FSC森林認証制度取得による木材流通及び住民意識の変化−高知県梼原町の事例−
都築伸行(森林総研四国)

1.     はじめに

 高知県梼原町では、2000年10月に森林管理協議会(FSC)による森林認証を取得した。森林組合が資源管理者として認証されたグループ認証としては国内初の事例である。FSCの森林認証制度は、認証を受けた森林から産出される木材について、その流通・加工過程においてラベリングが適切になされているか等の審査(CoC認証)も行う。FSCの認証制度の場合、消費者がラベリングされた認証材を選択的購入により買い支える事で、木材市場を通じ資源管理者の環境負荷低減コストを分担させる事が狙いであり、認証取得の効果や普及の可能性を検討する際には、認証材流通実態の検討が欠かせない視点となる。また、一般私有林を対象としたグループ認証は、森林所有者が森林組合と管理委託契約を結んでいる事が前提となり、所有者の意向で認証への取組が大きく左右されるため、認証に関する所有者の意向や意識変化も重要なポイントとなる。

 

2.      FSC認証取得の概要

 梼原町での認証は認証機関スマートウッド社によって行われ、同時にCoC認証を取得したのは、森林組合の製材工場と町外にある(有)池川木材工業のみであった。認証面積は、2000年取得時には約2250haであったが、2年間で追加面積が認められ、2002年11月の第2回年次監査では追加分を含め約6,278haの森林が認証された。こうした認証森林拡大の背景には、組合や町による普及啓蒙活動としての成果もあるが、最も大きなインセンティブとして、梼原町が町単独で行う「水源地域森林整備交付金事業」の影響が大きい。これは16年生以上の人工林でいくつかの指定要件に従い間伐を行った場合、森林所有者に対してヘクタール当たり10万円が交付されるものである。事業実施者に対する補助ではなく、間伐実施森林を所有する者に直接交付されるため町ではこれを「林業版デカップリング」と位置づけている。事業の指定要件にはFSCへの参加が義務づけられており、認証森林増加の大きな要因となった。

 

3.      FSC認証材流通実態

 認証材流通実態に関しては、梼原町森林組合の製材工場である森林価値創造工場においての聞き取り調査を行った。 

尚、認証材の流通量は取得後2000年11月から2002年9月現在までの値である。図−1の様に、同工場で扱われる木材のうち35%が認証材であるが、その認証材のうち認証材として加工・販売されたのはわずかに16%に過ぎない。残りの認証森林から生産された材はラベリングされた商品としてではなく、一般材として販売された。

 

4.      住民意識の変化

 住民意識の変化はアンケート調査により把握した。アンケートは2002年12月に森林組合員の約半数に当たる553名に対して行い、回収率は45%であった。参加者と不参加者の属性に分けて環境に対する意識変化の結果を示すと、図−2のように、参加者で「特に変化なし」とする割合は低く、逆に「今後保有山林に環境に配慮した施業を行いたい」とする割合が高かった。

 

5.      まとめ

 認証材加工・販売率の低さはCoC認証がわずか1社であるため製品に適さない樹種や経級の材が余るためである。ただし、認証取得後、関西方面の中小工務店との連携などが見られた事は副次的な効果として挙げられる。尚、2002年の第2回年次監査の際、町内の製材工場等がCoC認証への審査を受けており、今後の動向が注目される。

一方、認証に参加した住民の意識に環境配慮型施業を容認する意識変化が見られた事は認証取得の効果として挙げられるが、住民の多くがFSCの理念を詳しく理解しているかどうかは更に詳しい調査を必要とする。