UNCED以降、持続可能な森林経営の達成に向けて、各国、関係国際機関、NGO(Non-Governmental
Organization)などによる取組が活発化したが、それらの中でも最も顕著なものは、森林経営の持続可能性を評価するための基準・指標(Criteria
and
熱帯林については、UNCEDに先立ちITTOにより、1992年5月「持続可能な熱帯林経営の評価のための基準」が採択された。1998年5月の理事会では、生物多様性や社会・経済・文化的側面を強化し、より詳細かつ実際的なものとするため改訂が行われ、
「天然熱帯林の持続可能な経営のための基準と指標」が採択された。更に、1999年5月の理事会では、
基準・指標を現地で計測するためのマニュアルが採択され、この普及のためのワークショップ、及び、現地での適用を確認するための実証試験が計画されている。
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1993年6月、UNCED合意に基づき、森林分野での欧州共通政策の検討を行うことを目的に
「第2回欧州森林保護閣僚会合」がヘルシンキ(フィンランド)で開催された。その結果、一般宣言と「欧州の森林の持続可能な経営のためのガイドライン」の作成などに関する4件の決議が採択された。これを受けて、欧州の森林を対象とする持続可能な森林経営の基準・指標づくりが始められ、1994年6月に開催された「第1回専門家フォローアップ会合」で、6つの基準と27の指標が関係36カ国間で合意された。
その後、合意された基準・指標に基づく各国の状況調査が進められ、1995年1月にアンタルヤ(トルコ)で開催された「第2回専門家フォローアップ会合」では、各国での指標の適用に関する報告と記述的指標の追加など一部指標の見直しが行われた。1996年11月、ブリュッセル(ベルギー)で欧州森林保護閣僚会合円卓会合が行われたほか、第3回欧州森林保護閣僚会合に向け、専門家フォローアップ会合、準備会合が開催された。
1998年6月、
リスボン会合が欧州の32カ国(うち21カ国からは森林・林業担当大臣が出席)、ECのほか、オブザーバーとして我が国等5カ国や国際機関、NGOなど多くの出席の下で開催され、一般宣言と2つの決議(L1:「人間、森林そして林業−持続可能な森林経営の社会・経済的側面の充実」、L2:「持続可能な森林経営のための欧州の基準・指標及びオペレーショナル・レベルのガイドライン」)(
ヘルシンキプロセス基準指標和訳概要)が採択された。
一般宣言は、これまでの会議とそれを受けた様々なレベルでの政策対話の成果を再確認するとともに、今後欧州各国がさらに協調してこのプロセスを充実・強化し、IFF等の国際的な検討の場においても積極的にイニシアティブを発揮して行こうという決意を示したもの。また、決議L1、L2は、過去2回の閣僚会議で決議された10の決議(下記参照)とあわせ、欧州各国が持続可能な森林経営に向けて具体的に進めて行くべき取組につき合意したもので、決議の実施促進のための作業プログラムの策定や決議の実施における国際機関等との協調の方策については、1年以内に幹事国グループが中心となり、関係機関と協調して決議実施のための作業プログラムを策定することになった。
その他、次回の閣僚会議を3〜4年後にウィーン(オーストリア)で開催することや、今回会議開催までの幹事国(フィンランド、オーストリア、ポーランド、ポルトガル)のうちフィンランドが退任し、ノルウェーを新たに選任することが提案・了承された。
1993年9月、「温帯林等の持続可能な開発に関する専門家セミナー」がモントリオール(カナダ)で開催された。これに続いて1993年12月に開催された「主要な作業計画会合」で「温帯林等の保全と持続可能な経営の基準・指標に関する国際作業グループ」が設立され、欧州以外の温帯林等を対象とする基準・指標づくりが、カナダ、米国、ロシア、日本などにより開始された。
国際作業グループは、1994年6月のジュネーブ(スイス)での第1回会合を皮切りに、7月にニューデリー(インド)、9月にオリンピア(アメリカ)、10月にオタワ(カナダ)、11月に東京(日本)と会合を重ね、1995年2月にサンチャゴ(チリ)で開催された第6回会合で
、7つの基準と67の指標が関係10カ国間で合意されたサンチャゴ宣言(
和文概要)(その後、アルゼンチン、ウルグアイが参加)。
1995年10〜11月には、オークランド(ニュージーランド)で第1回フォローアップ会合が、また、1996年6月にはキャンベラ(オーストラリア)で第2回フォローアップ会合が開催され、指標の測定可能性などにつき検討が行われた。その結果、約半数の指標については測定可能であることが明らかになるとともに、引き続き研究や情報交換を進めていくための「技術アドバイザリー委員会(TAC)」を設立することが決定された。1997年7月のソウル(韓国)での第3回フォローアップ会合では、データ収集等に関する各国の国別報告に基づく第1次概要報告書(First
Approximation
Report)の内容などについて検討が行われ、その結果取りまとめられた第1次概要報告は、同プロセスの成果として同年10月の世界林業会議(トルコ、アンタルヤ)で発表された。
