森林環境税で森と人、人と人は繋がるか?ー勉強部屋Zoomセミナー第3回報告(2024/12/13)

11月30日勉強部屋Zoomセミナー本年度第3回を開催しました。

ゲストに石崎涼子さん(森林総研林業経営・政策研究領域、森林管理制度担当チーム長)を迎え「森林環境税で森と人、人と人は繋がるか?」というテーマに沿って、お話を伺い意見交換をさせていただきした。

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石崎さんは2010年:水源林保全における費用負担の系譜からみた森林環境税(水利科学誌)を公表されるなど、森林の財源の歴史から、森林環境税の議論をリードされてきました

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(森林環境税の意義ー石崎さん曰く)
森林環境税の創設により、森林政策という小さな政策分野に対してアンバランスとも思える注目が集まっているようにも感じます。

ただ、改めて森林という存在について考えると、性格の異なる多様な機能を併せ持つという特徴があり森林における1つの行為はさまざまな空間スケールの多様な側面に影響をおよぼす可能性があります。

分断社会ともいわれる現代社会にあって、多様な要素が多層に繋がってくる森林との向き合い方を広く国民が意識して考えることを通じて、人と森、地域と地域、ある立場と別の立場が繋がり、共に支え合う機会が生まれるとしたら、小さくとも大きな意味を持つ新税となるのかもしれません
森林技術誌2024年9月号より

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それではプレゼン内容を紹介します。いただいた公開可能なプレゼン資料にそって、つまみ食いです。(すこし藤原が加筆かも)

目次は以下の通り

森林環境税とは何か?
森林保全の費用を誰が負担するのか?
•森林に関わる人々と市町村
森林環境譲与税はなにに使っているのか
•森林環境税で森と人は繋がるか?
•森林環境税で人と人は繋がるか?

(森林環境税とは何か?)

2024年度(今年度)から住民税に年額1000円追加して森林整備施策(森林法第2条でいう「森林」で市街地等にある小公園は含まず、東京23区にはない)に 充てるために徴税されることとなった国税です。

(市町村が個人住民税の均等割の枠組みを用いて(代理で)徴収するが国に払い込まれる(←総務省の関連ページ)。

全額が譲与税として主として市町村にわたっています(2019年から)

先行して2003年度から高知県が県民税に追加負担を課して森林保全をする仕組みを導入しており、その後約8割の府県に拡大しています(国税と区別して「府県版・森林環境税」とする)。(これら府県版の先進的参加型税のがもっている負担額アンバランス(後述します)を国税・森林環境税が解消した (という側面もあり)。

国税の徴税見込み額は600億円で一定の基準に応じて都道府県(2024年度から1割)と市町村に配分されまず。

森林環境税は、国全体の租税総額の0.05%ですが、市町村にとっては、林業関係費がかなり(2-3割)増えることとなる見込みです。(左の図の市町村への譲与税額a/市町村林業費b)

(森林保全の費用をだれが負担するのか?)

上流にある森林に関わる負担を下流の町の人がどのように負担してきたかという、日本の江戸時代以来の長い歴史の説明があり(森林環境税を考えるバックグラウンド)、その上で以下のような説明がありました

<「地方」と「自治」のジレンマと森林政策1>

右の図にあるように・・・

1990年代の地方分権(地方に国の権限を移譲)で市町村へ民有林の管理に関する権限が移譲されたり(自分たちで意思決定)、2000年代に行財政改革で財政面で自立を迫られ(自主財源確保)・・・・府県版森林環境税などが、現れました。

ただ、「森林は人口の少ない地域に多くある」 」という、地方圏の自治体がもつ「地方自治」の潜在的ジレンマが、最もよく現れる政策分野です。

<「地方」と「自治」のジレンマと森林政策2>

国税森林環境税は、森林整備やその促進に関わる施策に充てるという枠はあるものの、 具体的な使途の決定は地方自治体にまかされており(自分たちで意思決定)、そして、都市住民もふくめた全国民から徴税される財源が元となった・・・「ジレンマを克服する制度」!!・・(となる可能性を持った制度)です。

