速水林業の基本方針

  

当基本方針は森林法に基づき平成7年1月1日から平成11年12月31日 を期間とする属人共同森林施業計画書より抜粋し、再編集したものである

  

平成11年5月15日

 速水林業


1 森林施業の基本方針

 

1-1,経営の方針

日本の林業をとりまく環境は悪化の一途にあり、1980年以後の木材市況に於いて素材価格は値下がり傾向を回復できず、その反面山林の労働費用は値上がりを続けている。

1970年に始まる円高傾向は1994年現在1ドル100円時代となり、外材の産地価格の上昇に反比例し、輸入材は我が国の木材供給の75%をしめ、木材のプライスリーダーとなっている。また1997年4月に行われた消費税の増税等に伴って、国内の住宅建築戸数が急激に減少し1999年4半期の木材価格は40%以上の下落に見まわれている。

1999年より5ヶ年間の施業期間に於いては、この厳しい環境は継続するものと考えられるから急速な市況回復は望めそうもない。従って今計画期間は育林収穫、管理等、各方面において所要経費を引き下げ、販売の方法、品質管理等に検討を加え、合理化を徹底的に実行して行く方針である。今後しばらくは林業経営にとって雌伏、辛抱の期間と考えている。

 

1-2,樹種または林相の改良

速水林業の所有山林面積1070.13haその内針葉樹人工林813.32ha広葉樹249.12haである。人工林の樹種は檜が99%を占め、僅かに杉、松がある。

広葉樹林は萌芽天然林であり、今後林種転換可能地は環境的見地と林分の状況を配慮しならびに経済的状況を考慮し、林種転換を考える。人工林は現在合理的に施業されており本計画に従って施業する。

 

1-3,人工林の現況と今後の取り扱い

海山町内の山林はケツ岩、砂岩の中世層と石英斑岩の火成岩地帯により構成され、共に地味は痩地にして収穫量は全国的に見て下位にある。故に普通材の量的生産では経営の存続は困難であり、高品質材の生産を目的としないと経営は成立しない。速水林業の人工林813.32haの内訳は杉8.33,松2.52,檜802.47haである。16齢級まで概ね法正林型となっている。その蓄積は140,726mであり、年間成長量4,286mである。

今後は従来の施業方法に従うと共に、林地の状況応じて適切な施業をして行くものである。現在は優良柱材の収穫を主体としているが、将来は無節造作材又は集成材の需要が大きくなると予想されるので、高品質大径材の収穫を目的とした高伐期高品質の林分の造成に努力する。

また施業に関しては、林内に広葉樹を誘導育成したり、必要以上の下刈りをさけるなどの、植生の多様性の確保に配慮する。除間伐に於いては単に木材生産の密度管理のみを考えるのではなく、下層植生の維持を配慮して実行する。

 

1-4,天然林の今後の取り扱い

天然林249.12haは萌芽性薪炭林である。それ故にこれらの天然林は純粋な原生的林相とは言い難いが、多くの林分で不採算林分化しているものであり、現在は施業は積極的には行われておらず、自然の状態になっている。蓄積は19,896m 年問成長量 は326mである。天然林は97haが19林班にあり、20haから30haの林種転換可能地があると考えられる。森林管理に必要な林道は既に自力開設が完了しており、環境的見地と林分の状況を配慮しならびに経済の状況を鑑みて林種を考える。将来広葉樹用材としての経済的価値の生まれる可能性がある林分に関しては、積極的に育成天然林として管理していく計画である。その他の天然林はバルブ用材として育成していく計画であるが、林分によっては将来地域の原自然条件の回復を考慮した保存も検討する。現時点ではその林分の決定は行われていない。

 

1-5,伐期齢の決定と理由

檜林分の大部分は間伐により良質の構造材用としての小中径丸太を収穫し、皆伐時には高品質の造作材、集成材用としての大径丸太の収穫を目的として施業するものである。

伐期は経済的成熟期を考察して、林木が目的とする生産材に最も適した経級に到達した時期を考慮して決定することにしている。林地は急峻で中世層が大部分をしめ、表土が浅く林地により肥痩の差が激しい。同齢林においても径級の差が著しく、樹齢をもって伐採適期を一律に定める事は甚だ困難であり、その上いたずらに経営上の不利益をまねく場合が多い.。故にこの施業計画の樹立に当たっては林地ごとに林況を勘案して、概ね50年から120年の伐期を定める事にした。但し、借地林は契約年限に応じて伐期を決定する。その他山林の状況に応じて伐採時期を適宜変更する事もある。

