ニュースレター No.096 2007年8月12日発行 (発行部数:1350部)

このレターは、「持続可能な森林経営のための勉強部屋」というHPの改訂にそっておおむね月に一回作成しています。

情報提供して いただいた方、配信の希望を寄せられた方、読んでいただきたいとこちら考えて いる方に配信しています。御意見をいただければ幸いです。 
                                                    藤原

目次
1 フロントページ:CASBEEすまい戸建<暫定版>によせて(2007/8/12)
2 参議院選挙と各党の森林林業政策(2007/8/12)
3. IPCC第四次報告書第三作業部会報告書(2007/8/12)

フロントページ:CASBEEすまい戸建<暫定版>によせて(その1)(2007/8/12)
建築物の環境負荷をわかりやすく表示することを目的として建築環境省エネルギー機構が開発している建築物総合環境性能評価システムCASBEEが戸建て住宅版を作成中ですが、7月19日暫定版が公開され8月2日まで意見募集が行われました。

昨年6月に試行版いらい作成中に2回の素案が公開されるのは、CASBEE他のバージョンに比べると異例の手続きであり、戸建て版についての反響が大きい証拠だと思います。
(CASBEEすまい(戸建)暫定版についてから全文がダウンロード出来ます)

CASBEEの全体は評価の対象を建築物の環境効率(BEE)という指数に統合する考えに立っており、下図に示す6の環境因子を分子側Q(建築物の環境品質・性能)と分母側L(建築物の外部環境負荷)に分類し、ΣQ/ΣLを住まいの環境性能効率としています。

このうち、木材や森林に関係する項目は以下に示すとおりです。特に住宅資材としての木材の環境的側面について重要なのは、Q3.4の「地域の山林から産出される木材資源の活用」、LR2.1の「持続可能な森林から産出された木材の利用」です。この点を見ていくと、「建築関係者の環境へのこだわり」という絶好の枠組みにも関わらず、森林や木材のサイドの主張が体系的に展開出来ていないというもどかしさを感じます。

大項目 中項目 採点項目など
建築物の環境品質・性能 Q1 室内環境を快適・健康・安心にする 1暑さ・寒さ
2健康と安全・安心
3明るさ
4静かさ
Q2 長く使い続ける
1長寿命に対する基本性能
2維持管理
3機能性
Q3 まちなみ・生態系を豊かにする 1まあちなみ・景観への配慮
2生物環境の創出 敷地内の緑化比率、生物の生息・生育への寄与
3地域の安全・安心
4地域の資源の活用と住文化の継承 地域の山林から産出される木材資源の活用
建築物の外部環境負荷 LR1 エネルギーと水を大切に使う 1建物の工夫で省エネ
2設備の性能で省エネ
3水の節約
4維持管理と運用の工夫
LR2 資源を大切に使いゴミを減らす 1省資源、廃棄物抑制に役立つ材料の採用 持続可能な森林から産出された木材の利用
2生産・施工段階における廃棄物削減
リサイクルの促進
LR3 地球・地域・周辺環境に配慮する 1地球温暖化への配慮 ライフサイクルCO2による評価
2地域環境への配慮 樹木緑地の保全、郷土種の採用
3周辺環境への配慮


1 持続可能な森林から産出された木材の取り扱い

この点についての記述は以下の通りです。

(P84)
LR2 資源を大切に使いゴミを減らす
1 省資源、廃棄物抑制に役立つ材料の採用
1. 構造躯体
1.1.1 木質系住宅

評価内容
木造軸組工法、2x4工法、木質パネル工法、木質ユニット工法等の木質系住宅の構造躯体に持続可能な森林から産出された木材がどの程度使用されているかを評価する

評価レベル
レベル 基準
レベル1 (該当するレベルなし)
レベル2 (該当するレベルなし)
レベル3 レベル4を満たさない
レベル4 構造躯体の過半に「持続可能な森林から産出された木材」が使用されている
レベル5 構造躯体の全てに「持続可能な森林から産出された木材」が使用されている

【加点条件】
その1,その2、それぞれの条件を満たすことで、レベルを最大2段階あげることができる。ただしあ、レベルが5を越える場合はレベル5として評価する。
その1 「木材・木材製品の合法性、持続可能性の証明のためのガイドライン」における「@森林認証制度およびCoC認証制度を活用する方法」、「A業界団体の自主的行動規範による方法」または「B個別事業者の独自の取組による方法」によって合法性、持続可能性が証明出来る木材を過半に使用している場合は、評価を1レベル上げる。ただし、AおよびBにおいても、第三者認証など公平性が保たれていることとする。
その2 既存建築躯体等のリユース材が構造躯体の一部に使用されている場合は評価を1レベル、過半に使用されている場合は評価を2レベル上げる

