春の学会の季節ー132回日本森林学会コレクション (2021/4/15)

3月19日から23日にかけて開催された第132回日本森林学会大会

日頃少し気になっていたことを、少しまとめて考えるチャンスになるだろう、と、時間がありそうなときに、学会発表するようにしています。

森林分野の横断的な学術的報告が行われる森林学会大会は、持続可能な森林経営の枠組みについての研究動向を知る上で重要なのですが、年度末のこの時期に出席するのは難しい状況が続いていました。が少し余裕ができたので、いってきました(Zoom会議ですが)

気になった報告をすべてフォローすることはできませんが、本人のご厚意によりいただいた発表資料データ、大会誌に掲載された概要をもとにを紹介します。

森林学会の報告全体はこちらから

 標題  発表者  関連データ  趣旨・注目点
ゼロエミッションへの道
T1-1木質バイオマス供給の現状と課題 久保山裕史(森林総研) T1-1 発電所の新規稼働が今後も続くことから、現状ではほとんど利
用されていない林地残材の低コスト供給や、A∼C 材需要を増やすことによる伐採量の拡大、
未利用広葉樹材の活用、ヤナギ等の超短伐期林業の低コスト化が必須
T1-4炭素負債を巡る国際的な議論と日本の林業 ・ バイオマス政策への示唆 相川高信 (公益財団法人自然エネルギー財団) T1-4
参考情報「やっかいな問題」として森林バイオエネルギー問題を捉える-JRCレポートを読み解く
木材中の炭素をカウントする場合、化石燃料に比べてバイオマス燃料の方が単位エネルギー量あたりのCO2 排出量が多く、大気中のCO2 量を一時的に増加させる。
特に、樹木・森林の場合は、成長・再生に時間を要するため、放出されたCO2 の再吸収にかかる時間が長く、CO2 削減効果が発現するのに時間がかかると批判されている
木質バイオマスはカーボンニュートラルか?という国際的な議論に参戦!途中経過ですが。調達過程のGHG排出が重要な要素。
今後フォローしていきますね。参考情報「やっかいな問題」として森林バイオエネルギー問題を捉える-JRCレポートを読み解く」こちらを読んで少々お待ち下さい
 建築物への木材利用と炭素クレジットーGHGゼロ排出に貢献する道筋  藤原敬  A6
プレゼン資料
 近年、建築基準法の改正などで中大規模建築の木材利用が進む方向になっている。中大規模建築物の木造化が進んだ場合、炭素吸収量の増大として認定する可能性について、他のJクレジットの方法論の手法と比較して検討専用サイトこちらをご覧下さい
製材工場におけるスクリュ式小型蒸気発電機導入による環境効果と経済効果 立花敏(筑波大学) A7 製材工場がスクリュ式小型蒸気発電機(MSEG)を導入し、余剰蒸気を利用して発電することが二酸化炭素排出削減にどの程度寄与するか
国内森林のガバナンス
再造林における費用構成と所有者負担ー南九州の森林組合を事例にー : 尾分達也 (宮崎大学) A2 再造林の主たる担い手である森林組合を対象に、南九州7 組合における再造林の現状について、事業担当者への聞き取り
所有者の負担はほとんどないが、そのためには、国県が定める標準経費を元に、実際の事業費は標準経費の8 割程度、造林作業班の労賃が低く抑えられた結果、造林作業の担い手確保が困難になっている。森林所有者の意識を変えること、補助金額や標準経費の適正化が求められる
市町村森林行政の体制と業務 :  石崎涼子 (森林研究 ・ 整備機構 森林総合研究所) ら A12 総務省統計を用いた職員数の長期推移の把握とアンケート調査を通じた実人員および業務範囲の把握・分析
市町村における林業部門の職員数は、1990年代後半、市町村森林行政の役割が大幅に拡充された時期から10 年間で3 割減と大幅な減少に転じたこと、近年、一部市町村で職員数が増加
森林経営管理制度下の経営管理実施権を巡る初動-岩手県の事例から 大塚生美 (国立研究開発法人森林研究 ・ 整備機構 森林総合研究所) ら A15 林業経営に適しても適していなくても市町村が自ら施業を行うことは困難であり、委託せざるを得ないのが実態。アンケート結果から、市町村自ら森林所有者の意向調査に着手した例、委託により進めている例が明らかになっている。本報告では、そうした違いに至った要因について、アンケート調査後のフォローアップ調査に基づき、代表的事例から経営管理実施権を巡る初動をのべる
