山づくりのために木造建築ができることー森林総研公開講座から(2019/11/15)

10月17日に開催された森林総研主催公開シンポジウム、「山づくりのために木造建築ができること」に出席しました。

東京大学生産技術研究所の腰原幹雄教授の、「森と都市の共生 ―森のための建築 建築のための森 ―」と題する講演、木造建築に資する技術開発の最新の研究成果について解説。

「充実する国内森林資源の利用や地球環境問題への意識の高まりの中、建築材料としての木材を見つめ直し、その可能性を皆様と一緒に考えてみたい」というのがポイントだそうです。

(大きな林業と小さな林業)

腰原教授のいう、森のための建築 建築のための森。右の図は腰原さんが講演の中で何回も示したコンセプトズ図です。

大きな林業、小さな林業、ウッドマイルズフォーラムのイベントの関係でも問題となった、大変興味深いコンセプトでした。

(腰原教授曰わく)「伝統木造建築で培われた一品生産的に建てられる「森のための建築」(小さな林業)は、その文化的価値から高く評価されてきましたが、今後、現代建築で使用される建築材料の生産システムとして大量生産、安定供給を支える「建築のための森」(大きな林業)という価値観も重要な役割を担うことになります。}

ということで、腰原さんは、(建築関係者がこだわりやすい)小さな林業の文化的側面だけでなく、グローバルマーケットの中の大きな林業も視野にいれて、考えて下さい、との話でした(と聞きました)

この二つコンセプト大切にしていきたいです。

大きな林業で稼いでいるのはだれか?しっかり循環資源の再生産に投入されてるのか?もふくめて。

(講演の概要)

腰原氏もふくめた、5名の講演者の講演概要を紹介します(配付されたパンフレットから)

森と都市の共生ー森のための建築・建築のための森ー
東京大学生産技術研究所教授腰原幹雄氏 
1000年以上の歴史ある日本の木造建築は、国内の豊かな森林資源を活用して建て続けられてきました。

しかし、われわれの生活スタイルは大きく変化し、現在ではさまざまな価値観の木造建築が生まれてきています。建築材料としての木材も無垢の製材だけでなくさまざまな木質材料が整備されるとともに、その生産システムも大きく変化しています。森と都市の共生という概念のなかで川上から川下まで連携する木造建築においては、多様な価値観が生まれ、それらが共存することによって循環型資源の真価を発揮することができます。伝統木造建築で培われた一品生産的に建てられる「森のための建築」は、その文化的価値から高く評価されてきましたが、今後、現代建築で使用される建築材料の生産システムとして大量生産、安定供給を支える「建築のための森」という価値観も重要な役割を担うことになります。ふたつの木造建築の生産システムとその特徴、今後の普及方法について考えます。 
 国産大径材の利用拡大に向けて
木材加工•特性研究領域領域長伊神裕司氏
 戦後造成されたスギをはじめとする人工林が成熟し、直径が30cmを超える大径材の供給が増加していますが、需要が少なく価格の低迷が問題となっています。

製材品の強度を製材前の丸太の段階で予測するとともに効率的に製材・乾燥する技術を開発し、大径材から生産できる断面の大きな製材品を国産材の利用比率が少ない梁・桁材や枠組壁工法用部材として利用拡大する取組みを紹介します。
 実用段階を迎えたCLT
複合材料研究領域積層接着研究室室長平松靖氏
 2014年、日本ではじめてCLT(Cross Laminated Timber)構造の建物が建てられました。現在、CLTを使用した建物の総数は400棟になり、本格的な実用段階を迎えたと思われます。森林総合研究所では、CLTが国内で構造用建築材料として認められ、その利用が推進されるよう、原料となるひき板(ラミナ)および製品であるCLTの強度性能、接着性能、寸法安定性に関する研究を、産学官で連携して行ってきました。本講演ではそれらの一部を紹介します。
 木造で集合住宅や店舗を建てるためには
複合材料研究領域領域長渋沢龍也氏
 木材は、「樹木を伐ったら植える」という原則を守れば、持続的に利用することができる資源です。特に、木造建築の部材に利用することは、長期間、木材を貯蔵することになるため、環境への負荷が小さい利用方法であるといえます。近年、木造建築で集合住宅や店舗など、一般の住宅より大きい建物が建てられるようになりました。木造の大型建築を実現するために、どのような技術が開発されたのか、いくつかの事例をご紹介します。
 木質材料の防耐火技術
木材改質研究領域チーム長上川大輔氏
 わが国では大規模な建物や、火災時のリスクの高い建物などは耐火建築物とすることが求められます。森林総合研究所では、難燃処理したスギを被覆することで木肌の見える耐火集成材の柱や梁を開発しました。1時間耐火仕様の国交大臣認定材料が実際の物件に採用されているほか、2時間耐火仕様についても性能を確認しています。また、CLTについても、せっこうボード等での被覆による国交大臣認定の2時間耐火の外壁や間仕切壁を開発しました。

(山づくりと建築)

今回のイベントは、森林総研の木材系の研究者が蓄積してきた、建築をターゲットにした利用拡大の重要な研究開発成果の報告でした。

森林総研は昔所属した身内のようなところなので、以下のような注文をしておきました。

森林総研という森林全体を対象とした研究機関が「山づくりと木造建築」というテーマで公開講座をすることは、大切な視点だと思いました。

「木を切って使ってまた植えて循環社会だ」ということです。今回の主たるテーマとなったのは木の利用の拡大ですが、いまの木材利用が山の再生に貢献しているのか、という点については、いろんな議論があるところです。

山づくりにコストに見合った資金が山にまわっているのか?など・・・。

本日は木材利用拡大という重要なテーマでしたが、森林総研が森林にかかわるトータルな視点を対象とした研究所なので、山づくりに関係したトータルな研究や情報発信を是非お願いしたい、です。

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