PES(生態系サービスの支払)と「森林業」の可能性(2025/4/16)

4月11日、日本林政ジャーナリストの会令和7年度第1研究会 「PES(生態系サービスの支払)と「森林業」の可能性」に出席しました。

ゲストは東北農林専門職大学教授・森林業経営学科長柴田晋吾さん

木材生産だけを念頭に置く「林業」から、幅広い森林ビジネスをめざす「森林業」に、「46年前から「森林業」を提唱」されている(自己紹介に記載)柴田さん。その根拠となる海外の学術的成果であるPES(森林生態系サービスへの支払い)の最近の発展は?

勉強部屋でも重要な課題であるとして、いままでもPESフォローしてきました。

生態系と生物多様性の経済(2008/9/13) (2008/12/13改定)__一例を示せば、生態系サービスへの支払い(PES)。これは、生物多様性の悪化や持続可能な発展を阻害する不均衡を是正する要求を創造する。フェーズⅡはPESへの投資事例その他の事例を検討することになるだろう。

プレゼン内容の概要をご紹介します。頂いたプレゼン資料「PES(生態系サービスの支払と)「森林業」の可能性について」はこちらに置いておきます

(イントロ:生態系サービスとは何か)

左の図は生態系サービスとは?

ミレニアムアセスメント(生態系評価)2003(MA2003)という資料て提示された生態系サービス全体を説明する表です

MA2003環境省のサポート情報
学術会議のオリジナル情報に近い

生態系サービス=人々が自然から得る社会的、生態的、経済的な便益全て(MA. 2003)。

供給サービス、調整サービス、文化的サービス、支援サービスの4つに分けているが

・供給産品の多くは経済産品として価値化されているが、調整・文化・支援サービスの多くは公共財であるため、経済産品とはなっていない。(黄色い字の部分)

ということで、生態系サービスの全体像については、ミレニアム生態系評価という国際的なプロセスがあって、それが合意を得ているコンセプトのようですがですが、PEA支払は?

(生態系サービスへの支払とは)

右の図にあるように、Wunder, S. (2005)という論文生物多様性条約COP9で報告された-TEEB-生態系と生物多様性の経済学英国の行政機関環境・食糧・農村地域省DEFRAの報告書などが、引用されていて、まだ、しっかりしたコンセンサスがないみたいです。

とりあえず、「生態系への投資による新たな収入の流れを生む、市場を作りだすための事業的な方法としておきましょうか

後、様々な事例が紹介されています

((水源保全PRSの2大成功事例など))

(事例1ニューヨーク市の水源管理プログラム(アメリカ)(1997年合意))

*支払い者:ニューヨーク市の水利用者(900万人)
*サービス:良質の水の供給(安全飲料水法(SDWA)への対応)
*支払いを受ける者と条件:上流で農林業を営む者(参加率93%以上)。最善管理施業(BMP)および影響低減伐採(RIL)の実施など。
良い隣人プログラムなど追加的な支援も行っており、非効率という指摘も。
*結果:訴訟などの紆余曲折を経て、合意に至る。10年間の支払い額は10~15億USドル(水道税は9%上乗せ)(水処理装置の建設費用の60~80億USドル、毎年の維持費の3~5億ドル(水道税は200%を要していた計算))。

(事例2-ペリエ・ビッテル(民間企業、フランス)(1992年から開始))

*支払い者:ビッテル
*サービス:高品質の飲料水(硝酸塩4.5mg以下/liter)
*支払いを受ける者と条件:上流の農民(流域の92%をカバー)。農業の改善や植林活動の実施。経営手法の変化による収入減230ドル/haの支払いを7年間継続。
*結果:補償額の合意が難しく、交渉に10年間を要した。支払額380万USド)

その他に、主として水関係に関して、ベトナム、タイの事例などが紹介さえています

((EUの大規模調査の事例))

2018年から24年にかけて、欧州のSINCER(inovating forest ecosystem services 森林生態系サービス実現のための革新的ビジネスについての欧州研究ネットワーク=本部ドイツEFI)が実施した事例がが紹介されています。

左の図は83事例リストの一部ですが、事例の多かった3か国です

その中から、報告された森林墓地、キノコ、森の幼稚園の三つを紹介します

(森林墓地)

スイスでは100か所、ドイツでは170か所の森林墓地があるそうです。

大きな会社が国中の墓地を管理しており、山林所有者から、森林や樹木をリース契約なして、サービスを提供

(森のようちえん、学校)