我が国独自の取り組みとしては、1994年2月、モントリオール・プロセスへの参加に当たり、林野庁と森林総合研究所の関係課(科)の職員により、「温帯林等の持続可能な経営国内作業部会」を「地球環境問題検討委員会」の下に設置し、基準・指標に関する技術的検討を重ね、モントリオール・プロセスの論議に反映させてきた。
特に、1994年6月にジュネーブ(スイス)で開催されたモントリオール・プロセスの第1回会合に際しては、我が国なりの基準・指標案を「日本の考察(Japan's
View)」として取りまとめ、基準・指標に関する考え方の整理に大きく貢献したとして、国際的に高い評価を得た。
また、1994年7月、我が国は、ニューデリー(インド)で開催されたモントリオール・プロセスの第2回会合において、オリンピア(米国)での第3回会合、ハル(カナダ)での第4回会合に引き続き、第5回会合を東京で開催することを提案した。第5回会合は、CSD第3回会合を1995年4月に控え、実質的な取りまとめ会合となり、その結果、それまで散漫になりがちであった論議の焦点が絞られ、基準・指標の構成、内容などが固まるとともに、取りまとめに向けての意志の統一が図られるなど、モントリオール・プロセスの合意に大きく貢献した。
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・モントリオール・プロセスで行われている作業を強調するため、2000年のCSD第8回会合とIUFRO第12回会議で発表するためのレポートを準備する。
・TACで作成された基準・指標の方法論と測定手法を取りまとめたテクニカル・レポートを出版する。
・次回会合での検討のため、TACにおいて
@モントリオール・プロセスのナショナルレベルの基準・指標のサブナショナルレベルへの適用可能性
Aナショナルレベルへのデータ収集と集計に関する規模の問題
Bモントリオール・プロセス諸国間の更なる技術協力と情報共有のための機会
について検討する。
・モントリオール・プロセスのパンフレットの作成
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・これまでに本プロセスでとりまとめられた文書とそのフォローアップ
@モントリオール・プロセス小冊子「未来のための森林」−2000年1月印刷(
Website掲載new)、IFF−4で配布。
Aサンチャゴ宣言第2版「モントリオール・プロセス:温・寒帯林の保全と持続可能な経営のための基準・指標」−2000年1月印刷(
仮訳掲載new Website掲載)、IFF−4で配布。
B「モントリオール・プロセス:温・寒帯林の保全と持続可能な経営のための基準・指標:技術ノート」の基準1から6の部分については作業終了。基準7及び用語集−2000年3月1日までに取りまとめて同31日までに各国間で確認作業を行う。
D「モントリオール・プロセス:温・寒帯林の保全と持続可能な経営のための基準・指標の実施に関する進捗と革新(2000年レポート)」−CSD−8とIUFRO世界大会で配布予定。
E「モントリオール・プロセス森林レポート第1号(2003年レポート)」−各国の森林の状態と経営に関するレポートで、次回会合にてフォーマットを検討する(2003年9月の世界林業大会で配布予定)。
・TACの「基準・指標のsub-national
levelへの適用性に関するオプション」と「計測サイズと周期性の影響」のフォロ−アップとして、TACに対して、加盟国が国レベルの基準・指標にリンクしたsub-national
levelの指標を開発・特定・実施できるメカニズムに関するペーパーを次回会合の2ヶ月前までに作成するように要請。TACの「加盟国間の技術協力と情報交換のための機会」に関しては、特に2003年レポート作成のための能力向上の必要性を確認した。TACに加盟国の能力向上ニーズに関する情報収集を要請。
・基準・指標プロセス間の互換性と相乗効果の検討
FAOがITFF(森林に関する国際機関間のタスク・フォース)での基準・指標に関するリード機関として、各基準・指標プロセスと関連イニシアティブによる国際会議開催に向けた組織委員会を開催することを、本プロセス作業グループとして提唱。
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参考
森林原則声明などでの記述
○森林原則声明(原則/要素8(d)) 「森林の持続可能な経営及び利用は、各国の開発政策と優先順位に従い、また、 各国の環境上健全なガイドラインに基づいて行われるべきである。このようなガ イドラインの策定に当たっては、適切かつ適用可能な場合には国際的に合意され た手法と基準によることを考慮すべきである。」 ○アジェンダ21(第11章) 「すべてのタイプの森林の経営、保全及び持続可能な開発のための科学的に信頼 できる基準及び指針を策定すること」
基準・指標の定義
a.ヘルシンキ・プロセス 「基準は、持続可能性の諸相(aspects)を概念的に表現したものであり、森林 の特性や経営活動の評価のもととなる項目あるいは条件もしくは状況である。基 準の実施状況は指標を用いて評価され、典型的なものは、変化の量的な計測値で ある。データが得られている指標もあれば、今後データを取ることが必要な指標 もある。容易にデータが得られる指標もあれば、新たなサンプリング事業や基礎 調査が必要な指標もある。 b.モントリオール・プロセス 「基準(Criterion):持続可能な森林経営を表現し得る一定の要件あるいは状 況。各基準は、変化を把握するために定期的に計測される一組の関連指標により 表現される。」 「指標(Indicator):基準の側面を計測。計測または記述することが可能であ り、定期的に観測することにより一定の方向性を示す量的もしくは質的な変 量。」 | |
