ニュースレター No.187 2015年3月22日発行 (発行部数:1240部)

このレターは、「持続可能な森林経営のための勉強部屋」というHPの改訂にそっておおむね月に一回作成しています。

情報提供して いただいた方、配信の希望を寄せられた方、読んでいただきたいとこちら考えて いる方に配信しています。御意見をいただければ幸いです。 

                         一般社団法人 持続可能森林なフォーラム 藤原

目次
1 フロントページ:自然資本の持続可能な管理に向けて国民経済計算のあらたな手法(2015/2/22)
2. 熱帯林とCSR− パーム油産業の課題と対応(2015/2/22)
3 日本の企業の熱帯林保全への取組みを示せるかーREDD+プラットフォーム設立(2015/2/22)
4. 森林林業基本計画と持続可能な森林経営(2)基本計画の中の生物多様性保全(2015/2/22)

フロントページ:自然資本の持続可能な管理に向けて国民経済計算のあたらな手法(2015/3/22)

先月紹介したREDD+の資金メカニズムは、温暖化対策の枠組みで、途上国の森林破壊の回避や森林管理の強化のためにに国際的な資金をどのように確保するか、という議論ですが、より幅広く、森林管理の資金問題へ関係のある議論が、国民経済計算への自然資本の計上という形で行われています。。

都内で関連するイベントがあったのでのぞいてみました。

国連大学他主催サステイナビリティ・サイエンス国際シンポジウム:持続可能な自然共生社会づくり(1/24)、と森林総研が世銀東京事務所と共催で開催した「自然資本の持続的な管理に向けた革新的資金メカニズム」(2/5)です。

前者では国連大学の包括的富報告書Inclusive Wealth Report 2014が紹介され、後者では、世銀が中心になって進めている生態系価値評価パートナーシップ(WAVES Wealth Accounting and the Valuation of Ecosystem Services)について実例をふくめた紹介がありました。

(生態系価値評価パートナーシップ)

後者のセミナーの内容はウェブ上でビデオが見られるし配布資料も掲載していますが、どちらも英語です(自然資本の持続的な管理に向けた革新的資金メカニズム)。

報告内容を紹介します。

 

「GDP(国内総生産)では人工資本の減耗分、生態系サービスを提供する受粉するはなど自然の減少、森林や漁業地域など再生産資源の減少、金属化石燃料の資源減少、公害による経済負荷などが計算されない仕組みになっている。

そのために、長期的な成長を支える資産(富)を包括的に評価することが必要であり、人工資本(生産施設、都市基盤など)、自然資本(農地、森林、水資源など)、無形資本(人的資本など)の三つからなる。このうち、自然資本を評価する手法がWAVESである。

現在、コロンビア、フィリピン、コスタリカ、ルアンダ、マダガスカル、ボツワナ、グアテマラ、インドネシアで試験的に実施中。」

自然資本を評価することにより、総生産はプラスでも自然資本の減耗分を差し引くとマイナスだった2010年のコロンビアなどの計算値が例示されました。

大量に水をつか乾燥地域(オースラリアの事例)の農業のゆがんだ姿なども、この計算の中から明らかになるようです。

 

森林についてはグアテマラで森林資源の減少の8割以上が違法伐採によるものという報告がありました。(この作業を進める中での最初の結果、という一連の情報の中で紹介)

報告の中で、詳しい森林の評価の手法などは紹介されませんでしたが、これらの手法を利用して国民計算の形を提示している、国連大学包括的「富」報告書(Inclusive Wealth Report)などで、評価の手法などが解説されています。

(包括的「富」報告書の中の森林)

