2000年森林計画学会シンポジュ−ム「森林認証と持続可能な森林経営」要旨
日時 4月2日(日) 9:30〜16:00
場所 日本大学生物資源科学部湘南キャンパス(神奈川県藤沢市)
1 森林認証制度、特にFSCについて 前澤 英士(WWFジャパン(財)世界自然保護基金日本委員会)
2 森林認証制度の研究的課題 芝 正己(京都大学大学院農学研究科)
3 FSCC認証を取得して 速水 亨(日本林業経営者協会理事 三重県)
4 フィンランドにおける森林認証の現状 駒木貴彰(森林総研北海道支所経営研究室)
前澤 英士(WWFジャパン(財)世界自然保護基金日本委員会)
森林問題解決への一手段として、NGOや民間企業等が協調し、「森林認証制度」(木材認証制度/ラベリング制度と呼ばれる場合もある)が展開してきている。これは、独立した第三者機関が、森林管理をある基準に照らし合わせてそれを満たしているかどうかを審査・認証していく制度である。現在、世界中全ての森林を対象とし、そのパフォーマンスを審査・認証するとともにラベリングを伴う形で実際に実施されているものは、FSC (Forest Stewardship Council、森林管理協議会)のみである。
FSCは、環境保全の点から見て適切で、社会的な利益にかない、経済的にも継続可能な森林管理を推進することを目的とする。適切な管理がなされている森林を認証し、その森林から産出された木材・木材製品に独自のロゴマークを付け、幅広く消費者に流通させようという、市場を巻き込んだ取り組みである。直接的な拘束力はないが、現在、適切な管理との認証を受けようとする林業者と、認証された木材・木材製品を生産・流通・販売させていこうとする企業のネットワーク化が欧米を中心に展開してきており、森林の管理・経営内容にも影響を及ぼしてきている。
FSCは会員制をとる。会員は環境団体、林業者、木材取引企業、先住民団体、地域林業関連組合、林産物認証機関など異なったグループの代表者らからなる(1999年11月現在、49カ国356機関/人)。FSCでの意思決定は、この会員内で、南北間だけでなく社会・環境・経済的利害関係者間の均衡に配慮した方法に基づいてなされる。
実際の認証審査はFSCにより認定された認証機関により行われる。FSCは「森林管理に関するFSCの原則と規準」および「認証機関のためのFSCガイドライン」等に基づき、森林の認証機関の評価・認定・モニターを行なう。(FSCに認定された認証機関により認証された森林は、2000年1月末現在、30カ国、210カ所を超え、総面積は約1,800万ヘクタール。)
WWFジャパンは、FSCの一メンバーとして、また森林保全活動の一環としてこのFSCの認証制度を様々な形で紹介してきた。今回、国内初のFSC認証が誕生したが、これは内外に対して様々な影響を及ぼすとになると考える。と同時に、FSC森林認証のさらなる展開を目指す「活動家」としては、より具体的な課題/行うべき活動が見えてきた。日本の認証基準作成、既存の海外認証機関の日本エージェント的組織もしくは日本独自の新たな認証機関の設立は、国内でのより円滑な認証審査を進めるためには必要である。日本の関係研究者の積極的参画を是非ともお願いしたい。
今回のシンポジウムでは、FSCの設立背景、システム、認証審査の手順、展開状況と今後などについて、その概要を紹介させていただく。
芝 正己(京都大学大学院農学研究科)
森林認証制度は、世界的な森林減少・劣化の問題と、グリーンコンシューマリズムの高まりを背景として生まれた“Well-Managed:適切な森林管理”を認証するための制度であり、森林認証には、「森林管理の認証:Forest Management Certification(FM)」と「生産物認証:Chain of Custody Certification(CoC)」の二つがある。認証機関として、FSC(Forest Stewardship Council), ISO(International Standards Organization), CSA(Canadian Standards Association), SFI(AF&PA Sustainable Forestry Initiatives)があるが、世界中のすべての森林を対象としてラベリングを伴う形での認証を実施しているのがFSC(1993設立)である。FSCが認定した6認証機関の内、SCS, SGS Forestry, SmartWoodによる認証取得件数は、FM計(176):SCS(28)/SGS(54)/SW(94)、CoC計(450):SCS(97)/SGS(138)/SW(215)と急速に増えてきている(SCS;1999/06, SGS;1998/12, SW;1999/12現在)。
森林認証制度は、日本の森林管理や木材流通に多大な影響を与えると思われる。しかし、それがどのような影響であるか現時点では予測不能であり、そのため制度の問題点や対応策については、今後の認証事例の積み重ねの議論によってのみ得られるものと考えられる。 本シンポジウムでは、わが国認証第一号(SCS:FM/CoC)である速水林業の事例を通して、研究者サイドからみた問題点のいくつかを紹介する。
図-1 SCS(Scientific Certification Systems)による森林認証プログラム概要:速水林業プロジェクト
速水 亨(日本林業経営者協会理事 三重県)
審査の背景
‘99年9月に国際的な森林認証であるFSC認証を取得するために米国カリフォルニアの認証機関「Scientific Certification
Systems」で速水林業は評価を受けた。