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名 称 (プロセス名) |
基準・指標数 |
合意 年月 |
参 加 国 |
ITTOプロセス
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国家レベル 5基準,27指標 森林経営体レベル 6基準,23指標
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1992年
5月
1998年 5月 (改訂) |
ITTO加盟熱帯木材生産国(27カ国) アフリカ:カメルーン、中央アフリカ、コンゴ民主共和国、コンゴ共和国、コートジボワール、ガボン、ガーナ、リベリア、トーゴ アジア・太平洋:カンボジア、インド、インドネシア、マレーシア、ミャンマー、PNG、フィリピン、フィジー、タイ ラテンアメリカ:ボリビア、ブラジル、コロンビア、エクアドル、ガイアナ、ホンジュラス、パナマ、ペルー、ベネズエラ |
ヘルシンキ・プロセス
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6基準,27指標 (定量的指標)
101指標 (記述的指標)
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1994年
6月 1995年 1月
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欧州の温帯林等諸国(38カ国) オーストリア、ベラルーシ、ベルギー、ブルガリア、クロアチア、チェコ、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイスランド、アイルランド、イタリア、 ラトビア、リヒテンシュタイン、リトアニア、ルクセンブルグ、マルタ、モルドバ、モナコ、オランダ、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、ロシア、スロバキア、スロベニア、スペイン、スウェーデン、スイス、トルコ、ウクライナ、イギリス、EU |
モントリオール・プロセス
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7基準,67指標
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1995年
2月 |
欧州以外の温帯林等諸国(12カ国) アルゼンチン、オーストラリア、カナダ、チリ、中国、日本、韓国、メキシコ、ニュージーランド、ロシア、ウルグアイ、米国 |
タラポト・プロセス
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国家レベル 7基準,47指標 森林経営体レベル 4基準,23指標 地球レベルの貢献 1基準,7指標 |
1995年
2月
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アマゾン協力条約加盟国(8カ国) ボリビア、ブラジル、コロンビア、エクアドル、ガイアナ、ペルー、スリナム、ベネズエラ
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アフリカ乾燥地帯 イニシアティブ
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7基準,47指標
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1995年 11月
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サハラ以南の乾燥アフリカ諸国 (27カ国:CILSS,IGADD,SADC諸国)) CILSS:ブルキナ・ファソ、カーボベルデ、ギニア・ビサウ、ガンビア、マリ、モーリタリア、ニジェル、セネガル、チャド IGADD:ジブチ、エリトリア、エチオピア、ケニア、ソマリア、スーダン、ウガンダ SADC:アンゴラ、ボツワナ、レソト、マラウィ、モーリシャス、モザンビーク、ナミビア、南アフリカ、スワジランド、タンザニア、ザンビア、ジンバブエ
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北アフリカ・中近東イニシアチブ
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7基準,65指標
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1996年 10月
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北アフリカ・中近東諸国(30カ国) アフガニスタン、キプロス、エジプト、エチオピア、イラン、イラク、ヨルダン、クウエート、レバノン、リビア、パキスタン、カタール、サウジアラビア、ソマリア、スーダン、シリア、チュニジア、トルコ、アラブ首長国連邦、イエメン |