<あらためて:国税森林環境税の特徴は>

(参加)負担者と活用主体が一致しないが、使途の公表を義務付けしています。
(地方固有性)使途の自由性は高く地域課題の自己決定による施策展開が可能です。
(先進性)先進性を発揮した府県は「棲み分けに苦慮」
(環境保全)小さな税に対して、強い関心 が示され➡ 意識啓発効果は高い

<財政学者の反応>

財政学などのアカデミアの(森林政策を少し知っている)方からは厳しい意見あります。(左の図)

均等割(人頭税)は地方税ならよくても国税では許されない・・・など。

本来地方税に属すべき税源を国が徴収するものともされる「地方譲与税」の性格に関する 議論など、アカデミアのなかでも、あまり議論がされていない論点もあります。

(アカデミアのゲストからすると、外してはいけない一枚かな?)

今後の課題をいくつか含んでいる可能性があります。

(森林に関わる人々と市町村)

人々の森林に関する思い、居住環境などによって関心はさまざま(居住環境だけでなく、年齢、性別・・・国によっても違う(スイスと日本の調査結果など)という説明がありました。そして、町村には人は少ないが森林はおおい、市には人は多いが森林が少なかったけれど平成の大合併で自治体の大きさが違ってきて複雑に・・・そこで森林に関わる人々だけでなく「市町村」というタイトルで話が進みます。

右の図は森林総研が行った市町村調査の結果です。

横棒は上から森林関係の担当職員の数の規模別にみた森林関係の業務のウエイト(費やす時間等) です。一番上が森林関係職員が少ない市町村(0.3人以下)、一番下が多い市町村(4人より多い)。それぞれの業務量が色分けしてあって、左から森林法関係業務(どうしても法的にやらなければならない・・・)、次の二つが森林経営管理制度関係業務と 森林環境譲与税関係業務、次が造林や治山などの業務、右から二つが市町村有林業務と一番右がその他の森林行政です

平行四辺形で囲われた譲与税や同時に導入された管理制度の業務は、どの町村にとっても同じぐらいのウエイトがある、大きな業務になっています。

ということで、森林環境譲与税などに関連して市町村の業務量がたくさん(27%)増え、職員の数が少し(3%)増えました。(左の図)

(森林環境譲与税は何に使われているのか?)

右の図は、使い道を、①間伐等の森林整備関係、②人材育成・担い手の確保、➂木材利用・普及啓発、④基金への全額積立等の四つに分けたときに、市町村が年度別に何に使ったか? 一番左は全市町村の平均、真ん中は人工林がたくさんある市町村平均、一番右は少ない市町村平均です

使い道がよくわからなかったので基金に積んでいたけど、それが減って使い道がわかってきたということもわかるグラフですね

<市町村の体制づくり>

市町村の森林行政では、業務の量や質に対して担当職員の数や専門性が十分ではない場合が多く、問題となっています。そうした市町村森林行政の体制づくりにも森林環境譲与税が活用されています。

体制づくりについて4つに類型化された解説です。

ミニマム型:業務を最小限にして森林管理上の重要事項は都道府県など他の主体が担保できる体制(県職員として市町村業務フォレスターを育成する奈良県フォレスターなど)

外部委託型:一部業務を外部組織等に外注する。
(森林経宮管理制度の意向意向調査を外部委託など)

広域連携型:複数市町村で一部業務を共同実施する(愛媛県南予の事例)。核になる組織を譲与税も活用して設置して サポート。

内部人材育成型:専門的な職員の確保や継続的な知識・技術の向上

森林総研研究成果選集(2023)、業務増大する市町村の森林行政、体制整備の方策提案参照してください

(まとめ1:森林環境税で森と人は繋がるか?)

