書評「しいたけと3.11」ー林政ジャーナル誌に掲載(2026/9/1)

日本林政ジャーナリストの会の機関誌、林政ジャーナルの最新刊(71号_8月31日付)に、「書評:山本美穂編 しいたけと3・11」という記事が掲載されています。

評者は藤原敬 林業経済研究所フェロー研究員(私です)

林政ジャーナル誌(と本人)の了解をえて、以下に掲載します。

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1 はじめに

編者から標記著書をいただいた。
「3・11」2011年3月11日に発生した15年前の東日本大震災と「しいたけ」?
(キャッチコピーは)
「原発事故におる広範囲に及ぶ森林の放射線汚染は、農林業の在り方にどのような影響を与えたのか」「里山空間の多様性、循環性、持続性を示す存在である広葉樹を用いたしいたけ生産の現場の声を拾い、絶望的状況での筆舌に尽くしがたい苦闘をみつめ、不可視化されてきた、深刻な被害の諸相をあきらかにする。」
すごい!! 森林と原発事故問題については。「放射性セシウムは森林生態系内に保持され、 長期にわたって循環する。」「 チェルノブイリ原発事故で得られた知見と合わせて、日本の森林での放射性セシウム動態のモニタリングと長期予測が不可欠。」などと言われている(加藤弘亮:筑波大学環境科学研究系「森林の放射線汚染」)。その中で、「しいたけ」を切り口にした著作。概要を紹介しましょう。

2 本書の構成と執筆分担

(1)本書の構成

 序章 なぜ原木しいたけに着目するのか——研究の背景と本書の目的
第1章 放射性降下物は樹体内をどのように動いたか——宇都宮大学農学部船生演習林にみるコラナと原木しいたけへの影響
第2章 放射性降下物は森林内をどのように動いたか
第3章 北関東(栃木県)にみる原木しいたけ生産の変容—中・低線量地帯の10年
第4章 東北(岩手県)におけるしいたけ原木流通の変化—原発事故の「視えざる影響」
第5章 激甚被害地(福島県)におけるしいたけ生産の変化と対応

6章 九州から栃木県へのしいたけ原木の供給—原発事故が九州の産地に与えた影響
コラムA 「下野菊花炭」とクヌギと原発事故…
コラムB 里山のコナラ利用をつないだ葉たばこと原木しいたけ
コラムC 森林の高齢化とナラ枯れ
終章 福島原発事故後の広葉樹利用と森林管理

(2)本書の執筆者と執筆分担

(編者)
山本美穂―宇都宮大学農学部教授(序章、第3章、コラムA、コラムB、終章)
(執筆者)
飯塚和也―宇都宮大学名誉教授(第1章)
大久保達弘―東北農林専門職大学教授(第2章)
山本信次―岩手大学農学部教授(第4章)
小野滉翔―元岩手大学農学部(第4章)
髙田乃倫予-岩手大学農学部助教(第4章)
早尻正宏―北海学園大学経済学部教授(第5章)
佐藤宣子―九州大学農学部大学院農学研究院教授(第6章)
石原昌宗―元九州大学農学部大学院生物資源環境科学府修士課程・日本製紙木材(株)北海道支店旭川営業所(第6章)
福沢朋子ー秋田県林業研究センター環境経営部研究員(コラムC)

3 本書が明らかにしたこと

(1)15年前の原発事故が森林に関連する社会諸相に様々な影響をあたえている
・・・
(2)遠距離輸送をささえる東京電力の補償
・・・
(3)問題点を見えにくくしている構造

・・・

4 今後に向けての期待

もともとローカルなシイタケ原木の課題について、日本の各地の執筆者が協力したネットワークが生み出した、貴重な著書。以下のような重要な可能性を持っているので、この作業をさらに広げていただきたい。

(1)国内政策の視点:人と森林をつなぐツールは広がっている

本書は、原発事故について、シイタケ原木をという、人と森林をつないできた重要なツールを通じて議論している。だが、最近森(もり)業など、森林の空間利用などを通じた「人と森林をつなぐ機会の大切さ」が再認識され、施策の議論が発展している。林野庁は森業ポータルサイトを開設している(右のQR-code)。
今年の林政ジャーナリストの会の年間テーマも「森林業のニューフロンティア」である。そういう視点らみると、原発事故問題は何十年も森林空間利用を妨げることとなり、森業の発展の障害になるだろう。だが、このような視点では東京電力ホールディングスからの損害賠償のコンセプトからははずれるだろう(多分)。「人と森林をつなぐ」という日本の森林政策の根幹にかかわる考え方と、東日本大震災の原発事故の関係は、ますます重要な研究視点となるだろう。本著書をきっかけにして新たな出発点となることを期待したい。

(2)グローバルな政策視点:原発と人類はどのように共存していくか

原発と人間はどのように付き合っていくか?地球環境の視点から未来に向けて人類が直面している重要な課題である。3.11を経験した「日本の」、そして、当面の課題だけに制約されない活動領域をもつ「学術研究者が」様々な側面から情報収集し分析しなければならないだろう。本著書は、この人類が直面しているテーマにとって、森林分野の情報がいかに重要か指摘している。本著作に貢献した日本の森林分野の学術関係者が、是非グローバルな情報発信を視野に入れて、ネットワークを広げ、進めていただきたい。

新泉社、2026年5月 204頁 2500円+税

=-----以上です

こちら(eTREE)に、林政ジャーナルに掲載された同じテキストが掲載されています。

すばらしい新著を、お送りいただいたので・・・お礼です。

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