典型的な森のようちえんでは、子供たちは年間を通じて、週5日間丸一日森の中で過ごすのだそうです。

このほかに、森林スクール、そのほか屋外における森林教育やESD(持続可能な教育)のための様々な機関が存在しています。

スイスでは、典型的な森のようちえんが600~800箇所、森林スクールが200~400箇所、その他の機関を含めると3,000~5,000箇所が存在。

野生キノコの採種

・レクリエーションとしての野生キノコの採取者数:毎年約10万人
・採取券の販売収入→菌根施業の費用に活用
・採取されたキノコ:EU PGI認証ラベル(唯一の野生産品認証)
・区域面積:共有林13,000ha
・生キノコの年間販売額:60万~120万ユーロ
・チケット年間販売額:40万~130万ユーロ

イタリアのボルゴバルディターロの事例です

(駐車場)

イギリス・スコットランド、アバディーン郊外にあるCountesswells Wood国有林では、住射場収入が、木材販売輸入より多いのだそうです

犬の散歩が訪問者の主な目的であり、駐車料金は1ポンド/1時間。

((日本におけるPES類似制度の歩み))

標記に関して以下の紹介がありました。なんでPES制度でなく類似制度といわれるのは不明ですが

1786年:水野村(現上越市柿崎区)と下流の25の村との炭焼きを止める内済の成立)(上下流の利害対立を解決)
• 1916年:横浜市による道志水源林の購入
• 1970年代以降、40以上の水源基金、上下流連携の事例(例:1972年:神奈川県「“みどり”を作る基本構想」(下流参加による水源林整備の費用分担システムに関する検討)、
1978年:矢作川水源基金(流域20市町村)、
1979年:基金による栃木県水源林造成、
1990年:神奈川県森林基金、
1991年:矢作川流域振興交流機構、
1994年:豊田市水道水源保全基金
1997年:神奈川県水源の森林づくり事業(県単事業)、
1997年:福岡市水源基金など)

• 1984~1985年:林野庁水源税構想(実現せず)
• 1989年から:北海道の「お魚を殖やす植樹運動」、日本各地で漁民による森づくり
• 2002年:森林吸収源10か年対策
• 2003年以降:高知県を皮切りに県等の地方自治体レベルの森林環境税、企業やNPOによる森づくりの拡大
・2007年:神奈川県水源保全再生かながわ県民会議
・2008年:同 市民事業補助金
・2009年:横浜市みどり税
• 2011年:農業者戸別所得補償制度、環境保全型農業支払い制度
• 2013年:J-クレジット制度
• 2018年:森林環境譲与税、森林環境税(仮称)の決定


((最近の取組))

地域文化や伝統を踏まえた、適切かつ持続可能な形での文化的森林生態系サービスのビジネス化を検討
→ 形県内(金 町、西川町、 形市)にモデルサイトを設けて取り組み、
国際モデルフォレストとすることを目指している。キーワードは、「森を開く」、「関係人口・関係森林」、「ネイチャーポジティブ」ほか

また、文化的森林生態系サービスについての基本的情報を得るために、サービスの利用者、提供者等を対象として各種調査を実施(わらび園、森林関係の各種ガイドなど)。今回の調査もその一環。

具体的なビジネス主体と連携して、調査活動をしているそうです

右の図forenta株式会社シシガミカンパニー

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以上です

柴田さんの長年にわた執念深いグローバルな生態系サービスの支払による森林業の展望に関する研究蓄積の紹介でした

林野庁の森林サービス産業の創出推進など可能性は増えてきているけど、柴田さんによれば、「日本の森林サービス産業は文化的サービスのうちの空間利用に限定されていて、広がりに欠ける」というコメントをされています(プレゼン資料P32)

ご関心のある方は、大日本山林会山林誌・今年度4月号・5月号に以下の記事が連載されるそうですので、是非ご覧下さい

  森林生態系サービスの市場化と森の全方位ビジネス「森林業」への 展開
1.はじめに
2.PESと欧米における取り組みの現状
(1)歴史的経緯とPESの定義、現状
(2)アメリカにおける取り組み状況
(3)ヨーロッパ地域における取り組み状況
3.森の全方位ビジネス「森林業」への展開開
(1)「森林業」の意義と今後の 発への鍵
(2)日本における現状

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今一歩次のステップに行くには、具体的案事例がもう少し具体的に訴求される必要があるかなと思いました。

欧州のSINCER(inovating forest ecosystem services 森林生態系サービス実現のための革新的ビジネスについての欧州研究ネットワーク=本部ドイツEFI)が実施のサイトでは、ケーススタディのページはあるのですが、サイトの不具合で見ることが出来ない状況です(4月16日現在)

産学官の連携がどのように発展していくのか?フォローしてまいります

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jyunkan10-23<PESsinringyo>

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