セーフガード発動第一号の波紋new
4月23日政府はネギ、生シイタケ、畳表の三品目に対する緊急輸入制限(セーフガード)を発動した。これを契機としてウナギ、ワカメ、タオルなど他品目にも発動を求める声が国内で高まり、中国は制裁措置の警告を発り、果ては米国がスーパー301条の警告を発するなど、波紋が広がり、マスコミをにぎわしている。
概して我が国の報道はセーフガードの発動になぜか批判的である。
マスコミの論調の中には、中国との二国間交渉はWTO違反であるなどといった誤解に基づくとしかいえないモノもあったりするが、いくつかの論点について検討してみよう。
中国の制裁発動とWTO加盟
中国が制裁を加える可能性について、中国側の政府高官の発言が報道され、そういう事態になると大変な影響がある、といった論調の解説がなされている。
そもそも、セーフガードにより影響を受ける国のとる制裁措置はセーフガード条約によって、ルールが決められており、「輸入の絶対量の増加の結果としてとられた措置で、かつ、協定に適合する措置である場合は最初の三年間は行使されてはならない(第八条三項)」と規程されている。中国側がWTOに加盟していない現時点で、WTO条約に拘束されない(報道された貿易対外協力相発言)としているそうだが、中国のWTO加盟が交渉が現在最終局面を迎えているときに、このような発言を平気でするということは信じられないことである。そしてもっと信じられないのは、それを垂れ流して報道したり、「石氏の発言は厳しいものだった。中国が日本にとって手痛い対抗措置を取る可能性がある」と報道された経済産業省幹部がの発言である。中国側が現時点でセーフガード条約の違反に当たる行為をする可能性があると日本の貿易政策を担当する省の幹部が判断しているのだとしたら、中国のWTO早期加盟を推進する我が国のポジションは真剣な議論の洗礼を受けていないといわざるを得ないだろう。
木枠検疫強化と中国のマツクイムシ
あわせて、中国が輸出用の梱包材の検疫を強化したことが、制裁ではないかと報道されている。マツクイムシの伝播を防除するための措置は欧州でも執られているモノで、制裁との解釈には無理がある。ただ、マツクイムシの伝播を防除するためにすべての原因となるザイセンチュウを撲滅しなければならないというのは、伝播のメカニズムをすこし理解すれば不必要なこと(媒介するカミキリムシを除去するだけで防除は可能)で、また、マツクイムシにすでに汚染されている中国がそのような厳格な規制をすること自体はおかしなことである。
セーフガードは自立に水を差す?
セーフガード措置批判の最も重たい重要な論点は、セーフガードが産業の自立に水を差すモノだという議論である。「セーフガードは一時的な措置であり発動期間中に十分な改革を実現できない限り発動する意味がない。また、行政や政治頼みの体質を助長するという意味でむしろ有害である。」という論調である。
セーフガード措置は条約上「8年間をこえるものであってはならない」(条約7条3項)とされているように期限を切って実施されるモノである。そういう意味でその期間に何を達成するかという明確なビジョンが必要だし、それがないままの発動は多くの国民の理解を得ることが困難だろう。木材の場合、違法伐採や環境ダンピングなどの環境コストをペイしない木材流通の状況が改善するまで、という骨太なグランドデザインをもって、森林条約化や生産コストの削減などにとりくんでゆくというビジョンが必要なのではないだろうか。