南東アラスカの森林管理を巡って(1) トンガス国有林(2006/9/10)


今年2006年8月に参加したアラスカの温帯雨林観察ツアーのテーマである、同地域の森林管理について、気のついたことを書き留めておきます。

主催者のアラスカ温帯林キャンペーンは、HPのトップページで、自らの活動を「トンガス他の国有林の残された自然を皆伐その他の有害な開発から守るために活動する」(working to protect the remaining wildlands of the Tongass and Chugach National Forests from clearcutting and other harmful development.)と規定しているように、当該地域の約8割を管轄するトンガス国有林の管理が自然保護関係者のターゲットになっています。

トンガス国有林(TNF)は下表のように、、ほぼ日本の国有林と同じ程度の面積を有しています。


この森林をケチカン市、シトカ市、ピーターズバーグ市の三つあるForest Supervisor's Offices(森林管理局)が分割して管理し、ケチカン市の管理局が全体を統括しています。現場段階ではシトカなど9のRanger Disitrict(森林管理署と訳しました)があります。約500人の常勤職員だといっていました。
組織についてはTNFのHP参照

今回は主催者に頼んでコンタクトを試みましたが、シトカとピータースバーグの森林管理署の関係者と意見交換をすることができました。

(ロードレスエリア問題)
国有林の自然環境保全については、2001年クリントン政権が国有林全体に対して現行道路がない地域に対して、新たに伐採のための道路を造ることを禁止する政策を発表し、ブッシュ政権になってから撤回されたという経緯があります。特に本格的な開発が遅れたアラスカ地域ではロードレスエリア問題は大きな課題でした。
日本語での概要:日本木材総合情報センターシアトルニュース04/7/15pdf
自然保護団体による詳細な年表:Widerness ClubのHP(英文)

(現行森林計画に対する行政訴訟)
シトカ、ピータースバーグの二つの森林管理署でトンガス国有林の関係者と話をすると、現在1997年に作成した森林管理計画の改訂中であるとのこと。その直接のきっかけは2005年に連邦裁判所が下した行政訴訟に対する判決です。
経緯:トンガス国有林のHP シエラクラブHP

97年に現行計画策定(現行計画の内容に関するTNFのHP
03年12月にNRDC(Natural Resoureces Defense Council)が97年の森林計画と6つの販売事案について環境アセスメントに関して、州裁判所に提訴
04年9月 国有林側が勝訴、NRDC側は上告
05年8月 国有林側が敗訴
     @計画の前提としての木材の需要見通しが過大であった
     A民有林の開発の影響を十分に計画に反映していない
     B最終決定までに選択肢を十分に検討していない
その他の事案も含めて計画の策定過程に入ることを決定
改訂作業に関するTNFのHP

10月には変更計画の案が公表されパブリックコメントにかかる予定

訴訟は、国家環境行政法(NEPA)が求める事前評価の手続きを巡って争われたもので、今回の改定案のコンセンサスの過程で、住民と行政のコンセンサスをもとめるNEPAがどんな役割を示すものか、今後とも気にかけていきたいと思います。

(トンガス国有林とアラスカ南東部の森林管理のコンセンサスの範囲)
10日間の訪問と、その前後のにわか勉強で何か書くのはちょっとはばかられるものがありますが…大胆に。

当該地域の森林は1万年前まで氷河に覆われておりきわめて薄い土壌が特徴です。そこに、シトカスプルース(Picea sitchensis) 、ヘムロック(Tuga heterophylla)のほとんど二つの樹種が生育している、というきわめ単純な林相を呈しています。

渓流沿いのごく一部の森林をのぞいて生産性はきわめて低いはずです。ただし、単純な林相なだけに更新するのは簡単で、皆伐天然更新で少なくとも初期の更新が可能なところがたくさんあるようです。

皆伐した森林が長期間にわたってどのような経路をたどっていくのでしょうか。これが最も重要な点だと思います。TNFの関係者の評価を聞いてみました。アラスカの国有林が事業規模で開発を進め始めたのは50年前で、まだ一サイクルを経ていない状況でまだ結論がでいてないといえばそうなのかもしれません。

一般的にいえば、大規模な皆伐が環境に与える負荷は、景観の破壊、動植物の生息・生育地の破壊、生産基盤となる土壌攪乱といった面が考えられます。 過去の経緯から収穫箇所が、生態的な価値のもっとも高い、渓流沿いの地域に集中しているというのが、批判の対象でした。

他方で、単木的な択抜のように、景観や、生態系への負荷を回避する方法は、(高密に道路網を張り巡らせるならともかく)、経済的な観点と、作業の標準化やモニタリングのしにくさから、できれば避けたいというのが作業を実施するサイドからの要請となります。

渓流や急傾斜地での土壌保全が重要な課題で、そのような地域を避けながら木材生産を慎重にはかっていく、ということが、トンガス国有林の木材生産に臨む方針なのではないかと思います。
(もちろんそこまでしてなぜ、木材の生産をしなければならないのか?という問いにはしっかりこたえなければなりませんが)

よく話してみると、環境団体の人も国有林の関係者もそのことに大きな異論はないというのが、今回の印象でした。

(森林管理の主体としての国有林の可能性)


表は近年のアラスカにおける木材伐採量の推移です。

Allen M. Bracklery 他
Timber Prducts Output and Timber Harvests in Alaska: Projections for
2005-25 Table 4より作成

一番下がトンガスを中心とする国有林、真ん中が「アラスカ先住民土地請求権解決法」により成立したシーアラスカなどの民有林、一番上が州有林です。

国有林の収穫量は90年代に急減しており、90年半ばにアラスカパルプ、ケチカンパルプという大型の加工施設が閉鎖された段階で、トンガス国有林と環境関係者とのコンセンサスの道が開けてきたのでないかと思います。

残された広大な原生林を含むトンガス国有林の資源を、木材生産という点から活用する必要があるのかどうか、ということは、基本的にはアラスカの住民、米国民が決めていくことだと思いますが、開発か保全かという観点のみでなく、木材が循環資源の主役たるエコマテリアルだ、という側面も含めて、議論が進められることを期待します。

一つの考え方として「木材生産はシーアラスカなど民間企業に任せて、国有林は資源の保全に専念すべきだ」という提案がされています。シーアラスカのような民間企業と、トンガス国有林という組織と比較したとき、南東アラスカのような微妙な生態系の管理と木材生産のバランスをとっていくためには、どちらがよいかということが、一つのポイントになると思います。

今後の改訂計画の中身とコンセンサスの過程の中で、トンガス国有林の組織が、今までの反省に立って信頼を確立していってほしいと思います。

トンガス国有林を巡っては、道路の造成と管理にかかる公的資金が産業補助金になっているのではないか、国有林の材を丸太のママ輸出することができないため国有林材が廉価に販売されていて、それも産業補助金になっているのではないか、などいろいろな論点があります。
今後随時、報告します。

また、改訂計画の策定過程もこのHPでもフォローしていきたいと思います。

さらに、シーアラスカなどの民有林の森林管理を公的に有効に規制するツールを持っていないというのが、米国の問題点で、その中で森林認証制度など市場を通じた管理の仕組みが重要な役割を持つ可能性があります。シーアラスカのFSCの取得が課題となっていて注目されます。このことについては、別途改めて報告します。

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