循環社会と輸入木材の輸送過程消費エネルギー
地域材利用促進の一側面 要旨
中部森林管理局名古屋分局、藤原敬
概要:
将来の循環社会構築の観点から、木材の製造過程消費エネルギーがきわめて少ないことが注目されている。同じ木材のうち輸入材の輸送過程での消費エネルギーを算出し、製造過程の消費エネルギーや国産材の輸送消費エネルギーと比較を行った。輸送距離の短い地域材を利用するとロシア材の半分、欧州材の7分の1のトータルエネルギーで同等の資材を利用することができることが明らかとなった。
1 はじめに
木材の製造過程の消費エネルギーと炭素放出量は他の代替材料のそれと比較してきわめて少ないというデータが公表されており、木材利用推進運動を支える重要なバックデータとなっている。小論では、同じ木材の中でも輸入木材の輸送過程の消費エネルギーを国産材と比較して算定し、将来の循環社会の構築や地球温暖化防止といった立場から、輸送距離の短い地域材の利用促進の意味を明らかにしてゆくこととする。
2.循環社会と木材のライフサイクルエネルギー
地球上の人口が21世紀の半ばには現在の1.5倍の90億人になることが予想され、仮にこの期間に途上国の人口一人当たりのエネルギー消費が現在の先進国並になったと仮定すると、人類の総エネルギー消費量は現在の4.5倍まで増加すると試算できる。人口一人あたりの消費エネルギーが途上国の5倍以上もある現在の先進国の生活スタイルを変革するという課題は、二酸化炭素の排出量削減とも関係する我が国にとっても重要な課題である。このような中で、製造過程における消費エネルギーが他の資材に比べてきわめて少ない木材の利用推進が重要な意味をもっている。
3.輸入材の輸送過程消費エネルギー
一方現在日本人が消費する木材の8割が輸入材であるが、次のような条件で、輸入材の輸送にかかるエネルギー量を試算し、製造時の消費エネルギーとの比較をしてみた。
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対象樹種:建築資材として国産材のスギ・ヒノキなど主要な材種と競合する針葉樹製材品(北米材、欧州材、ロシア材、チリ材、ニュージーランド材)
A
輸送手段別の輸送距離:上記地域で対日輸出製材品を最も多く生産している製材工場(99年現在)の所在地から最終消費地と想定した東京までの通常の輸送ルート・輸送手段に基づく産地国内における陸上輸送距離、及び海上輸送距離。(係数の算定に当たっては木材輸入商社の最大手であるニチメンの元本部長小林俊三氏および、ニチメン株式会社住宅用資材部関係者のご協力をいただいた。)
B
輸送エネルギー消費原単位:日本エネルギー研究所編、エネルギー経済・統計要覧(1999年版)に基づく船舶・自動車・鉄道ごとの輸送エネルギー原単位を使用。
輸送過程で消費されるエネルギーの算出結果は下表の通りである。
材の種別 | 北米材 | ロシア材 | 欧州材 | チリ材 | NZ材 | 国産材 | ||
想定メーカー | ウエコーAPD | イグルマ大陸 | エンソ | アラウコ | タチカワ | |||
想定産地(輸送起点) | ポートアルバニー・ BC州 カナダ |
イグルマ・ イルクーツク州 ロシア |
キツテ フィンランド |
フオロコネス チリ |
ロトルア ニュージーランド |
茨城 | ||
陸上輸送距離 | km | 0 | 5000 | 350 | 300 | 300 | 100 | |
積出港 | ポートアルバニー港 | ワニノ港 | コトカ港 (フィンランド) |
コーネル港 | タウランガ港 | |||
海上輸送距離 | km | 7710 | 1921 | 22570 | 18235 | 9116 | ||
エネルギー消費量 | MJ/m3 | 2873 | 1354 | 8455 | 7368 | 3970 | 191 | |
同上原油換算 | l/m3 | 74 | 35 | 218 | 190 | 102 | 5 |
海路で2万2千キロ以上輸送され一番輸送距離の大きい欧州材は8455MJ/m3(原油換算量で218l/m3)、一番少ないロシア材で1354MJ/m3(同35l/m3)となっている。これを乾燥材の製造過程消費エネルギーである1390MJ/m3と比較するとそれぞれ約6倍、約1倍となる。表2には国産材の輸送エネルギーも試算してあるが、輸送距離の短い地域材を利用するとロシア材の半分、欧州材の7分の1のトータルエネルギーで同等の資材を利用することができる。(下図参照)
図 輸入材と地域材の調達トータルエネルギー
4.おわりに
平成11年(1999年)に我が国に輸入された針葉樹製材は974万m3で輸入先ごとに上記の試算を当てはめてみると、その輸入のために原油に換算し90万キロリットル強にあたるエネルギーを消費していることが分かる。地域に産出する木材資源を利用することにより大型タンカー数台分の化石エネルギーを節約することができる勘定になる。
しかしながら現実に我々の前で展開されているのは、1m3当たり200リットルの原油を消費し地球を半周して輸入される製品が、さらに国内でエネルギーを消費して集成材に加工された上で市場に出荷され、安い価格と安定した品質を武器に市場を席巻しつつあるという実態である。市場における競争とその結果は、関係者の血のにじむような製品開発と販路開拓の努力にもとづくものであるが、そう認識した上でも、再生不可能なことが誰の目にも明白な化石燃料の、国際的な市場の中での価格水準が、大きな問題をはらんでいることを示しているのではないだろうか。再生可能な資材と再生不可能な資材の価格を、どのように設定し消費者を誘導するかは、循環社会を実現する上で国際社会が解決すべき中心課題である。今後の議論の深まりに期待したい。
参考文献
UN Population Division: World Population
1988
中島史郎、大熊幹章:「地球温暖化防止行動としての木材利用の推進」(木材工業、1991)
古沢広祐ほか:「環境容量の研究/試算」(環境・持続社会研究センター、1999)