「緑豊かな美しい日本の再生(提言)」の概要 |
(財)森とむらの会
提言の主旨
2001年に森林の多目的機能の持続的発揮を第一義とする森林・林業基本法が制定されたが、森林管理・経営の状況は一層厳しさを増している。
本年2月16日の京都議定書の発効及び近く迎える森林・林業基本計画の改定を踏まえ、森林整備及び国産材利用の推進について新たな具体的な方策を提言。
森林の管理・経営の現状と課題
森林は地球温暖化の防止、生物多様性の保全等の地球的課題のみならず、洪水調節、水源のかん養、精神的・文化的・教育的利用等、多様な役割を果たし、その重要性はさらに増している。
しかし、林業生産活動は、半壊滅的な状態となっており、間伐されない森林、伐採しても植裁されない森林などが目立つ。そして、このことがゴミの不法投棄、土砂崩壊や流木災害、シカ、イノシシ等の被害、竹林の拡大等の新たな問題を起こしている。
我が国の林業は、効率化の観点からみれば、外国と比較し、急峻な地形、下草の繁茂、小面積分散的森林所有構造等自然的、社会的条件が劣り、外国に対する優位性を確保することは容易でない。
森林の多様な役割=多面的機能の持続的な発揮のためには、森林を公共財として、森林所有者等のみならず国民全体で支え管理していく新たなシステムを作り上げるとともに、循環型資源としての木材の利用を促進していくことが必要。
提言T 国民に開かれた森林計画の作成
国民全体で森林を支えていくシステムを作り上げていくためには、どこにどのような森林を整備しようとするか等について、国民的合意の形成に努めていくことが必要であり、国民に開かれた森林計画の作成が重要。
提言T−1 森林GIS等を活用して、どこで何をしようとしているかを明らかにする属地的計画の作成。
提言T−2 森林所有の境界さえ不明確になっていることから、地籍調査の推進。
木材生産に関わるもののみならず、下層植生、野生鳥獣等、森林に対する多様な情報の把握と整備。また、情報をできるだけ公開。
5年に一度は全国や地域の森林の姿を分析して公表。
提言T−3 多様な森林整備を進めるための森林施業に関する技術的ガイドラインの作成。
提言T−4 国民の意見を反映するため、審議会等に加え、森林に関わりがある団体等への意見照会等、より積極的な対応。
提言T−5 森林計画の作成について、市町村職員等のみでなく専門的機関(調査コンサルタント等)の活用。
提言U 森林整備の的確な実行=新たな森林管理システムの構築
以上により作成された森林計画を的確に実行していく体制をつくりあげていくことが必要。
提言U−1 現在の補助制度等では、森林所有者等の実施が期待できない間伐や複層林造成等の作業が放置されており、これらの作業については、費用を全額公的に負担して行う公的実施を進めることが必要。この場合、単に公的に実施するのみならず、その過程で小規模分散的な森林所有を集約化するとともに路網の整備を進め、地域の森林の管理・経営のあり方を改革し、より効果的、効率的に実行し得る基盤を作り上げていくことが必要。
提言U−2 皆伐後の跡地が放置されていることに対し、実態について詳細な調査を行い、造林推進方策の見直しや一定面積以上の皆伐については伐採後の造林等を条件とした許可制を導入するなど実効ある対策の実施が必要。
提言U−3 公的実施を進めるため、森林管理の基礎となる流域毎に、対象森林の実態把握、実行計画の作成、作業の実施、実施結果の検証・公開等を行う流域森林管理センターを設置。
流域森林管理センターは、事業の対象となる森林について、民間事業体から具体的な実施の提案を募集し、それに基づき、実施を民間へ委託。
流域森林管理センターの設置及び運営については、都道府県、流域内市町村が中核となり、国が協力。
提言V 国産材利用の促進
森林整備の進捗に伴い供給される国産材の利用の促進が必要。そのことが森林整備そのものに資するとともに、資源循環型の社会の構築等に貢献。
提言V―1 流域森林管理センターを中心として、国産材の安定的供給の確保。
そのことを基礎として、生産、加工、流通体制の合理化。
提言V―2 構造に木材を使うだけの木造住宅ではなく、健康的で人間の感覚にフィットする木の良さを生かした新しい木材使用住宅を進めるべき。
提言V―3 消費者へ木材についての科学的データや価格、品質、強度、乾燥度合、産地等の情報提供。
提言V―4 住宅以外の木材利用の推進。大型建築物や事務所、商業施設、鉄筋コンクリート施設等の内装等に加え、バイオマス利用等新たな活用を推進。
