森林管理の国際化と木材貿易に関する考察ー第114回林学会大会報告概要 (2003/4/13)

1 目的

持続可能な森林経営の達成が国際的な課題となっている。森林資源の管理に関する主権をもった資源国が国際的な管理を受け入れるための契機として、林産物の輸出先の消費者の環境指向が一定の役割を果たしていると仮定し、その程度を分析する。

 

2 方法

FAOの林産物貿易データベースの貿易交流表(2000年時点)および同「2001年版世界森林白書」を利用し、輸出先別の林産物輸出額と、木材産地国・輸出国の森林管理の水準の関係を、森林認証面積をパラメーターとして分析する。

(1)     森林管理の質をあらわすパラメーターとしての森林認証面積

2000年12月現在のFSC(森林管理協議会)、PEFC(全欧森林認証協議会)、CAS(カナダ持続可能森林管理システム基準)、SFI(米国森林製紙協議会)などの第三者認証制度が認証した累積森林面積を、森林管理の質を表すパラメーターとする。

(3) 説明変数としての林産物輸出額

FAOが公表している林産物データベースの貿易交流表により、各国の林産物各アイテムの総輸出額及び、北米(カナダ、米国)、欧州(EC加盟国)、極東(日本、中国)の三地域向けの貿易額を説明変数とする。

 

3 結果

(1)     分析対象地域の概況

世界森林白書では全世界214カ国を調査対象としており、国土面積13036百万ヘクタール、森林面積が3869百万ヘクタールとなっているが、本研究ではそのうち、FAO林産物貿易統計および、1人あたりGNPのデーターが利用できる、142カ国を対象とした。森林面積ベースで97%をカバーしている。

(2)     認証森林の概況

対象地域の認証森林面積は81百万ヘクタールで全森林面積の約2%である。認証森林は37カ国に所在している。(図1)

認証森林を所有する国の森林面積は、2386百万ヘクタールで全世界の森林の62%である。(図1)

(3)     2000年時点の林産物貿易

分析対象となる142カ国の林産物輸出額は143,982百万ドルであり、そのうち、北米へ輸出されるものが、30,436百万ドル、欧州へ輸出されるものが57,696百万ドル、極東向けが17,601百万ドルであり(図1)、これらの地域への輸出が全輸出量の73.3%を占めている。

(4)貿易額と森林認証

ア)認証森林所有国の貿易構造

調査対象国の中での認証森林所有国37カ国の位置づけは、図1のとおり、国の数で2割弱、森林面積で6割弱であるが、貿易額ではほぼ9割を占める。

図1

 

国数

森林面積

百万ha

貿易額

十億ドル

対米

対欧

対亜

全対象国

142

3769

144

30

58

17

認証国

37

2386

125

29

50

14

比率

26%

62%

88%

97%

86%

82%

イ)主要輸出市場別に見たの輸出国の森林管理状況

分析対象国を林産物の輸出先毎に分類する。主要市場を北米とする国18カ国、欧州とする国79カ国、極東とする国28カ国であり、それぞれの森林管理の状況は図2の通り。

図2

 

対象国

対北米

輸出国

対欧

輸出国

対極東

輸出国

国数

142

18

92

28

森林

面積

百万

ha

全体

3769

837

2258

673

比率

100%

22%

60%

18%

認証

80.7

31.8

48.3

0.6

比率

100%

39%

60%

1%

貿易額(百万$)

144.0

47.1

73.4

20.4

同比率

100%

33%

51%

14%

 

4 考察

認証を所有する国が単位森林面積あたりの林産物貿易額が前分析対象国に比して大きいことから、当初仮定したとおり森林認証が輸出依存動向を反映しているといえる。

また、三つの主要市場に分けた分析からは、極東向けの輸出国での森林認証面積は、北米、欧州向けの輸出国に比してきわめて少ないことがわかる。これは我が国を含む極東木材市場の環境指向の程度が欧米に比べて著しく劣っていることを示唆している。

世界の中でも大きな市場の一つである我が国の木材市場が環境指向を強めることが、世界の森林管理水準を引き上げる上で重要な役割を果たす可能性があることを示している。

 

5 参考文献

FAO(2001)State of the World’s Forests 2001

FAO林産物貿易交流表http://apps.fao.org/page/collections?subset=forestry