森林のガバナンスからみた「人新世と『資本論』」(2021/5/15)

コロナ渦の大型連休中、何人かの方に勧められ、今評判(?)の「人新世(ひとしんせい)と『資本論』」という新書本を、読んでみました。筆者は斎藤幸平35才(34才?)

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生産の基盤が私的所有され、「使用価値」とは別の市場が求める「価値」を追い求めて矛盾(不平等と環境問題・・・)を拡大する資本主義。この問題をどのように解決するのか?

行政が社会保障、環境政策といった政策を積み重ねて市場の失敗を修正する。企業もESGやSDGsといった市場からの圧力をうけて失敗の是正をする。・・・

といった、資本主義の色にどっぷりつかった方法では本質を見誤る(「SDGsはアヘン」なのだ)(そうです)。

初期のマルクスも資本主義を成長の成果を踏まえてコミュニズムをいっていたが、間違っていた。

キーワードは「脱成長のコミュニズム」(①使用価値経済への転換、②労働時間の短縮、③画一的な分業の廃止、④生産過程の民主化、⑤エッセンシャルワークの重視の5つの柱から成る)(第7章)

そのような社会への転換の兆しがバルセロナ(第8章)

ーーーーご興味があればどうぞ、1020円+税

温暖化に対応せざるを得ない「人新生」で「脱成長」という主張が、分かり易くなっているという面もあります。成長しながらカーボンニュートラルな社会ができるのか?莫大な開発投資をしてすべての(先進国の)自動車を電動化して再生電力のみにした場合、リチウム電池のリチウムは乾燥地の地下水を大量にくみ上げて製造・・・地球のバウンダリーを超えるのでは・・・

それはそれとして、このような本(失礼)が売れているということは、今の社会のある断面を「しっかりきりとっている」ことは、間違えないのでしょう。

ということで、現代社会の森林問題をこの本に沿って少し考えてみました。

(犠牲を不可視化する外部化社会ー地球の矛盾の外部化の最後が熱帯林?)

資本主義が自らの矛盾を拡大するシステムの一つが、先進国の豊かな社会がその代償を遠くに転嫁して不可視可するプロセスがあるからだ、という。「先進国はグローバルサウス(途上国)を犠牲にして豊かな生活を享受している。途上国の低廉な労働力だけでなく、地球環境も。そろそろ外延ができなくなり行き詰まりつつある。」(33ページなど)

豊かな社会の最も外延部に位置するのが途上国の首都から離れた(アマゾンやカリマンタンの)熱帯降雨林です。矛盾が集積し熱帯林の自然と、そこに居住する原住民に、豊かさの矛盾が集積します。未だに続く熱帯林の減少。地球上で、最も難しいガバナンスの問題が表出する熱帯雨林。その最も大切な課題に答をだすのが、グローバルサウスの森林関係者、市民、世界中の森林科学者です。そこのガバナンスをどのように構築していくのかが、齋藤の問題提起に答える一つの道でしょう。

(排他的なプロセスと「コモン」という第三の道ー森林管理は最先端をいけるかも)

新しいどんな社会をつくるのでしょうか?当ロジックの重要な部分が、昔共有化されていた水などの自然資源を、資本が管理し、希少性をつけて価値(儲け)を生み出してきた資本主義。ここにコモンを取りもどして、「市民」有化して新しい社会にいたる(マルクスも晩年になってそのことに気がついたんだそうです)。(251ページなど)

電力の場合、原子力とか火力とちがって、太陽光や風力は排他的な利用がなじまないので、希少性が作りづらく「市民営化」で可能、(260ページ)など。

それでは、(我が)森林管理プロセスはどうなのでしょうか?天然資源由来のものでも鉄やアルミニウムのようなものは原料採取や生産過程で、「閉鎖的なプロセス」(巨大なインフラの中の専門家しか解らないシステム)が必要ですが、それが不要な、「開放的な」木材や木質バイオマスの生産過程です。

そのためにサプライチェーン管理が逆にむずかしく大変なんですが、「自伐的林業」など、生産過程の市民的管理の実験が可能なのかも。

民主的管理については、森林では、入会い林など、共有資源としてのとしての長い実績と研究の蓄積があります。コモンズとしての市民管理が資源管理から波及していくという過程を想定すると、森林分野の役割は注目されるかも。

(小さな林業と大きな林業なども関係あるかな)

グローバルマーケットの立ち向かって国産材を消費者にとどける、大型の国産材製材工場の流れ(グローバルに課題を転嫁させているのが輸入材だとすると国産材は何に転嫁させている?山づくりは大丈夫なのか?)。

それに対して、近くの山の木で作った家を市民に供給する顔の見える関係。大きな林業に対する小さな林業。難しい課題ですが。市民とともに課題を解決する仕組みでもありそうです。

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私的所有権をベースにした生産基盤という資本主義、近現代の常識に、基本的な問題提起をしてインパクトを与えている「人新生の資本論」というおとぎ話のような本でした。

そんな道がこの社会にありうるのか?といのが基本的な疑問で、それは自分の中ではそのままです。(おとぎ話)

が、この本を読んでみて、森林ガバナンスに関わる様々な課題が、森林分野だけでなく、「人新世」というの社会のガバナンスに広い影響をあたえる可能性をもっているのではないか?というポジティブな物語だったように思います。

junkan1-27<CapAnthfore>


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