現代社会の課題と森林総研:ミッションステートメントの議論に寄せて
藤原敬
森林総研所報05年3月号より
本年11月の森林総研百周年記念の式典での発表に向けて、森林総研では「ミッションステートメント」(組織の基本理念を示す文書)の作成することとし、その作業が行われている。独立行政法人は説明責任と運営の透明性が求められているが、森林総研の存在意義を国民の皆さんに分かりやすく説明するための文書をつくろうということは、その最も重要な作業である。
どんな文言でアピールするかは研究所のセンスと力量が試されるところであり、苦労が多い作業でもあるが、幸いにして、森林総研の存在意義がこれほど国民に分かりやすく理解される条件が整っているのは、この百年の歴史の中で一度もなかったのではないだろうか。
森林総研が生まれ育った100年間の間に、地球上の人口は4倍、エネルギー消費は12倍になり、人類が生まれて400万年の間に消費したエネルギーの半分以上を、このたった100年間で消費してしまったといわれている。現在の社会がこのままでは将来に亘って持続することが不可能であることが多くの人の認識になりつつあり(地球サミット・リオ宣言第八原則など)、その転換の端緒が「京都議定書」という形で国際政治のプロセスにのりつつある。私たちは、化石資源に依存した大量消費社会を、再生可能な資源に立脚した持続可能な社会に転換するという、大きな課題に直面している。
世界銀行の経済学者ハーマンディリーは、持続可能な社会の条件として以下の三つを提示している。
1 「再生可能な資源」の利用速度は、再生速度を超えてはならない。
2 「再生不可能な資源」の利用速度は、再生可能な資源を持続可能なペースで利用することで代用する程度を超えてはならない。
3 「汚染物質」の排出速度は、環境がそうした物質を循環し無害化出来る速度を超えてならない。
1番目の基準が再生可能な資源である森林にとって当然の条件であることは言を待たないが、「化石資源の埋蔵量を使い果たした後も同等量の再生可能エネルギーが入手できるように、石油の使用による利益の一部を太陽熱吸収器や森林造成に投資する」必要がある(ドネラメドウス他「限界を超えて」)という趣旨である2番目の基準、また、林産物を利用する場合の環境負荷を一定以下に押さえることを求める3番目の基準など、森林の管理に関連する基準が全ての点に関係しているといえる。
森林の知見とその生産物の利用に関する人類の英知の水準が、持続可能な社会のデザインを左右するともいえる。
新たなミッションステートメントは、百年の区切りを迎える森林総研が、この大きな課題の達成のための不可欠な位置にいることをふまえた重要なメッセージになるだろう。
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