森林国際認証の動向と我が国の森林林業政策
藤原敬(中部森林管理局名古屋分局)

 


1 目的

持続可能な森林経営の実現のための手段として、森林国際認証(ラベリング)の動きが活発になっている。認証制度を森林林業政策全般の中での位置づけ、これが、我が国の従来の政策にどのようなインパクトを与えるか、また、政策との連携が可能なのか明らかにする。

2 方法

地球規模の森林環境問題発生過程中での森林認証の動きを跡づけ認証制度の性格を明らかにする。環境政策論の最近の展開が明らかにしてきた政策体系のなかで、既存の森林林業政策と認証制度の位置づけを行う。以上を基に、認証制度と我が国の森林林業政策の今後の展開との関係を考察する。

3 認証制度の政策的位置づけ トップ

(1)認証導入の背景と経緯

80年台初頭、熱帯林が急速に減少している事実がFAO調査結果などで明らかになり、このため、多国間政府ベースの様々な国際協力のスキームが構想・実施されたが、十分に実効ある対策とならなかった。このような状況の中で、92年の地球サミットを前後し、先進国の環境NGOなどが熱帯木材ボイコット運動を推進、それに対する途上国側の反発という事態に発展し、地球サミットの森林原則声明の中では「一方的な貿易制限の除去と排除」が合意された。その後始まった認証ラベリング制度は、@熱帯木材ボイコットに始まる先進国の消費者と熱帯林経営の現場を両対局とする国際的な森林管理水準に関するコンセンサスの状況、A市場を重視する新たな新たな環境政策の展開などを背景に、政府ベースの施策を「補完する」位置づけで実施されている。

(2)政策の類型と間接的手段

環境政策手段のうち、原因者をコントロールする手段は法令による直接規制・土地利用規制などの「直接的手段」と、課徴金・補助金・エコラベルなどの「間接的手段」に分けられ、認証制度は後者に分類される。従来型の直接的手段に対して、近年市場のメカニズムを利用した経済的手段(間接的手段)を推奨する動きがある(環境基本法22条など)。「発生源が多数の場合、環境負荷低減に効果的で効率的」であるといわれている。森林経営の水準のように監視地点が広域にわたる場合、認証制度のような間接的な手段が有効な可能性がある。

(3)管理水準の質と合意の幅

地球環境問題として森林問題が捉えられることとなったため、各国の森林の管理水準について、持続可能な森林経営の基準指標の策定など国際標準の合意を探る動きがある。しかしながら、近年の急速な森林の経営を巡る関心の高まりと関係者の意識の変化の中で、森林管理の質(パフォーマンス)について強制的な規制についての合意が成熟していない状況下にある。合意の水準は、合意の幅、規制の手段後外に基づいて関係付けられる。持続可能な森林経営のパフォーマンスの水準に対して、法的に強制的な制度となるまでのコンセンサスが、一国の中でも、国際的にも得られてないため、認証制度のようなソフトな制度が果たす役割が大きくなる可能性がある。

 4 我が国の森林林業政策とグローバルスタンダード トップ

(1)我が国の政策のグローバル化の意味

国内林業経営と森林林業政策にとって政策のグローバル化とそれへの対処は、二つの意味を持つ。第一に、近い将来予想される外国で認証された輸入木材の市場進出との競合などに対処するため、国産材についても「社会的、環境的に責任のある水準の経営とその証明」をすることを余儀なくされる可能性があるというと言う「受動的側面」と、第二に、国産材と競合する、輸入材の生産現場の管理水準とその経費の林産物への上乗せの状況や化石資源の価格水準が、我が国の林業にインパクトを加えていることから、これらに対して新たな秩序を作って行くための地固めという、「積極的な側面」である。

(2)今後の我が国の政策へのインプリケーション

認証問題の象徴される政策のグローバル化と言う視点から今後の森林林業政策を鳥瞰すると、@我が国の森林経営水準(パフォーマンス)に関し、個別の経営に介入する手段である、森林施業計画制度などのグローバルな視点からの点検、A間接的手段も含めた政策手段の多様性の追求、B国際的な強制的な規制手段である、強制力のある森林条約の実現への貢献、がポイントである。

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参考文献:

植田和弘(1998),「環境経済学」、岩波書店

ITTO,(1999) ”Timber Certification” http://www.itto.or.jp/inside/timber_certification/contents.html