提言V―5 特に公共事業等の実施において、まず木材の使用を検討することを原則とする「木材使用宣言」を各行政主体で実施。
提言V―6 使用建材やエネルギー効率等を評価するエコ建物等、木材利用の推進に資する効果的な環境行動評価の仕組みの創設。
緊急実施の必要性と期待される効果
人口減少社会の到来を前に山村社会は崩壊の危機。このままでは、山村に残されたわが国固有の文化や伝統が失われるとともに、森林は自然化し、つる類等の繁茂、山地崩壊や風倒木等が放置されることとなる。その結果、山村のみならず都市にとっても問題が顕在化。また、林業労働者の育成には長期間を要するが、このままではこれまでの知識や経験を引き継ぐことが困難。
このことから以上の提言については、早急に実行されることが必要。そのためには、従来以上に大幅な財政負担が必要となる。厳しい財政事情の中ではあるが、この10年間程度を緊急的な期間として位置づけ、特別に対応することを検討すべき。
そのことが多様な森林を整備することになるとともに、森林と人の濃密な新たな関係を作り出すことになる。また、森林の管理・経営の基盤が整備され、地域の自然や景観、伝統や資源を大切にしつつ、環境にできるだけ負荷を与えず、いきいきと暮らす山村社会をつくることになる。
それに伴って、緑豊かで美しい日本が再生されるとともに、カーボンニュートラルな循環型社会の構築が進められることとなる。
美しい自然とそこで展開される文化的な営みを通じて、真に豊かさを実感させる成熟社会が形成される。
新たな森林管理システム(概案)
1.対象地
森林所有者等が森林整備を実施するとされているもののうち、放置されている対象事業の作業地がまとまっている箇所(例えば、区域面積30ha以上、計画期間の作業面積10ha以上)で森林所有者等の申請するまたは同意が得られる箇所とする。
2.対象事業
基本的には、間伐及び複層林施業の伐採、樹下植栽等の更新、保育作業とする。ただし、対象地内の小規模な皆伐施業の主伐、植栽等の更新、保育作業についても含むことができる。
なお、事業を行った箇所については利用制限(例えば10年間の保全)を設ける。
3.組織
地域森林計画の流域毎に森林管理組織(仮称:流域森林管理センター。以下、「センター」という。)を設置する。
センターは、オープンな形で選定される長と、必要最小限の職員で構成する。
センターの役職員は任期制にする。役職員には、技術的知見と実行に対する指導力が求められる。
4.業務
センターは、次のような業務を行う。
@
森林所有者の参加確認、集約化
A
実行計画の作成と森林所有者の同意
B
作業の実施
C
実施結果の検証
D
経費の確保
E
関係者及び国民への説明、調整
F
その他森林計画の作成作業の受託等
5.事業の実施
作業は、民間事業体等に委託して行う。
センターが作成する中期の実行計画(例えば5年間の計画)に基づき、中期間の実行を担う事業実施者を公募する。
民間事業体等は、中期のものと当該年度のものに分けて、森林施業、作業道の作設、生産の見込と販売等の実行、必要な経費等を事業計画としてとりまとめ提出する。なお、販売については、販売の仕方を明らかにして収入についても計上し、必要な経費と合わせて収支を明らかにする。
提出された事業計画等により、センターで事業実施者を選定し、毎年度、年度毎に実際の契約をすることとする。
事業実施者は、実行が終了した段階で実施結果を報告する。
センターでは、実行結果を検証し、必要がある場合は、補正作業をさせる。なお、実行結果に問題があるものについては、次年度以降契約からはずすこともありうる。
このほか、森林所有者等が、他の森林所有者の森林を集約化し公的実施に見合う事業を行う場合には、自ら事業計画を申請して実施することもできることとする。
6.評価
実行計画及び実行結果を第三者として評価する専門家等からなる評価委員会を設ける。
7.経費
必要な経費については、国、都道府県及び市町村からの毎年度の拠出による。そのほか寄付等を受けることができる。また、木材販売による収入があれば充当する。
センターは、実行計画に基づき毎年度必要な予算を都道府県、市町村に申請する。
8.都道府県等への報告
センターは実行結果及び決算をとりまとめ、第三者委員会の評価を受けた後、都道府県、市町村等に報告する。都道府県はそれをとりまとめ国へ報告する。
9.事業実施状況の公開
センターは実行計画の作成、事業実施者の選定、実行結果の検証及び決算等については、できる限り公開する。それにより、特に流域内の関係者及び住民等の意見を聴取する。