この認証を受けようとした背景は、私自身がISO14061の策定に関わり、今までにない森林へのアプローチがあることに気が付いた事で、新しい林業経営の一面を見つけたような気がした。またFSCの認証はISOと比較してより、森林の現状を審査するという厳しさがあるが、200年以上にわたって持続的に林地を循環利用してきた速水林業にとっては、そう困難な基準には感じられなかった。日本での認証実例の必要性を感じ、また自らの経営が日本に於いては最もFSCの精神に近い経営であるとの思いから、あえて日本で最初の認証を受けることとした。
審査の準備
基本的に以前から樹立してあった森林法に基づく森林施業計画を中心として英訳し、FSCの原則と基準をしっかりと読み込んで、他の必要な書類の準備を行った。また環境に関しては施業計画では触れていないため、別に今まで実行していた環境的配慮を明文化した。
しかし、速水林業は、既に昭和30年代から、林内植生の維持を図り、森林土壌を豊にする努力を行い、また「美しい山づくり」を目指し、広葉樹の繁茂するヒノキ林の森林を育ててきた。したがって,認証審査のための施業の変更は全くと言うほどせずに審査に臨むことが可能であった。
審査の流れ
1998年、10月にRobert J.Hrubes
博士により予備評価が行われた。
1999年、9月21日から26日まで審査が行なわれた。
結果
本年の2月に認証が日本で初めて下りた。しかし一点だけ保護地区指定に関し、1年以内の改善を要求された
取得して感じたこと
考えていた以上に反響が大きい。閉塞している日本林業に明るい話題を提供したと思う。この反響を認証木材の消費の拡大に繋げていきたい。今回は約400万円掛かったが、概ね予想通りであったが、一般的にこのコストは私有林経営で支払うことは困難である、日本に認証機関が出来れば100万をきるべき。認証の個々の問題は、現在の日本の林業関係者が考えるより細部にわたった審査であるが、基本的には経営が持続していくことを前提として考えるので、極端に経営が困難になるような基準は無い。その点では極めて現実的な評価である。
駒木貴彰(森林総研北海道支所経営研究室)
はじめに
森林認証制度は日本でも最近急速に関心が高まっている。世界的には既にFSC(Forest Stewardship Council:1993年設立)認証基準に基づく1,700万haを超える認証森林が存在し、とりわけヨーロッパや北米では森林認証が積極的に進められている。ここでは1999年9月に行ったフィンランドでの森林認証に関する実態調査を中心に、同国及びヨーロッパにおける森林認証の動向を紹介してみたい。
フィンランドにおける森林認証
フィンランドではFSCの原則に従いながらも、フィンランド独自の認証基準システムを1997年に作成している(FFCS)。これは、FSCがもともと熱帯地域等にある大面積な森林を対象としていたことから世界統一基準的な要素が強いのに対して、フィンランドは日本に似て小規模所有者が多く、自国の自然条件や社会経済的条件に合わせた独自基準を加味することが必要という判断があったためである。EUでも各国が独自の認証基準を設け、それをお互いに認めあおうという動きがあり、1999年4月にドイツでPEFC(Pan European Forest Certification)の第1回セミナーが開催されている。そして同年7月には、EU17ヶ国がPEFCのための機関を自国に設置している。フィンランドは、ドイツ等とともにPEFC協議会の設立に中心的な役割を果たした。そのフィンランドが作成したFFCSは、PEFCという傘の下にある各国版認証基準に位置づけられる。
FFCSでは森林経営及び加工・流通過程(Chain-of-custody)の認証は行うが、認証製品に対するフィンランド独自のラベリングは含まれていない。これは、PEFCが準備している林産物に対する認証ラベルを、FFCSの認証製品にも使用できるようになるからである。
森林認証の場合、FSCもFFCSも個人とグループの認証があるが、さらにFFCSでは、ほぼ全森林所有者が加入している各地域の森林経営協会の管轄地域を認証単位とする地域認証が基本となっている点に特徴がある。FFCS認証基準は、持続可能な森林管理のための生態的、経済的、社会的な条件を考慮した37の基準から成り、5年ごとに見直しされることになっている。
今後の見通し
森林認証は、環境保護運動が活発な欧米諸国で、木材関連企業やバイヤーズグループ等が積極的に取り組んでいるが、会社等の大規模森林所有者を除けば、一般の森林所有者にはほとんど受け入れられていないようである。フィンランドでも他の国々同様、森林所有者は認証に反対の姿勢を示してきた。それは、認証取得に費用を要することや、認証を受けることの経済的メリットがないこと等が理由である。こうした事情を理解しつつも、フィンランドの木材関連企業としては、製品輸出先がイギリスやオランダ等ラベリング製品の利用に積極的な国々であるため、カナダやスウェーデンといった貿易競争相手国と渡り合っていくには認証ラベルを必要としているという事情がある。そのためフィンランドは、製品輸出の競争力を高め、さらに環境保護団体の批判にも応えようとFFCSによる認証を進めており、1999年末までにFFCS認証面積は1,300万haを超えている。しかし、WWFフィンランド等環境保護団体は、PEFCやFFCSはFSCに比べて不十分な基準であり、単なる市場向けの道具として使っているにすぎないという認識を持っている。
フィンランドの森林所有構造は日本と似ており、フィンランドが直面しているのと同様の問題が将来日本でも起こる可能性がある。ただ、フィンランドでは紙や木材製品が主要な輸出産品であるという点が日本とは異なる。日本での森林認証は、森林所有者サイドからすれば、認証製品が市場でどれだけのシェアを占めるか、また認証を受けたことが立木価格にどれだけ反映するか、という市場の動きを見て認証受入を判断することになるだろう。一方、企業サイドでは、認証製品を他の製品との差別化商品として企業戦略の中で取り扱う可能性がある。