「持続可能な森林経営」実現のための政策手段に関する研究構想(案)
中部森林管理局名古屋分局 藤原敬/ 1999年8月

目次
1 
研究テーマ  
2 研究の背景
3 
研究の目的  
4 
関連する研究と本研究の学術的特色及び予想される結果と意義  
5 
研究大要 >
6 
研究計画  

課題1 持続可能な森林経営の展開と費用負担のあり方
課題2 
持続可能な森林経営の基準と認証制度
課題3 
林産物貿易と林産物価格  
課題4 
環境税と林産物価格    

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1 研究テーマ  

「持続可能な森林経営」実現のための政策手段に関する考察  


2 研究の背景  

先進工業国を中心とした現代の資源多消費型社会から持続可能な社会への転換が課題となっているが、このためには、節約すべき天然資源とその製品に関する価格構造の変革が不可欠であり、@持続不可能な資源の使用抑制、A持続可能な資源の再生産コストの転嫁可能性を念頭に置いた製品価格の実現が必要である。 持続可能な資源である林産物は、将来石油製品など再生産不可能な製品を代替してゆく重要な役割を持っていると考えられるが、地球環境問題が深刻化する中で「持続可能な森林経営」の実現が重要な課題として提起されており、厳しい条件をクリアした持続可能な林産物の生産コストを林産物価格に全面的に転嫁するという課題を解決する必要がある。 しかしながら、林産物価格は国際的な自由貿易体制の中で、粗放な生産による廉価な木材価格や石油製品などの価格に規定され、国際的に見て再生産可能な価格を実現するには様々な困難があり、長期的な展望に立ち国際的な枠組みによる新たな政策の導入についての学際的な研究が必要となっている。  

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3 研究の目的  

持続可能な森林経営と環境費用負担に関する国際的なコンセンサスの形成過程の解明及び、市場における林産物価格形成の実態、消費者の行動様式の分析を通じ、持続可能な森林経営の達成のための手法と費用負担のあり方、特に市場メカニズムを通じた負担の可能性について検討する。  


4 関連する研究と本研究の学術的特色及び予想される結果と意義  

市場に関する行政の介入に関しては、その問題点と共に、市場が十分に対応出来ない天然資源の適切な管理、環境問題への対処に関して一定の関与の正当性について議論され、特に環境税、排出権取引など新たに環境に関する経済的手段と呼ばれる手法の開発にかかる研究が活発になされている。 一方、林産物については、持続可能な森林経営についての基準指標作成や、森林経営に関するモニタリング制度などに関する学際的な研究が行われてきている。 本研究では、環境経済学における成果を林産物生産・森林経営の分野に適用し、持続可能な森林経営の達成手段について、実効性と可能性を検証しようとするものである。 本研究により、自立的な展望を見いだすに至っていない我が国の林業の展望と、国際的な森林問題に対処する枠組みにの発展への一助としたい。  

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5 研究大要  

  1. @持続可能な森林経営の展開と費用負担のあり方、A持続可能な森林経営の基準と認証制度、B林産物貿易と林産物価格、C環境税と林産物価格の4課題に分けて検討する。
  2. 課題1と課題2において、持続可能な森林経営の国際的な展開過程と、環境政策における経済的な手法の学術的政策的展開を跡づけ、持続可能な森林経営の具体的手法としての認証制度やそれを前提とした費用負担のあり方など、検討の前提となる事項の整理を行う。
  3. その上にたって、@貿易的手段により適切な林産物価格の形成をはかることの実効性と可能性(課題3)、A林産物と市場で競合する石油製品価格にインパクトを与える環境税の持続可能な森林経営面からの評価(課題4)の2点ついて具体的な検討を加える。

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6 研究計画  


課題1 持続可能な森林経営の展開と費用負担のあり方    課題1の部屋にジャンプ 

持続可能な森林経営を達成するため具体的手法について明らかにし、その費用負担について,@適切な林産物価格の形成と,A外部資金の導入の二つの面から検討を行う。


サブ課題1−1 「持続可能な森林経営」の国際的展開
 

持続可能な森林経営のコンセンサスに至る過程とその後の国際的な議論を整理し、森林林業関係のフォーラムの中での、森林整備のあるべき姿と費用負担に関する概念の確立過程を明らかにする。

手法
a 92年の地球サミットに至る累次の世界林業大会,FAO林業委員会の公式文書などの文献整理と評価
b 92年以降の「持続可能な森林経営」を実現するための国際的なフォーラムなどの文献整理と評価