森林環境譲与税を活用した都道府県による市町村支援の概況と課題 香坂玲 (名古屋大学) ら A15
掲載論文がでますので少し待って下さい
都道府県を対象とし、その市町村支援について、関連組織・会議体や人事交流、市町村向けのガイドライン等について概況を把握
6 県で独自にセンターを設置し、人事交流を行う10 府県も存在し、県と市町村の職員を併任する制度を導入した事例も把握された。更に森林経営管理制度または森林環境譲与税の活用方法に関する市町村向けのガイドラインが17 府県で作成環境譲与税と府県単位の超過課税の整理が必要
森林の多面的機能の意味
生態系サービスの提供についての森林所有者の意識について 柴田晋吾(上智大学) ら A32 日本の森林所有者を対象に生態系サービスの提供についてのアンケート調査を実施
森林の保有・管理の目的としては、木材生産、水資源の保全、相続、自然や生物多様性の保全、美や景観を楽しむが上位
生態系サービスへの支払いを受けている者は2 割に満たないが、7 割以上の者が関心を示している。森林サービス産業について期待している者は6 割
都市化と森林再生の時代における政策指標としての主観的幸福度 : 高橋卓也 (滋賀県立大学) ら A28
プレゼン資料
人びとのウェルビーイング(厚生、幸福)の向上は資源管理の究極の目標だと考えられるが、森林政策の指標として明確に検討されたことはなかった。政策指標としての有用性を評価するため、滋賀県野洲川流域における森林に関連した主観的幸福度(森林幸福度)測定の解析結果を検討
森林幸福度を従来の物理的・客観的政策指標(整備森林面積、木材生産量など)を補足する指標として提案する。その根拠は次の四つである。①GDP などの市場経済基準の厚生指標を補完できる。②住民と森林との多面的関係性といった都市化社会において重要な側面が反映される。③森林生態系サービスの受益者と森林管理の担い手の間にある非衡平・公正性が認識できる。④森林幸福度は回答者に認識されるすべての側面を反映しうるので包括的
このサイトでも今まで、追いかけてきました。成長産業の基盤を所有している人が不幸せ、林業が成長産業となるのかどうか重要な指摘です
グローバルな森林ガバナンス
森林減少の発生メカニズムと有効な対策 宮本基杖 (森林総合研究所) ら A11
森林減少の発⽣メカニズムと有効な対策
関連論文Poverty reduction saves forests sustainably: Lessons for deforestation policies
、1.現行の対策(保護地域の設置拡大、農地開発の停止、農業分野への規制など)は、農業地代を下げる対策が主流である。2.農業地代低下策は、即効性があるものの、高い代償を必要とし、当該国に経済打撃と貧困拡大のリスクが高く、持続性が低い。3.貧困削減策は、森林減少を止める効果的かつ持続的な解決策となりうる。世界の森林減少対策は抜本的変革が求められており、対策の主軸を農業地代低下策から貧困削減策へと移すことが必要である。
途上国の森林減少の原因は貧困だ!今の政策を転換する必要がある
すごい政策的なインパクトのある報告です!グローバルな場でどんどん議論が必要です
学会と行政との関係
森林の計画 ・ 計画学の特徴と目的 :他分野の計画の視座を交えたレビュー 當山啓介 (東京大学) ら D2 森林計画制度や森林計画学会が存在し、森林管理分野において計画の必要性は自明のように取り扱われるが、そもそも計画とは何で、計画学は何をする学問かを明確化すべく、他分野の計画学を含めてレビューした

発表資料をいただける方は、ご連絡いただけるとありがたいです。

gakkai<sinrin2021>


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