なお皆伐時は環境に配慮して、搬出作業や再造林時の苗木の健全な育成を阻害しない限り、可能な限り林内に多様な植生を残すこととする。また小河川に表土が流れこむ事を防ぐなどの為に防護帯の役割をする草本を河畔に残す等配慮する。

 

1-6,その他

1-6-1 労働

将来、労働力の多寡が作業計画の成否を決定する可能性が大であるので、老齢化した作業員の定年退職に伴なって若年作業員の雇用を図り計画的にスムーズに作業員の若返りを行い、また作業員の技術者としての養成を図っている。現在常時雇用32名その所有する免許、資格等は約300件に達し熟練技能集団と言える。又、グリーンマイスター、グリーンワーカー、ニューワーカー等の養成の講座終了者は19名に達している。最近は現場での技術的な議論や提案が多数行われており、考える作業現場となっている。当計画をはじめとして多様な情報を作業現場と経営側が共有することによってより一層高い知識と技能を持った集団に育ってていくと思われる。

全労働投入量は年間7,000人工であり、作業種は植林、下刈、林内掃除、除伐、伐採、枝打、搬出、運搬、林道開設、管理、経理等多種にわたり作業員は単純労働ではなく多種類の作業にたずさわり、自己の労働に変化を求めつつ人問性豊かな活気ある森林労働に従事出来るように配慮している。これら事項に従って計画を樹立した。

1-6-2 安全管理

林業経営を考える中で、労働災害の防止は重要な項目である。速水林業では安全管理主任を置き各作業単位に班長を指名し、これらを安全管理者として安全の確保に当たっている。又、安全管理面で作業の機械化は重要な要素であり、積極的に考えていきたい。作業用道具や服装等身近な物の改良も計画している。労働災書防止のもう一つの重要な要素は、作業員の意識改革と精神的安定である。月に1回の班長による安全会議と一年に2回の全員参加による安全大会を開催して意識改革に努めている。職場の人問関係を良好に保つことが作業員の精神的安定に繋がるとして業務時間外のスポーツを積極的に推奨している。又、経営管理を担うものは積極的に現場に赴き、気の緩みや危険作業の防止を指示し、作業や機械の改良の可能性を検討している。

 

2 森林の現況、伐採、保育計画再掲表

別添(‘94〜’98の伐採量、面積のみ)

3 その他参考となるべき事項

 

この森林施業計画は速水勉、速水亨所有の森林の共同経営計画とし、この共同経営体を速水林業と呼ぶ。

速水林業から生産される檜丸太は尾鷲材中の優良材としての評価を受けている。従ってこの施業計画は従来の経営方針に従うと共に、更に経営上、技術上の向上をはかり収穫する木材の量、質共に増産に努め、又、一方国民的要請である自然環境の保全とよりよき緑の環境を作り出すために、極力皆伐作業を少なくし、択伐作業を多用し社会的責任を果たしつつ経営の安定と発展をはかるものである。

現在の日本経済における木材需要より考察すると、ここ当分の間は厳しいながらも檜構造材の需要は継続するものと考えられる。この施業計画においても檜構造材の収穫が主力であるが、将来の需要は檜造作材・及び集成材に暫時移行するものと考えらられる。故に小中丸太の生産から高品質大径木丸太の生産へと転換できるように留意しつつ計画したものである。これは高賃金を支払うことを必要とする労働事情からして、省力及び労働生産性の向上の点からも必要と考えられる。更に厳しい林業経営環境は長期間好転しないと考察され、この為に林業経営も他の生産業と同様に生存の為に労働生産性の向上に凌ぎを削らなければならない。そこで生産性向上の方策として次の5つの方針をたてている。

 

3-1.林道

今後の林業経営の発展は林道網の整備にあることは明らかである。従って作業用自動車道の開設に努力している。森林組合の行う協業による林道開設に協力すると共に、自力開設による林道を計画した。自力開設林道は幅員3mとし自然環境の保全に留意しつつ開設する。50ha以上の団地の林道密度は50m/haを基準と考える。現在自力開設林道は総延長40,000mであるが今後年間2,000m前後の延長を計画した。

 

3-2.優良材生産

現在の施業は優良材生産を目標に集約育林作業を実行しているが、今後も輸入材と競合する一般材に比べ高品質材の価格的優位性は不変のもので、将来国産材時代を迎えたときにはその傾向はますます大きくなると考えられる。しかしこれとて従来の作業を盲信的に実行するのではなく、常に作業の必要性や能率を考慮しつつ行っていく計画である。

 