サブ課題1−2 環境対策の経済的手法と森林経営にかかる受益者・原因者負担  

環境対策の経済的手法の開発経緯を理論的な発展を踏まえて跡づけ、特に費用負担について,受益者と原因者負担の考え方に関する理論的な整理を行うとともに、森林経営に関する費用負担の従前の議論の評価を行う。

手法

a 環境対策の経済的手法に関するOECD国際的機関の公式文献の整理と評価
b その他関係する学術文献の整理と評価

c 森林整備に関する林業白書など行政文献の整理と評価

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課題2 持続可能な森林経営の基準と認証制度   課題2の部屋にジャンプ 

持続可能な森林経営を評価するための基準と指標を作成する作業及び、それを具体化する手段としての森林の認証制度の有効性についての評価を行い、我が国への導入も含めた認証制度の発展について展望を明らかにする。  

サブ課題2−1 持続可能な森林経営の基準と指標  

基準と指標の作成に関する各種の国際的な作業について比較して評価を行い、今後の課題を明らかにする。

手法 

a 国際的な基準指標についての比較と評価
b 各基準の運用状況の検討

サブ課題2−2 国際的な森林認証制度の展開  

国際的な森林認証制度について、認定基準認定手続きなどにつき比較評価を行い今後の展望を明らかにする。

手法 

a 国際的な認証制度の展開過程を文献により整理整理
b 認証制度の関係者に対するネットワークによる聞き取り調査により問題点の解明と解決の展望を明らかにする。

c 文献により認証を前提にした林産物コストを推定、消費者の消費態様を踏まえた負担の可能性を解明

サブ課題2−3 「持続可能な森林経営」と我が国の国有林の森林計画制度  

各国の国有林に対する認定のあり方と認定制度に対する政府の関与について、実態を明らかにすると共に、国際的な「持続可能な森林経営」の流れの中で我が国の国有林の森林計画制度の展開過程を明らかにし,国際的な枠組みの中での我が国国有林の計画制度の評価を行う。

手法 

a 過去と現在の国有林の計画制度を持続可能な森林経営の基準に照らして評価
b 名古屋分局管内の特定流域の計画と施業に対する、国際的な認証基準に照らした評価

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課題3 林産物貿易と林産物価格   課題3の部屋へジャンプ 

貿易的手段により適切な林産物価格の形成を図ることの実効性と可能性を検討する。  

サブ課題3−1 現行のWTO体制と環境問題  

現行のWTO体制の中で,環境問題がどのように取り扱われてきたか明らかにし自由貿易体制と環境対策の関係を解明する

手法 

a WTOの環境と貿易委員会での議論についての文献整理と評価
b 過去の関連する紛争処理委員会の議論経過についての文献整理と評価

サブ課題3−2 環境ダンピングの法的位置づけ  

環境コストを負担していない製品の貿易を排除する,環境ダンピングの概念の,WTO協定,商品協定,各種国際フォーラムの中での位置づけを明らかにする。

手法 

a ガットのダンピング排除規定などの導入課程と運用状況の整理
b ガットの有限天然資源の保全など環境関連規定の導入課程と運用状況を整理評価
c その他学術文献の整理と評価

サブ課題3−3 米加針葉樹製材紛争の中での環境ダンピング概念  

木材の廉価販売を巡って論争された米加針葉樹製材紛争の経過の中から,環境ダンピングの概念を摘出する。

手法 

a 紛争過程での議論を文献に基づき整理評価
b 紛争の背景となった天然資源保全と貿易に関する議論を文献に基づき整理評価

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課題4 環境税と林産物価格   課題4の部屋にジャンプ 

林産物と市場で競合する石油製品価格にインパクトを与える環境税等の課税措置について、持続可能な森林経営実現の観点から実効性を検討する。  

サブ課題4−1 環境税の理論的根拠とその効果  

環境政策の中での経済的手段としての環境税の位置づけを解明し、各国が導入している炭素税の理念と政策効果を検証する。

手法 
a 環境政策の経済的手段とその中での環境税の位置づけを関連する学術文献を整理評価
b 各国の導入事例を文献資料により検討
c 各国の導入事例をネットワークによる聞き取り結果に基づき検討

サブ課題4−2 環境税・炭素税と林産物価格  

我が国に環境税が導入されて原油コストが上昇した場合の林産物の消費と林産物価格のシミュレーションを行う。

手法
 a 消費財価格の中での原油価格構成比を既存の資料に基づき算出
b 燃料、建築資材、紙などの消費性向をアンケート調査などに基づき分析
c 課税による原油コストの上昇に関する林産物の消費・林産物の動態を

この構想は東京大学大学院農学生命科学研究科永田信教授の指導を受けて作成しました


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