ニュースレター No.085 2006年9月10日発行 (発行部数:1300部)

このレターは、「持続可能な森林経営のための勉強部屋」というHPの改訂にそっておおむね月に一回作成しています。

情報提供して いただいた方、配信の希望を寄せられた方、読んでいただきたいとこちら考えて いる方に配信しています。御意見をいただければ幸いです。 
                                                    藤原

目次
1.
フロントページ:南東アラスカ温帯雨林ートンガス国有林とその周辺の旅2006/9/10)
2 南東アラスカの森林管理を巡って(1) トンガス国有林(2006/9/10)
3. 国際会議「世界の持続可能な森林経営の推進に向けて」の結果概要について2006/9/10)
4. ウッドマイルズ研究会ニュースレター木のみち12号(2006/9/10)

フロントページ:南東アラスカ温帯雨林ートンガス国有林とその周辺の旅(2006/9/10)

8月16日から25日までの10日間長期の休暇をとり、南東アラスカに行ってきました。国際温帯雨林ネットワークというNGOが呼びかけたアラスカ南東部の森林の視察ツアーに参加したものです。

船上で5泊のクルージングを含むスケジュールで、すばらしい大自然にふれる旅でしたが、米国の国有林の管理を巡るコンセンサスの過程、民間会社の管理する森林の行く末、日本や米国の調達関係者の対応と森林管理の関係など、盛りだくさ内容を含んだ10日間の旅を今後順次報告してゆきます。今回はとりあえずあらすじの報告となります。
スライドショウはこちら

(主催者側の思いと、参加した私の立場)

主催者である国際温帯雨林ネットワーク(WTRN)の活動と今回のツアーの背景については、今回同行された日本で事務局を担当している籾井さんが「WTRN(国際温帯雨林ネットワーク)のアラスカ温帯雨林キャンペーン」という解説をしているのでそちらを参考にして下さい。報告の副題には「国有林からは買わない、私有林にはFSCを求める」されています。同地域の開発が及んでいない大規模な森林地域の管理を巡って、WTRNは同地域の約8割を占めるトンガス国有林の管理計画に対する異議申し立て、民間会社の生産林を森林認証したうえでその製品を日本への販売促進、という
方針で臨んでおり、今回の旅行の中でその背景への理解を得たいというのが主催者側の思いです。

主催者である国際温帯雨林ネットワーク(WTRN)のホームページ(英語)
受け入れ団体であるAlaska Rainforest Canpaignのホームページ(英語)

主催者の思いが明確であり、The Aspenwood Foundationという機関からの助成をうけ、クルージングの費用を主催者持つ、という招待をうけるにあたって、当方の考え方を主催者側に、また誘ってくださった速水さんに明確に伝えておく必要がありました。

籾井様、速水様

温帯雨林ネットワークの目指すものが重要な点を含んでいることは十分に理解できますし、その活動には敬意を表するものです。
ただし、事情が十分に理解できない北米の森林管理の事案について、そして、たぶん関係者の意見が対立しているであろう事案についてネットワークの主張にたって何らかの活動をするということは、むずかしいです。
私としては、ネットワークの皆さん方の意見に十分敬意を払いながら、関係者の意見を聞いて、森林管理に関するコンセンサスがどうやって醸成していくのかということを勉強してみたい、というのが私の関心です。
また、生物多様性という概念が、森林管理の中で取り入れられる相場が、先進国の中でどの程度になっているのか、特に森林管理の当局者の中でどんなに受け止められているのかに興味があります。
そういう意味で、是非連邦有林の管理者の方々の主張をお聞きしたいです。もしもそれができないなら、事前に かれらの主張をよく理解しておきたいです。

5月3日
藤原敬

(アラスカ南東部の概要と旅程)
アラスカ州は北アメリカの北西端にあり米国の48州とはカナダを挟んで飛び地となっていますが、地図をよく見ると海岸線にオタマジャクシのしっぽのように本土にむけて南下している地域があり、ここが今回の目的地であったアラスカ南東部地域です。