多くの人が森林環境税を注目している、間違えなく。森と人とが繋がるチャンスです。

チャンスを生かすべく長年にわたり課題となっていた森林行政に関わる人づくりを含めた森林環境譲与税の様々な活用が 各地に広がっています。

その結果どのような進展があったのか、という評価プロセスはまだできていません。

(まとめ2:森林環境税で人と人は繋がるか?

都市の人と森林地域の人が繋がるのか?

いろんなチャンスが生まれてることは間違えないので、都市の人の財源負担者、木材消費者、森林と交流する者などの役割はよくわかるのですが、サステイナブルな社会への変革をになう当事者とは?あとで少し触れます。

以上がプレゼン内容でした

皆が森林政策に関心を集めているチャンス(長く続かないかも)

この事業をすすめないと、どんな問題がおこるのか、市民に分かり易く発信して議論をする必要があるでしょう、

((質疑の時間))

Qfrom藤原:森林環境税によって、皆が森林に関心をよせて(一時的かもしれないが)チャンスがうまれています。このチャンスを生かすために、何をしたらよいと思いますが。

Afrom石崎さん::都市の住民が森林をリアルに感じるのはなかなか難しい中で、森林に対して多くの関心が集まっており、解決できずにいた課題に取り組む チャンスが生まれているというのは間違えないです。しっかり生かしていくには自治体で全体の状況をしっかり把握し、戦略的に考えてゆく必要があります。一つのポイントは補助金でなくて使い道が広くフレキシブルなこと。先ほどお話したように自治体の人づくり等にも使えることは重要です。

Qfrom藤原:同上のジレンマは、日本だけにあるのでなく世界中どの国にでもあります。どの国の国内だけでなく、「熱帯林を抱える途上国と、減少の影響をうける先進国」というグローバルなジレンマもあります。そこで、伺いたいのは日本のこの制度についてグローバルにどのような受発信がされていますか。アカデミアのレベルで注目される議論がされていますか?同じような制度をもっているところありますか?

Afrom石崎さん:同じような制度としては、2000年ごろからPES(Payments for Ecosystem Services)という仕組みに関する議論が広がっています。生態系サービスの恩恵を受けている人が、サービスの提供者にたいして支払いをする。いくつかの国でこうした考えに基づく仕組みが 導入されています。森林環境税ができた背景にも似た考え方が含まれているかもしれません。ただ、森林と住民の関係性は国により違う面もあり。例えば上流のスイスの森林に、下流のオランダが支払うかどうか?など。日本の事例をしっかり海外の発信していくことの重要性は感じており、国際誌等でも発表してきました。国際的な議論へ広げていくのも興味深いと思っています。

Qfrom石崎さん:「サステナブルな社会への変革を担う当事者としての都市住民」という前述の観点から考えられることについて、多くの金融機関や企業が拠点をおく東京特別区が森林施策の主体となることの意義があるのか、ないのか、といったあたり:藤原さんの意見どうでしょう。(事前に頂いていた質問です)

Afrom藤原:ありがとうございます。都市住民との関係性、文京区の事例など少しはフォローしてます。木の利用、○○の森への資金提供などはよくある話ですが「サステナブルな社会への変革を担う当事者としての都市住民」・・・こんな可能性ですね。そのようなことをしている、例はないとは思いますが、ESGへの投資などをしっかりやっている金融機関・企業など増えてkたことは間違えないので・・・例えば、文京区内の企業、金融機関向けの「企業による森づくりー脱炭素経営への手がかり」といったセミナーを(石崎さんをゲストに)譲与税をつかってやるなどは、面白い可能性ですね。

(参加者からの質問)