(P80)
【持続可能な森林から産出された木材】
持続可能な森林から木材の対象範囲は以下を指す。(型枠は評価に含めない)
間伐材
持続可能な森林経営が営まれている森林から産出された木材(証明方法は、「木材・木材製品の合法性、持続可能性の証明のためのガイドライン」に準拠する。)
日本国内から産出された針葉樹材
なお、日本では、諸外国のような持続可能な林業が行われている森林を原産地と証明する制度は普及段階にあり、スタンプの極印などにより明示された木材の流通はわずかである。そこで、現実的には、間伐材や、通常は持続可能な森林で生産されていると推測されるスギ材などの針葉樹材を持続可能な森林から産出された木材として扱う。平成12年建告第1452号(木材の基準強度を定める県)にリストアップされている針葉樹の内、以下のように日本国内で産出されたものは持続可能な森林から伐採されていると考えて概ねよい。
また、この定義に合致する木材を原料とする集成材、合板等の木質材料も「持続可能な森林から産出された木材」と考えて良い。
<日本国内から産出された針葉樹の例>
あかまつ、からまつ、ひば、ひのき、えぞまつ、とどまつ、すぎ

このほかP81からP83に、森林認証制度や「木材・木材製品の合法性、持続可能性の証明のためのガイドライン」についての解説が当てられています。

昨年発表された「木材・木材製品の合法性、持続可能性の証明のためのガイドライン」(以下ガイドラインと呼ぶ)が大きな位置を占めているのは現時点で大切なことです。
その上で、ガイドラインに基づいて証明された「持続可能な森林から産出された木材」が、若干不明確になっていることが、いろんな波紋を投げかけています。

(ガイドラインによる「持続可能な森林」から産出された木材)

ガイドラインでは「持続可能な森林経営の行われている森林を第三者が評価・認証」している森林としてFSC、SGECなどの制度による認証森林を例示しています。
また、業界団体の認定を得て事業者が行う証明方法としては、伐採段階で、伐採業者が原木の伐採箇所を記載するとともに、「原木が持続可能な森林経営が営まれている森林から産出されたものである旨を証明書に記載する」ことを証明の連鎖の出発点とするとしていますが、何が持続可能な森林経営なのか明確な定義を示していません。

他方現在国有林材や都道府県有林材の一部が持続可能な森林経営が営まれていると宣言して販売されているので、それらの木材は「持続可能な森林から産出された木材」だとして業界団体の認定事業者によって流通している可能性があります。

(「日本国内から産出された針葉樹」の持続可能性)


そのような宙ぶらりんの実態を反映した記述が「日本国内から産出された針葉樹材」を持続可能な森林より産出した木材とするという部分です。第三者による明解な持続可能な森林から産出した木材が「わずかである」ため、「現実的な」対応として次善の策が提案されているものです。

この記述につは、賛否両論のあるところでしょう。国内の林業関係者にとってはメリットの多いものですし、また伐採された森林が環境に負荷を与えている程度や識別の可能性などを考慮すれば「国産針葉樹材」を抜き出して持続可能とする記述は一つの知恵といって良いかもしれません。

ただし、持続可能な森林の国際的な議論が地球サミット以来積み重ねられ、森林の状況の他にマネジメントの状況を評価するというコンセンサスになっていることを考慮すると、ある地域に生育する特定の樹種を持続可能だという技術基準に同意することはなかなか勇気のいることです。

また、この記述については、@「ISO の環境ラベルの一般原則 <ISO14020(JIS Q 14020)>」などが要求する内外無差別(同第二原則)の関係、A最近問題になっている再造林放棄地など国内の森林の持続可能性についての指摘がされている(九州・四国等における再造林放棄地の対策に関する質問主意書同答弁書)など、いくつかの問題点を指摘することができます。

(林業サイドからの明確なメッセージが必要)

CASBEEの当該部分の記述は森林認証材が流通が未だ限定的な現状から出発していますが、@持続可能な森林経営の国内外の森林への評価、A合法性や持続可能性を証明する取組の現状など総合的に検討した上で、林業・木材産業の分野での取組を一歩前に進めるというメッセージとして重要な意味を持っています。

CASBEE事務局と林業関係者の十分な連携の下に、合法性を証明した木材を供給する努力を評価しながら、持続可能な森林経営についての明確な定義を明確にした、明確なメッセージが発信される必要があると思います。

2 地域の山林から産出される木材資源の活用
以下次号につづく


kokunai3-32<CASBEEzan>

参議院選挙と各党の森林林業政策(2007/8/12)

