木材製品がどこで誰が売っているかを検索出来るページが合法木材ナビ上にできました。現在、登録受け付けが開始されたところです。(こちらから

(違法伐採対策推進国際セミナー2007Uin横浜)
ことしの2月に続いて第二弾の国際セミナーが12月3-4日横浜市みなとみらいで開催されます。
概要はこちらから

以下の三つのテーマを取り上げる予定です。

A 合法性、持続可能性を証明するための木材輸出国における取組
輸出国・輸出企業の取組の報告と討議(可能ならば地域ごとの分科会)

B 日本市場における合法性を証明した木材の調達とマーケッティング
合法木材ナビの製品事例紹介ページ、フェアウッドキャンペーン持続可能な木材マーケット促進事業、大手住宅メーカーなどの取組を紹介

C 北海道洞爺湖サミットに向けた世界と日本の合法木材調達への取組―信頼性と普及可能性のある合法木材証明システムを求めて
世界と日本の報告を踏まえたパネルディスカッション


国内外の参加者に対して、製品や取組のPRを行うブースも用意することとしています。
関心のある方はご連絡下さい。

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森林と生活に関する世論調査2007(2007/10/14)

内閣府が5月に実施した恒例の「森林と生活に関する世論調査」の調査結果が8月22日公表されました。こちらから

総理府時代からほぼ5年に一回行われている調査で、国民の森林への期待というほぼ同一項目についての時系列調査が有名です(こちら)。今までの調査結果との比較をしてみました。




1980年以来常に第1位を占めてきた、「山崩れや洪水などの災害を防止する働き」をおさえて、「二酸化炭素を吸収することにより,地球温暖化防止に貢献する働き」が第1位になったことが特徴です。

「あなたは、今後、森林のどのような働きを期待しますか。」として9の選択肢を示し、3つを選んでほしいというと、54パーセントの人が温暖化防止を選んだということです。

温暖化防止という項目は10年前には選択肢にもも入っていなかったことを考えると、劇的な変化ということができます。

災害防止が河川流域の関係者の問題であるのに対して、温暖化防止は全ての人の関心事、であり、森林管理についての議論の広がりが一挙に拡大したということでしょうが、身近な森林についての関心が薄れてきたということもいえるかもしれません。

Q4〔回答票7〕あなたは、今後、森林の働きに何を期待しますか。この中から3つまであげてください。(3M.A.)

結果 提示された項目
前々回 前回 今回
(12.9) (17.5) 14.6 (ア) 木材を生産する働き
(14.6) (14.4) 10.6 (イ) きのこや山菜などの林産物を生産する働き
(41.4) (41.6) 43.8 (ウ) 水資源を蓄える働き
(56.3) (49.9) 48.5 (エ) 山崩れや洪水などの災害を防止する働き
(29.9) (31.3) 38.8 (オ) 大気を浄化したり、騒音をやわらげる働き
(39.1) (42.3) 54.2 (カ) 二酸化炭素を吸収することにより、地球温暖化防止に貢献する働き
(15.5) (26.4) 31.8 (キ) 心身の癒しや安らぎ、レクリェーションの場を提供する働き(注1)
(23.9) (18.7) 18.0 (ク) 自然に親しみ、森林と人とのかかわりを学ぶなど教育の場としての働き(注2)
(25.5) (23.1) 22.1 (ケ) 貴重な野生動植物の生息の場としての働き
(0.2) ( 0.3) 0.2     その他(          )
(3.9) ( 2.1) 1.9     特にない
(1.2) ( 1.0) 0.4     わからない
(注1)平成11年7月調査では,「保健休養などのレクリェーションの場を提供する働き」となっている。
(注2)平成11年7月調査では,「自然に親しむなど,野外における教育の場としての働き」となっている。

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最後までお読みいただきありがとうございました。

藤原敬 fujiwara@t.nifty.jp

 

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