気候変動の保全の緊急性からバイオマスエネルギーの推進を再考する(2018/10/21)

 勉強部屋では、主要な学術誌の中に掲載されている、森林の管理に関係のありそうな論文を紹介していますが(森林を畑にしてバイオマスを地中化するBECCSの功罪ーNature Communication掲載論文(2018/8/18):)、Nature、 Science にならぶPNAS(Proceedings of National Academy of Science of the USA 米国科学アカデミー紀要)9月25日号に木質バイオエネルギー推進に警鐘をならす論文Opinion: Reconsidering bioenergy given the urgency of climate protection(John M. DeCicco and William H. Schlesingerが掲載されています。

森林政策、研究の方向性に関する問題提起です。

最初と最後の部分を訳出しておきます

Opinion: Reconsidering bioenergy given the urgency of climate protection
The use of bioenergy has grown rapidly in recent years, driven by policies partly premised on the belief that bioenergy can contribute to carbon dioxide (CO2) emissions mitigation. However, the experience with bioenergy production and the pressure it places on land, water, biodiversity, and other natural resources has raised questions about its merits. Recent studies offer a lesson: Bioenergy must be evaluated by addressing both the stocks and flows of the carbon cycle. Doing so clarifies that increasing the rate of carbon uptake in the biosphere is a necessary condition for atmospheric benefit, even before considering production-related lifecycle emissions and leakage effects due to land-use change. To maximize the role of the biosphere in mitigation, we must focus on and start with measurably raising rates of net carbon uptake on land—rather than seeking to use biomass for energy. The most ecologically sound, economical, and scalable ways to accomplish that task are by protecting and enhancing natural climate sinks. 
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 意見:気候保護の緊急性を考慮してバイオエネルギーを再考する
バイオエネルギーの使用は、バイオエネルギーは、二酸化炭素(CO2)排出量の軽減に貢献することができるという信念を前提としたポリシーによって駆動され、近年急速に成長してきた。しかし、バイオエネルギー生産と土地、水、生物多様性などの天然資源に与える影響に関する経験が蓄積され、その便益について問題点が指摘されている。

最近の研究で教訓を明らかにしている:バイオエネルギーを評価するには、炭素循環のストックとフローの両方からの評価が必要である。
このことによって、土地利用の変化による生産関連のライフサイクル排出と漏出の影響を考慮する以前に、生物圏における炭素取り込み速度の増加が、大気への利益の必要条件であることが明らかになる。
緩和における生物圏の役割を最大限にするためには、バイオマスをエネルギーとして利用する以前に、陸における正味での炭素取り込み速度を大幅に引き上げることに焦点を当て、我々の活動を開始する必要がある。
その事業を達成するための最も生態学的に健全で、経済的で、大規模化可能な方法は、自然気候シンクを保護し、強化することである。
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 In short, a sound understanding of carbon-cycle dynamics shows that now and for the reasonably foreseeable future, the promotion of bioenergy is ill-premised for climate protection. This is particularly true if one respects the limited amount of ecologically productive land available for supplying food and fiber as well as sustaining and restoring biodiverse habitats. In fact, TCM and careful assessment of NEP are preconditions for land-based bioenergy to become verifiably beneficial. A major reprioritization of energy policy and research is therefore in order, away from bioenergy and a toward a high level of support for TCM. Indeed, neither biofuels nor BECCS may be needed in the long run. A future world that respects the climate, ecosystem, and other natural resource constraints may well be built on truly carbon-free energy carriers, nonbiological mechanisms for carbon sequestration, and extensive recarbonization of the biosphere.  要するに、炭素循環のダイナミクスの研究が明らかにするところでは、現時点また、合理的に予測可能な将来において、バイオエネルギーの促進をすると気候保護になるというのは根拠が疑わしい。
これは特に、生物多様性の生息地を維持し、回復させるだけでなく、食物や繊維に利用可能な生態学的に生産的な土地の限られた面積を考慮すると、重要な点である。
実際、土地の炭素管理TCM terrestrial carbon managementと正味生態系生産力NEP net ecosystem productionの慎重な評価は、陸上ベースのバイオエネルギーが検証可能な有益なものになるための前提条件である。
したがって、エネルギー政策と研究の主要な再優先順位付けは、バイオエネルギーより、TCMに対する高いレベルの支援が望ましい。
事実、長期的にはバイオ燃料もBECCSも必要ではない。
気候、生態系、およびその他の自然資源の制約を尊重する将来の世界は、真に炭素を持たないエネルギー手段、炭素隔離のための非生物学的メカニズム、生物圏の広範な再炭素化の基盤の上に成立するだろう。


論文は、この10年ほど公表されたの30ほどの論文を整理したものですが、現存する生物圏の気候変動その他の環境的貢献の重要性と、バイオマスエネルギーがカーボンニュートラルであるかどうかの否定的な議論が中心となっています。

当面の政策への意見でもありますが、長期的視野に立った学術研究の優先順位に関する議論です。

世界で2番目に引用数が多いという権威のあるPNASに、森林生態系研究の方向性に関する重要な問題提起があったという、ご紹介をしておきます。

今回も日本大学生物資源科学部水谷広教授に紹介をいただきました。ありがとうございました。

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