参議院選挙結果の原因がいろいろ議論されていますが、「民主党の農業政策が一定の役割を果たした」との指摘があります。(農家、民主党案に一定の理解 自民“牙城”の農業票不調 (共同通信)

選挙で政策が議論されるのは好ましいことです。ウェブ上の各党の政策一覧表

自由民主党 重点施策2007「美しい国をめざして」 P54 林業木材産業の再生、違法伐採対策
民主党 森と里の再生プラン
公明党 マニフェスト2007「勢いのある国づくり
共産党 2007年参院選 個別・分野別政策/くらしと経済
社民党 参議院選挙公約2007
国民新党 第21回参議院議員選挙 わが党の選挙公約

kokunai6-10<saninsen>

IPCC第四次報告書第三作業部会報告書2007/8/12

5月に公表されたIPCCの標記報告書は我が国の森林政策にも大きな影響を持つと考えらるので、森林関係の暫定訳を掲載します。

温暖化問題についての国際的な専門家が科学的な研究の収集、整理を行っている、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が、この春第4次評価報告書をとして公表しました。(環境省IPCC第四次報告書について

最近の日本の森林政策が気候変動条約の国際的枠組みの中で議論されることが多いので、森林林業関係者としても、この面での最新情報をしっかりとらえておく必要があるでしょう。

IPCCの報告書は三つの分科会によって作成され、第1作業部会は「自然科学的根拠」、第二作業部会は「影響、適応、脆弱性」、第三作業部会が「気候変動の緩和策」であり、森林政策にとって重要なのは第三部会報告書です。

第3作業部会報告書は政策担当者向け要約Climate Change 2007: Mitigation of Climate Change
Summary for Policymakersの原文がIPCCホームページの関連ページからダウンロード出来ます(こちらから
また、政策担当者向け要約の仮訳が財団法人地球産業文化研究所から提供されています(こちらから)

本文はフルテキストWORKING GROUP III FOURTH ASSESSMENT REPORT Pre-copy edit versionはIPCCホームページの関連ページからダウンロード出来ます。(こちらから
現在全体の日本語訳は提供されていませんが、第9章林業の要約部分の暫定訳を提供して頂きました。(林野庁研究保全課松本康裕専門官が、自身の訳を、報告書の共同執筆者の一人である森林総研の松本光朗室長にチェックして頂いたものです。両松本さんに深く御礼をいたします)

IPCC第4次評価報告書 第3作業部会報告書
「第九章 林業」Executive Summary(仮訳)

 注)本稿は、IPCCのウェブサイト※に公開されている第3作業部会終了時点の原稿の仮訳である。現在、IPCCは最終原稿の編集作業中であり、部分的な変更が生じることもあることに留意されたい。
    ※ http://www.mnp.nl/ipcc/pages_media/AR4-chapters.html

 地球規模において、20世紀の最後の10年間に、熱帯での森林減少と温帯及び亜寒帯の一部での森林の再成長は、それぞれ排出と吸収の主要な要素であった。しかしながら、熱帯での森林減少による炭素の損失が亜寒帯及び温帯での森林の拡大と木質バイオマスの蓄積によってどの程度相殺されるかは、現地での観測とトップダウンモデルによる推計とで意見の一致を見ていない。1990年代の森林減少による排出は、年間5.8ギガ二酸化炭素トンと推計されている。(意見の一致度は中程度、中程度の証拠)

 ボトムアップ式の地域的な研究によると、林業セクターの緩和策は、1二酸化炭素換算トン当たり100米ドルまでのコストにおいて、2030年に年間1.3〜4.2ギガ二酸化炭素換算トン(平均年間2.7ギガ二酸化炭素換算トン)の削減に貢献する経済ポテンシャルを持つ。地域間で大きな違いがあるが、その約50%(年間約1.6ギガ二酸化炭素トン)は1二酸化炭素換算トン当たり20米ドル以下のコストで達成され得る。地球規模のトップダウンモデルは、1二酸化炭素換算トン当たり100米ドルまたはそれ以下の炭素価格で、2030年に年間13.8ギガ二酸化炭素換算トンというはるかに高い緩和ポテンシャルを予測している。地域的な研究は、より詳細なデータを用いる傾向があり、より広い範囲の緩和策がレビューされている。このため、これらの研究は、より単純で統計による地球規模のモデルよりも、地域的な状況と制約をより正確に反映していると思われる。しかしながら、地域的な研究は、モデルの構造、範囲、分析アプローチ、及び仮定(ベースラインの仮定を含む。)により変動する。第11.3節のセクター間の比較においては、地域的な研究によるより控えめな推定が用いられている。地球規模の評価と地域的な評価とによる緩和ポテンシャル推定の相違を狭めるためには、さらなる研究が必要である。(意見の一致度は中程度、中程度の証拠)