アレキサンダー諸島と呼ばれる多数の島と狭い海岸線の本土からなっています。8割がトンガス国有林と呼ばれる農務省フォレストサービス管轄の連邦国有林であり、また、15パーセントほどが内務省所管の国立公園、その他が民有地です。(図1も国有林の施業区分図です。)
アラスカ南東部の概要を要領よく説明する南ダコタ大学Timothy H. Heaton教授のページ
トンガス国有林の充実したホームページ

8月16日東京発(機中泊)シアトル経由、シトカ着、そして、23日にピータースバーグを出発しシアトル経由で帰国となるわけですがその間の行程は図のとおりです。

図1

日付 事項 本HP内関連データ 外部リンク
16日 植民地時代の首都であったシトカに入り一泊。
17日 アラスカ温帯雨林キャンペーンの事務所で打ち合わせ Alaska Rainforet Canpain
近郊のIndian Rever Forestで温帯雨林といわれる森林と初対面 まず手始めにIndian Rever Forest
どんな複雑な森林でも4種類の樹木種しかない
トンガス国有林シトカ森林管理事務所訪問 シトカの森林管理署
関連ページ:トンガス国有林の森林管理計画と改訂作業
Tongass国有林HP
Sitka Conservation Societyとの交流会 Sitka Conservation Society
18日 Sitkaから空路クプレアノフ島のKakeへ
SitkaからKakeへ、途中でSealaskaの事業地
関連ページ:Sealaska 社の森林管理(工事中)
Sealaska社HP
Gunnuk Creek サケふ化場見学 ブラックペアと初対面
Kake地域でSealaska社関係者、楽器業界の人たちとの意見交換 シトカスプルースはギタートップになくてはならないもの、楽器業界の人々と(関連ページ工事中)
6日間お世話になるヘロン号に乗船 Heron号 Alaska yacht charters, charter boat Heron
Kuiu島 Limestone Coveで停泊
19日 Kuiu島 Clam Island視察
トンガス国有林が誇る一大保護区
アドミラリティ島へ向かう
Hulibutオヒョウが釣れた
アドミラリティ島Cannery Coveでカヤック
ヒグマとハクトウワシの頭数密度が世界一というアドミラリティ島ヒグマが現れる
カヤックの前にグリズリー
Cannery Coveで停泊
20日 Cannery Cove出発
ザトウクジラが現れるホエールウォッチングの始まり ホエールウォッチング1 南東アラスカのザトウクジラ(写真家水口博也のブログ)
文化的な遺産 ブラダーズ島視察 歴史の深いBrothers Islands
シーライオンの出迎え Brothers IslandsのSea Lions
ホエールウォッチングの第二部バブルネットフィーディング(何頭ものクジラの共同した食糧確保戦略)
Hougton Forest 今後の伐採予定地ヘムロックの純林オオカミの足跡 今後の伐採予定地ヘムロックの純林オオカミの足跡
Steam Bout Bayにて停泊
21日 さけを三匹つりあげる Cohoギンザケがつれた
Portage Bayの伐採箇所視察
Protage Bay Forest 20年ほど前の皆伐跡地、道路、港湾施設
Idal Coveにて停泊
22日 Le Conte氷河見学 氷河が海まで達している地点としてはこの地域でもっとも南の地点 Le Conte Glacier LeConte氷河Wikipedia
Three Lakes Trailの見学
Idal Coveにて停泊
23日 Petersburgで上陸
Petersburg森林管理署訪問 Petersburg森林管理署訪問

(南東アラスカの森林管理を巡って1 トンガス国有林)
(南東アラスカの森林管理の巡って2 シーアラスカ社の森林管理)
など今後報告してゆきます。

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2 南東アラスカの森林管理を巡って1 トンガス国有林(2006/9/10)

今年2006年8月に参加したアラスカの温帯雨林観察ツアーのテーマである、同地域の森林管理について、気のついたことを書き留めておきます。

主催者のアラスカ温帯林キャンペーンは、HPのトップページで、自らの活動を「トンガス他の国有林の残された自然を皆伐その他の有害な開発から守るために活動する」(working to protect the remaining wildlands of the Tongass and Chugach National Forests from clearcutting and other harmful development.)と規定しているように、当該地域の約8割を管轄するトンガス国有林の管理が自然保護関係者のターゲットになっています。