国連大学包括的「富」報告書2012(日本語版)
方法論付録269ページ

3.2 森林資源
3.2.1木材
森林の木材ストックに価値をつけるため、Arrowetal.(2012)が展開した方法論に従った。
これはWorldBank(2006,2011a)とはある程度異なっている。出発点として、商業的に利用可能な木材の容積を推定した。この一次的な尺度は基本的に、森林面積、面積当たりの木材密度、商業的に利用可能な総容積の割合を掛け合わせたもので、これらのパラメータは国によって異なり、森林資源評価(FAO,2010;FAO,2006;FAO,2001;FAO,1995)からとった。残念なことに、容積、面積、森林密度についてのパラメータは、1990年、2000年、2005年、2010年しかデータがない。そこで線形の内挿を行って、データがない年については推計値を出した。
立木価格については、WorldBank(2006)の方法に従い、工業用丸太と薪という二つの異なる財の加重平均価格を採用した。これらもやはり国によって異なるパラメータである。異なる価格につけられた重みは、それぞれの財の生産量に基づいており、一方で工業用丸太と薪の価格は、それぞれ輸出額と量、生産額と量からとった。レンタル価格の推定については、さらに三つのステップを踏んだ。(1)国ごとのGDPデフレ一夕を使って、各年の推計値を当該期から一定価格に変換した。(2)次に、Boltetal.(2002)が推定した木材の地域レンタル率の情報を使った。この率は時間がたっても一定と仮定している。(3)最後に、対象期間(1990〜2008年)全体の平均価格を推定し、木材のシャドー価格の代理となる億を求めた。
木材の総富の推計値については、この最後のステップで求めた一定のレンタル価格に、毎年商業的に利用できる木材の総量を掛けた。

3.2.2 非木材森林資源
木材以外の森林便益(NTFB)については、Arrow et al(2012)と World Bank(2006,2006b)の研究を合わせ、Lampietti and Dixon(1995)の研究に従って価額をつけた。
彼らはNTFBの経済便益を、先進国についてはヘクタール当たり190米ドル、途上国こついてはヘクタール当たり145米ドルと推計している。
そこからこの係数に各国の人口がする森林面積をかけた。後者は森林面積の10%と仮定した。
森林面積のデーダについては、FAO(2012)を使った。最後に、NTFBの総量は、無限期間と割引率5%を仮定して、将来便益の現在価値として計算した。 

この結果主要国データは以下の通り(単位10億ドル)

包括的富
生産資本 人的資本 自然資本 - - -
うち森林 - -
うち木材 うち非木材
米国 117833 22338 88873 6622 2425 2330 95
日本 55106 14957 39532 617 370 363 8
中国 19960 6159 8727 5073 990 741 49
チリ 1019 218 589 211 71 67 4
コロンビア 1205 287 497 421 87 72 15
ロシア 10327 1335 2135 6856 2268 2014 254
英国 13424 1494 11822 107 22 21 1
ドイツ 19473 4908 13354 1211 91 87 3
フランス 12955 3215 9575 165 99 94 5

国連大学包括的「富」報告書2012

英文ではこちらにフルデータが掲載されています
http://www.unep.org/pdf/IWR_2012.pdf

世銀のWAVESにしても国連大学の包括的{富」指標にしてもまだ、試算の段階ですので今後いろいろ検討課題がたくさんありそうです。

森林の自然資本の評価額のうち、木材以外の評価額がどこの国も数%しかなく、あとは木材で評価した額だというのはすこし変ですね。

生態系の経済価値評価については、環境省自然環境局が−TEEB−生態系と生物多様性の経済学の内容にそって「自然の恵みの価値を図る」というよくできたページを作成していますので参考になります。

(英文で2014年版がネット上に公表されていますが、この内容にもとづく記事は追って掲載します)

junkan6-1<Waves>


熱帯林とCSR− パーム油産業の課題と対応(2015/3/22)

世界に広がるパーム油
 http://www.oil.or.jp/info/64/page01.html

熱帯林行動ネットワーク(JATAN)などNGO7団体が共催した、「熱帯林とCSR−2015− パーム油産業の課題と対応」というセミナーに出席しました。

加工食品や洗剤に使われている植物油の中で、シェアが拡大しているパーム油の生産現場での、熱帯林の生物多様性との折り合い、熱帯林に生活を依拠していた地元住民との関係など、先進国市場と熱帯林の現場を結ぶ、木材生産と同種の問題を抱えています。

先進国の市場からの豊富な資金をもとにした開発の推進現場で、途上国政府のガバナンスが必ずしも有効に機能しない場合があり、企業の社会的責任に依拠したグリーン消費運動が生産現場でのトラブルを解決する事例など、報告されました。熱帯木材の生産現場のガバナンスの共通問題を提起しています。