全部は答えられなかったのですが参加者から質問をいただきました。ありがとうございました

Q+コメント A
1 徴収された税の配分に対しての不信感も無視できないと思います(常日頃からの税の使われ方、政府の支出の在り方に関しての疑問、そのんなものに税を使うくらいなら、我々の○○に使ってくれた方が…の想い)。
適時、自分たちが徴収された税についてどのように使われたか、これまでのような議会報告や政府公報のようなしち難しい場へわざわざ市民が見に行かなくても、それらによってどれだけ市民に恩恵がバックされているか、生態系サービスを含め、災害リスク減の金額評価など、もっと広く報告せしむ手段の確立が必要ではないでしょうか。
おっしゃる通り、行政の立場だと幅広く使えるが、市民の立場では何につかってるのかわかりづらい。だから、自治体からの情報発信や施策過程への参加の仕組みの検討なども重要です。
九州では放置竹林が非常に多いのですが、森林環境譲与税は竹林整備にも使えるのでしょうか。地目が山林でない場合も含めてですが。

森林法上の「森林」には竹も含まれており、 林野庁の使用事例にも竹林がはいっています。

公務員が短期で異動するのは汚職の芽を摘むことにも繋がります。もちろん、長期の在籍にもメリットがありますが、馴れ合いからの汚職を防止する手法として奈良の事例で何か導入されていますか? 奈良県の事例で汚職対策として特別に何かが行われているかは分かりませんが、市町村へ配置した後も県の担当者が訪問するなど、外の眼が入る機会はあるようです。確かに長期在席のデメリットとして汚職がよく懸念されていますが、逆に施策対象者(林業事業体など)がベテランで、市町村担当者が素人だと、ごまかされるという側面もあるかもしれないので、正負の両面を幅広くみた議論が必要ではないかと思っています。 。
2条森林ではない公園、街路樹、学校林を都市林業林として整備・利用に森林環境税を使うためには、法改正しか方途はありませんか 現行法によると森林法に規定している「森林」の整備に関わる施策、もしくはその促進に関わる施策でなければ、森林環境譲与税の活用は難しいと思います。 ただ、そうした範囲内の施策において、都市の樹林地や学校林も活用することができるかもしれません。
令和の時代になって、国税の森林環境譲与税が市町村へ譲与されるようになりましたが、市町村の当初の仕事は、森林所有者への意向確認、境界明確化、集積計画の作成、配分計画の作成でした。
この点が、府県版の森林環境税との大きな違いであると認識しております。
そして、意欲のある林業事業体に再委託できなかった森林は、市町村が自ら森林経営をすることになりますが、現状では、多くの森林が再委託できていないのではないでしょうか?
こうした状況が、今後の大きな課題になると思われますが、どのように対応していくのが良いでしょうか?
森林を所有することの責任、森林を管理することの責任、それが、市町村に大きくのし掛かってくるのはないでしょうか?
重要な指摘ですね。

御指摘の通り、再委託できずにいる森林も少なくないと聞いています。その理由は様々あるでしょうが、1つ、昨今とくに深刻化しているのは委託を受ける事業体の人手不足です。これは日本の人口構成を考えると、今後さらに深刻化する問題になるかと思います。誰が何をどこまで管理するか、改めて考えていくことが大事ではないかと思っています。(from石崎さん)


自治体以外に森林管理主体をひろげていくことは、いろんなやり方があるかと思いますが。ESGなどでビジネスの森林関与の事例が増えてきているので、企業の森林管理への投資の可能性は広がっているのではないでしょうか。ネットワークの拡がる過程などで譲与税活用の道があるかもしれません。(from藤原)
もうひとつ。森林教育として、間伐実習なども都市部住民に体験させたいところですが、スギ花粉防止に国は伐採を進める方針とききます。その再造林にこの財源を使って都市部との交流の使途に使えるものでしょうか?

森林教育や都市部との交流にも つかわれています。

都市部住民の個人意見として、森林管理経営のための一律定額徴収は賛成です市町村の大合併のご説明もありましたが、やはり人口割は疑問符がつきます。森林面積割を摘要して、しっかりした森林管理が進むことを期待します。

本日も御紹介した通り、現行の国税・森林環境税における大きな論点の1つです。今年度から人口割の比率が若干減少しましたが、今後も議論が続いていくかと思います。

以上です

((皆さんへ)

たくさんの参加ありがとうございました。
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