日本の新たな森づくりへの道筋=「低コスト再造林プロジェクト」の結果など(1)(2025/1/28)

1月23日に「低コスト再造林プロジェクト最終報告会」(農林中央金庫・全森連共催)、同24日林野庁「省力低コスト技術普及シンポジウム」(日本森林技術協会主催)という二つのイベントが、秋葉原の富士ソフトアキバプラザアキバホールという場所で(オンラインでも同時)開催されました。

気になるタイトルなので、最終報告会にはリアルに(途中から)、シンポジウムはオンラインで出席しました。

「伐って使ってまた植える」「再造林という事業」が、大切なのでやりましょーということでなく、再投資をする行為なので、本当に投資が回収できるプロジェクトなのか?という重要な局面になっているので(2日目の林野庁次長開会挨拶)、それをテーマとした重要なイベントでした。

一日目は、民間の取組、2日目は行政の取組、という整理だそうですが、、内容について、ネット上で公開されている情報が少ないので、全体を正確に結果をつたえるのが、少し難しいので、まず今回は1日目の「最終報告会」の内容について、プロジェクトの責任者から以下のようなプレゼンデータをいただいたので、それを中心に伝えていきます。

プレゼン資料1:低コスト再造林プロジェクトー背景と取り組み方向(大貫肇(物林(株)・(株)REC)
プレゼン資料2:低コスト再造林プロジェクトー成果とこれからの課題(同上)

(低コスト再造林プロジェクトとは)

右の図は、プロジェクトの狙い、と題するものです。

「戦後の拡大造林を経て森林資源は蓄積。伐採のタイミング。」なのですが、「木材価格低迷や植林コスト高で再造林進まず。」それで「植林コストの低減により再造林を促進し、偏っている齢級を平準化。さらに短伐期施業により、継続した国産材の安定供給。」

どんな手段で植林コストを低減?

(プロジェlクトの3つのポイント)

左の図です。

ポイント1①早生樹の活用

・「早く」「成長する」「樹種」の総称で、スギやヒノキに比べて成長量が大きな樹種(コウヨウザン)を活用することで、伐期の短縮(50年→30年)に繋げる。

ポイント2②コンテナ大苗による一体作業

・コンテナ大苗(育苗用の培土を入れた専用の容器で生産された土付きの大苗)を活用することで、伐採・造林の一体作業による地拵えの省略や、下刈り回数の削減に繋げる。

ポイント3③植林の疎植

・従来、約3,000本/haの植林が一般的なところ、1,500本/haに植栽本数を絞ることで、短伐期で間伐作業を必要としない施業に繋げる。

以上が資料1によるプロジェクトの内容で、これにそって、長野県根羽村森林組合、広島県三次地方森林組合、宮崎県都城森林組合の三か所で実証試験が行われました。

(その結果はどうなったかな)

それでは、資料2によって、結果を見てみます。

 テーマ  POINT
 地拵え・下刈りを前提とした施業から→地拵えや下刈りを前提としない施業へ (地拵えなし)
素材生産する人が植える。手戻りならないよう、過度にならないよう、素材生産作業を
工夫して実施。
(下刈りなし)
① 素材生産作業と一体的に大苗を植栽
② 土壌の状態を見極め、必要に応じ成長促進剤の活用
③ 主伐期以降の間伐により下草を繁茂させない 
 間伐を前提とした施業から→間伐を前提としない施業へ  ① 疎植(1,000~2,000本/ha)により、30年生程度まで林分密度調整は必要ない。
② 疎植により肥大生長を促し、30年生程度で用材の利用径級を目標とする。
*3,000本/ha植栽は、数回の間伐を行い、40~50年生で主伐を予定する施業であった。
これは、間伐木として出材する小径木のマーケットが出材量に見合う程度存在し、かつ、
間伐コストより高い価格で販売できたことから、林業経営として合理性があった施業。
  早生樹「コウヨウザン」から→戦略的な造林樹種「コウヨウザン」へ ① 温暖な都城だけではなく、三次市や根羽村においてもスギよりも成長が旺盛なことが確認できた。造林可能範囲が拡大。
② ヤング率が高いので、米松など外材に取られているシェアを奪還。
③ 萌芽更新するので、将来の再造林が容易。

ということで、以上にもとづいて、資料2には収支計算がついています


つまり、従来の施業をした50年伐期のスギの造林地は、収支が赤字(haあたり213万円の赤字(補助金抜き)、低コスト短伐期コウヨウザン植林だと、107万円の黒字(補助金抜きで)、スギだと86万円の黒字(補助金抜き)、という結果が出たと総括しています資料2_7ページ

(今後の課題)

今後の課題というページに記載してあるのは、以上5項目です。

1 一体作業の作業手順や植栽道具の改善など、新しい作業に対応した手順や道具の進化
2 低コスト施業普及のために、林業者の意識改革、行政の理解
3 再造林面積を拡大し、施業の集約化を進めることにより、苗木代、素材生産経費などの低減
4 公的資金による獣害対策の迅速な推進(獣害対策がなければ、低コスト施業により黒字に転じる)
5 木材価格の改善

以上

プロジェクトの責任者から、関連する論文をいただきましたので、共有します
大貫肇(2022)「低コスト再造林とコウヨウザン」森林遺伝育種 第11巻

(こんな可能性が本当にあるの?)

日本でも補助金なしで、再造林のプロジェクトが投資対象となる!!プロジェクトの中心メンバーの思いのこもった、すばらしいプレゼンテーションでした。

その根拠となる、3か所の実証データがどんなものかなど知りたいことがたくさんありますね。あまりデータがネット上に共有されていないのですが、2日目のシンポジウムで、前の日に報告会があったプロジェクトに関して、全森連の責任者が紹介されたプレゼンがあったので、御願いして共有させていただきます

2_低コスト再造林プロジェクト説明資料 (全森連)

三つのプロジェクトが、必ずしもうまくいったばかりではないことが冷静に記載されています。

先ほど紹介した資料1_2は、、問題点を克服すれば、大丈夫という思いがでている、のだと思います

2日目のプログラムをみると、コウヨウザンではなく、エリートスギを中心とした報告です。その辺も含めて、今後このページでも情報を集積してまいりたいと思います。

これらのデータは、森林関係者には重要なのですが、それ以外の自社のビジネスの中で森づくりに取組む可能性などを視野にいれて、検討をすすめている、他分野のビジネス関係者にも重要な内容ですネ。

幅広い情報発信がされることを期待しますー。

jyunkan10-21(prohoukokukai)

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