国際的な「貿易と環境」の議論の展開と林産物貿易

林産物貿易と我が国の林業政策論への含意

藤原敬(中部森林管理局名古屋分局)

 


1 目的

1990年代初頭から国際的に展開された「貿易と環境」に関する議論は、新たな貿易交渉の枠組みに関してのみならず、森林管理の国際的な枠組みをつくる上できわめて重要な内容を含んでいる。これまでの議論の経過を整理し、その中で貿易的措置も含む国際的、国内的な森林・林業行政の今後の展開をはかっていく上で必要な点を摘出する。

 

2 環境と貿易の国際的議論の背景と経緯

80年代以降環境問題が国際的な広がりを示す中で、これらの課題と貿易問題との関係の議論が浮上した。第1に、環境問題と同時期に展開した各国間の貿易の拡大、経済の国際化が国際的な環境問題の深刻化の一因になっているのでないか、という指摘がなされるとともに、第二に、環境問題を解決する手段として貿易の規制が提唱・検討(熱帯木材のボイコット運動など)され、具体化されてきた(絶滅の危機にある生物の取引を規制するワシントン条約、有害廃棄物の国境を越える移動を制限するバーゼル条約など)。このため、ガット・WTOを中心とする既存の国際貿易秩序と環境目的の貿易手段との摩擦が顕在化することとなった。直接的には、91年のガットによるキハダマグロ紛争裁定(米国の海洋ほ乳類保護法に基づきイルカの混獲を防止しない形で捕獲されたメキシコ産マグロの米国への輸入禁止措置がカット違反であると裁定された)を契機として、WTO、OECDなどの国際機関の場で、@ガットなどの既存の国際貿易協定と、環境目的のための貿易手段との整合性、A貿易自由化と国際的環境問題との関係などにつき議論が行われることとなった。

 

3 摘出された論点

(1)一方的措置、製品ボイコットの評価

貿易環境問題の発端となった、熱帯木材のボイコット運動などの「一方的行動」は、地球サミットのリオ宣言原則12など政府レベルの国際的合意の中で明示的に否定された。ただし、熱帯木材ボイコットが国際熱帯木材協定の2000年目標などの合意に与えた影響、米国のマグロ輸入禁止がガットの内部の議論に与えて影響などのように、国際環境問題の議論展開の原動力として果たした影響は大きい。

(2)環境協定の貿易的手段の評価

ワシントン条約、バーゼル条約、モントリオール議定書など24の環境国際条約が貿易制限(産物の捕獲方法による差別、締約国内外の差別など)を条約目的の達成手段として明示している。これと、ガット第一条に規定された「同種の産品の」「最恵国待遇」を求めたガットの基本条項との間に整合性があるか、この間の最も大きな論点の一つであった。明確な結論には至っていないが、ガット違反として環境条約にチャレンジできる実態ではなく、いかに、例外規定の解釈をするかというガット側の受け身の議論となっている。今後のできる条約の貿易条項の可否はガット整合性よりも別の観点が必要である。

(3)貿易自由化と環境問題

「貿易自由化が環境に悪影響を及ぼすものかどうか」開発派と環境派を分ける基本的論点である。この問題では大きな議論の相違点はなくなっている。すなわち「環境についての十分な国内規制が執られるならば、貿易の自由化は環境によい影響を与え、そうでない場合は環境への悪化を助長する。」がコンセンサスとなっている。

 

4 林産物貿易問題への含意

(1)国際森林条約

林産物貿易自由化問題が俎上にのぼる場合、上記3(3)の観点から「国際的な森林に関する管理の取り決め(森林条約など)が前提」との議論発展する可能性がでてきている。今後森林条約の貿易条項を含めて木材貿易のあり方を検討する場合、過去の環境条約が、どのようなときに国際的なコンセンサスを得て貿易的手段を組み入れたかの分析が重要。その意味で、@輸入国に害を与えることが明白な場合(バーゼル条約:有害廃棄物の持ち込みを禁止)、A貿易が環境劣化の原因となっている場合(ワシントン条約)、B国内規制が広範にわたり国境での規制が効率的な場合(ワシントン条約)など、と類型化した分析が必要である。

(2)わが国の政策展開への含意

わが国の林業問題の困難性も、国際的な環境と貿易の文脈の中で検討する必要がある。わが国の林産物が環境材であるということを明確にする仕組みの構築、国際貿易を歪曲する観点として排除されている補助金の整理、等が必要となっている。

 

5 参考文献

Nigel Sizer et al. “Tree Trade -Liberalization of International Commerce in Forest Products: Risks and Opportunities”, 1999, World Resource Institute

Hakan Nordstrom and Scott Vaughan, “Special Studies on Trade and Environment”, 1999, WTO