中央アメリカイニシアティブ (ラパテリク・プロセス) |
国家レベル 8基準,52指標 地域レベル 4基準,40指標 |
1997年
1月
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中央アメリカ諸国(7カ国:CCAD諸国) ベリーズ、コスタリカ、エルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラス、ニカラグア、パナマ
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参考
ヘルシンキ・プロセスの基準・指標の概要
○基準1:森林資源と地球的炭素循環への寄与の維持、適切な増進 ・概念の範囲:総体的な実行力、土地利用と森林区域、蓄積、炭素循環 ○基準2:森林生態系の健全性と活力の維持 ○基準3:森林(木材及び非木材)の生産機能の維持と増進 ・概念の範囲:木材生産、非木材生産物 ○基準4:森林生態系の生物多様性の維持・保全及び適切な増進 ・概念の範囲:総体的条件、代表的、希少かつ脆弱な森林生態系、絶滅の 危機にある種、木材生産林の生物多様性 ○基準5:森林経営における保護機能の維持と適切な増進(特に、土壌と水) ・概念の範囲:総体的な保護、土壌浸食、森林の水源涵養 ○基準6:その他社会経済的機能と条件の維持 ・概念の範囲:森林分野の重要性、レクリエーションサービス、雇用の供 給、研究及び専門的教育、国民の知識、国民参加、文化的価値 ○各基準に含まれている記述的指標 各基準の概念区分毎に以下の項目区分で指標を例示 ・法律的/規制的枠組みの存在及びその効力の範囲 ・制度的枠組みの存在とその能力 ・経済政策的枠組み、財政措置の存在及びその効力の範囲 ・政策的枠組みを実行するための情報手段の存在及びその能力
○これまでの決議 (1)第1回会合(1990年、フランス・ストラスブール)
S1:欧州における森林生態系のモニタリングのための定点観測地点ネットワーク S2:森林遺伝資源の保全
S3:欧州における分散型の森林火災データベース S4:新しい環境条件への山岳林経営の適応
S5:樹木生理学の研究に係る「EUROSYLVA」ネットワークの拡充
S6:欧州の森林生態系に関する研究ネットワーク (2) 第2回会合(1993年、フィンランド・ヘルシンキ)
H1:欧州の森林の持続可能な経営に関する一般的ガイドライン
H2:欧州における生物多様性の保全に関する一般的ガイドライン H3:市場経済移行国への林業協力
H4:気候変動への森林の長期的適応プロセスのための戦略 | |
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参考
1 モントリオール・プロセス関係12カ国 日本、カナダ、米国、オーストラリア、ニュージーランド、ロシア、中国、 韓国、チリ、メキシコ、アルゼンチン、ウルグアイ
2 モントリオール・プロセスの基準と主な指標 ○基準1:生物多様性の保全 ・森林タイプや齢級区分ごとの森林面積・比率(生態系の多様性) ・森林に関する希少・危急・絶滅危惧種等の状態(種の多様性) ○基準2:森林生態系の生産力の維持 ・木材生産のため利用可能な森林面積及び蓄積量 ・持続可能と決定される伐採量と収穫量の比較 ○基準3:森林生態系の健全性と活力の維持 ・昆虫、病気、山火事等により歴史的な変動の幅を超えて影響を受けた森林 の面積・比率 ・大気汚染物質等により影響を受けたと考えられる森林の面積・比率 ○基準4:土壌及び水資源の保全と維持 ・水源かん養、洪水防止等の機能の保護のために経営されている森林面積 ・森林内の土壌及び水が、化学的・物理的及び生物的に顕著な変化を受けた 森林及び水系 ○基準5:地球的炭素循環への森林の寄与の維持 ・植物生体、倒木・伐根、土壌等の炭素現存量及び炭素収支への寄与 ・森林タイプ、齢級区分ごとの生物生産量 ○基準6:社会のニーズに対応した長期的・多面的な社会経済的な便益の維持及 び増進 ・木材及び非木材生産物の生産・消費(額・量) ・レクリエーション等のための施設数、訪問者日数及び比率 ・森林分野における雇用数・比率、及び雇用者の平均賃金・労働災害の水準 ○基準7:森林の保全と持続可能な経営のための法的、制度的及び経済的な枠組 み ・土地所有権等についての法的手続きに基づく紛争解決手段 ・林産物や森林からのサービスの提供の促進、森林経営を支える基盤整備 ・森林資源調査、モニタリング等の関連情報
3 モントリオール・プロセスの基準・指標とヘルシンキ・プロセスの基準・指標 の相違点 ○モントリオール・プロセスの基準1〜6は、ヘルシンキ・プロセスの6つの基準 と類似しているが、モントリオール・プロセスには、さらに基準7として、ヘ ルシンキ・プロセスにない「法的・制度的・経済的枠組み」が含まれている。 ○指標については、モントリオール・プロセスの指標は、各基準の下に把握され るべきデータを網羅的にカバーしているのに対し、ヘルシンキ・プロセスの指 標は、現実的に把握可能なものに絞り込んだものとなっている。 | |
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