3時間の長いプログラムのすべての画像がネット上でみることができます。プランテーション・ウォッチセミナー「熱帯林とCSR?2015? パーム油産業の課題と対応前半後半

インドネシアをベースに活動してきたForest People Programme のPatric Anderson氏の報告「インドネシアのパーム農園開発と土地紛争 」が中心でした。

消費者の側からRSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)の認証パームオイル購入運動が開発企業と地元住民のトラブルを調整する、といったインドネシア西カリマンタン州の事例が報告され、日本の消費者の役割も大きいというメッセージでした。

ここで、力になったのが、当事者がパーム油の世界的な生産者であるりRSPOの理事であるウィルマー・インターナショナル(本社シンガポール)が関与したビジネスであるといったという、木材ビジネスと少し違う状況もあるのですが、質疑の最後にアンダーソン氏が語った、認証製品の普及のような市場からのアプローチは、目的でなく手段である。最終的には政府が基準を強化しガバナンスを強化するかが目的である。」という言葉が印象に残りました。

オリンピック・パラリンピックをきっかけにして、森林認証制度についての注目が集まりますが、それをステップにして、各国の森林管理のガバナンスがどのてように進んでいくのか、という視点が重要です。

参考文献 マレーシア・パーム油産業の発展と現代的課題」高多 理吉 福岡工業大学社会環境学部 教授 (財) 国際貿易投資研究所 客員研究員

sinrin5-17<RSPO>


日本の企業の熱帯林保全への取組みを示せるかーREDD+プラットフォーム設立(2015/2/22)

森林総研とJICAの呼びかけで、『森から世界を変えるREDD+プラットフォーム〜Japan Public-Private Platform for REDD+』という団体が設立し、Webが開設されました

設立目的を「途上国の森林保全活動を巡る様々な課題を解決し、オールジャパンで「REDD+等を含む途上国での森林保全活動」を推進していくため、民間企業、民間団体、政府機関、研究機関などが連携を強化し、対外発信、経験共有をして体制作りを行うための場}としています(設立趣意書

関連情報は、森林総研のREDD研究開発センターなどが発信していますが、途上国の森林管理について、ビジネスモデルの提案が活発に行われ、幅広い企業が参画することになるのか、注目です。

kokusai2-52(REDD+pf)


森林林業基本計画と持続可能な森林経営(2)基本計画の中の生物多様性保全(2015/3/22)

地球環境基金の「愛知ターゲット目標3補助金奨励措置の健全化に関連して」というプロジェクト(代表国学院大学古沢広祐教授、実施団体特定非営利活動法人野生生物保全論研究会、というプロジェクトの、今年度の報告書「生物多様性はど守れるかー補助金・検査・法制度の改善に向けてー」に、「森林林業分野の行政施策と生物多様性の保全ー愛知ターゲット目標3補助金奨励措置の健全化に関連して」というタイトルの小論が掲載されています。

 

その中で、過去3回の森林林業基本計画の中での生物多様性についての記述の推移を整理していますが、その概要が、左の表です.。

「基本方針」における記載は、前二回は「国民のニーズの多様化」という視点であったのに対し現計画は「森林における生物多様性の低下の懸念」と一歩踏み込んだ認識を示すとともに生物多様性条約などのグローバルな動きを踏まえた新たな項目建てをしています。

また、目標に関する記述では、十分配慮すべき「重視する施策以外の機能」とする位置づけ(前計画)から、現計画では、特に生物多様性の重要な森林について記述、「順応的管理」に基づく対応必要について記述し、さらに、「施策に関する記述」では、生物多様性の保全を山づくりの主たる目的の一つとして記載するとともに、優良種苗の確保、在来種による治山緑化など多様な記述となっています。

このように、2013年の計画で生物多様性保全に関する記述が詳細になった背景には、生物多様性条約COP10を前にして、林野庁が設けた「森林における生物多様性の保全の推進方策検討会」 (2009年林野庁)の検討結果が大きな役割を果たしています 。

kokunai1-13<16kihonkeikau2> 



最後までお読みいただきありがとうございました。

藤原敬 fujiwara@t.nifty.jp