 森林減少の削減、森林経営、新規植林及びアグロフォレストリーによる炭素緩和ポテンシャルは、方策を比較する活動、地域、システム境界、時間により大きく異なる。短期的には、森林減少の削減による炭素緩和の便益は、新規植林による便益よりも大きい。これは、2000〜2005年の森林面積の正味の損失が年間7.3百万haであるように、森林減少が最も重要な単独の排出源であることによる。林業セクターによる緩和策として、伐採木材製品中の炭素保持の拡大、製品の代替、バイオエネルギーのためのバイオマス生産などが挙げられる。これらの炭素は大気から除去されるとともに、木材、木質繊維、エネルギーといった社会的ニーズに応えるため利用できる。林業セクターからのバイオマスは、年間12〜17EJのエネルギー消費に貢献し得るが、その緩和ポテンシャルは、発電所の石炭や天然ガスがバイオマスに置き換えられたとすれば、年間およそ0.4〜4.4二酸化炭素ギガトンに相当する。(意見の一致度は中程度、中程度の証拠)

 長期的には、森林の炭素ストックを維持または増加させることを目的とした持続可能な森林経営の戦略は、森林から木材や木質繊維やエネルギーを持続的に生産しながら、持続的な緩和の最大の便益を生じさせるであろう。多くの緩和活動は前払いの投資を必要とし、その便益及び副次的便益は一般的に数年から数十年間生じる。森林減少と劣化の削減、新規植林、森林経営、アグロフォレストリー及びバイオエネルギーの複合的な効果は、現時点から2030年以降にかけて増加するポテンシャルを持つ。(意見の一致度は中程度、中程度の証拠)

 森林セクターにおいて地球規模の変動は炭素の緩和に影響を持つが、この影響の大きさと方向は今のところまだ確信を持って予測することはできない。地球規模の変動は、成長と分解の速度、自然撹乱の面積、タイプ及び強度、土地利用パターン、その他生態学的プロセスに影響を及ぼすかもしれない。(意見の一致度は中程度、中程度の証拠)

 林業は、適応と持続的開発との相乗効果をもたらすような低価格で地球規模の緩和のポートフォリオ(注:政策や処方箋の組み合わせ)に対し、非常に重要な貢献をし得る。この緩和ポテンシャルを達成するための方策と政策のひとまとまりのセットがこの章で明らかにされている。しかしながら、現在の制度的な状況と、実施のための政治的な意志の欠如の中で、この機会は失われつつあり、このポテンシャルのうち小さな部分しか現時点では実現されない結果となっている。(意見の一致度は高、多くの証拠)

 地球全体で、数億の家族が森林から得られる財やサービスに依存している。このことは、気候変動の緩和を目的とした森林セクターの活動を、持続的開発や地域コミュニティへの影響といったより広い文脈から評価することの重要性を強調している。林業セクターの緩和活動は、気候変動への適応、生物多様性の維持及び持続的開発の促進と共存するように設計することができる。環境的及び社会的な副次的便益とコストを、炭素に関する便益と比較することは、相殺効果と相乗効果を強調し、持続的開発の促進を助けるであろう。(意見の一致度は低、中程度の証拠)

 緩和ポテンシャルの実現は、制度面の能力、投資資本、技術の研究開発と移転とともに、適切な政策とインセンティブ、国際協力を必要とする。多くの地域では、これらの欠如が林業セクターでの緩和活動の実施の障壁となってきた。しかしながら、森林減少率の低減や大規模な新規植林プログラムの実施における地域的な成功といった注目すべき例外は存在する。炭素に関する便益の実施・モニタリング・報告のための技術開発において重要な進歩がなされてきたが、技術移転の障壁は残存している。(意見の一致度は高、多くの証拠)

 京都議定書の下で実施された林業セクターの緩和活動は、CDMを含め、今までのところ限られている。これらの活動を増やす機会として、手続きの簡素化、将来的な義務を超える確実性の開発、取引コストの削減、並びに潜在的な買い手、投資家及びプロジェクト参加者間の信頼と能力の構築などが挙げられる。(意見の一致度は高、中程度の証拠)

 森林セクターにおける緩和策については、迅速に開始し直ちに実施するために十分な科学的な理解が得られている。この章での評価は緩和の便益とコストの大きさについて残存する不確実性を明らかにしているが、緩和活動を実施するために必要な技術と知見は、今日、既に存在している。


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kokusai2-17<IPCC4_3bukai>

最後までお読みいただきありがとうございました。

藤原敬 fujiwara@t.nifty.jp