トンガス国有林(TNF)は下表のように、、ほぼ日本の国有林と同じ程度の面積を有しています。


この森林をケチカン市、シトカ市、ピーターズバーグ市の三つあるForest Supervisor's Offices(森林管理局)が分割して管理し、ケチカン市の管理局が全体を統括しています。現場段階ではシトカなど9のRanger Disitrict(森林管理署と訳しました)があります。約500人の常勤職員だといっていました。
組織についてはTNFのHP参照

今回は主催者に頼んでコンタクトを試みましたが、シトカとピータースバーグの森林管理署の関係者と意見交換をすることができました。

(ロードレスエリア問題)
国有林の自然環境保全については、2001年クリントン政権が国有林全体に対して現行道路がない地域に対して、新たに伐採のための道路を造ることを禁止する政策を発表し、ブッシュ政権になってから撤回されたという経緯があります。特に本格的な開発が遅れたアラスカ地域ではロードレスエリア問題は大きな課題でした。
日本語での概要:日本木材総合情報センターシアトルニュース04/7/15pdf
自然保護団体による詳細な年表:Widerness ClubのHP(英文)

(現行森林計画に対する行政訴訟)
シトカ、ピータースバーグの二つの森林管理署でトンガス国有林の関係者と話をすると、現在1997年に作成した森林管理計画の改訂中であるとのこと。その直接のきっかけは2005年に連邦裁判所が下した行政訴訟に対する判決でした。
経緯:トンガス国有林のHP シエラクラブHP

97年に現行計画策定(現行計画の内容に関するTNFのHP
03年12月にNRDC(Natural Resoureces Defense Council)が97年の森林計画と6つの販売事案について環境アセスメントに関して、州裁判所に提訴
04年9月 国有林側が勝訴、NRDC側は上告
05年8月 国有林側が敗訴
     @計画の前提としての木材の需要見通しが過大であった
     A民有林の開発の影響を十分に計画に反映していない
     B最終決定までに選択肢を十分に検討していない
その他の事案も含めて計画の策定過程に入ることを決定
改訂作業に関するTNFのHP

10月には変更計画の案が公表されパブリックコメントにかかる予定

訴訟は、国家環境行政法(NEPA)が求める事前評価の手続きを巡って争われたもので、今回の改定案のコンセンサスの過程で、住民と行政のコンセンサスをもとめるNEPAがどんな役割を示すものか、今後とも気にかけていきたいと思います。

(トンガス国有林とアラスカ南東部の森林管理のコンセンサスの範囲)
10日間の訪問と、その前後のにわか勉強で何か書くのはちょっとはばかられるものがありますが…大胆に。

当該地域の森林は1万年前まで氷河に覆われておりきわめて薄い土壌が特徴です。そこに、シトカスプルース(Picea sitchensis) 、ヘムロック(Tuga heterophylla)のほとんど二つの樹種が生育している、というきわめ単純な林相を呈しています。

渓流沿いのごく一部の森林をのぞいて生産性はきわめて低いはずです。ただし、単純な林相なだけに更新するのは簡単で、皆伐天然更新で少なくとも初期の更新が可能なところがたくさんあるようです。

皆伐した森林が長期間にわたってどのような経路をたどっていくのでしょうか。これが最も重要な点だと思います。TNFの関係者の評価を聞いてみました。アラスカの国有林が事業規模で開発を進め始めたのは50年前で、まだ一サイクルを経ていない状況でまだ結論がでいてないといえばそうなのかもしれません。

一般的にいえば、大規模な皆伐が環境に与える負荷は、景観の破壊、動植物の生息・生育地の破壊、生産基盤となる土壌攪乱といった面が考えられます。 過去の経緯から収穫箇所が、生態的な価値のもっとも高い、渓流沿いの地域に集中しているというのが、批判の対象でした。

他方で、単木的な択抜のように、景観や、生態系への負荷を回避する方法は、(高密に道路網を張り巡らせるならともかく)、経済的な観点と、作業の標準化やモニタリングのしにくさから、できれば避けたいというのが作業を実施するサイドからの要請となります。