3-3.長伐期

既に伐期齢の項目であげだとうり、この計画は比較的長伐期を目指している。伐期は経済的な見地から見て多くの説があるが、労働貨金の上昇が続き再造林費が多額になると速水林業の樹齢構成、蓄積からみて長伐期は生産性の向上に大きく貢献するものと考える。更に自然環境保全、緑の造成等社会要請に答えるため極力皆伐を少なくし、間伐、択伐等の施業を漸次取り入れていくものとする。

 

3-4.育種

速水林業の主力樹種である檜は現在まで優良造林品種の選抜が比較的遅れている。そこで通直性、完満度、捻じれ、枝はり、樹高成長、肥大成長、材の品質等の観点から自らの山林から選抜し、接ぎ木、挿し木等により採種、採種園を造成する計画である。

 

3-5.機械化

林業における機械化は現場が急傾斜地であるが故に非常に困難である。従って当地における機械化は、林道の開設と並行的に実行出来るものである。現在は主に搬出の機械化に取り組んでおりモビールクレーン×3、タワーヤーダー×2、スキッダー×4を導入し成果を上げている。今後も搬出だけに限らず積極的に作業の機械化を図っていきたい。又、現場だけではなくこの計画も電算機処理にて実行した。

この森林施業計画は要するに木材需要の変動に限らず如何なる経済の変動にも来たるべき高賃金にも耐え得る潜在力のある林業経営を確立して事業の継続と安定をはかり、従業者全体の所得の向上と幸福な生活を確立することを目的とするものである。従ってこの計画は急変する経済社会に対応できるように、決し硬直的なものではなく柔軟聞放的なものとして計画運営されなければならない。

 

この計画の内、下記に記する書類は外部に対し公開できる物とする。

1 森林施業の基本方針

3 その他参考となるべき事項

5 その他

 

4 森林資源構成表

 

別添

 

5 その他

 

5-1 搬出

搬出に関しては作業能率の向上、安全確保を最大の注意点にして実行している。年々林道の開設に努力しているために林道の開設された林班は主としてモビールクレーン、タワーヤーダーによる集材を行い、林道の開設が行われていない林班や集材距離が400m以上になる箇所はエンドレス式による架線集材が主力になっている。又、小径木の搬出は前述のモビールクレーンの利用が多いが単線循環索道による搬出やプラスチック修羅による搬出も行っている。

搬出のための機械装備は上記「3−5機械化」の項であげた物の以外では集材機3台、自走式小型集材機1台、リモコンウインチ2台、単線循環索道1セット、プラスチック修羅100m等の装備になっている。

特に自力開設による高密度林道網が完成している、9,16,17,18,19,22,23,26,27林班ではモービルクレーン、タワーヤーターによる搬出が非常に能率よく行われている。その他の林班に関しても林道の開設は積極的に行っている。

尚、新しい搬出の方法や設備が考案された場合は、これを積極的に取り入れ、自らもより能率よく、より安全な搬出方法や設備を研究充実して行く方針である。

 

5-2 森林の歴史と将来

速水林業は1790年に当地で林業を開始し、時代と共に変化する社会情勢の中で地域の森林を構成する重要な森林となってきている。その中で人工林は時代と共に拡大していったが、日本の建築材料の一つの主要材料であるヒノキ材生産の役割を果たしてきた。

特に速水林業で生産されるヒノキ材は高品質な柱用材として利用されてきた。

管理される森林の76%が人工林であるが、これらの森林の一部には現在までに5回の更新が行われた林分もある。しかし植栽木の成長の減退は見られない。結果的に貴重になっている針葉樹天然林の森林を伐採圧力から守る効果も持っている。

また速水林業の管理する人工林は他の森林に比較して経済的価値が高いことから森林の開発圧力に強い抵抗力を持っている。将来に向かっても可能な限り現在の森林を管理し続けていきたい。

 

5-3 環境的配慮

速水林業の森林管理は常に環境的配慮を実行してきたが、今後は社会的要請はより一層高まっていくと思われる。そこで各施業に関し、充分な環境的配慮を実行していくことを目標とする。例えば林分を立体的にとらえ上層はヒノキやスギの樹冠、中層を広葉樹等、林床はウラジロシダ等の植生を維持し、多層な林相を形成するように努める。また森林全体の将来像は高齢木から若い苗木まで多様な樹齢と多様な樹種が経営上可能な限り同立出来るような条件を造っていきたい。これによって今まで以上の野生生物を含めた生物の多様性を確保できると考える。結果として育林の労働投入は最低限まで減少すると考えられる。