森林管理における国際的レジームの成立条件についての検討

Analysis of Development of International Regime on Forest Management

 

藤原敬

FUJIWARA, Takashi

 

1 はじめに

1980年代の前半に熱帯林の減少荒廃が国際的な注目を集めて以来、国際的に持続可能な森林経営を達成するための取組が追求されてきたが、現時点でも、熱帯林の減少が依然として続き、さらに温帯林においても違法伐採などの不適切な管理が指摘されている状況にある。森林管理のための国際的なレジームの確立が求められている。ほぼ同時期に問題が認識され国際的な課題となったオゾン層の保全、生物多様性の保全、地球温暖化防止などは国際条約が成立しそれぞれ程度の差はあれレジームの強化が図られてきた。これらの、国際的なレジーム形成についての先行研究を参照しつつ、森林管理レジーム形成への取組を分析し、持続可能な森林問題の持っている社会的技術的特性に着目し、国際的な森林管理レジームの意義、形成の障害及びそれを除去する条件を明らかにする。

 

2 レジーム形成の分析視角

国際的なレジーム形成の過程は、アジェンダ形成段階、交渉段階、執行段階の三期にわけて分析することが効果的であり、それぞれの段階で作用する要因が違っているということが指摘されている。すなわち、問題を特定し交渉を開始するアジェンダ形成期ではアイデアやその他の認知的要因が重要であり、交渉段階では利益を基礎におくバーゲニングが重要である。森林管理レジームはアジェンダ形成段階から交渉段階の入り口でつまづいたという認識の上に立ち、上記の分析視角で、図1のレジーム形成過程を分析する。

3 森林管理レジームの形成過程

(1)アジェンダ形成過程でのアイディアの進展

アジェンダ形成過程ではアイディアが重要な役割を果たし国境を越えた共通の価値観を持つ専門家集団(認知共同体)の役割が強調される。本件のアジェンダ形成という意味では、1990年に重要な転換があった。アジェンダ形成の出発点となったのは80年代初頭のFAO等の熱帯林の急速な減少についての報告である。このことは熱帯林の保全問題を「政策課題として浮上させ政策領域の考察対象として規定する」(ヤング)十分な働きをして、80年代は「熱帯林の保全」(森林減少歯止め)が国際的なアジェンダとなった。地球サミットを前にした1990年にそのアジェンダは「全ての森林(熱帯林のみでなく温帯林北方林を含む)を対象とする」と転換がはかられた。それと同時に「森林減少の歯止め」でなく「持続可能な森林経営の実現」がその規範となった。一面では、「森林面積」という明快な指標を失うこととなり「持続可能な森林経営」の定義が求められ「認識共同体」としてのモントリオールプロセスなど一定の機能を果たすこととなった。

(2)交渉過程での途上国問題

交渉過程でポイントとなるのは、熱帯林の資源管理の主権者たる途上国を交渉のテーブルに着かせることができなかったことである。途上国の中でも異なった対応となった、ブラジルとアジアの熱帯林国の違いの背景を切り口に分析し、途上国の参画の契機が、先進国の緑の消費者の動向であること、また、レジーム論で議論のあるヤングの「不確定性のヴェール」が交渉過程でどう働くかを検証する。

 

4 結論

森林の国際的レジームが必要であるのは、森林の地球共有財産としての機能を保全することに加え、国際商品でありかつ循環型資源として注目される林産物の生産機能を保全することである。本国際的レジーム形成の障害は、問題が主として途上国に所在しその規制なしには有効な地球規模のレジームが成立し得ないことであるが、@先進国の緑の消費者の動向、A明確な指標の形成、また、それを背景としたB資金的な裏付けを含む援助プログラム、などがカギを握っている。

 

(参考文献)

オラン・R・ヤング「グローバル・ガヴァナンスの理論」 「グローバル・ガヴァナンス」東京大学出版(2001)収録

信夫隆司編著 「地球環境レジームの形成と発展」国際書院(2000)



森林総合研究所 Forest and Forest Products Research Institute

takashi.fujiwara@nifty.com