渓流や急傾斜地での土壌保全が重要な課題で、そのような地域を避けながら木材生産を慎重にはかっていく、ということが、トンガス国有林の木材生産に臨む方針なのではないかと思います。
(もちろんそこまでしてなぜ、木材の生産をしなければならないのか?という問いにはしっかりこたえなければなりませんが)

よく話してみると、環境団体の人も国有林の関係者もそのことに大きな異論はないというのが、今回の印象でした。

(森林管理の主体としての国有林の可能性)


表は近年のアラスカにおける木材伐採量の推移です。

Allen M. Bracklery 他
Timber Prducts Output and Timber Harvests in Alaska :
Projections for 2005-25 Table 4より作成

一番下がトンガスを中心とする国有林、真ん中が「アラスカ先住民土地請求権解決法」により成立したシーアラスカなどの民有林、一番上が州有林です。

国有林の収穫量は90年代に急減しており、90年半ばにアラスカパルプ、ケチカンパルプという大型の加工施設が閉鎖された段階で、トンガス国有林と環境関係者とのコンセンサスの道が開けてきたのでないかと思います。

残された広大な原生林を含むトンガス国有林の資源を、木材生産という点から活用する必要があるのかどうか、ということは、基本的にはアラスカの住民、米国民が決めていくことだと思いますが、開発か保全かという観点のみでなく、木材が循環資源の主役たるエコマテリアルだ、という側面も含めて、議論が進められることを期待します。

一つの考え方として「木材生産はシーアラスカなど民間企業に任せて、国有林は資源の保全に専念すべきだ」という提案がされています。シーアラスカのような民間企業と、トンガス国有林という組織と比較したとき、南東アラスカのような微妙な生態系の管理と木材生産のバランスをとっていくためには、どちらがよいかということが、一つのポイントになると思います。

今後の改訂計画の中身とコンセンサスの過程の中で、トンガス国有林の組織が、今までの反省に立って信頼を確立していってほしいと思います。

トンガス国有林を巡っては、道路の造成と管理にかかる公的資金が産業補助金になっているのではないか、国有林の材を丸太のママ輸出することができないため国有林材が廉価に販売されていて、それも産業補助金になっているのではないか、などいろいろな論点があります。
今後随時、報告します。

また、改訂計画の策定過程もこのHPでもフォローしていきたいと思います。

さらに、シーアラスカなどの民有林の森林管理を公的に有効に規制するツールを持っていないというのが、米国の問題点で、その中で森林認証制度など市場を通じた管理の仕組みが重要な役割を持つ可能性があります。シーアラスカのFSCの取得が課題となっていて注目されます。このことについては、別途改めて報告します。

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3 国際会議「世界の持続可能な森林経営の推進に向けて」の結果概要について2006/9/10)



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 ウッドマイルズ研究会ニュースレター木のみち12号(2006/9/10)

ウッドマイルズ研究会ニュースレター木のみちの最新号が配布されています。内容は以下の通り。
詳しくはこちらへ
申し込みはこちらへ

1.  巻頭言              国際環境NGO FoE Japan 代表理事  岡崎 時春

2. 研究会ニュース
 -1 森林林業基本計画案への意見書                       藤原 敬
 -2 地場産材の定義に関する意見募集
    〜CASBEE戸建版試行に際して                      滝口 泰弘

3.  【特集】海外活動レポート (その他、海外活動はこちらよりご覧下頂けます)
 -1 ウッドマイルズセミナー in シドニー                     坂崎 有祐
 -2 京都議定書のもとにおける,木材,「ウッドマイルズ」,そして炭素勘定
                  イアン・フライ (ツバル国環境省 国際環境アドバイザー)
                        (訳:愛媛大学農学部助教授 大田伊久雄)

4.  【連載】ウッドマイルズ研究ノート
(その13)ウッドマイルズ関連指標算出マニュアルVer.2005の改訂とその影響滝口泰弘
(その14)森林・林業基本計画の計画目標とウッドマイルズ             藤原 敬

5.  【連載】第10回環境問答                            野池 政宏

6.  読者の広場
   ドイツの地域材事情                                安藤 直彦
   我が家の『家歴書』                               長崎屋 圭太

7. 会員紹介

8. 事務局だより


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最後までお読みいただきありがとうございました。

藤原敬 fujiwara@t.nifty.jp